選択理論とは、「人の行動はすべて、自分の欲求を満たすために、自分で選んでいる」と考える心理学の理論です。アメリカの精神科医ウイリアム・グラッサーが提唱し、他人を変えようとするのではなく、自分が変えられる行動に目を向けることで、より良い人間関係と生き方を目指します。
みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「選択理論」です。
「相手が変わってくれれば、うまくいくのに」と感じた経験はないでしょうか。選択理論は、そんなときに、自分にできることへと目を向け直すヒントをくれる考え方です。当コラムはシリーズの1本目として、選択理論の基本と、実践の方法を紹介します。目次は以下の通りです。
目次
①選択理論とは
選択理論は、私たちの行動が、外からの刺激によって決まるのではなく、自分の内側から選ばれている、と考える理論です。
行動は自分で選んでいる
グラッサー[1]は、人の行動は、5つの基本的な欲求を満たすために、その時点で最善だと思う方法を、自分で選んだ結果だと考えました。落ち込むことや、怒ることさえも、ある意味では、自分が選んでいる行動の一部だと捉えます。
これは、「つらいのはあなたのせいだ」と責めるための考え方ではありません。「自分で選んでいるのなら、別の選択をすることもできる」と、変化の可能性に目を向けるための考え方です。
外的コントロールからの転換
グラッサーは、「人は外からの働きかけで変えられる」という考え方を「外的コントロール」と呼びました。批判したり、罰したり、ほうびで釣ったりして、相手を思い通りに動かそうとするやり方です。
選択理論では、私たちがコントロールできるのは、自分の行動だけだと考えます。他人を変えようとする代わりに、自分の行動を選び直すことで、人間関係が良くなっていくと考えるのです。
②提唱者グラッサー
選択理論は、アメリカの精神科医ウイリアム・グラッサーによって、リアリティセラピーという心理療法の土台として発展しました。
リアリティセラピーの誕生
ウイリアム・グラッサー(Glasser, W.)は、1960年代に、過去の原因探しよりも、「今、何をしているか」と「これからどうするか」に焦点を当てる心理療法を考案しました。1965年に出版した著書[2]で、この方法を「リアリティセラピー(現実療法)」と名づけています。
選択理論への発展
その後グラッサーは、リアリティセラピーの理論的な土台を「選択理論」としてまとめました。1998年の著書[1]で選択理論の全体像を示し、日本でも翻訳され、教育、ビジネス、カウンセリングなどの分野に広がっています。
③5つの基本的欲求
選択理論では、人は生まれながらに5つの基本的欲求を持っており、行動はすべて、これらの欲求を満たすために選ばれていると考えます。
5つの欲求
生存:食べる、眠る、安全でいるなど、体を守る欲求
愛・所属:人と愛し合い、仲間とつながっていたい欲求
力:認められたい、達成したい、価値ある存在でいたい欲求
自由:自分で選び、自分のやり方で行動したい欲求
楽しみ:新しいことを学び、楽しみたい欲求
欲求の強さは人それぞれ
5つの欲求は誰もが持っていますが、その強さは人によって違います。例えば、人とのつながりを特に強く求める人もいれば、自由を何より大切にする人もいます。自分や相手の欲求の強さを知ると、行動の理由が理解しやすくなります。詳しくは、5つの基本的欲求とはで解説しています。
④上質世界
上質世界とは、自分の欲求を満たしてくれる人や物、考え方などのイメージが集まった、心の中の「アルバム」のようなものです。
上質世界とは
私たちは、「この人と一緒にいると満たされる」「この仕事をしていると充実する」といった、具体的なイメージを心の中に持っています。この集まりを「上質世界」と呼びます。人は、上質世界のイメージに近づこうとして、行動を選んでいると考えます。
人間関係のすれ違い
人間関係のすれ違いの多くは、お互いの上質世界の違いから生まれます。例えば、休日を家族で出かけて過ごしたい人と、家でゆっくり過ごしたい人では、上質世界の写真が違うのです。違いを知ることで、相手を責める代わりに、話し合う余地が生まれます。詳しくは、上質世界とはで解説しています。
⑤全行動と車のたとえ
選択理論では、私たちの行動を「全行動」と呼び、4つの要素がセットになっていると考えます。
全行動の4つの要素
行為:歩く、話すなど、体を使ってすること
思考:考えること、思い浮かべること
感情:うれしい、悲しいなどの気持ち
生理反応:心臓の鼓動、汗、眠気などの体の反応
車のたとえ
グラッサーは、全行動を車にたとえました。前輪が「行為」と「思考」、後輪が「感情」と「生理反応」です。車の向きを変えるとき、前輪を動かせば、後輪は自然についてきます。
