みなさん、こんにちは。公認心理師・精神保健福祉士の川島達史と申します。私はこちらのコミュニケーション教室を開催しています。
「相手の気持ちがわからなくて、不安になる」「自分の気持ちが、自分でもわからない」「相手の考えを決めつけて、傷つけてしまった」。こうした悩みと深く関わるのが、「メンタライゼーション」という力です。今回は、メンタライゼーションと、それを高めることを目指す治療「メンタライゼーションに基づく治療(MBT)」を、初めて学ぶ方にもわかりやすく解説します。
このコラムの位置づけ
メンタライゼーションに基づく治療(MBT)は、精神分析と愛着理論に根ざしていますが、精神分析そのものではありません。開発者自身が、両方の理論の中核となる前提の多くを、簡潔さのために手放していると述べています。また、家族や子ども、支援の現場など、精神分析の外でも広く使われています。ここでは、精神分析の流れをくむ現代の治療として紹介します。
メンタライゼーションとは
基本の意味
メンタライゼーション(メンタライジングとも呼ばれます)とは、自分や他人の行動を、その背後にある心の状態、つまり、考え、感情、願い、欲求から理解する力のことです(Batemanら)[1]。ひとことで言えば、自分や他人の心に注意を向ける力です。
場面:友人からの返信が、いつもより遅い
・働いていないとき
→「私、嫌われたんだ」と決めつける
・働いているとき
→「忙しいのかも」と、可能性を考える
メンタライジングは、誰もが持っている力です。ただし、いつも同じように働くわけではなく、強いストレスがかかったときに、崩れやすくなります。
愛着との関係
メンタライジングの力は、幼いころの、養育者との関わりの中で育つと考えられています。子どもは、養育者が自分の気持ちを受け止め、映し返してくれる経験を通じて、「自分の心」と「他人の心」を理解する力を育んでいきます。反対に、強い不安や、不安定な愛着の状況では、この力が働きにくくなります。
もう少し詳しい背景を知りたい方は、以下を開いてみてください。読み飛ばしても、この先の内容は問題なく読み進められます。
メンタライジングが崩れるとき
強いストレスや感情の高ぶりの中では、メンタライジングが働きにくくなり、心のとらえ方が、次の3つのモードに偏ることがあると考えられています。
心的等価モード
自分の考えや感情が、そのまま「現実」だと感じてしまうモード。
例:「あの人は、私を嫌っている」という考えを、疑う余地のない事実のように感じる。
目的論的モード
心の状態は、目に見える行動や結果でしか信じられなくなるモード。
例:「本当に大切に思っているなら、今すぐ会いに来て」と、言葉だけでは信じられない。
プリテンドモード
考えや感情が、現実から切り離されて、ふわふわと語られるモード。
例:自分の気持ちについて長く話しているのに、感情が伴わず、現実の行動や変化につながらない。
こうしたモードの一部は、自分の感情を相手のものとして感じる投影や、心を守る防衛機制とも重なります。
MBTの特徴と流れ
MBTは、1990年代に、精神科医のアンソニー・ベイトマン(Bateman, A.)と、精神分析家・心理学者のピーター・フォナギー(Fonagy, P.)[1]が、主に境界性パーソナリティ障害(BPD)のために開発した治療です。BPDの多くの症状が、メンタライジングの崩れと関わっている、という理解にもとづいています。
開発の背景には、心理療法の専門的な訓練を受けにくい職種(看護師、依存症の支援者など)にも使える形にしたい、という思いがありました。そのため、MBTは、構造化されていて、比較的、学びやすく、実施しやすい形になっています。
MBTの特徴
個人療法と集団療法を組み合わせて行う
治療者は「知らない」姿勢で、関心を持って尋ねる
高度な説明で、メンタライジングを補おうとしない
たとえば、患者が「あなたは私のことを、面倒だと思っているでしょう」と言ったとき、治療者は、「そんなことはありません」と否定したり、「あなたは過去の経験から、そう感じているのです」と解説したりせず、まず、その気持ちを受け止めます。そして、「どんなことから、そう感じたのですか」と、関心を持って尋ねていきます。
面接の流れ
MBTでは、次のような流れで、メンタライジングを取り戻していきます。
①共感的な承認:まず、患者の気持ちを受け止める
②明確化と探索:出来事と、そのときの心の状態を、一緒にたしかめる
③感情への焦点づけ:今、この場で生じている感情に目を向ける
④別の視点の提示:別の見方の可能性を、穏やかに広げる
⑤関係のメンタライジング:治療者との関係の中で起きていることを、一緒に考える
⑤は、転移・逆転移とも関わりの深い部分です。ただし、MBTでは、患者の見方を、まず認めることが重視されます。
日本での現状
広がりつつある取り組み
日本でも、MBTへの関心が高まっています。ベイトマンとフォナギーの著書には、『メンタライゼーションと境界パーソナリティ障害:MBTが拓く精神分析的精神療法の新たな展開』という邦訳書があります(Batemanら04)[8]。日本メンタライゼーション研究会も活動しており、2023年には、MBTを実践し、訓練を続ける臨床家のための組織として、日本MBT協会が設立されました(設立記録)[9]。
受けられる機関はまだ少ない
ただし、MBTを専門的に実施できる機関は、まだ限られています。受けてみたい方は、まず、精神科や心療内科などの医療機関、または、心理相談の専門機関に相談してください。
日常で活かすヒント
自分を見直す3つの問い
MBTは、専門家が行う治療です。ただ、その考え方は、日常の人間関係を見直すヒントにもなります。次の3つの問いは、MBTの考え方を日常向けに応用した、筆者による簡易版です。
①今、自分は、どんな気持ちだろう(気持ちに名前をつける)
②相手には、どんな気持ちや事情があるかもしれない(可能性をいくつか考える)
③自分の思い込みを、確かめる方法はあるだろうか
強い感情が高ぶっているときは、この問いを使うのは難しくなります。そのようなときは、まず深呼吸をしたり、その場を離れたりして、気持ちを落ち着かせてください。感情が強くなりすぎると、メンタライジングが働きにくくなるためです。
つらさが続くとき、自分を傷つけたい気持ちが強いときは、一人で抱えず、医療機関や、専門の相談窓口に相談してください。
講師の視点
「相手の気持ちがわからない」と悩む方は、実は、人の気持ちにとても敏感な方が多いと感じます。ただ、その敏感さが、相手の心を「読みすぎる」形で出てしまうことがあります。「読み切れないものは、読み切れない」と、少し力を抜くことも、メンタライジングの一部だと思っています。
理解度チェック(練習問題)
問題1
「あの人は私を嫌っている」という考えを、疑う余地のない事実のように感じてしまう。これは、3つのモードのどれにあたるでしょうか。
問題2
MBTで、治療者がとる基本的な姿勢は何でしょうか。
問題3
MBTと精神分析の違いを、1つ挙げてください。
よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。
・認知療法の基礎
・思考の歪みの改善
・行動療法の学習
・マインドフルネスワーク
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)
個別レッスン
個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースで精神分析の考え方を深めたい方は、下記をご参照ください。
シリーズの続きを読む
精神分析の全体像を知る
心を守る無意識の働きを学ぶ
感情を表に出すことの意味を知る
自分の感情を相手に映す心の働きを知る
自分では気づかない心の領域を知る
面接室で生じる感情のパターンを知る
家族の関係から心の問題を考える
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



