マインドフルネスは意味がないのか?副作用と安全実施のコツ
みなさんこんにちは。公認心理師,精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
当コラムは、マインドフルネス療法について、7回目に分けて解説しています。今回は、「⑦副作用と安全な実施法」をご紹介します。
①マインドフルネスの基礎
②呼吸のエクササイズ
③ボディースキャン法
④歩く瞑想技法方法
⑤レーズンエクササイズ
⑥自動操縦からの脱中心化
⑦副作用と安全な実践法
マインドフルネスという言葉を、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。ここ10年ほどで爆発的に広まり、ストレス解消や集中力アップに効果的だとする情報がインターネット上にあふれています。実際に実践している方も多いことでしょう。
しかし、心理の現場に長年携わってきた立場から正直にお伝えすると、マインドフルネスは「誰でも安全にできる万能ツール」ではありません。やり方を間違えると、深刻な心の状態の悪化につながることがあります。
今回は、マインドフルネスの副作用に関する国際的な学術論文を紹介しながら、安全に実践するための具体的な方法をお伝えします。

マインドフルネスとは
マインドフルネスとは、以下のように定義されています。
今、この瞬間の体験に、評価や判断を加えずに注意を向けている状態のこと
私たちの心は、「昨日の失敗」「明日の締め切り」「あの人に言われた一言」など、過去や未来の間をふらふらと漂っています。研究によれば、人は起きている時間の約半分、こうした「心のさまよい」状態にあるとも言われています。マインドフルネスは、その漂っている心のハンドルを「今、この瞬間」に引き戻す練習です。
スマートフォンに例えると、たくさんのアプリを開きっぱなしにしたまま動作が重くなった状態が「心のさまよい」です。余計なアプリを一旦すべて閉じて、目の前の一つのことにだけ全力を向けるのがマインドフルネスだと言えます。
あるいは、自分の心という部屋の中に「もう一人の観察者」を立たせるイメージも伝わりやすいでしょう。感情が押し寄せてきたとき、その感情に飲み込まれるのではなく、「今、自分は不安を感じているな」と少し距離を置いて眺める視点を育てるのです。
マインドフルネスの効果とリスク
マインドフルネスは仏教の瞑想を源流としており、1970年代にアメリカのジョン・カバット=ジン博士が宗教色を取り除いて臨床心理学に応用したことで世界中に広まりました。

自分の感情や体の感覚を「良い・悪い」と判断せず、ただありのままに観察することで、ストレス耐性の向上や集中力のアップ、感情の安定など、メンタルヘルスの改善に効果があることがわかってきました。
企業の研修に取り入れたり、スポーツ選手のメンタルトレーニングとして活用したりするケースも増えている一方で、最新の研究は「副作用のリスク」についても明確に警告しています。
マインドフルネスは危険?
イギリス・コベントリー大学のミゲル・ファリアス博士ら(2020)は、系統的レビュー*を行いました[1]。

系統的レビューとは、世界中で行われた過去の研究を一定の基準で網羅的に集め、統計的な手法を用いて総合的に分析する研究手法です。個人の体験談や一つの実験結果よりも格段に信頼性が高く、医学や心理学の分野でもっとも証拠レベルが高い研究形式の一つです。

