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行動活性化とは

行動活性化とは,うつ病治療への応用

みなさんこんにちは。公認心理師の川島達史と申します。私はこちらのコミュニケーション教室を開催しています。

このコラムは、行動療法シリーズの3本目です。今回は、うつ病の治療で注目されている「行動活性化」を詳しく解説します。

「やる気が出たら動こう」と待っているうちに、ますます動けなくなる——落ち込んでいるときは、そんな悪循環に陥りがちです。その逆の発想で、活動を先に増やしていくのが、行動活性化です。目次は以下の通りです。

目次

①行動活性化とは何か

意味

行動活性化(Behavioral Activation:BA)は、気分が上向くのを待たずに、自分が大切にしたいことに沿った活動を先に増やし、その結果として気分の改善を目指す行動療法です。うつ病を中心に用いられています。

気分にまかせて動くのではなく、活動を先に決めて行うことで、あとから気分がついてくる、という順序が特徴です(「外から内へ」という意味で、outside-inと呼ばれます)。回避が起きる状況や、行動のはたらきに注目し、価値に沿った行動を選び取っていくことを大切にします。

対象となる悩み

うつ病や、気分の落ち込みで意欲や活動が減っている状態が、主な対象です。

気分が落ち込み、何もする気が起きない
休日は、寝て過ごすことが増えた
以前は楽しめたことに、興味が持てない
やる気が出るのを待っていて、動けない

あてはまると感じた方は、まず、1日の活動を記録するところから始めてみてください。

もう少し詳しい背景を知りたい方は、以下を開いてみてください。読み飛ばしても、この先の内容は問題なく読み進められます。

行動活性化の歴史

行動活性化の起源は、1960年代後半から1970年代にさかのぼります。うつは、「楽しいことや達成感が得られる体験(報酬)が少なくなること」で起こりやすくなる、という行動理論にもとづいて、活動を増やす介入が行われたのが始まりです(Dimidjianら)[1]。当初は、認知療法のプログラムの一部(活動記録や行動実験など)として組み込まれる形で使われていました。1970年代の研究では、うつ病の治療において、活動記録と快適な活動の計画だけでも、症状の改善につながることが示されていました。

2000年代に入り、Dimidjianらの研究グループが、行動活性化だけを取り出しても、認知療法と同等以上の効果があることを示したことから、独立した治療法として再評価されるようになりました。日本語で体系的に学べる専門書としては、『うつ病の行動活性化療法―新世代の認知行動療法によるブレイクスルー』(マーテルほか)[2](日本評論社,2011)があります。近年は、うつ病だけでなく、不安症や、身体疾患にともなう気分の落ち込みなど、応用範囲が広がっています。

効果の研究

Dimidjianら[3]は、大うつ病の成人241人を対象に、行動活性化、認知療法、抗うつ薬を比べました。重いうつ病の人では、行動活性化は抗うつ薬と同程度の効果で、どちらも認知療法を上回りました。ただし、この結果がほかの研究でも同じとは限らず、この論文の著者らも、認知療法の効果は研究によって一貫していないと指摘しています。

Richardsら[4]のCOBRA試験は、英国で、大うつ病の成人440人を対象に、行動活性化と認知行動療法を比べました。行動活性化は、基礎的な訓練を受けた経験の浅い専門職が行いましたが、12か月後の結果は認知行動療法に劣らず、費用は約2割低いと報告されています。専門家でなくても、正しい手順で行えば効果が期待できる、という点は、行動活性化の実用面での強みとされています。この結果は、医療資源が限られる地域や、支援者の人数が不足している状況でも、この方法を広めやすいことを示唆しています。

認知療法との違い

認知療法(コラム法など)は、考え方を見直して、気分の改善を目指します。一方、行動活性化は、考え方を直接扱わず、行動を先に変えることで、結果的に考え方や気分も変わっていくと考えます。両者は対立するものではなく、状況に応じて組み合わせて使えます。実際の面接でも、活動を増やしながら、途中で浮かんだ考えを一緒に振り返る、という進め方がとられることがあります。

考え方を扱わない分、行動活性化は手順がシンプルで、専門的な訓練を受けていない支援者でも実施しやすいという特徴があり、地域の相談機関などでも導入しやすいとされています。一方で、強い自己批判や、根深い思い込みが問題の中心にある場合は、認知療法など、考え方に働きかける方法を組み合わせたほうが、効果的なことがあります。動けない背景に、不安や恐怖からの回避がある場合は、エクスポージャー法や、安全行動・回避行動の見直しを組み合わせると、進めやすくなることもあります。

②動けなくなる悪循環

悪循環の流れ

落ち込んでいると、次のような悪循環が起こりやすくなります。

①気分が落ち込む

②活動が減る(休む、引きこもる、避ける)

