マインドフルネス療法入門,歴史,効果,やり方
みなさんこんにちは。公認心理師,精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「マインドフルネス療法入門」です。
マインドフルネス療法を学ぶと、感情コントロールがうまくなる、集中力が上がるという効果があります。今回はマインドフルネスの基礎をしっかり解説します。目次は以下の通りです。
①歴史と提唱者
②マインドフルネスの意味とは
③マインドフルネスと効果研究
④7つの基本姿勢
⑤自動操縦と脱中心化
⑥エクササイズの種類
是非最後までご一読ください。
①歴史と提唱者
まずはマインドフルネス療法の歴史からおさえていきましょう。
カバットジンの経歴
マインドフルネス療法の提唱者であるジョン・カバット・ジン(Kabat-Zinn, J.)は元々分子生物学者でした。分子生物学とは、体の仕組みを分子や遺伝子レベルで解明していく分野です。
そんなバリバリの理系だったカバット・ジンだったのですが、学生時代にフィリップ・カプローという禅の宣教師の講演に感銘を受け、禅に魅了されます[1]。
そして、国際観音禅院の崇山行願らから基本的なやり方を学んでいきます。そうして禅が心の安定に役立つことを体感していきました。その後、禅が精神的に良い理由を研究しはじめ、心理療法に応用することを着想していったのです。
マインドフルネス療法の誕生
1979年になると、カバットジンはマサチューセッツ大学医学部にストレス低減センターを設立しました。センターでは、マインドフルネス瞑想、ヨーガ瞑想を取り入れた治療プログラムとして
マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)
が実践されていきました。その効果が科学的に実証されると、世界各地の病院やクリニックで瞑想がおこなわれるようになりました。1990 年代には、MBSR と認知療法を組み合わせた
マインドフルネス認知療法(MBCT)
が生まれ、うつ病の再発予防についての効果が実証されました。その他、パニック、睡眠障害、慢性不安などの患者にも適用し、心理学や心理療法に大きな影響を与えました。
1994年、カバットジンの2冊目の著書『どこに行っても、そこにいる』[2]が全国的なベストセラーとなり、マインドフルネスという用語が社会全体に浸透していきました。
現在では病気だけでなく、健康な人の生活の質を上げる技術としても認知されています。
②マインドフルネスの意味とは
マインドフルネスとサティ
マインドフルネスの由来は、パーリ語のサティ(sati)やサンスクリット語のスムルティ(smṛti)を訳したものとされています。パーリ語・サンスクリット語とは、仏教が発祥した2600年前に実際に用いられていたとされる言語のことです。
サティやスムルティは、
認識、意識、記憶、想起、注意
を指す言葉です[3]。パーリ語を初めて英訳したゴガリー(1845)[4]によって、仏教の根本的な教えの1つである「サンマー・サティ(sammā-sati)」 が「正しい瞑想(Correct meditation)」に英訳されました。
そして、デイヴィッズ(1881)[5]は、ゴガリーの訳を再解釈して、「サンマー・サティ」を「正しいマインドフルネス」と訳しました。デイヴィッズは「サティ」について、以下のように説明しています。
元々は「記憶」という意味で用いられてきたが、実際の使われ方は「注意深く思慮深い」という心の状態を意味する。これは仏教徒にとって大切な修行の一つとなっている。
現代でも広く使われている「マインドフルネス」という言葉は、このように約140年前にデイヴィッズによって初めて使われ始めたということがわかります。これは今日のマインドフルネスブームの起源を知る上で興味深い歴史的事実ですね。
マインドフルネスの意味とは
マインドフルネスは以下の意味があります。
今ここでの経験に、評価や判断を加えることなく能動的に注意を向けること
(Kabat-Zinn,1990)[6]
内部および外部の刺激が発生したときに、継続的な一連の刺激を判断せずに観察すること(Baer,2003)[7]
マインドフルネス瞑想の特徴は「いまこの瞬間」に意識を向け、知覚、思考、感情、行動を観察することに重点を置いています。これらの感覚をながめ、良い、悪いの価値判断をしないことを大事にするのです。
今ここ
私たちの悩みは、大概の場合は、過去や未来についての心配事がほとんどです。
明日上司に怒られるのではないか?
将来お金が足りるだろうか?
病気にならないだろうか?
