みなさんこんにちは。公認心理師の川島達史と申します。私はこちらのコミュニケーション教室を開催しています。
このコラムは、行動療法シリーズの4本目です。今回は、「安全行動と回避行動」について詳しく解説します。
「不安を減らすために、やっていること」が、実は不安を長引かせている——そんなことがあります。それが、安全行動や回避行動です。目次は以下の通りです。
目次
①安全行動・回避行動とは何か
回避行動
回避行動は、不安や恐怖を感じる場面に、近づかない、または逃げる行動です。たとえば、電車が怖くて乗らない、人前で話す機会を断る、といったものです。
安全行動
安全行動は、不安な場面にはいながらも、恐れている結果や、それに伴う苦痛を防ぐ、または和らげるために行う行動です(Blakeyら16)[1]。たとえば、パニックにならないよう、いつも出口の近くに座る、といったものです。Salkovskis[2]は、こうした行動は、深刻な脅威を感じることから生まれ、それと論理的に結びついていると説明しました。回避行動も、その一種として整理されます。
日本語では、「安全確保行動」と呼ばれることもあります。
次のようなことに心当たりがある方と、特に相性が良い内容です。
不安を減らすために、いつも同じ行動をしている
なかなか、不安が小さくならない
確認や、安心を求める行動が、増えている
エクスポージャーに取り組んでも、効果を感じにくい
もう少し詳しい背景を知りたい方は、以下を開いてみてください。読み飛ばしても、この先の内容は問題なく読み進められます。
②なぜ不安が続くのか
安全行動や回避行動をとると、その場では不安が下がり、ほっとします。すると、その行動は、次も繰り返されやすくなります。ここに、2つの落とし穴があります。
①「危険ではなかった」と学べない
「何も起きなかったのは、この行動のおかげだ」と考えるため、「そもそも危険ではなかった」と気づく機会が失われます。恐れている結果が起きないことを確かめる機会(反証)が、安全行動によって妨げられるのです。
②予期不安が続く
たとえば、電車から降りることで、急激に安心はできますが、「また起きるのではないか」という心配(予期不安)は続きます。苦しい場面から逃げる行動が、実は、自然に治まるはずの不安を持続させています。
つまり、次のような循環が生まれます。
不安を感じる
↓
安全行動・回避行動をとる
↓
一時的に安心する
↓
「この行動のおかげ」と考え、危険ではないことを学べない
↓
次も不安を感じる(最初に戻る)
この循環を断ち切る方法の1つが、エクスポージャー法です。
③よくある例
不安の種類ごとに、代表的な安全行動を紹介します。
社交不安
声の震えや、顔が赤いのを隠す/目を合わせない/原稿を暗記して読む/スマホを見て、話しかけられないようにする
パニック
出口の近くに座る/飲み物を常に持ち歩く/ひとりで外出しない
強迫
何度も確認する/何度も手を洗う
健康不安
病気について何度も調べる/検査を繰り返す/周りに安心させてもらう
社交不安症では、こうした「場面の中での安全行動」が、不安や否定的な考えを維持させる役割を持つことが、実験で検討されています(Wellsら95)[3]。
④役立つ行動との見分け方
見分け方の基準
すべての安全のための行動が、悪いわけではありません。たとえば、お風呂の温度を確かめる、道路を渡る前に左右を見る、といった行動は、実際の危険に備える、役立つ行動です。分かれ目は、「何のためにやっているか」です。
*実際の危険に備えるため:役立つ行動(続けて大丈夫)
*不安をすぐに打ち消すため:安全行動(見直しの候補)
適切な行動への置き換え
坂野[4]は、生活に支障を来す不適切な安全確保行動を、生活を妨げない適切なものに置き換えることを提案しています。たとえば、電車から降りずに乗り続ける、手洗いを止める、といった形です。また、不安を感じても、その場にとどまって、自然に不安が消えるのをやり過ごすことも、適切な行動の1つとされています。
⑤自分の安全行動を見つける
書き出す5つの項目
自分では、当たり前になっていて、気づきにくいことがあります。次の項目で、書き出してみましょう。
1.場面:不安になる場面
2.予想:どんなことが起きると思っているか
3.行動:実際に、何をしているか
4.考え:それをやめたら、どうなると思うか
5.結果:実際にやめてみたら、どうだったか
記入例
場面:会議で発言する
予想:声が震えて、変に思われる
行動:原稿を全部暗記して、下を向いて読む
考え:暗記しないと、頭が真っ白になる
結果:見出しだけにして話したところ、多少つまっても、伝わった
5番の結果は、実際にやってみたあとに書き加えます。この「予想と結果のズレ」を確かめる体験が、大切です(行動実験にも通じます)。
⑥減らし方のコツ
小さなものから、1つずつ
いきなり全部やめようとせず、負担の小さい安全行動から、1つずつ減らします。研究でも、患者さんが取り組めるようになったら、できるだけ早い段階で、安全行動を減らしていくことが勧められています。
「やめたらどうなるか」を実験と考える
「やめる」ことを、我慢ではなく、予想が当たるかどうかを確かめる実験と捉えます。原稿を見出しだけにしたら、実際にどうなったのかを記録してみましょう。
エクスポージャーと組み合わせる
エクスポージャーの効果を高める方法の1つに、安全のための合図(安全行動を含む)を取り除くことがあります(Craskeら)[5]。不安階層表の課題に取り組むときに、安全行動を1つ減らして行うと、より効果的です。
必ずしも、全部を禁止するわけではない
安全行動が、エクスポージャーの効果を妨げるかどうかについては、研究結果が一致していません。安全行動を、必要な範囲で使いながら進める方法を比べた試験では、治療結果に有意な差がなかったという報告もあります(Blakeyら19)[6]。「絶対に禁止」と考えすぎず、専門家と相談しながら、無理のないペースで減らしていくのが現実的です。回避をやめるといっても、無理に怖い場面へ飛び込む必要はありません。不安階層表を使い、小さな一歩から、段階的に進めていけば大丈夫です。