③楽しい体験や、達成感を得る機会が減る

④さらに気分が落ち込む(①に戻る)

循環に働きかける

「休むこと」「避けること」は、一時的にはつらさを和らげます。しかし長い目で見ると、気分を良くする体験が減り、悪循環を強めてしまいます。行動活性化は、この循環の②の部分に、小さく働きかける方法です。

③進め方の5ステップ

行動活性化には、活動を記録する、行動と気分の関係を見つける、代わりの行動を決める、予定に入れる、といった要素が含まれます。ここでは、5つのステップにまとめて紹介します。

ステップ1 活動を記録する

まず、1日の活動をざっくり記録します。「何をしたか」に加えて、そのときの気分(0〜10点)、達成感、楽しさを書いておくと、あとで振り返りやすくなります。

ステップ2 行動と気分の関係を見つける

記録を見て、「どんな活動のあとに、気分が少し上がったか」「どんな行動で、気分が下がったか」を探します。行動の前後を整理する方法は、機能分析(ABC分析)が参考になります。

ステップ3 小さな活動を選ぶ

「何が大切か」「本当はどうありたいか」から、活動を選びます。そのとき、活動はできるだけ小さくします。「毎日1時間ウォーキング」ではなく、「玄関の外に出て、5分立つ」くらいで構いません。

ステップ4 予定に入れる

選んだ活動を、いつ、どこで、何分行うか、具体的に予定に入れます。気分のよい日にやる、ではなく、日時を決めておくのがコツです。

ステップ5 やってみて、振り返る

気分に頼らず、まず行動します。終わったら、気分や達成感を記録し、次に活かします。合わなかった活動は、無理に続けず、別の活動に調整して構いません。

④事例で進めてみよう

例として、気分の落ち込みで、休日を寝て過ごしていた花子さんの場合を見てみましょう。

ステップ1・2 記録と関係の発見

・休日は、ほとんどベッドの上で過ごしていた(気分:3点)
・友人からのメッセージに、返信できていない
・平日の帰り道に、好きなカフェに寄った日は、気分が5点まで上がっていた

記録から、「何もしないでいると気分が下がり、小さな外出をすると、少し上がる」ことが見えてきました。

ステップ3・4 予定に入れる

・朝、カーテンを開けて、ベランダに5分出る(毎朝、起きたらすぐ)
・夕方、近所を10分散歩する(土日の16時)
・友人に、スタンプだけ返信する(今週中に1回)

ステップ5 振り返る

1週間後、散歩のあとは、気分が3点から4点に上がることが多いと分かりました。返信は、スタンプだけならできたので、来週は一言添えてみることにしました。できなかった日があっても、責めずに、翌日また試します。

⑤つまずきやすいポイント

「やる気が出ない」

気分が先ではなく、行動が先です。やる気は、動き始めてから出てくることが多いため、「やる気が出たら」ではなく、「決めた時間になったら、まず5分」と考えてみましょう。

「やっても楽しくない」

落ち込んでいるときは、楽しさを感じにくくなっています。最初は、楽しさより、「やった」という事実を記録することを大切にしましょう。

「疲れて動けない」

活動をさらに小さくします。1分だけ、立ち上がるだけでも構いません。また、休息も、予定に入れて構いません。「休むこと」と「動かないこと」は、別のものです。

「できなかった」

できなかった日は、失敗ではなく、活動が大きすぎたという情報です。責めずに、活動をもう少し小さくして、調整しましょう。

講師の視点

行動活性化で大切にしたいのは、「頑張って動く」のではなく、「無理のない小さな一歩を、予定に入れる」ことです。落ち込んでいるときに必要なのは、自分を追い込む言葉ではなく、実行できるほど小さな約束だと感じています。

私自身、気分が重くて何もできない時期に、「机の上を、ペン1本だけ片づける」と決めたことがあります。ペン1本でも、終わると「やれた」という感覚が残り、翌日は書類を1枚片づけられました。小さな達成感が、次の一歩を支えてくれました。

⑥理解度を確認する練習問題

ここまでの内容を踏まえて、2つの事例で練習してみましょう。

休日を寝て過ごす次郎さん

<事例>
仕事から帰ると何もできず、休日は一日中ベッドで過ごす次郎さん。「やる気が出たら、片づけよう」と思いながら、部屋は散らかったままです。

次の2つを考えてみてください。

①活動の記録で、どこに注目するか
②最初に取り組む、小さな活動を3つ考える

回答例

記録で注目する点:
どんな活動のあとに気分が少しでも上がったか、逆に何もしない時間に気分がどう変わったかに注目します。

小さな活動の例:
「起きたら、カーテンを開ける」「ゴミを1袋だけまとめる」「夕方に、玄関の外で1分深呼吸する」などが考えられます。「やる気が出たら」ではなく、日時を決めて、まず行動することがポイントです。

