みなさん、こんにちは。公認心理師・精神保健福祉士の川島達史と申します。私はこちらのコミュニケーション教室を開催しています。
本当は悔しいのに「別にどうでもいい」と言ってしまう。嫌いな相手なのに、なぜか愛想よく接してしまう。こうした「自分でも不思議な心の動き」を説明してくれるのが、精神分析の「自我防衛機制(防衛機制)」です。今回は、防衛機制の意味、種類、具体例を、公認心理師の視点でわかりやすく解説します。
防衛機制は、精神分析の重要な概念の1つです。心を守るための大切な働きですが、使い方によっては、人間関係や生活に影響することもあります。読み進めると、自分や身近な人の心の動きを、少し落ち着いて眺められるようになります。
目次
自我防衛機制とは
意味
防衛機制は、強い不安や不快な感情から自分を守るために、無意識のうちに働く心理的な仕組みとして説明されます(防衛機制事典)[1]。不快な感情を弱めたり、避けたりして、心の安定を保つ働きです。
防衛機制とは、心が傷つくことを避けるための、無意識の働き
イド・自我・超自我との関係
精神分析の考え方では、「イド(欲求)」と「超自我(良心)」がぶつかったときに、「自我」が心のバランスを保つために防衛機制を使うと考えます。イド・自我・超自我については、精神分析の基礎のコラムをご参照ください。
次のようなことに心当たりがある方と、特に相性が良い内容です。
・強いストレスがあると、つい人のせいにしてしまう
・つらい記憶を、思い出さないようにしている
・「大丈夫」と言い聞かせて、無理をしてしまう
もう少し詳しい背景を知りたい方は、以下を開いてみてください。読み飛ばしても、この先の内容は問題なく読み進められます。
防衛機制の4つのレベル
4段階の一覧
ヴァイラントは、防衛機制を次の4つのレベルに分けました[4]。
レベル1:病理的な防衛(否認、妄想的投影など)
レベル2:未熟な防衛(投影、空想、行動化など)
レベル3:神経症的な防衛(抑圧、知性化、反動形成など)
レベル4:成熟した防衛(昇華、ユーモア、愛他主義、抑制など)
分類の見方
このコラムでは、ヴァイラントの4つのレベルを参考に、代表的な防衛機制を紹介していきます。防衛機制の分類は、研究者や版によって少しずつ異なります。ここでの振り分けは、学習のための目安としてご覧ください。また、レベルが低いからといって「ダメな人」ということではありません。私たちは、場面に応じていくつもの防衛機制を使い分けています。
レベル1:病理的な防衛
最も原始的なレベルの防衛機制です。現実の受け止めを大きく変えてしまうため、他の人から見ると不合理に映ることがあります。幼い子どもによく見られ、大人でこれが中心になっている場合は、専門的な支援が必要なことがあります。
否認
目の前で起きている耐えがたい現実から目をそらし「なかったこと」にしようとする働き。
例:大きな病気を患っているにもかかわらず、「自分は健康だ」と思い込む。
妄想的投影
根拠のない被害的な確信を、外の世界に映し出してしまう働き。
例:周囲の人が皆、自分を陥れようとしていると強く確信してしまう。
レベル2:未熟な防衛
主に子どもの頃に多く見られるレベルですが、大人にも見られます。不快な現実による苦痛を和らげる効果はある一方で、人間関係や社会生活に影響が出ることもあります。
投影
自分の中にある認めたくない感情を、相手の中にあるものとして感じてしまう働き。
例:自分が先に相手を嫌いになっていたのに、「自分は相手から嫌われている」と感じる。
投影は投影・投影同一視のコラムでくわしく解説しています。
投影については、動画でも解説しています。
退行
困難な状況に直面したときに、現在よりも幼い段階の行動や態度に戻ってしまう働き。
例:一人でなんでもできていた子どもが、弟や妹が生まれたときに、一時的に食事や着替えを親にしてもらいたがる。
分裂
相手の良い面と悪い面を統合して見ることができず、「すべて良い」か「すべて悪い」のどちらかで見てしまう働き。
例:短期間で急激に好きになり、その後、急に激しく批判する。関係の始まりと終わりを、繰り返してしまう。
分裂は、ヴァイラントの原著の分類には含まれませんが、境界性パーソナリティの理解などでよく用いられる考え方のため、ここで紹介しました。
躁的防衛
喪失体験のつらさから逃れるために、無理に気分を高揚させたり、別の感情でごまかしたりする働き。
例:失恋のつらさに向き合うのが苦しいので、次々と短期間の恋愛をする。
躁的防衛も、ヴァイラントの原著の分類にはありませんが、精神分析でよく用いられる考え方です。
レベル3:神経症的な防衛
「神経症」とは、昔の表現で、ざっくりと「心の問題から起きる強い悩み」を意味します。神経症的な防衛は、ストレスへの対処として、大人でもよく見られます。日常生活で困りごとが生じている場合は、見直しが必要です。
抑圧
思い出したくない記憶や感情、本当はやりたくてもできないことを、無意識の中に押し込めて意識しないようにする働き。
例:本当はやりたいことがあったのに、経済的な理由であきらめた。その気持ちを心の底にしまうことで、日常生活の中で意識しなくなった。