データベース上にある6742件の論文を精査し、最終的に83件の研究を厳密な基準で選出し調査の結果、6,703名のうち1,102名、つまり全体の約8.3%の方に何らかの副作用が生じていることが確認されました。
そして、これらは精神疾患の既往がない健康な人にも生じていたということです。この割合は、一般的なカウンセリングや心理療法で報告される副作用の割合とほぼ同等です。
つまり、マインドフルネスは「心理療法と同じレベルのリスクを伴う介入」だということです。マインドフルネスは、誰でも気軽に試していいものではなく、正しい知識と準備のもとで行うべきものだということがいえます。
マインドフルネスの副作用
ファリアス博士らの研究で報告された1,102名のデータから具体的な副作用についてみていきます。
不安感の増大(33%)
もっとも多かったのが「不安感の増大」です。副作用を経験した方の33%が報告しています。
マインドフルネスは自分の感情を観察するトレーニングですが、感情の中には、長い間向き合うことを避けてきたネガティブな記憶や体験が含まれています。熟練した実践者であれば、そういったネガティブな感情も「ただの心の動きの一つ」として冷静に観察できますが、初心者にとっては非常に難易度が高いことです。
準備が整わないうちに内面の暗い部分を覗き込んでしまうと、観察するはずだった不安に飲み込まれ、むしろ不安が増してしまうことがあります。過去にトラウマを経験した方が、安易にマインドフルネスを行うことが特に危険とされているのはこのためです。
抑うつ感の増大(27%)
次に多かったのが「抑うつ感の増大」です。副作用を経験した方の27%が報告しています。
抑うつ感とは、漠然とした気持ちの落ち込みや暗い気持ちのことです。マインドフルネスでは将来への悲観的な見通しや、自分へのダメ出し(ネガティブ・バイアス)なども観察の対象になります。
ある程度訓練が進めば、そうした思考パターンを「今この瞬間に起きている心の動き」として距離を置いて見られるようになります。しかし不慣れな段階では、「暗い未来を観察する」という行為が、そのまま「暗い未来にどっぷりと浸かる」時間になってしまうことがあります。リラックスしようとして座ったのに、気づいたら自分を責め続けていた、というのはこのメカニズムによるものです。
離人感(25%)
副作用を経験した方の25%が「離人感」を報告しています。

離人感とは、自分が自分でないような感覚、あるいは周りの世界が映画のスクリーンのように現実味を失う感覚のことです。日本語では「ゆうたい離脱」に近いイメージで、自分を遠くから眺めているような不思議な感覚です。
マインドフルネスでは「観察する自分」を意識することをくり返し訓練します。これを過度にやりすぎると、常に自分を外から見ている状態になってしまい「本当は傷ついているのに、傷ついている自分がいるな、と他人事のように感じてしまう」という状態に陥ることがあります。感情との健全なつながりが切れてしまうのです。
普段の生活では支障がなく、一時的に「なんだかフワフワした感じがする」程度であれば軽く流しても問題ありません。しかし、この感覚が長く続いたり、強くなったりするようであれば、それは続けるべきではないサインです。
副作用が起きる理由
ファリアス博士らの研究では、副作用が起きやすくなる状況についても考察されています。
心の病気
一つ目は、精神疾患のある方です。うつ病で症状が重い時期や、パニック障害のように感情に振り回されやすい状態の方に、いきなり「感情をありのままに受け止めなさい」というのは、難易度が高すぎます。心の病気を抱えている方ほど、慎重に、できれば専門家の指導のもとで実践することが大切です。
マイナス感情に注目
二つ目は、ネガティブな感情に集中しすぎる場合です。不安や恐怖といった感情をひたすら観察し続けることは、理論上は「自然に受け流せるようになる」はずです。しかし実際には、その感情に逆に飲み込まれてしまうことがあります。特に初心者の方にとって、ネガティブな感情を長時間眺め続けるのはリスクが伴います。
独学での実践
三つ目は、独学での実践です。書籍をしっかり読み込んで学術的な背景も理解したうえで自習するのとは違い、動画を数分見ただけで真似してやってみたり、準備不足のまま長時間の実践に挑戦したりすることは、副作用が起きやすくなります。特に、短い動画を見ただけで長時間の瞑想にチャレンジすることは、危険性が高いです。
安全な実践の4つのコツ
ここからは、マインドフルネスを安全に実践するための具体的な方法を4つお伝えします。
①感情の観察は後回しにする
マインドフルネスのゴールは、ネガティブな感情もありのままに観察して受け入れることです。しかし、いきなりそこを目指すのは初心者には危険です。
不安感や焦り、悲観的な思考に最初から焦点を当てて観察することは控えてください。特に感情の扱いに慣れていない段階では、感情の観察は後回しにする方が安全です。
まずは感情以外の、呼吸の感覚や体の感覚に意識を向けることから始めましょう。それだけで十分にマインドフルネスの入り口に立てています。
②グラウンディングで準備を整える
グラウンディングは、「今、ここに、自分は確かに存在している」という感覚を物理的に確認することで、臨床現場ではよく使われる技法です。
たとえば、足の裏の感覚に意識を向けてみましょう。今、足の裏はどんな感覚でしょうか。ぽかぽかしていますか、それとも少し冷えていますか。地面に足がしっかりと接地しているな、という感覚を丁寧に感じ取ってみます。そのほか、椅子に座っているお尻の感覚に意識を向けるのも同じ効果があります。
グラウンディングは、瞑想中に不安になったり感情に飲み込まれそうになったりしたときに、現実に引き戻してくれる「心の命綱」になります。マインドフルネスを始める前に、この感覚をしっかり身につけておくことが大切です。
③短時間から始める
副作用のリスクを最小限にするために、まずは5分から10分程度の短い時間から始めてください。最初からいきなり30分、1時間と実践しようとするのは危険です。
短時間の実践で、身体的な不快感がなく、感情に飲み込まれる感覚もないようであれば、マインドフルネスの感覚が少しずつ育っている証拠です。「もう少しやりたい」と感じるくらいで切り上げるのが、安全に継続するコツです。
慣れてきたら少しずつ時間を延ばしていけば十分です。焦る必要はまったくありません。
④やめる基準をあらかじめ決めておく
マインドフルネスを「続けていい状態」と「やめるべき状態」をあらかじめ自分の中で決めておいてください。これは特に大切なポイントです。

