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身体志向療法

身体志向療法とは,ソマティックの基礎解説

身体志向療法(ソマティック・セラピー)とは、言葉だけでなく、体の感覚や姿勢、動き、呼吸などに注意を向けることを通して、ストレスやトラウマによる心身の反応を和らげていく心理療法の総称です。「ソマティック」は、ギリシャ語で「身体」を意味する「ソーマ」に由来します。

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「身体志向療法」です。

強いストレスを受けたあと、頭では「もう大丈夫」とわかっていても、体がこわばったり、胸がざわついたりすることはないでしょうか。身体志向療法は、こうした体の反応に目を向ける心理療法です。当コラムでは、身体志向療法の考え方と主な方法、日常でできる練習を紹介します。目次は以下の通りです。

目次

①身体志向療法とは

身体志向療法は、心と体を切り離さず、体の感覚を手がかりに心の回復を支える心理療法です。

体から心に働きかける

多くの心理療法は、主に言葉による対話を通して進みます。身体志向療法では、それに加えて、「今、体のどこで何を感じているか」に注意を向けます。強いストレスやトラウマの影響は、記憶や考えだけでなく、体の緊張や呼吸の浅さ、落ち着かなさなどにも表れると考えるからです。

臨床動作法とは別の系統

体の動きを通して心に働きかける方法としては、日本で成瀬悟策が開発した臨床動作法もよく知られています。臨床動作法は、決められた動作課題に取り組む中で心の変化を促す、日本で生まれた独自の方法です。このコラムで紹介する身体志向療法は、主に欧米で発展した、体の感覚への気づきを重視する方法の総称で、臨床動作法とは別の系統です。

どんな悩みに使われるか

身体志向療法は、主に、事故や災害、暴力などのトラウマの後に続く症状や、慢性的なストレス、不安、体の緊張が抜けない状態などに用いられています。言葉で話すことが難しいつらい体験でも、体の感覚を手がかりに少しずつ取り組める点が特徴とされています。

②歴史と主な方法

身体志向療法には、いくつかの流れがあります。

精神分析からの流れ

20世紀前半、フロイトの弟子ヴィルヘルム・ライヒは、心の葛藤が筋肉の慢性的な緊張として体に表れると考えました。その考えは、アレクサンダー・ローエンの生体エネルギー法などに引き継がれ、体を通して心に働きかける心理療法の源流になりました。

ソマティック・エクスペリエンシング

アメリカのピーター・リヴァインが開発した方法で、トラウマに関わる体の感覚に少しずつ注意を向け、体に残ったストレス反応が自然に落ち着いていくよう支えます[1]。

センサリーモーター心理療法

アメリカのパット・オグデンらが開発した方法で、トラウマに関わる体の感覚や動きへの気づきと、言葉による対話を組み合わせて進めます[2]。

③基本の考え方

身体志向療法には、体とトラウマについての、いくつかの共通した考え方があります。

体に残るストレス反応

命の危険を感じるような出来事に出会うと、体は、戦う、逃げる、固まるといった反応を起こします。ソマティック・エクスペリエンシングの考え方では、こうした反応がうまく完了しないまま体に残ることが、トラウマの後のつらい症状につながると考えます。

「耐性の窓」

「耐性の窓」とは、人が落ち着いて考えたり感じたりできる興奮の範囲のことで、精神科医ダニエル・シーゲルが提唱し、オグデンら[2]がトラウマの治療に取り入れた考え方です。興奮が高すぎると、不安やパニック、怒りに圧倒され、低すぎると、ぼんやりして何も感じられなくなります。身体志向療法では、体の感覚を手がかりに、この窓の中にとどまれるよう支えます。

④セラピーの進め方

身体志向療法のセラピーは、安全を何より大切にしながら、少しずつ進めます。

安心できる感覚を見つける

最初に、体の中で落ち着いている場所や、安心できる感覚を一緒に探します。「足の裏が床についている感じ」「背中が椅子に支えられている感じ」などです。こうした感覚は、つらい感覚に触れたときに戻ってこられる「よりどころ」になります。

少しずつ、行き来する

つらい記憶や感覚に一度に深く入るのではなく、ほんの少しだけ注意を向け、すぐに安心できる感覚に戻る、という行き来をくり返します。体の反応が強くなりすぎないよう、セラピストがペースを見守りながら進めます。

