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心理療法の重要用語

エビデンスに基づく心理療法とは

エビデンスに基づく心理療法とは、研究で確かめられた最良の根拠(エビデンス)を、専門家の臨床的な技能と経験、そして相談する人の特徴や価値観、希望と組み合わせて、一人ひとりに合った心理療法を選び、行っていこうとする考え方です。

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「エビデンスに基づく心理療法」です。

「この方法は効果がある」という情報があふれる中で、何を信じればよいのか迷うことはないでしょうか。当コラムでは、エビデンスに基づく心理療法の考え方と、研究の読み方、情報を見分けるためのポイントを紹介します。目次は以下の通りです。

目次

①エビデンスに基づく心理療法とは

エビデンスに基づく心理療法は、「研究の結果だけで治療を決める」という意味ではありません。

3つの要素を組み合わせる

アメリカ心理学会の特別委員会[1]は、心理学におけるエビデンスに基づく実践を、次の3つを統合することだと定義しています。

研究による最良のエビデンス

専門家の臨床的な技能と経験

相談する人の特徴、文化、価値観、希望

研究と人をつなぐ

研究で効果が確かめられた方法でも、すべての人に同じように合うとは限りません。研究の結果を参考にしながら、目の前の人の状況や希望に合わせて方法を選ぶことが、エビデンスに基づく心理療法の本来の姿です。

②医療から心理療法へ

エビデンスに基づく心理療法の考え方は、医療の分野から広がりました。

エビデンスに基づく医療

1990年代、医療の分野で「エビデンスに基づく医療(EBM)」という考え方が広まりました。その中心人物の一人であるサケットら[2]は、EBMを、個々の患者のケアについて判断するときに、現時点で最良のエビデンスを、良心的に、明確に、思慮深く用いることだと説明しています。また、EBMは研究の結果を機械的に当てはめる「料理本」のような医療ではないことも強調しました。

心理療法への広がり

この考え方は、その後、心理療法の分野にも取り入れられました。アメリカ心理学会は2006年、研究のエビデンスに加えて、専門家の技能と相談する人の特徴や希望を重視する立場を示しました[1]。

③研究の読み方

心理療法の効果についての情報を読むときに、知っておきたい基本を紹介します。

研究の種類と信頼性

メタ分析・系統的レビュー:同じテーマの多くの研究を集めて、まとめて分析したもの

ランダム化比較試験:参加者をランダムに2つ以上のグループに分け、効果を比べたもの

比較のない研究:1つのグループで、前と後の変化を調べたもの

事例研究・体験談:個人の経過を記述したもの

一般に、上にあるものほど、偶然や思い込みの影響を受けにくく、信頼性が高いとされています。ただし、どの研究も質がまちまちなので、種類だけで判断せず、中身も確かめることが大切です。

「何と比べたか」を確かめる

「効果があった」と言うときに、何と比べたのかは重要です。何もしないグループや、順番を待つグループと比べた効果と、すでに効果が確かめられている別の治療と比べた効果とでは、意味が大きく違います。

効果の大きさを見る

研究では、「効果があったかどうか」だけでなく、「どのくらいの効果があったか」を表す効果量という数値もよく使われます。統計的に意味のある差でも、効果量が小さければ、実際の生活での変化は小さいこともあります。

④よくある誤解

エビデンスについては、いくつかの誤解がよく見られます。

「エビデンスがない=効果がない」ではない

研究がまだ十分に行われていない方法は、「効果がない」と証明されたわけではなく、「効果があるかどうか、まだわからない」状態です。一方で、研究を重ねても効果が確かめられない方法は、効果が乏しい可能性が高いといえます。この2つは区別して考える必要があります。

研究の結果は「平均」の話

研究の結果は、多くの人の平均的な傾向を示すものです。平均的に効果が高い方法でも、合わない人はいますし、その逆もあります。だからこそ、研究の結果に加えて、専門家の判断と、相談する人の希望を組み合わせることが大切なのです。

研究が多い=優れている、ではない

研究の数が多い方法は、それだけ検証が進んでいるということですが、研究しやすい方法ほど研究が多くなる、という面もあります。研究の数だけで、方法の優劣を決めることはできません。

⑤情報を見分けるチェック

心理療法や心の健康についての情報に接したときに、確かめたいポイントを紹介します。

5つのチェックポイント

根拠が、体験談や個人の感想だけになっていないか

効果を、何と比べて確かめたのかが示されているか

研究の出典(誰が、いつ、どこで発表したか)が明らかか

「必ず」「誰でも」「すぐに」など、断定的な言葉が多くないか

方法を勧める人と、研究をした人に利害関係はないか

具体例で考える

例えば、NLP(神経言語プログラミング)は、自己啓発の分野で広く知られていますが、研究による検証では、その中心的な理論や効果は支持されていません。広く知られていることと、効果が確かめられていることは、別のことなのです。

⑥相談するときに活かす

エビデンスに基づく心理療法の考え方は、カウンセリングを受ける人にとっても役立ちます。

カウンセラーへの質問例

「私の悩みには、どのような方法が使われることが多いのですか」

「その方法は、研究で効果が確かめられていますか」

「ほかに、どのような選択肢がありますか」

自分の希望も大切な要素

エビデンスに基づく心理療法では、相談する人の価値観や希望も、研究と同じくらい大切な要素です。「話をじっくり聴いてほしい」「具体的な方法を知りたい」といった希望は、遠慮せずに伝えましょう。どの方法でも効果を支える信頼関係については、治療同盟とラポールとはと傾聴と共感とはで解説しています。

⑦注意

エビデンスについて考えるときに、気をつけたい点をまとめます。

情報だけで判断しない

インターネットや本の情報だけで、自分に合う治療法を決めるのは難しいものです。心身の不調が続いている場合は、医療機関や、公認心理師、臨床心理士などの専門家に相談し、一緒に考えましょう。

見立てとあわせて考える

同じ診断名でも、悩みの背景や続いている理由は人によって違います。研究の結果をどう活かすかは、一人ひとりの悩みを整理するケースフォーミュレーションとあわせて考えることが大切です。

⑧まとめ

エビデンスに基づく心理療法は、研究による最良のエビデンス、専門家の技能と経験、相談する人の特徴や希望の3つを組み合わせて、その人に合った心理療法を選んでいく考え方です。

今回のポイント

研究の結果だけでなく、専門家の判断と相談する人の希望を組み合わせる

研究の種類と「何と比べたか」、効果の大きさを確かめる

「エビデンスがない」と「効果がない」は区別する

体験談や断定的な宣伝より、比較研究による根拠を見る

心理療法の重要用語

「心理療法の重要用語」では、学派をこえて大切にされている考え方を解説しています。あわせてご覧ください。

治療同盟とラポールとは|信頼関係の築き方

傾聴と共感とは|心理療法に共通する基本姿勢

しっかり身につけたい方へ

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] APA Presidential Task Force on Evidence-Based Practice. (2006). Evidence-based practice in psychology. American Psychologist, 61(4), 271-285.
 
[2] Sackett, D. L., Rosenberg, W. M. C., Gray, J. A. M., Haynes, R. B., & Richardson, W. S. (1996). Evidence based medicine: What it is and what it isn’t. BMJ, 312(7023), 71-72.
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