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箱庭療法

箱庭療法とは,河合隼雄と日本での発展

箱庭療法とは、砂の入った箱の中に、人や動物、建物などのミニチュアを自由に置いて、一つの世界をつくる心理療法です。言葉にしにくい気持ちを、形にして表現できるのが特徴で、子どもから大人まで幅広く用いられています。スイスのドラ・カルフが、ユングの分析心理学をもとに発展させ、日本には心理学者の河合隼雄が紹介して、広く普及しました。

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「箱庭療法」です。

箱庭療法は、日本で特に広く普及した心理療法の一つです。当コラムでは、箱庭療法の歴史としくみ、実際の流れに加えて、よくある「解釈」に関する誤解や、子どもの箱庭を見守る人のコツを紹介します。目次は以下の通りです。

目次

①箱庭療法とは

箱庭療法は、言葉ではなく、砂とミニチュアを使って心の世界を表現する心理療法です。まずは、その基本を確認しましょう。

砂の箱とミニチュア

箱庭療法では、内側が青く塗られた、縦横60〜70センチほどの浅い木の箱に、砂を入れて使います。青い底は、砂を掘ると水や川、海として表現できるようになっています。棚には、人、動物、植物、乗り物、家、橋、怪獣など、さまざまなミニチュアが並べられています。

相談に来た人は、好きなミニチュアを選び、砂の上に自由に並べて、一つの世界をつくります。砂を山のように盛ったり、掘って川をつくったりすることもできます。

箱庭療法,砂の箱とミニチュア

言葉にしにくい気持ちを形に

悩みや気持ちを、言葉で説明するのが難しいことがあります。特に子どもは、自分の気持ちをうまく言葉にできないことが多いものです。箱庭療法では、ミニチュアの選び方や置き方を通して、言葉にならない気持ちが、自然に形となって表れると考えます。

ユング心理学とのつながり

箱庭療法は、スイスの精神科医ユングが創始した分析心理学(ユング心理学)の考え方を土台にしています。ユング心理学では、心の深いところにある無意識が、イメージを通して表れると考えます。箱庭は、そのイメージを、目に見える形で表現する場だとされています。

②歴史と河合隼雄

箱庭療法は、イギリスで生まれた子どもの遊びの方法をもとに、スイスで心理療法として発展し、日本で大きく花開きました。

ローエンフェルドの世界技法

1920年代の終わり、イギリスの小児科医マーガレット・ローエンフェルドは、子どもたちが砂箱とおもちゃで自由に世界をつくる「世界技法」を考案しました。子どもが言葉にできない気持ちを、遊びを通して表現できるようにする方法でした。

カルフの箱庭療法

スイスのドラ・カルフは、ローエンフェルドの方法を学び、ユング心理学の考え方を取り入れて、心理療法として発展させました[1]。カルフは、治療者が見守ることで生まれる「自由で保護された空間」の中で、人は自分の力で心を癒していくと考えました。

河合隼雄と日本での普及

日本に箱庭療法を紹介したのは、スイスのユング研究所でユング心理学を学んだ心理学者の河合隼雄です。河合は1960年代に箱庭療法を日本に紹介し、「箱庭療法」という名前をつけました。1969年には、日本での実践をまとめた本[2]を出版しています。

日本には、もともと庭や盆栽、箱庭などを楽しむ文化があり、言葉にしなくても気持ちを察し合う文化もあったことから、箱庭療法は日本人に合った方法として、急速に広まったと言われています。現在では、日本箱庭療法学会が研究と専門家の育成を行っています。

③箱庭療法のしくみ

箱庭療法では、なぜ砂とミニチュアで世界をつくることが、心の回復につながると考えられているのでしょうか。

自由で保護された空間

カルフは、治療者がそばで温かく見守り、何をつくっても受け止めてもらえる、という安心感が大切だと考えました。この「自由で保護された空間」の中で、人は安心して心の奥にあるイメージを表現でき、そのこと自体が心を整えていくと考えるのです。

表現することで整理される

箱庭をつくる中で、もやもやしていた気持ちが形になり、それを眺めることで、自分の心の状態に気づくことがあります。また、何回か箱庭をつくっていくと、作品の様子が少しずつ変化していくことが多く、それが心の変化を表していると考えられています。

作品の変化の例

以下は、理解のために作成した架空の例です。

最初のころ、ある子どもは、怪獣や兵隊が戦い続ける、荒々しい箱庭をつくっていました。何回か続けるうちに、戦いの場面に柵ができ、やがて川や橋が置かれ、動物たちが穏やかに暮らす世界へと変わっていきました。

こうした変化は、子どもの中で、気持ちが少しずつ整理されていったことを表していると考えられます。ただし、作品の意味は一人ひとり違うため、決まった読み方があるわけではありません。

④箱庭療法の流れ

箱庭療法は、おおむね次のような流れで進みます。

自由につくる

セラピストから「この砂とミニチュアを使って、好きなものをつくってください」と声をかけられます。何をつくるか、どのくらいの時間をかけるかは自由です。上手につくる必要はまったくありません。

セラピストは見守る

つくっている間、セラピストは口をはさまず、そばで静かに見守ります。つくる人のペースを大切にし、安心して表現できる雰囲気を保ちます。

眺めて味わう

完成したら、つくった人とセラピストで、作品を一緒に眺めます。「どんな世界ですか」と尋ねられることもありますが、説明したくなければ、無理に話す必要はありません。作品は、記録として写真に残されることが多く、片付けは、つくった人が帰った後に行われるのが一般的です。

