ロゴセラピーとは、オーストリアの精神科医ヴィクトール・フランクルが提唱した、「生きる意味」を中心にすえた心理療法です。「ロゴ」はギリシャ語の「ロゴス」に由来し、フランクルはこれを「意味」という意味で用いました。人は、どんな状況にあっても、自分の人生の意味を見いだすことができると考えます。
みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「ロゴセラピー」です。
『夜と霧』の著者として知られるフランクルは、自らの強制収容所での体験をふまえて、生きる意味に注目した心理療法を形づくりました。当コラムでは、ロゴセラピーの考え方と主な技法、日常で試せる練習を紹介します。目次は以下の通りです。
①ロゴセラピーとは
ロゴセラピーは、人間を「意味を求める存在」と捉え、その人が自分の人生の意味を見いだせるよう支える心理療法です。
意味による癒し
フランクル[1]は、人間の根本的な動機は、快楽や力を求めることではなく、意味を求めることにあると考えました。そして、生きる意味を見失うことが、心の苦しみにつながると考え、意味に目を向けることで心を支える心理療法を提唱しました。
ウィーン第三学派
ロゴセラピーは、同じウィーンで生まれたフロイトの精神分析、アドラーの個人心理学(アドラー心理学)に続く心理療法として、「ウィーン第三学派」と呼ばれることがあります。
②提唱者フランクル
ヴィクトール・E・フランクル(1905〜1997年)は、オーストリアのウィーンで活躍した精神科医・神経科医です。
強制収容所での体験
フランクルは、ユダヤ人であったため、第二次世界大戦中にナチスの強制収容所に送られ、家族の多くを失いました。解放後に出版された『夜と霧』[2]では、極限の状況の中でも、生きる意味を見失わなかった人が、心の支えを保ちやすかったことを描いています。
体験が裏づけた理論
ロゴセラピーの基本的な考え方は、収容所に送られる前から形づくられていました。フランクルにとって、収容所での体験は、人はどんな状況でも意味を見いだせるという考えを、身をもって確かめる機会になったといわれています。
③3つの基本的な考え
ロゴセラピーは、人間についての3つの基本的な考えを柱にしています。
3つの柱
意志の自由:人は、どんな条件のもとでも、それにどう向き合うかを選ぶ自由をもっている
意味への意志:人は、根本的に、生きる意味を求めている
人生の意味:人生には、どんな状況でも意味がある
意味を見いだす3つの道
フランクル[1]は、人が意味を見いだす道として、何かを生み出したり人の役に立ったりする「創造」、自然や芸術、人との愛に心を動かされる「体験」、変えられない苦しみにどんな態度で向き合うかを選ぶ「態度」の3つを挙げました。詳しくは、実存療法における人生の意味で解説しています。
④実存的空虚
フランクルは、現代人に広がる心の問題として、「実存的空虚」に注目しました。
「何のために」がわからない
実存的空虚とは、人生に意味や目的を感じられず、むなしさや退屈を感じる状態のことです。フランクルは、伝統や習慣が人の生き方を導かなくなった現代では、多くの人が「何のために生きるのか」がわからない空虚さを抱えていると考えました。
意味の欠如から生まれる苦しみ
フランクルは、こうした意味の欠如から生まれる心の苦しみを「精神因性神経症」と呼び、過去のトラウマや心の葛藤から生まれる苦しみと区別しました。このような苦しみには、意味に目を向けるロゴセラピーが特に役立つと考えたのです。
⑤主な技法
ロゴセラピーには、いくつかの特徴的な技法があります。
逆説志向
恐れていることを、あえて望んだり、大げさに想像したりする技法です。例えば、人前で汗をかくのが怖い人に、「よし、今日はたくさん汗をかいてみせよう」と、恐れを逆手にとるよう促します。不安を避けようとするほど不安が強まる悪循環を、ユーモアの力で断ち切ることを目指します。
反省除去
自分の状態を気にしすぎることで、かえって問題が悪化している場合に、注意を自分の外の、意味のあることへ向け直す技法です。例えば、「眠らなければ」と意識するほど眠れなくなる人には、眠ることから注意をそらし、好きな本や明日の楽しみに意識を向けるよう促します。
