みなさん、こんにちは。公認心理師・精神保健福祉士の川島達史と申します。私はこちらのコミュニケーション教室を開催しています。
初対面なのに、なぜかその人が苦手。上司の前に出ると、子どもの頃の自分に戻ったように緊張してしまう。カウンセラーに、理由のわからない強い期待や怒りを感じる。こうした心の動きを、精神分析では「転移」と呼びます。今回は、転移と、その反対側にある「逆転移」の意味、種類、具体例を、公認心理師の視点でわかりやすく解説します。
転移・逆転移は、精神分析の中でも、特に重要な概念の1つです。心理療法の場面だけでなく、日常の人間関係を理解するヒントにもなります。
目次
転移とは
基本の定義
転移とは、過去に重要な人物(主に親など)との関係で抱いた感情や期待、態度を、現在の別の人に向けて、再現することをいいます。フロイトは、『ヒステリー研究』の時期から、患者が治療者に感情を向ける現象に気づいていました(中野, 2011)[1]。
転移とは、過去の大切な人との間で経験した感情・期待・態度のパターンを、今の目の前の人との関係に重ねてしまうこと
投影との関わり
本人は、「目の前の人に対して、今、感じている」と思っています。しかし実際には、過去の関係の記憶が、無意識のうちに現在の関係に映し出されています。この点で、自分の感情を相手のものとして感じる投影とも、深く関わっています。
次のようなことに心当たりがある方と、特に相性が良い内容です。
・初対面なのに、なぜか強く好きになったり、苦手に感じたりする
・特定のタイプの人と、いつも同じようなすれ違いが起きる
・上司や先生に、必要以上に反発したり、頼りすぎたりする
もう少し詳しい背景を知りたい方は、以下を開いてみてください。読み飛ばしても、この先の内容は問題なく読み進められます。
転移の種類と具体例
陽性転移と陰性転移
転移は、向けられる感情の種類によって、大きく2つに分けられます。
陽性転移:好意、信頼、期待、理想化などの感情が向けられる
陰性転移:不信、怒り、失望、恐れなどの感情が向けられる
たとえば、カウンセリングの場面では、次のようなことが起こります。
陽性転移の例:「先生なら、私のことを何でもわかってくれる」と、強く期待する
陰性転移の例:「どうせ先生も、私のことを見捨てるのでしょう」と、疑う
陽性転移だから良い、陰性転移だから悪い、というわけではありません。
強すぎる理想化は、期待が外れたときに、大きな失望につながることがあります。また、好意が恋愛感情として現れることもありますが、専門職は、関係の境界をきちんと保ち、その気持ちの意味を面接の中で一緒に考えていきます。
日常生活での転移の例
転移は、カウンセリングの場面だけで起きるものではありません。たとえば、次のような場面です。
・厳しかった父親の記憶がある人が、男性の上司の前で過度に緊張し、何を言われても責められている気がしてしまう
・いつも自分を後回しにされた経験のある人が、恋人の少しの遅れにも、「大切にされていない」と強く傷つく
(これらは、理解のために作成した架空の例です。)
逆転移とは
転移が「患者から治療者へ」向けられる感情だとすれば、逆転移は、治療者の側に生じる感情や反応を指します。
古典的な考え方と現代的な考え方
フロイトは、1910年に初めて逆転移という言葉を使い、分析家自身の無意識的な抵抗のように、治療の妨げになるものとして扱いました(Carpy89)[6]。これが「古典的な考え方」です。
その後、ハイマン(Heimann, P.)[7]が1950年に、治療者の感情反応は、患者の心の状態を理解する大切な手がかりになりうる、と論じました。現在では、治療者に生じる感情反応を広く逆転移と呼び、それを「排除すべきもの」ではなく、「気づいて、活かすもの」と考える立場が広がっています。
逆転移の例
たとえば、次のような反応が、逆転移として注目されます。
この人と話していると、いつも強い眠気やだるさを感じる
この人の話を聞くと、なぜか強く苛立つ
この人のことを、必要以上に助けたくなる
面接の後も、この人のことが頭から離れない
こうした反応が生じたときは、「今、自分の中で何が起きているのか」を確認します。自分自身の過去の体験が影響しているのか。それとも、相手が無意識に、その感情を私に引き起こしているのか。後者は、投影同一視とも関係する考え方です。
自分の反応に気づき、適切に扱うために、援助者は、スーパービジョン(経験のある専門家に事例を相談すること)などを活用します。
日常の対人関係に活かすヒント
自分を見直す3つの問い
転移や逆転移の考え方は、専門家だけのものではありません。次の3つの問いは、日常の人間関係で、自分の反応を見直すときの1つの目安になります(筆者の提案する使い方の一例です)。
①その感情の強さは、目の前の出来事に見合っているだろうか
②その人は、過去に出会った誰かに似ていないだろうか
③その人が、本当はどんな人なのか、事実で確認できているだろうか
ただし、「これは転移だ」と自己判断で決めつけたり、他の人に「それは転移だ」と指摘したりするのは、避けましょう。過去のつらい体験に関わることが思い浮かんで苦しくなるときは、無理をせず、専門家に相談してください。
講師の視点
カウンセリングをしていると、相談に来られる方が、ふとした瞬間に「先生も、どうせ呆れているんでしょう」とおっしゃることがあります。そんなとき、私自身の中にも、様々な気持ちが湧いてきます。その気持ちに気づいて、「今、ここで何が起きているのかな」と考えることが、相手を理解する手がかりになります。
理解度チェック(練習問題)
問題1
厳しかった父親の記憶を持つ人が、男性の上司の前で過度に緊張してしまう。この心の動きは、精神分析で何と呼ばれるでしょうか。
問題2
現代的な考え方で、治療者に生じた感情反応(逆転移)は、どのように扱われるでしょうか。
問題3
カウンセラーに対して恋愛感情が生まれたとき、専門職は、どのように対応するでしょうか。
よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。
・認知療法の基礎
・思考の歪みの改善
・行動療法の学習
・マインドフルネスワーク
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)
個別レッスン
個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースで精神分析の考え方を深めたい方は、下記をご参照ください。
シリーズの続きを読む
精神分析の全体像を知る
心を守る無意識の働きを学ぶ
感情を表に出すことの意味を知る
自分の感情を相手に映す心の働きを知る
自分では気づかない心の領域を知る
精神分析の流れをくむ現代の治療を知る
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