反動形成
受け入れがたい感情を抑えつけた反動で、実際の感情とは正反対の態度をとってしまう働き。
例:苦手な相手に対して、やたらと愛想よく、親切にふるまう。
知性化
つらい状況や感情を、理屈や論理的な思考で処理し、感情から切り離そうとする働き。
例:理不尽な批判を受けて本当はつらいのに、「統計的にみて、悪口は一定数ある」と分析して、つらい気持ちと出来事を切り離す。
合理化
欲求が満たされないときに、もっともらしい理由をつけて、自分を納得させる働き。
例:ぶどうを食べたくて手を伸ばしたが届かなかった。そこで、「あのぶどうはすっぱいに違いない。食べなくてよかった」と考える(イソップ童話の「すっぱいぶどう」)。
回避(逃避)
ストレスの原因から、心理的にも物理的にも距離を置いて逃れようとする働き。
例:テスト勉強をしなければならないのに、部屋の掃除を始めてしまう。
回避は、ヴァイラントの原著の分類には含まれませんが、日常的によく見られる防衛的な対処としてここで紹介しました。
同一視
他人の素晴らしいと感じるところを取り入れて、自分と重ね合わせ、自己評価を高めようとする働き。
例:憧れの俳優が着けていた腕時計を買って、自分も身に着ける。
同一視は、分類によって、神経症的な防衛にも、成熟した防衛にも含められることがあります。ここでは、神経症的な防衛のところで紹介しました。
レベル4:成熟した防衛
病理的、未熟、神経症的な防衛を過剰に使い続けると、不適応につながる可能性があります。そのため、成熟した防衛を使えることが、精神的健康や社会への適応につながると考えられています。
昇華
自分の中の受け入れがたい欲求や衝動を、学問や芸術活動など、社会的に望ましい方向に変えて発散する働き。
例:社会への反骨精神を、歌詞にして歌手として活動する。どうしようもないいら立ちを、小説にぶつけて物語として昇華する。
ユーモア
つらい状況を、笑いに変えながら、その状況とほどよく向き合う働き。
例:大きな失敗をしたあとに、「これで話のネタが増えた」と笑い話にして、同僚と振り返る。
愛他主義
他の人の役に立つ行動を通じて、自分の心の満足を得る働き。
例:つらい経験をした人が、同じ悩みを抱える人の相談に乗る活動を始める。
抑制
つらい感情や欲求を、意識したうえで、今は横に置いておくと決める働き。
例:大事な発表の前に、不安な気持ちを認めたうえで、「発表が終わってからゆっくり考えよう」と決める。
抑制は、無意識に押し込める「抑圧」とは違い、自分でそれと気づいたうえで保留にする点が特徴です。
防衛機制とのつきあい方
まとめ
防衛機制は、自分の心を守るための大切な働きです。ただし、すべての方法が同じように役立つわけではなく、使い方によっては、心が不安定になったり、人間関係に影響したりすることもあります。一方で、「昇華」のように、人生を前向きに変えるきっかけになる防衛機制もあります。
自分や身近な人の心が不安定なとき、「今、どんな防衛機制が働いているのかな」と少し立ち止まって考えてみてください。心の中を理解するヒントになるかもしれません。ただし、他人の防衛機制を決めつけて指摘することは、控えましょう。
紹介動画
Psych2Go Japanさんによる、防衛機制の動画です。英語の動画のため、やや難しいかもしれませんが、イラストがかわいいので紹介します。
講師の視点
防衛機制は「悪者」ではありません。私たちは、つらいことが起きたとき、無意識のうちに心を守っています。カウンセリングでは、その防衛が「今の生活に役立っているか」「そろそろ手放してもよいか」を、一緒に確認していきます。防衛を無理にはがすのではなく、必要なときには使い続けてよいと考えています。
理解度チェック(練習問題)
次の場面は、どの防衛機制にあたるでしょうか。
問題1
嫌いな上司なのに、顔を合わせるたびに、やたらと丁寧で愛想のよい態度をとってしまう。
問題2
志望校に落ちたあとで、「あの大学は自分に合っていなかった」と考えて、自分を納得させる。
問題3
自分が相手を苦手に思っているのに、「あの人は私のことを嫌っている」と感じる。
よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。
・認知療法の基礎
・思考の歪みの改善
・行動療法の学習
・マインドフルネスワーク
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)
個別レッスン
個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースで精神分析の考え方を深めたい方は、下記をご参照ください。
シリーズの続きを読む
精神分析の全体像と基本概念をおさらいする
感情を表に出すことの意味を知る
投影をさらに詳しく学ぶ
自分では気づかない心の領域を知る
面接室で生じる感情のパターンを知る
精神分析の流れをくむ現代の治療を知る
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