ソクラテス式対話
問いかけを通して、相談者が自分の人生の意味に、自分で気づけるよう導く対話です。セラピストが意味を与えるのではなく、相談者の中にある答えを引き出すことを大切にします。問いかけの技法については、ソクラテス式質問法とはで紹介しています。
⑥実存療法との関係
ロゴセラピーは、人間の自由や責任、人生の意味に目を向ける、実存療法の流れに位置づけられます。
実存療法の一つ
実存療法は、死、自由と責任、孤独、人生の意味といった、人間が誰でも向き合う問題を扱う心理療法の総称です。ロゴセラピーは、その中でも特に「人生の意味」に焦点を当て、具体的な技法を備えている点が特徴です。実存療法の全体像は、実存療法(実存人間主義)とはで解説しています。
意味中心の療法への発展
ロゴセラピーの考え方は、その後、がん患者の心のケアなどで行われる「意味中心の心理療法」にも受け継がれています。
⑦効果と研究
ロゴセラピーそのものを対象にした質の高い研究は、まだ多くありません。
意味中心の療法の研究
実存療法のランダム化比較試験をまとめたメタ分析[3]では、ロゴセラピーの流れをくむ「意味中心の療法」で、生きる意味の感覚に比較的大きな効果があり、精神的な症状にも中程度の効果が見られました。
研究の限界
ただし、同じメタ分析[3]では、研究の数が少なく、質も十分ではないことが指摘されています。ロゴセラピーの効果を確かめるには、さらに研究を積み重ねる必要があります。
⑧日常で試せる練習
ロゴセラピーの技法の考え方を、日常の軽い悩みに取り入れる練習を紹介します。
注意を外に向け直す
「うまく話せるだろうか」「失敗したらどうしよう」と、自分のことばかりが気になるときは、注意を「目の前の相手に何を伝えたいか」「この時間で何を大切にしたいか」に向け直してみましょう。反省除去の考え方を、日常に取り入れる練習です。
軽い緊張を逆手にとる
発表前の軽い緊張や、顔が赤くなることへの気がかりなど、日常の小さな不安に対して、「今日はどれくらい赤くなるか、試してみよう」と、あえて軽い気持ちで迎えてみます。不安と戦うのをやめ、少し距離をとる練習になります。
ただし、強い不安や、生活に支障が出るほどの症状がある場合は、自分で試すのではなく、専門家と一緒に取り組んでください。
「人生からの問い」を考える
「人生は今、私に何を問いかけているだろうか」と考え、今日できる小さな行動として書き出してみましょう。具体的なワークは、実存療法における人生の意味でも紹介しています。
⑨注意
ロゴセラピーについて、知っておきたい注意点をまとめます。
意味を押しつけない
人生の意味は、他人が与えたり、押しつけたりするものではありません。苦しんでいる人に「どんな苦しみにも意味がある」と言葉だけで伝えると、かえって傷つけてしまうこともあります。意味は、その人自身が見いだしていくものです。
無意味感が強いときは
「何をしても意味がない」という感覚が強く、気分の落ち込み、興味の喪失、不眠などが2週間以上続く場合は、うつ病などの心の不調が隠れていることがあります。医療機関に相談しましょう。
「死にたい」「消えてしまいたい」という気持ちが続くときは、一人で抱え込まず、医療機関や、電話・SNSの相談窓口(厚生労働省の「まもろうよ こころ」で探せます)、お住まいの地域の精神保健福祉センターに相談してください。命の危険が差し迫っているときは、救急(119番)に連絡してください。
⑩まとめ
ロゴセラピーは、フランクルが提唱した、生きる意味を中心にすえた心理療法です。人はどんな状況でも、自分の人生の意味を見いだすことができると考えます。
今回のポイント
意志の自由・意味への意志・人生の意味の3つが柱
意味は、創造・体験・態度の3つの道で見いだせる
逆説志向、反省除去、ソクラテス式対話などの技法がある
意味中心の療法に一定の効果が示されているが、研究はまだ少ない
あわせて読みたいコラム
ロゴセラピーとつながりの深い実存療法については、次のコラムで解説しています。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連