あの時、挑戦しておけばよかった
これらの悩みは全て、「今」起こってるわけではありません。私たちは、まさに「今この瞬間」を生きています。そして、今この瞬間に目を向けられるようになると、過去や未来の悩みに捉われず、一瞬一瞬を大事に生きて行けると考えるのです。今ここについて理解を深めたい方は後程下記のリンクを参照ください。
③マインドフルネスと効果研究
どんな効果がある?
マインドフルネスの効果は心理学の分野で、様々な研究が行われています。気になる方は、以下の項目をクリックして展開してみてください。
④7つの基本姿勢
カバットジン(2007)[12]は以下の7つの姿勢を重視しています。
①判断しない
②忍耐強くあれ
③初心を忘れない
④自分を信じる
⑤努力しない
⑥受け入れる
⑦とらわれない
これらはマインドフルネスの基礎となります。マインドフルネスの思想はやや抽象度が高く、一般の方はやや理解しにくい部分もあります。そこで川島の考えを若干入れながら、わかりやすく解説していきます。
①判断しない
マインドフルネス療法では、観察した感情や考え方に対して、腹を立てず、憎まず、批判せず、判断しません。ありのままの感情や考え方をそのまま自然なものとして観察します。例えば
将来お金が足りるか不安 もっと稼がなきゃ
という感情が見つかったとしましょう。この時
お金の不安をなくしたい
お金にとらわれる自分の考え方はあさましい
お金のことを考えてはいけない
とは考えません。
不安を感じている自分がいるな
私はお金について心配しているんだな
と、まずは気がつくだけで充分と考えます。
②忍耐強くあれ
マインドフルネスでは粘り強くあることが大事にされます。マインドフルネスはすぐに習得できるものではりません。練習をしていても、気がつけば感情の渦に取り込まれてしまうことがあります。
そんなときは、心配や不満、イラつき、つらい思いがある時、まさにそれらの感情に巻き込まれ、自動操縦されやすい自分を忍耐強く観察していくのです。粘り強く継続することで、自分自身を少しずつ客観視し、脱中心化できるようになります。
③初心を忘れない
日々の体験に対して、初めてのことのように感じることを大事にします。例えば、犬をはじめてみた小さな子供は、じっくりと犬を観察していきます。
ベロの長さ 息遣い 模様
小さな子供と大きな大人、どちらが今この瞬間犬のことを理解しているのか?もしかしたら子どもの方が気が付いているかもしれません。
マインドフルネスも同じです。自分と言うものは分かっているようでわかっていない部分もあります。見慣れているものでも「初心」で初めて見るように、見ると感動が生まれるのです。
④自分を信じる
自分を信頼し、決めていくことを大事にしています。例えば、就職活動をするときに、世間一般の評価を元に仕事を決めていくのは、マインドフルネス的な生き方とはいえません。
もちろん、周りの意見を求めることは必要ですが、最後は、自分自身の直感を信じ、信頼して、方針を決めていくことが大事なのです。
⑤むやみな努力をしない
マインドフルネスでは努力をしない自分も認めます。必ずしも自分を変えようとか、違う自分になろうとか、人は変わろうとしないでも良いと考えます。
私たちは「今の自分」に納得がいっていない時に、どうにか自分を変えようと努力することがあります。言い換えると、なんでも努力で変えようとする姿勢は、今の自分を否定し続ける態度ともいえるのです。
自分を変えようと努力し続けると、今この瞬間を生きている、尊厳を持った自分に目が届きにくくなってしまいます。私たちは、今この瞬間を価値ある瞬間として生きています。その価値を十分感じたうえで、必要な部分だけ努力で変えることが大事なのです。
⑥受け入れる
マインドフルネスでは苦痛、不安、恐怖と言った感情に目をつぶると、自分を正しく把握できないと考えます。目をつぶり混乱した状態では、冷静で落ち着いた行動を取れなくなります。
そこでマインドフルネスでは、苦痛、不安、恐怖は、自然な感情であり、そのまま受け入れ、全体として観察することを大事にします。自分を俯瞰してみると、全体としての正しい行動のあり方が見えてくるようになります。
⑦とらわれない
マインドフルネスでは「とらわれないこと」を大事にします。人は往々にして執着することが多いです。執着をすると、失うことが怖くなったり、不安が大きくなったり、イライラすることが増えていきます。
お金をふやしたい
物をふやしたい
魅力的な異性をゲットしたい
楽をしたい
もしあなたが日々これらの感情に支配されている場合は、マインドフルネスで観察をして気づきを得たあとに、緩める(手放す)練習をしてもいいかもしれません。
一度しかない人生を、イライラして過ごすのか、それとも落ち着いた心で自分自身を受け入れながら生きていけるかは、とらわれない心を持てるかにかかっているのです。
⑤自動操縦と脱中心化
自動操縦とは?
