みなさんこんにちは。公認心理師の川島達史と申します。私はこちらのコミュニケーション教室を開催しています。
このコラムは、行動療法シリーズの5本目です。今回は、「機能分析(ABC分析)」について詳しく解説します。
「どうして、あの子はいつもこうなのだろう」「どうして、自分は先延ばしをしてしまうのだろう」——そんなときに役立つのがABC分析です。目次は以下の通りです。
目次
①機能分析とは何か
行動を「性格」ではなく「機能」で見る
機能分析は、行動を「性格」や「やる気」の問題にせず、その行動が、環境の中でどんな「はたらき(機能)」を果たしているかを調べる方法です。行動は、その後に「得なこと」が起こる、または「嫌なこと」が避けられると、繰り返されやすくなります。これが、オペラント条件づけの考え方です(用語集のオペラント条件づけ)。
行動療法では、行動をこのように、生物学的な要因と環境要因の両面から観察して理解する作業を、行動アセスメント(機能アセスメント)と呼んでいます(SAGE事典)[1]。ABC分析は、その代表的な方法です。
なぜ役立つのか
原因を「本人の性格」に置くと、「もっと頑張れ」と言うしかなくなります。原因を「行動と環境の関係」に置くと、環境や関わり方の側から、変えられるところが見つかります。行動を、目に見えない「こころ」ではなく、観察できる行動に着目して、整理できるところが、この方法の強みです。
次のようなことに心当たりがある方と、特に相性が良い方法です。
自分の行動のクセを、客観的に理解したい
子どもや部下の行動に、どう対応すればいいか悩んでいる
何度言っても、同じ行動が繰り返される
原因が分からず、対応に困っている
あてはまると感じた方は、まず、気になる行動を1つ選んで、A・B・Cを書き出してみてください。
もう少し詳しい背景を知りたい方は、以下を開いてみてください。読み飛ばしても、この先の内容は問題なく読み進められます。
②ABCの3つの要素
ABCは、行動の流れを表す3つの要素の頭文字です。
A(Antecedent)先行事象
行動の直前の状況(きっかけ)です。時間、場所、人、出来事などを含みます。
B(Behavior)行動
実際に行った行動です。
C(Consequence)結果
行動の直後に、起きたことです。得られたもの、避けられたことを含みます。
Bは、具体的に書く
B(行動)は、誰が見ても同じように分かる形で書きます。「怠けている」「やる気がない」ではなく、「起きてから30分、スマホを見ている」のように、観察できる形にします。
Cは、「本人にとって」の結果
C(結果)は、周りから見てどうかではなく、本人にとって、どんな結果になっているかを考えます。叱られる結果でも、本人にとっては「注目してもらえた」という得になっている場合があります。
③ABC分析の進め方
ステップ1 行動を1つ選び、記録する
「先延ばしをする」ではなく、「メールの返信を、夕方まで開かない」のように、1つの行動を具体的に決めます。
ステップ2 直前の状況(A)を記録する
その行動が起きたときの、直前の状況(時間、場所、誰といたか、何があったか)を、書き留めます。数回分、記録すると、共通点が見えてきます。
ステップ3 直後の結果(C)を記録する
行動の直後に、何が起きたか(何が得られ、何が避けられたか)を書きます。
ステップ4 パターンを読む
どんなAのときに行動が起きやすいか、どんなCが、その行動を続けさせているかを探します。
ステップ5 変えるところを決めて、試す
A(きっかけ)、B(行動)、C(結果)のうち、どこを変えるかを決めて、試します。試したあとも、記録を続けて、変化を確認します。
④行動の4つの機能
4つの機能
行動分析では、行動が続く理由(機能)は、大きく次の4つに整理されます。この整理は、Iwataらの研究(1982年発表・1994年に再掲)から発展しました。
①注目・関心を得る:叱られても話しかけてもらえる
②嫌なことから逃れる:課題や場面から離れられる
③欲しいものを得る:物ややりたいことが手に入る
④それ自体が心地よい:やること自体が気持ちよい
同じ行動でも機能は違う
同じ行動でも、人や場面によって、機能は違います。たとえば「席を立つ」は、課題から逃れるためのこともあれば、注目を得るためのこともあります。
⑤事例で進めてみよう
事例1 夜お菓子を食べてしまう花子さん
A(先行事象):仕事で疲れて帰宅する/家にお菓子が置いてある
B(行動):夕食後に、お菓子を食べる
C(結果):ほっとして、疲れが少し楽になる
花子さんにとって、お菓子は、仕事の疲れから一時的に離れる(気分を切り替える)はたらきをしていると考えられます。対策は、次のように、A・B・Cの各所で考えられます。
・Aを変える:お菓子を買い置きしない
・Bを置き換える:温かいお茶を飲む、入浴する
・Cを変える:お菓子を食べなかった日を記録して、別のご褒美を用意する
事例2 授業中に立ち歩く子ども
A(先行事象):難しい課題が出される
B(行動):席を立って歩き回る