講師の視点
安全行動を見直すときに気をつけたいのは、「その行動を、責めない」ことです。安全行動は、不安から自分を守ろうとする、がんばりの表れです。これまでの自分を否定せず、「今はもう、その行動を少し手放してもいいかもしれない」と、優しく問い直す姿勢が大切だと思います。
私自身、人前で話すときに、メモを細かく書き込まないと不安だった時期があります。あるとき、メモを半分の量にして話してみたところ、思ったよりも普通に話せました。「なくても大丈夫だった」という体験が、自信につながりました。
⑦理解度を確認する練習問題
ここまでの内容を踏まえて、2つの事例で練習してみましょう。
スマホを手放せない花子さん
<事例>
初対面の人が多い集まりで、花子さんは、ずっとスマホを見ています。「話しかけられて、うまく答えられなかったらどうしよう」と不安で、話しかけられないようにしているのです。
次の3つを考えてみてください。
①安全行動は何か
②花子さんが恐れている予想は何か
③最初の小さな一歩を、1つ考える
出口の近くに座る太郎さん
<事例>
パニック発作が怖くて、電車でもお店でも、いつも出口の近くに座る太郎さん。席が取れないと、その場を離れたくなります。
太郎さんについて、次の2つを考えてみてください。
①この行動が、不安を保つ理由
②減らす際の、1つ目のステップ
⑧自分で試すときの目安
自分で試せる範囲
安全行動の見直しは、軽い不安であれば、自分でも取り組めます。まずは、書き出しから始めて、1つずつ試してみてください。
専門家に相談すべき場合
安全行動の中には、持病、服薬、実際の危険に関わるものがあります。医師から指示されている薬や、支援のための行動を、自己判断でやめないでください。パニック発作や強迫症状、トラウマ体験に関わる不安が強い場合は、専門家に相談しながら進めましょう。気分が悪くなる、不安がかえって強まる場合は、いったん中止してください。「消えてしまいたい」という気持ちがあるときは、ワークで何とかしようとせず、医療機関や公的な相談窓口に相談してください。
よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。
・認知療法の基礎
・思考の歪みの改善
・行動療法の学習
・マインドフルネスワーク
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)
個別レッスン
個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースで行動療法を深めたい方は、下記をご参照ください。
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行動療法の全体像や、ほかの技法を整理したい方はこちら。
不安な場面に段階的に向き合う、具体的な進め方を知りたい方はこちら。
気分の落ち込みで動けないときの、活動の増やし方を知りたい方はこちら。
行動が続く理由を、前後の状況から整理する方法を知りたい方はこちら。
認知行動療法シリーズ全体に戻りたい方は、こちらの全体像コラムからどうぞ。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典
[1] Blakey, S. M., & Abramowitz, J. S. (2016). The effects of safety behaviors during exposure therapy for anxiety: Critical analysis from an inhibitory learning perspective. Clinical Psychology Review, 49, 1-15.
[2] Salkovskis, P. M. (1991). The importance of behaviour in the maintenance of anxiety and panic: A cognitive account. Behavioural Psychotherapy, 19(1), 6-19.
[3] Wells, A., Clark, D. M., Salkovskis, P., Ludgate, J., Hackmann, A., & Gelder, M. (1995). Social phobia: The role of in-situation safety behaviors in maintaining anxiety and negative beliefs. Behavior Therapy, 26, 153-161.
[4] 坂野雄二 (2013). 不安障害に対する認知行動療法―エクスポージャー法をどのように導入するか,そのコツを探る―. 精神神経学雑誌, 115(4), 421-428.
[5] Craske, M. G., Treanor, M., Conway, C. C., Zbozinek, T., & Vervliet, B. (2014). Maximizing exposure therapy: An inhibitory learning approach. Behaviour Research and Therapy, 58, 10-23.
[6] Blakey, S. M., Abramowitz, J. S., Buchholz, J. L., et al. (2019). A randomized controlled trial of the judicious use of safety behaviors during exposure therapy. Behaviour Research and Therapy, 112, 28-35.