私たちの日常生活には、「自動操縦モード」が潜んでいます。朝起きて歯を磨き、いつもの道を通って通勤する。そんな何気ない動作の中で、実は私たちの心は「考えなしに動いている」ことが多いのです。
例えば、電車が遅延した時を考えてみましょう。
「もう最悪だ!」と怒りが込み上げる
スマートフォンを強く握りしめる
イライラした表情になる
といった状態になります。
特に注意が必要なのは、感情面での自動操縦です。会社で上司から厳しい言葉を投げかけられた時、すぐに落ち込んでしまったり、怒りで反応してしまったりする。これも自動操縦の一つです。この状態では、私たちは感情に振り回され、冷静な判断ができなくなってしまいます。
脱中心化とは?
一方、脱中心化とは、自分の感情や考えを「一歩引いた位置」から見つめる態度です。先ほどの例でいえば、「今、自分は怒りを感じているな」と、その感情自体を観察できる状態です。
これは、川の流れを橋の上から眺めるようなものです。川の中にいると流されてしまいますが、橋の上からなら、水の流れを客観的に見ることができます。
例えば、電車が遅延した時であれば、
「あ、イライラしている自分がいるな」
と気づく
深いため息をついて、自分の状態を確認する
「遅延は自分でコントロールできないことだな」
と受け入れる
といった状態になります。
マインドフルネス療法では、自動操縦状態から、脱中心化を目指すワークをたくさん行っていきます。両者の違いを理解したい方は、以下のコラムを参照ください。
⑥エクササイズの種類
マインドフルネスは知識ではなく、実践を通して体感していくものです。これまで様々な手法が生み出されていました。以下のエクササイズを参考に、自分とあうものをさがしていきましょう。
呼吸法
マインドフルネスは知識では理解しにくい心理療法です。せっかくなので、軽いエクササイズをやってみましょう。折りたたみをクリックして展開してみてください。理想は3分程度ですが、時間がない方は飛ばして読み進めてください。
いかがでしょうか。自分自身を観察し、脱中心化すると、心が落ち着いた方が多いと思います。呼吸のエクササイズについては以下のコラムで複数紹介しています。参考にしてみてください。
ボディースキャン法
足の先から頭のてっぺんまで、全身の感覚を順番に意識していく手法です。横になったまま行えるので、寝る前のリラックスタイムに最適です。呼吸を整えながら、体の各部位に意識を向けることで、心と体のつながりを感じられます。
より深く知りたい方は下記を参考にしみてください。
歩く瞑想
普段何気なく行っている「歩く」という動作に、意識を集中させる実践です。足の裏の感覚、重心の移動、空気の温度など、歩行の中の様々な要素に気づきを向けます。5分から始められる、動きながらのマインドフルネスです。
より深く知りたい方は下記を参考にしみてください。
レーズンエクササイズ
たった一粒のレーズンを、まるで初めて見る物のように観察し、ゆっくりと味わう実践です。見る、触る、匂いを感じる、そして味わう。普段の食事を「いつもの習慣」から解き放ち、新鮮な体験へと導いてくれます。
より深く知りたい方は下記を参考にしみてください。
仕上げ動画
マインドフルネス療法について動画も作成しました。基礎の仕上げとしてご活用ください。
ここまでのまとめ
“あるがまま”を観察するマインドフルネス瞑想ですが、しばしば鏡に喩えられます。あなたが鏡を覗くと、そこに映っているのは、あなたが長年親しんできたあなたの顔です。次々と現れる思考や感情を、何の判断も交えずに映し出す心の鏡なのです。
日常的におこなうことで、今まで気にも留めなかったことに新しい発見を覚え、閃きを提供してくます。また、周囲の人の気持ちや考えがより理解できるようになり生活の質が向上していくのです。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・マインドフルネスの学習
・心が落ち着く,深呼吸法
・はじめての認知行動療法
・感情のコントロール,エクササイズ
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
to face stress, pain, and illness. New York: Bantam Dell Publishing.