みなさん、こんにちは。公認心理師・精神保健福祉士の川島達史と申します。私はこちらのコミュニケーション教室を開催しています。
「あの人は、私のことを嫌っているに違いない」。そう感じたものの、あとで振り返ると、実は自分のほうが、その人を苦手に思っていた。こうした心の動きを、精神分析では「投影」と呼びます。今回は、投影と、そこから発展した「投影同一視」の意味、種類、具体例、対処法を解説します。
投影は、防衛機制の1つとしてよく知られています。人間関係のトラブルの背景にあることも多いため、知っておくと、他人の言動に振り回されにくくなります。

投影の意味
基本の定義
投影は、英語では psychological projection です。一般に、自分の中にある受け入れがたい感情や考えを、他人のものとして感じる防衛機制と説明されます(防衛機制事典)[1]。これを、次のように言い換えると理解しやすくなります。
自分の感情が、あたかも相手の中にあるかのように感じることで、自分を守ろうとする心の仕組み
自分の中に認めたくない感情が芽生えたとき、その感情を素直に受け入れるのは難しいことです。そんなとき、それが相手の中にあるかのように考えることで、自分の心を守ろうとします。これが投影の仕組みです。
「投映」との違い
なお、まれに「投映」と書かれていることがありますが、精神分析の防衛機制は「投影」(または投射)と表記します。ロールシャッハテストなどの性格検査の手法を「投映法」と呼ぶため、混同されることがあります。
次のようなことに心当たりがある方と、特に相性が良い内容です。
・人からの決めつけにヤモヤすることが多い
・「自分は悪くない」と感じるのに、なぜか人間関係がうまくいかない
・特定の人を理由もなく苦手に感じてしまう
もう少し詳しい背景を知りたい方は、以下を開いてみてください。読み飛ばしても、この先の内容は問題なく読み進められます。
投影の具体例
2つの事例で理解する
「自分の感情が相手の中にあるかのように感じる」とは、どういうことでしょうか。2つの例を紹介します。
2つの事例に共通する流れ
どちらの事例にも、「認めたくない感情が生まれる→葛藤が大きくなる→相手の中にあると思い込む」という共通の流れがあります。まず自分の中にどんな感情があるかに気づくことが、投影を見直す出発点になります。
投影のメリットとデメリット
投影のメリット
私たちは、なぜ投影してしまうのでしょうか。投影には、次のような利点があります。
自分の中の否定的な感情を相手のものとすることで、一時的に、自分は「きれい」でいられる
あくまで錯覚ですが、「自分にマイナスの感情がある」という不都合な状態を、相手に映し出すことで、ストレスを軽くしているのです。たとえば月子さんは、「太郎くんを信頼できていない」という気持ちを認めるのは、勇気がいることでした。信頼していない状態は、疲れてしまいます。そのため、自分の気持ちを相手に押し付けることで、自分の心を守ろうとしたのです。
投影のデメリット
一方で投影は、さまざまなトラブルにつながりやすく、未熟な防衛と言われています。
人間関係のトラブル
投影は、相手にとって理不尽なものです。たとえば「軽蔑している」という気持ちを投影された側は、自分では考えてもいないことを決めつけられるため、関係が悪くなりやすくなります。
自分と向き合えない
投影を繰り返すと、マイナスの感情から逃げる癖がつき、その感情と向き合う経験ができなくなります。つらい感情をコントロールできず、さらに投影を繰り返すことになってしまいます。
投影同一視とは
投影から、もう一歩進んだ概念が「投影同一視」です。精神分析家メラニー・クライン(Klein, M.)[2]が1946年の論文で示した考え方から発展した概念です。
自分の中の受け入れがたい感情を相手に投げ入れるだけでなく、相手がその感情どおりに感じたり、ふるまったりするよう、無意識のうちに働きかけてしまう心の働き。
投影は、自分の心の中で「相手がそう思っている」と感じるところで完結します。一方、投影同一視では、その感情を相手の中に見るだけでなく、相手を通してその感情を扱い続けようとします。そのため、相手が実際に、その感情や態度をとるよう、追い込まれてしまうことがあります。オグデン(Ogden, T.)[3]は、投影された人が、投影の内容に沿って考えたり、感じたり、行動したりするよう、対人関係の中で圧力を受ける過程として説明しています。
投影同一視の例
例:職場の後輩Aさんは、上司に強い不満を持っているが、そのことを認められない。そこで、「上司は、私を見下している」と繰り返し言い、とげとげしい態度をとる。上司は次第に、Aさんに苛立ち、距離を置くようになる。するとAさんは、「やっぱり、見下されている」と確信を深めてしまう。
(理解のために作成した架空の例です。)
このように、投影同一視では、はじめの思い込みが、現実の関係の中で「本当のこと」になっていくことがあります。
投影同一視の広がり