⑤解釈に関する誤解

箱庭療法については、「作品を見れば、心の中が分かる」といった誤解がよく見られます。代表的な誤解を確認しておきましょう。

誤解1 診断のテスト

箱庭療法は、心の状態を判定するための検査ではなく、表現を通して心を整えていく心理療法です。一つの作品だけで、性格や心の病気を判断することはできません。

誤解2 置き方に決まった意味

「左側は過去を表す」「ヘビは〇〇を意味する」といった、置き方やミニチュアの決まった意味が紹介されることがありますが、同じミニチュアでも、人によって込める意味はまったく違います。作品の意味は、その人の生活や気持ち、セラピストとの関係の中で、慎重に理解していくものです。

誤解3 その場で解釈を伝える

箱庭療法では、セラピストが作品の意味を、その場で相手に解説することは、ほとんどありません。解釈を押しつけると、自由に表現できる安心感が失われてしまうからです。作品を大切に受け止め、共に味わうことが重視されます。

⑥見守る人のコツ

箱庭療法そのものは、専門家のもとで行うものです。ここでは、子どもが砂遊びやおもちゃで自由に遊ぶ様子を、保護者や先生が見守るときに、箱庭療法の考え方から活かせるコツを紹介します。

評価せずに見守る

「上手だね」「それは変だよ」と評価したり、遊び方を指示したりせず、子どもが自由に表現できる雰囲気を大切にしましょう。そばにいて、関心を持って見守るだけで、子どもは安心して遊べます。

意味を決めつけない

子どもが怪獣や戦いの場面をつくっても、「心に問題がある」と決めつける必要はありません。子どもにとって、戦いの遊びは、気持ちを発散したり、整理したりする自然な方法の一つです。

気になるときは相談する

遊びの中で、同じ怖い場面を何度もくり返す、遊べないほど不安が強いなど、気になる様子が続く場合は、スクールカウンセラーや児童精神科などの専門家に相談してみましょう。

⑦効果と研究

箱庭療法の効果は、主に事例研究を通して報告されてきました。

事例研究が中心

日本では、不登校や、心の不調を抱える子ども、大人のさまざまな事例について、箱庭療法の経過を丁寧に記録した事例研究が、数多く発表されてきました。作品の変化と、生活の変化が対応していく様子が報告されています。

研究を読むときの注意

一方で、比較するグループを置いた研究は、まだ多くありません。効果を数字で確かめる研究は少ないため、効果については、さらに研究が必要とされています。箱庭療法が合うかどうかは、専門家と相談しながら判断しましょう。

⑧受けるときの注意

箱庭療法は、比較的安心して取り組める方法ですが、受けるときには次の点に気をつけましょう。

専門家のもとで受ける

箱庭療法は、臨床心理士や公認心理師など、箱庭療法の訓練を受けた専門家のもとで受けることが大切です。医療機関、大学の心理相談室、教育相談の場などで行われています。

慎重さが必要な場合

現実と想像の区別が難しくなっている時期や、強いトラウマを抱えている場合などは、イメージを深く表現することが、かえって負担になることがあります。どの方法が合うかは、専門家とよく相談して決めましょう。

⑨確認してみよう

ここまでの内容を、3つの問題で確認してみましょう。答えを考えてから、正解と解説を開いてください。

問題1

箱庭療法の土台となっている心理学はどれでしょうか。

ア ユングの分析心理学

イ 行動分析学

ウ 論理療法

問題1の正解と解説

正解はア(ユングの分析心理学)です。箱庭療法は、ユングの分析心理学(ユング心理学)の考え方を土台に、スイスのドラ・カルフが発展させました。

問題2

箱庭療法で大切にされる「自由で保護された空間」の説明として、最も適切なものはどれでしょうか。

ア 作品の出来ばえを評価してもらえる場

イ 何をつくっても受け止めてもらえる、安心できる場

ウ 決まった手順どおりにつくる場

問題2の正解と解説

正解はイ(何をつくっても受け止めてもらえる、安心できる場)です。治療者が温かく見守ることで生まれる安心感の中で、人は心の奥にあるイメージを表現でき、そのこと自体が心を整えていくと考えます。

問題3

箱庭の作品の解釈について、正しいものはどれでしょうか。

ア ミニチュアの置き方には決まった意味がある

イ 一つの作品で、性格や心の病気を判断できる

ウ 同じミニチュアでも、人によって込める意味は違う

問題3の正解と解説

正解はウ(同じミニチュアでも、人によって込める意味は違う)です。箱庭療法は診断のテストではありません。作品の意味は、その人の生活や気持ちの中で、慎重に理解していくものです。

⑩まとめ

箱庭療法は、砂とミニチュアで自由に世界をつくることで、言葉にしにくい気持ちを表現し、心を整えていく心理療法です。ユング心理学を土台にカルフが発展させ、河合隼雄によって日本に広まりました。

今回のポイント

「自由で保護された空間」の中で、心のイメージを表現する

作品の意味は一人ひとり違い、決まった読み方はない

セラピストは解釈を押しつけず、共に味わう

子どもの遊びは、評価せず、決めつけずに見守る

次に読みたいコラム

絵や音楽などの表現を使う心理療法については、芸術療法のコラムで解説しています。あわせてご覧ください。

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Kalff, D. M. (1980). Sandplay: A psychotherapeutic approach to the psyche. Santa Monica, CA: Sigo Press.
 
[2] 河合 隼雄(編)(1969). 箱庭療法入門 誠信書房
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