セラピーの場面の例

セラピスト:「その出来事を思い出すと、体のどこかに変化はありますか」

相談者:「胸がぎゅっと締めつけられる感じがします」

セラピスト:「その感じに少しだけ注意を向けたら、今度は、足の裏が床についている感じに注意を移してみましょう」

相談者:「…足のほうは、しっかりしている感じがします」

このように、つらい感覚と安心できる感覚の間を、少しずつ行き来しながら進めていきます。

⑤効果と研究

身体志向療法は、臨床の現場で広がっていますが、効果を確かめる研究はまだ限られています。

PTSDのランダム化比較試験

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の診断基準を満たす63人を、15回のソマティック・エクスペリエンシングを受けるグループと、待機するグループにランダムに分けた研究[3]では、ソマティック・エクスペリエンシングを受けたグループで、PTSDの症状と抑うつ症状が大きく改善しました。

研究はまだ少ない

ソマティック・エクスペリエンシングに関する16件の研究をまとめたレビュー[4]では、PTSDに関連する症状への良い効果について「初期的な証拠」があると結論づけられています。まだ研究の数は限られており、効果をより確かに示すには、さらに研究を積み重ねる必要があります。

⑥日常でできる練習

身体志向療法の考え方をもとに、日常で取り入れやすい練習を紹介します。つらい記憶には触れず、今の体の感覚に目を向けるものです。

足の裏の感覚を感じる

椅子に座り、足の裏が床についている感覚に、ゆっくり注意を向けます。足の裏の温かさや重さ、床の固さを感じてみましょう。不安で気持ちが落ち着かないときに、「今、ここ」に戻ってくる助けになります。こうした方法は、グラウンディング技法として詳しく紹介しています。

体の感覚に名前をつける

一日の終わりに、体のいくつかの場所(肩、胸、お腹など)に順番に注意を向け、「肩が重い」「お腹が温かい」のように、感じたことに名前をつけてみます。良い悪いを判断せず、ただ気づくことが練習になります。

心地よい感覚を味わう

温かい飲み物を飲むとき、好きな音楽を聴くときなど、心地よいと感じる瞬間に、体のどこでその心地よさを感じているかに注意を向けて、少しの間味わってみましょう。安心できる感覚を体で覚えておくことは、ストレスがかかったときの支えになります。

⑦注意

身体志向療法について、知っておきたい注意点をまとめます。

トラウマは専門家と一緒に

体の感覚に注意を向けると、思いがけず、つらい記憶や強い感情がよみがえることがあります。その場合は無理に続けず、目を開けて周りの景色を見るなどして、今の場所に注意を戻しましょう。トラウマに関わる取り組みは、訓練を受けた専門家のもとで行ってください。

なお、PTSDの治療では、トラウマに焦点を当てた認知行動療法やEMDRなどが、多くの研究で効果が確認されています。身体志向療法を検討するときも、医療機関や専門家と相談しながら選ぶことが大切です。

症状が強いときは

フラッシュバックや悪夢、眠れない状態が続く、日常生活に支障が出ているなどの場合は、まず医療機関に相談してください。

「死にたい」「消えてしまいたい」という気持ちが続くときは、一人で抱え込まず、医療機関や、電話・SNSの相談窓口(厚生労働省の「まもろうよ こころ」で探せます)、お住まいの地域の精神保健福祉センターに相談してください。命の危険が差し迫っているときは、救急(119番)に連絡してください。

⑧まとめ

身体志向療法は、体の感覚や姿勢、動き、呼吸に注意を向けることを通して、ストレスやトラウマによる心身の反応を和らげていく心理療法の総称です。

今回のポイント

ストレスやトラウマの影響は、体の反応にも表れる

ソマティック・エクスペリエンシングやセンサリーモーター心理療法などがある

安心できる感覚を足場に、少しずつ進める

研究はまだ限られ、トラウマは専門家と取り組む

あわせて読みたいコラム

体と心のつながりに働きかける方法や、トラウマの治療について、次のコラムでも解説しています。

グラウンディング技法とは|実践法と具体例を解説

臨床動作法とは|身体の動きを通じた心理療法

EMDRとは|トラウマ治療の心理療法を解説

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Levine, P. A. (2010). In an unspoken voice: How the body releases trauma and restores goodness. Berkeley, CA: North Atlantic Books.
 
[2] Ogden, P., Minton, K., & Pain, C. (2006). Trauma and the body: A sensorimotor approach to psychotherapy. New York: W. W. Norton.
 
[3] Brom, D., Stokar, Y., Lawi, C., Nuriel-Porat, V., Ziv, Y., Lerner, K., & Ross, G. (2017). Somatic experiencing for posttraumatic stress disorder: A randomized controlled outcome study. Journal of Traumatic Stress, 30(3), 304-312.
 
[4] Kuhfuß, M., Maldei, T., Hetmanek, A., & Baumann, N. (2021). Somatic experiencing – effectiveness and key factors of a body-oriented trauma therapy: A scoping literature review. European Journal of Psychotraumatology, 12(1), 1929023.
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