投影同一視は、もともとは、乳児と母親の関係を説明する理論の中で提唱され、その後、重い心の問題の理解にも使われてきました。さらに、この概念は広がり、親密な関係の中で起こる、無意識の「感情のコミュニケーション」の1つとしても理解されるようになりました(Young12)[4]。また、心理療法では、面接の中で援助者に生じた感情が、患者の心の状態を知る手がかりになると考えられています。これについては、転移・逆転移のコラムで解説しています。なお、投影同一視の定義は、学派や研究者によって異なる点にも注意が必要です。
投影・投影同一視への対処法
自分が投影された時
たとえば、次のように、情報が少ないのに決めつけるような発言を投げかけられるときは、投影が起きていることが多いです。
〇〇さんって、裏の顔があるでしょう
実は、裏で悪口を言っているでしょう
投影は、相手の世界観が、自分に映されているだけです。相手の言葉に傷つくことがあるかもしれませんが、内容をそのまま受け止めすぎないようにしましょう。「私のこと軽蔑しているでしょう」と言われたら、「そんなふうに見えたの?軽蔑なんてしていないけどな」くらいに受け止めます。相手の意見や感情に無理に付き合わないことが、巻き込まれないコツです。
また、投影同一視のように、相手の言葉に引っ張られて、自分の中に強い苛立ちや不安が湧いてきたときは、「これは、本当に自分の気持ちだろうか」と、一呼吸おいて確かめてみてください。
自分が投影をした時
自分が投影しているときは、気づきにくいものです。投影が出やすいのは、相手が自分にマイナスの感情を持っていると感じたときです。
相手が自分を嫌っている
相手が自分に腹を立てている
嘘をついていると思われている
信用されていないと感じる
こうした感情が出たときは、「実は自分自身が、その感情を持っていないだろうか」と、いったん立ち止まって確認してみましょう。投影に気づきやすくなります。こうしたことがよくある場合は、自分の否定的な感情と、うまく向き合えていない可能性があります。相手の気持ちを想像する前に、「自分は本当はどう感じているのか」を意識してみてください。
投影については、動画でも解説しています。仕上げにご活用ください。
援助者と投影の分析
援助者にとって投影は手がかり
私たちカウンセラーは、日常的に投影されます。
先生って、私のこと嫌いでしょう?
先生の笑顔って、嘘くさいですよね
先生は、ステータスで人を見ますよね
このような発言があったときは、心の問題を理解する重要な手がかりになると考えます。投影の中には、悩みを改善するヒントがたくさんあるため、カウンセリングの中で慎重に扱います。
援助の仕方の具体例
たとえば、「先生って私の事、嫌いでしょう…」としきりにいう相談者がいたとします。私は、次のように返すことがあります。
嫌われていると感じるのですね。でも私は、〇〇さんとお会いできると嬉しいですよ。どうして、私が嫌っていると感じたんだろうね…
このように、相手が自分の気持ちを見つめ直すよう促していきます。うまくいくと、次のような気づきが得られることがあります。
嫌いな気持ちを押しつけていた
人が嫌いになる自分を恥ずかしいと思っていた
自分の気持ちに蓋をすることが癖になっていた
自分の気持ちと向き合い、心が整理できるようになると、問題のある投影は減っていきます。
*講師の視点
「先生は私を嫌っていますよね」と言われたとき、否定して安心させるだけでは、うまくいかないことがあります。まず、「そう感じるのですね」と受け止めたうえで、その気持ちがどこから来たのかを、一緒に眺めていきます。そのやりとりの中で、相手の対人関係のパターンが見えてくることも少なくありません。
理解度チェック(練習問題)
問題1
自分が相手を嫌っているのに、「相手が自分を嫌っている」と感じてしまう。これは何でしょうか。
問題2
投影と投影同一視の違いを、簡単に説明してください。
問題3
「あなたは私を軽蔑しているでしょう」と決めつけられたとき、巻き込まれないための対処として、どのようなものが考えられるでしょうか。
よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。
・認知療法の基礎
・思考の歪みの改善
・行動療法の学習
・マインドフルネスワーク
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)
個別レッスン
個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースで精神分析の考え方を深めたい方は、下記をご参照ください。
シリーズの続きを読む
精神分析の全体像を知る
心を守る無意識の働きを学ぶ
感情を表に出すことの意味を知る
自分では気づかない心の領域を知る
面接室で生じる感情のパターンを知る
精神分析の流れをくむ現代の治療を知る
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連