安全に続けられているサインとしては、まず接地感があることです。自分が今この現実の世界にドシッと存在しているという感覚があることです。また、呼吸が乱れず自然に保てていることや、軽いイライラ、軽い悲しみ、軽い不安感といったものであれば、むしろそれらをありのままに観察することがマインドフルネスの本来の目的になりますので、続けて構いません。
一方、黄色信号は、汗が滲んできたり、不安を超えて恐怖に近い感覚になってきたりしたときです。そして、すぐにやめるべき赤信号のサインは、息切れや呼吸の乱れ、心臓のバクバク感、頭痛、そして離人感が強くなることです。このような状態になったら、速やかにマインドフルネスをやめて、グラウンディングを行い、普段通りの生活に戻ってください。
この「やめる基準」を知らずに実践することは、安全ベルトなしで高速道路を走るようなものです。ぜひあらかじめ決めておいてください。
副作用と安全実践まとめ
マインドフルネスは、正しく実践すればストレス耐性の向上、集中力のアップ、感情の安定に役立つ心理療法です。研究全体を見れば、9割近くの方は安全に実施できています。
ただし、マインドフルネスはカジュアルな気晴らし程度のものではなく、心に深く作用する本格的な心理的介入です。カウンセリングと同じように、リスクを正しく理解して実践することが求められます。
ご紹介した4つの方法を守りながら実践していただければ、マインドフルネスはメンタルヘルスの安定に大きく貢献してくれます。
マインドフルネスは「暗い部屋の隅にライトを当てるような作業」だと私は感じています。準備ができていないのにいきなり強力なライトを当てると、見たくなかった汚れに圧倒されてしまいます。でも、少しずつ明るさを調整しながら丁寧に進めていけば、自分の内面をしっかり整理していく、とても力強いツールになります。
もし一人での実践が難しいと感じたり、副作用のような症状が出てきたりした場合は、ぜひ公認心理師や臨床心理士に相談しながら進めてみてください。

仕上げ動画
マインドフルネス療法の副作用について動画も作成しました。仕上げとしてご活用ください。
関連コラム
今回は、副作用と安全な実施法について解説をしました。以下のコラムのうちまだ読んでいないものがありましたら是非ご参照ください。
①マインドフルネスの基礎
②呼吸のエクササイズ
③ボディースキャン法
④歩く瞑想技法方法
⑤レーズンエクササイズ
⑥自動操縦からの脱中心化
⑦副作用と安全な実践法
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・マインドフルネスの学習
・心が落ち着く,深呼吸法
・はじめての認知行動療法
・感情のコントロール,エクササイズ
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