動くと疲れてしんどい花子さん

<事例>
少し動くと疲れてしまい、「動くと余計にしんどくなる」と感じて、動くのを避けるようになった花子さん。

花子さんについて、活動を小さくするコツを考えてみてください。

回答例

活動を、疲れない大きさまで小さくします。たとえば、「座ったまま、窓の外を1分眺める」でも構いません。休息も予定に入れて、「動く」と「休む」を、意識的に組み合わせます。疲れが強く、日常生活に大きな支障がある場合は、身体の病気の可能性も含めて、医療機関に相談してください。

⑦自分で試すときの目安

自分で試せる範囲

軽い落ち込みや、意欲の低下であれば、活動の記録と、小さな活動から試すことができます。ただし、行動活性化は、頑張って自分を追い込む方法ではありません。無理のない範囲で進めましょう。

医療機関に相談すべき場合

次のような場合は、自己流で進めず、医療機関に相談してください。

・落ち込みや意欲の低下が、2週間以上ほぼ毎日続く

・眠れない、食欲がない、体が動かせないほど疲れている

・「消えてしまいたい」という気持ちがある

うつ病の急性期など、休養が必要な時期もあります。その場合は、治療者と相談しながら、休養と活動のバランスを決めてください。「消えてしまいたい」という気持ちがあるときは、ワークで何とかしようとせず、医療機関や公的な相談窓口に相談してください。

よくある質問Q&A

私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。

Q. うつ病でもできますか?

動けないほど苦しいときは、まず休むことが大切で、無理に活動を増やす必要はありません。回復に向かって少しエネルギーが戻ってきたら、ごく小さな活動から始めてみてください。治療を受けている方は、主治医や治療者と相談しながら進めるのが安心です。焦らなくて大丈夫ですよ。

Q. 楽しく感じられません

落ち込んでいると、楽しさを感じにくくなるのは自然なことです。最初は、楽しさを目標にせず、「やった」ことそのものを記録してみてください。続けるうちに、少しずつ、感じ方が戻ってくる方もいます。教室でも、「はじめは何も感じなかったけれど、続けたら少し楽になった」という声はよく聞きますよ。

Q. 認知療法とどちらが先?

決まりはありません。考え方の偏りが目立つ方は認知療法、動けない状態が中心の方は行動活性化から始めることが多いです。行動を少し変えると、考え方も変わりやすくなるので、両方を取り入れても構いません。迷うときは、より取り組みやすそうなほうから、試してみてください。

Q. どのくらいで効果が出ますか?

効果の出方には、個人差があります。すぐに気分が変わる方もいれば、数週間かけて、少しずつ変わる方もいます。大切なのは、結果を急がず、記録を続けて、小さな変化に気づくことです。ご自身のペースで、気長に取り組んでくださいね。長引く場合は、専門家に相談してみましょう。

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。

・認知療法の基礎
・思考の歪みの改善
・行動療法の学習
・マインドフルネスワーク

講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)

コミュニケーション教室,講座,ダイコミュ

個別レッスン

個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースで行動療法を深めたい方は、下記をご参照ください。

個別レッスンの詳細はこちら。

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行動療法の全体像や、ほかの技法を整理したい方はこちら。

行動療法とは何か

不安な場面に段階的に向き合う、代表的な技法を知りたい方はこちら。

エクスポージャー法とは

動けなくなる背景にある、回避の働きを詳しく知りたい方はこちら。

安全行動・回避行動とは

行動と気分の関係を、前後の状況から整理する方法を知りたい方はこちら。

機能分析(ABC分析)とは

認知行動療法シリーズ全体に戻りたい方は、こちらの全体像コラムからどうぞ。

認知行動療法の全体像

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] Dimidjian, S., Barrera, M., Martell, C., Muñoz, R. F., & Lewinsohn, P. M. (2011). The origins and current status of behavioral activation treatments for depression. Annual Review of Clinical Psychology, 7, 1-38.

[2] マーテル, C. R.・アディス, M. E.・ジェイコブソン, N. S.(著)熊野宏昭・鈴木伸一(監訳)(2011). うつ病の行動活性化療法―新世代の認知行動療法によるブレイクスルー. 日本評論社.

[3] Dimidjian, S., Hollon, S. D., Dobson, K. S., et al. (2006). Randomized trial of behavioral activation, cognitive therapy, and antidepressant medication in the acute treatment of adults with major depression. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 74(4), 658-670.

[4] Richards, D. A., Ekers, D., McMillan, D., et al. (2016). Cost and outcome of behavioural activation versus cognitive behavioural therapy for depression (COBRA): A randomised, controlled, non-inferiority trial. Lancet, 388(10047), 871-880.

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