同じように、感情や体の反応を直接変えるのは難しくても、行為や思考を変えることで、感情も変わっていくと考えます。落ち込んでいるときに、気持ちを無理に変えようとするより、散歩に出る(行為を変える)方が、気持ちが軽くなりやすいのは、このためです。
⑥人間関係の7つの習慣
グラッサーは、人間関係を壊しやすい習慣と、人間関係を育てる習慣を、それぞれ7つずつ挙げています。
関係を壊す7つの習慣
批判する
責める
文句を言う
ガミガミ言う
脅す
罰する
ほうびで釣る
これらは、相手を外からコントロールしようとする行動です。一時的に相手が従うことはあっても、関係は少しずつ壊れていきます。
関係を育てる7つの習慣
支援する
励ます
傾聴する
受容する
信頼する
尊敬する
違いを交渉する
家族や職場で関係がぎくしゃくしたときは、自分がどちらの習慣を多く使っているかを振り返ってみましょう。自分にできる一つの習慣を変えるだけでも、関係は変わり始めます。
⑦リアリティセラピーとWDEP
選択理論にもとづく心理療法がリアリティセラピーです。その実践の手順として、WDEPモデルがよく使われます。
WDEPモデルとは
WDEPモデルは、リアリティセラピーを広めたウボルディング[3]がまとめた、面接の進め方です。4つの英語の頭文字をとっています。
W(Wants):あなたは何を求めていますか?
D(Doing):そのために、今何をしていますか?
E(Evaluation):今していることは、求めているものに役立っていますか?
P(Planning):では、これから何をしますか?
自己評価が中心
WDEPモデルの中心は、E(自己評価)です。セラピストが「その行動は間違っている」と判断するのではなく、本人が「今の行動は、自分の望みに役立っているか」を自分で評価します。自分で気づいたことだからこそ、行動を変える力になります。詳しい進め方は、WDEPモデルとはで解説しています。
研究について
リアリティセラピーや選択理論にもとづく支援は、学校や依存症の支援、カウンセリングの現場などで広く用いられていますが、効果を調べた研究は小規模なものが多く、さらに質の高い研究が求められています。
⑧今日からできるワーク
選択理論の考え方を、日常で試せるワークを紹介します。紙に書きながら取り組んでみましょう。
コントロールできることを分ける
今悩んでいることについて、「自分でコントロールできること」と「コントロールできないこと」を、2つに分けて書き出します。相手の気持ちや行動は、コントロールできない側に入ります。そのうえで、コントロールできる側の中から、今日できることを1つ選びましょう。
WDEPで自分に問いかける
W:私は、この状況で本当は何を求めているだろう?
D:そのために、今、実際に何をしているだろう?
E:それは、求めていることに役立っているだろうか?
P:明日、何を一つ変えてみようか?
習慣を1つ置き換える
家族や職場の誰か一人を思い浮かべ、その人に対して「関係を壊す7つの習慣」を使っていないか振り返ります。もし使っていたら、それを「関係を育てる7つの習慣」の一つに置き換えてみましょう。例えば、「文句を言う」を「傾聴する」に変える、といった具合です。
⑨確認してみよう
ここまでの内容を、3つの問題で確認してみましょう。答えを考えてから、正解と解説を開いてください。
問題1
選択理論の基本的な考え方として、最も適切なものはどれでしょうか。
ア 行動は、周りの刺激によって決まる
イ 行動は、欲求を満たすために自分で選んでいる
ウ 行動は、過去の経験だけで決まる
問題2
選択理論で、私たちがコントロールできるとされるものはどれでしょうか。
ア 相手の気持ち
イ 自分の行動
ウ 相手の行動
問題3
全行動の車のたとえで、前輪にあたるものはどれでしょうか。
ア 感情と生理反応
イ 行為と思考
ウ 欲求と上質世界
⑩まとめ
選択理論は、行動は自分の欲求を満たすために自分で選んでいると考え、他人を変えるのではなく、自分が選べる行動に目を向けることで、より良い人間関係を築こうとする理論です。
今回のポイント
コントロールできるのは、自分の行動だけ
行動の背景には、5つの基本的欲求と上質世界がある
行為と思考(前輪)を変えると、感情も変わる
関係を壊す習慣を、関係を育てる習慣に置き換える
「今、この瞬間に、自分に何ができるか」に目を向ける点は、アドラー心理学の考え方とも共通しています。あわせてご覧ください。
シリーズの他のコラム
選択理論シリーズでは、5つの基本的欲求、WDEPモデル、上質世界を詳しく解説しています。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



