みなさんこんにちは。公認心理師,精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは、マインドフルネス療法シリーズの6本目です。今回は、「脱中心化」をテーマに解説していきます。
脱中心化とは、自分の考えや感情を、「事実」や「自分そのもの」としてではなく、「心の中に浮かんだ一時的な出来事」として、一歩引いて眺める姿勢のことです(フレスコら, 2007)[1]。マインドフルネスで育てる、もっとも大切な力の1つとされています。
目次は以下の通りです。

①自動操縦とはどんな状態
自動操縦とは、自分が今何をしているかに気づかないまま、習慣的に考えたり行動したりしている状態のことです。マインドフルネス認知療法(MBCT)では、この状態に気づくことが最初の目標とされています(シーガルら, 2013)[2]。
日常の中の自動操縦
朝起きて歯を磨く、いつもの道を通って駅へ向かうといった動作の多くは、ほとんど意識しないまま行われています。気づいたら駅に着いていて、道中のことを何も覚えていない、という経験がある方も多いでしょう。
こうした自動操縦は、慣れた動作を少ない労力でこなすための便利な働きでもあります。自動操縦そのものが悪いわけではありません。
感情の自動操縦
問題になるのは、考えや感情の自動操縦です。たとえば、上司から厳しい言葉を受けたとき、気づかないうちに「自分はダメだ」という考えが広がり、落ち込みが深まっていくことがあります。
また、強い怒りに引きずられて、思わずきつい言葉を返したり、SNSに悪口を書き込んだりしてしまうのも、感情の自動操縦の例です。あとから「なぜあんなことをしたのだろう」と後悔することになりがちです。
②脱中心化とは何か
脱中心化とは、浮かんできた考えや感情を、少し離れたところから眺める姿勢です。考えや感情を変えようとするのではなく、それとの「距離」を変えることがポイントです。
橋の上から川を眺める
脱中心化は、川の流れにたとえられることがあります。川の中にいると流れに押し流されてしまいますが、橋の上からなら、水の流れを落ち着いて眺めることができます。
同じように、怒りの中にいると怒りに振り回されますが、「今、怒りが流れてきているな」と眺めることができれば、その感情に飲み込まれにくくなります。

考えを「考え」と気づく
脱中心化を日常で練習する簡単な方法は、浮かんだ考えに「〜と考えている」と付け加えることです。
「自分はダメだ」
→「自分はダメだ、と考えている」
「みんなに嫌われている」
→「嫌われている、と考えている」
こうすると、考えが「事実」ではなく、「心に浮かんだ1つの考え」であることに気づきやすくなります。
③脱中心化の3ステップ
ここでは、感情的になりそうな場面で役立つ、3つのステップを紹介します。頭の中で考えるだけでなく、紙に書き出して整理するのがおすすめです。
①事実だけを書き出す
まず、起きた出来事を、感想を交えずに事実だけで書き出します。感情に巻き込まれていると、事実と想像が混ざりやすくなるため、事実を分けるだけでも冷静になりやすくなります。
例:上司から「作業が遅い」と言われた
上司は険しい表情をしていた
私も険しい表情をしている
②感情と考えを観察する
次に、その出来事に対して、自分がどのような考えを持ち、どのような気持ちになっているかを観察して書き出します。
例:「丁寧に作業しただけなのに」と考えている
「頭ごなしに言わなくても」と考えている
上司にイライラしている
③行動を選ぶ
最後に、感情に流された行動ではなく、自分が本当にとりたい行動を考えます。相手に伝える、自分の工夫を考えるなど、状況に合った行動を選びましょう。
例:作業に時間がかかっている理由を落ち着いて説明する
早く進めるコツを上司に聞いてみる
④練習問題で試してみる
次の2つの事例で、3つのステップを使って脱中心化を練習してみましょう。自分なりに考えてから、回答例を開いてください。
事例1:飲み会での一言
看護師の花子さんは、初対面の太郎さんとお酒を飲んでいます。かなり酔っている太郎さんから、「看護師って大変そうだよね。おれはやりたくないわ」と言われ、花子さんはムッとしました。
続いて、もう1つの事例にも取り組んでみましょう。
事例2:既読のまま返事がない
友人にメッセージを送ったところ、半日たっても既読のまま返事がありません。「嫌われたのかもしれない」という考えが浮かび、不安でスマートフォンを何度も確認しています。
⑤脱中心化を調べた研究
脱中心化は、マインドフルネスやうつの研究の中で、心の健康と関係する力として注目されてきました。ここでは研究の概要を紹介します。
脱中心化を測る尺度
フレスコら(2007)[1]は、脱中心化の程度を測る質問紙を作り、その特徴を調べました。大学生と、うつ病から回復した人の両方を対象に調べたところ、脱中心化の得点が高い人ほど、抑うつの症状や、同じことを繰り返し考え込む傾向が少ないことが示されました。
うつの再発予防との関係
マインドフルネス認知療法(MBCT)は、否定的な考えを「事実」ではなく「心の出来事」として眺める力を育てることで、うつの再発を防ぐことをめざしています(シーガルら, 2013)[2]。詳しくはMBCTのコラムをご覧ください。
ただし、脱中心化だけでうつを防げるわけではありません。心の不調が続く場合は、専門家に相談することが大切です。
⑥実践するときの注意
脱中心化は日常で役立つ考え方ですが、使い方を誤ると、かえって自分の気持ちを置き去りにしてしまうことがあります。注意点を確認しておきましょう。
感情を押し殺さない
脱中心化は、感情をなかったことにしたり、我慢したりすることではありません。「怒っている」「悲しい」という気持ちを認めることが出発点です。
気持ちを無視して冷静さだけを求めると、後でつらさが大きくなることがあります。
強い感情のときは
怒りや不安があまりに強いときは、無理に観察しようとせず、まずその場を離れる、深呼吸をする、足の裏の感覚を確かめるなどして、気持ちを落ち着けましょう。
練習中に強い不安や息苦しさ、自分が自分でないような感覚が出てきたときは、すぐに中断してください。安全に続けるための目安は、マインドフルネスの副作用と安全な実践法のコラムで詳しく解説しています。
⑦よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。
マインドフルネスの学習
心が落ち着く呼吸法
はじめての認知行動療法
感情コントロールの練習
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)
個別レッスン
個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースでマインドフルネスを深めたい方は、下記をご参照ください。
シリーズの続きを読む
脱中心化を育てることで、うつの再発予防をめざす8週間のプログラムについて知りたい方は、こちらのコラムがおすすめです。
マインドフルネスを安全に続けるための注意点を知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。
シリーズでは他に、自動操縦に気づくきっかけになるレーズンエクササイズや、基本となるマインドフルネス呼吸法も紹介しています。
他にも数多くの心理療法があります。ご自身の興味やお悩みに合った理論をじっくり探したい方は、一覧から選んでみてください。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