C(結果):課題をしなくて済む/先生が注意してくれる
この場合、機能は「課題からの逃避」や「注目を得ること」と考えられます。対策としては、課題を小さく分けて取り組みやすくする(A)、座って取り組めたときに、すぐに注目して褒める(C)などが考えられます。
⑥エリスのABC理論との違い
名前は同じ、中身は違う
「ABC」という名前は、論理療法のエリスが提唱したABCモデルにも使われています。名前は同じですが、中身は違います。
*行動分析のABC:
A=先行事象、B=行動、C=結果
*エリスのABC:
A=出来事、B=信念、C=結果(感情や行動)
行動分析のBは「行動」、エリスのBは「信念」です。エリスのABCについては、論理療法のコラムや認知療法のコラムで解説しています。
応用行動分析(ABA)
ABC分析や機能分析は、行動療法だけでなく、応用行動分析(ABA)として、学校や福祉の現場でも広く使われています。
講師の視点
ABC分析の魅力は、人を責めずに、状況を冷静に見られるところです。「あの人は、こういう人だ」と決めつける代わりに、「どんなときに、何が起きているのか」を見ることで、対応の糸口が見つかります。自分自身にも、使える見方だと思います。
私自身、締め切り前に、つい部屋の片づけを始めてしまうことがありました。ABCで整理すると、「仕事に取りかかるのが不安」というAがあり、片づけをすると不安が一時的に和らぐ、というCがあると気づきました。原因が分かると、自分を責める気持ちが減りました。
⑦理解度を確認する練習問題
ここまでの内容を踏まえて、2つの事例で練習してみましょう。
会議で発言しない次郎さん
<事例>
会議で意見があっても、なかなか発言しない次郎さん。会議のあとになって、「やっぱり言えばよかった」と後悔します。
次の3つを考えてみてください。
①A(先行事象)に入りそうなことを、2つ
②B(行動)を、具体的に書き直す
③C(結果)として、行動が続く理由になりそうなことを、1つ
資料の提出が遅れる部下
<事例>
何度言っても、資料の提出が遅れる部下。上司が催促すると、その場では「すみません」と謝るのに、次回も遅れます。
この事例について、環境の側から見直せるところを考えてみてください。
⑧自分で使うときの目安
自分で使えるコツ
ABC分析は、日常の悩みであれば、自分でも使えます。記録は、感想や推測ではなく、事実だけを書くのがコツです。
注意点
他の人の行動を分析するとき、「人を責める道具」にしないことが大切です。また、自傷や暴力など、深刻な行動が関わっている場合は、自己流で対応せず、専門家に相談してください。
ワークで気分が悪くなる、悩みがかえって強まる場合は、いったん中止してください。「消えてしまいたい」という気持ちがあるときは、ワークで何とかしようとせず、医療機関や公的な相談窓口に相談してください。
よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。
・認知療法の基礎
・思考の歪みの改善
・行動療法の学習
・マインドフルネスワーク
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)
個別レッスン
個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースで行動療法を深めたい方は、下記をご参照ください。
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行動療法の全体像や、ほかの技法を整理したい方はこちら。
不安な場面に段階的に向き合う、具体的な進め方を知りたい方はこちら。
気分の落ち込みで動けないときの、活動の増やし方を知りたい方はこちら。
不安を和らげる行動が、かえって不安を保つ理由を知りたい方はこちら。
認知行動療法シリーズ全体に戻りたい方は、こちらの全体像コラムからどうぞ。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典
[1] SAGE Encyclopedia of Theory in Psychology. Behavior Therapies.
[2] Iwata, B. A., Dorsey, M. F., Slifer, K. J., Bauman, K. E., & Richman, G. S. (1994). Toward a functional analysis of self-injury. Journal of Applied Behavior Analysis, 27(2), 197-209.(初出:Analysis and Intervention in Developmental Disabilities, 2, 3-20, 1982)
[3] 杉山尚子 (2005). 行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由. 集英社新書.



