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心理療法の重要用語

傾聴と共感とは,心理療法に共通する基本姿勢

傾聴とは、相手の話に耳と心を傾け、言葉だけでなく、その奥にある気持ちや意味まで理解しようとして聴くことです。共感とは、相手の立場に立って、その人が感じていることを、あたかも自分のことのように理解し、その理解を相手に伝えることです。どちらも、学派をこえて、あらゆる心理療法の土台となる基本姿勢です。

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「傾聴と共感」です。

「話を聴いてもらえただけで、気持ちが軽くなった」という経験はないでしょうか。当コラムでは、傾聴と共感の意味と違い、心理療法での大切さ、日常で使える聴き方のコツを紹介します。目次は以下の通りです。

目次

①傾聴とは

傾聴は、カウンセリングだけでなく、医療や教育、職場など、人を支えるあらゆる場面で大切にされている聴き方です。

積極的に聴く

傾聴は、ただ黙って聞いていることではありません。相手の話に関心をもち、うなずきやあいづち、言い換えなどを通して、「あなたの話をしっかり受け止めています」と伝えながら聴く、積極的な聴き方です。英語では「アクティブ・リスニング」とも呼ばれます。

評価や助言をいったん脇に置く

人の話を聴いていると、つい「それは違うと思う」と評価したり、「こうしたらいいよ」と助言したりしたくなります。傾聴では、こうした反応をいったん脇に置き、まずは相手の見ている世界を、相手の目線から理解することを優先します。

②共感とは

共感は、来談者中心療法の創始者カール・ロジャーズが、心理療法の中心的な条件として重視したものです。

「あたかも」自分のことのように

ロジャーズ[1]は、共感を、相手の内側の世界を、あたかも自分自身のものであるかのように感じ取りながら、その「あたかも」という性質を失わないことだと説明しました。相手の気持ちを深く理解しながらも、自分と相手を混同しない、というのがポイントです。

同情との違い

同情は、相手を「かわいそう」と思い、自分の気持ちが動かされることです。共感は、相手が何を感じているのかを、相手の立場から理解しようとすることです。同情では、聴き手が自分の気持ちに巻き込まれやすいのに対し、共感では、相手の気持ちに寄り添いながらも、落ち着いて相手を支えることができます。

③傾聴と共感の違い

傾聴と共感は、よく一緒に使われますが、意味は少し違います。

「聴く行為」と「理解すること」

傾聴:相手の話を、関心をもって積極的に聴く「行為」や「姿勢」

共感:相手の気持ちや意味を、相手の立場から「理解すること」と、その理解を相手に伝えること

傾聴は共感への入り口

傾聴は、共感的な理解にたどり着くための入り口だといえます。じっくり聴くことで、相手の気持ちが見えてきます。そして、理解したことを「〜と感じているんですね」と言葉にして返すことで、共感が相手に伝わります。聴くだけでは共感は伝わらず、理解しようとする気持ちがなければ、傾聴は形だけになってしまいます。

④なぜ大切なのか

共感の大切さは、研究でも確かめられています。

82の研究のメタ分析

82の研究、6,000人以上の相談者のデータをまとめたメタ分析[2]では、セラピストの共感は、心理療法の効果を中程度に予測する要因であることが示されました。この関係は、心理療法の学派や相談者の悩みの種類をこえて見られました。

伝わる共感が大切

同じメタ分析[2]では、相談者や観察者などが「共感されている」と受け取った程度を測る方法のほうが、セラピストが相手の気持ちをどれだけ正確に言い当てられたかを測る方法よりも、効果をよく予測していました。共感は、聴き手が心の中で理解しているだけでなく、相手に伝わり、受け取られてはじめて力を持つといえます。

⑤傾聴の基本スキル

傾聴には、いくつかの基本的なスキルがあります。

聴いていることを伝える

うなずき・あいづち:「うん」「そうなんですね」と、聴いていることを示す

くり返し:相手の言葉の一部を、そのままくり返す(「疲れているんですね」)

言い換え:相手の話の要点を、自分の言葉で返す

感情の反映:相手の気持ちを言葉にして返す(「悔しかったんですね」)

要約:話の内容をまとめて返す

開かれた質問を使う

「はい・いいえ」で答える質問より、「そのとき、どんなふうに感じましたか」のような、自由に答えられる質問のほうが、相手は話を広げやすくなります。傾聴の具体的な練習方法は、傾聴技法とはで詳しく紹介しています。

⑥共感を伝えるコツ

共感を相手に伝えるためのコツを紹介します。

気持ちの言葉で返す

相手:「せっかく準備したのに、会議で発表の機会がなくなったんです」

事実だけを返す:「発表がなくなったんですね」

気持ちも返す:「せっかく準備したのに、がっかりしましたね」

出来事だけでなく、その奥にある気持ちを言葉にすると、相手は「わかってもらえた」と感じやすくなります。

推測は確かめながら

相手の気持ちは、あくまで推測です。「〜という感じでしょうか」と確かめるように返し、違っていたら、相手の言葉で訂正してもらいましょう。訂正してもらうことで、理解がより正確になります。

同意しなくても共感はできる

共感は、相手の意見に賛成することではありません。「あなたの言う通りだ」と思えなくても、「あなたは、そう感じているんですね」と、相手の気持ちを理解したことは伝えられます。

⑦日常で練習してみよう

傾聴と共感は、日常の会話の中で練習することができます。

最初の1分は聴くことに徹する

家族や友人が話し始めたら、最初の1分間は、自分の意見や助言を言わずに、うなずきやあいづち、くり返しだけで聴いてみましょう。話し手が、自分から話を深めていくのを感じられるはずです。

気持ちの言葉を1つ返す

会話の中で、相手の気持ちを表す言葉(うれしい、不安、悔しいなど)を1つ見つけて、「〜だったんですね」と返してみましょう。慣れてきたら、言葉にされていない気持ちを推測して返すことにも挑戦します。

⑧注意

傾聴と共感について、知っておきたい注意点をまとめます。

聴く側も自分を大切に

つらい話を聴き続けると、聴く側が疲れたり、相手の気持ちに巻き込まれて苦しくなったりすることがあります。自分が疲れていると感じたら、無理をせず休み、自分自身も誰かに話を聴いてもらいましょう。

専門家につなぐことも大切

相手が「死にたい」と話したり、心身の不調が強く続いていたりする場合は、聴くだけで支えようとせず、医療機関や相談窓口につなぎましょう。

「死にたい」「消えてしまいたい」という気持ちが続くときは、一人で抱え込まず、医療機関や、電話・SNSの相談窓口(厚生労働省の「まもろうよ こころ」で探せます)、お住まいの地域の精神保健福祉センターに相談してください。命の危険が差し迫っているときは、救急(119番)に連絡してください。

⑨確認してみよう

ここまでの内容を、3つの問題で確認してみましょう。答えを考えてから、正解と解説を開いてください。

問題1

傾聴と共感の違いの説明として、最も適切なものはどれでしょうか。

ア 傾聴と共感は、まったく同じ意味である

イ 傾聴は積極的に聴く行為や姿勢、共感は相手の気持ちを相手の立場から理解し、それを伝えること

ウ 共感は聴く行為で、傾聴は相手に同意すること

問題1の正解と解説

正解はイ(傾聴は積極的に聴く行為や姿勢、共感は相手の気持ちを相手の立場から理解し、それを伝えること)です。傾聴は、関心をもって積極的に聴く行為や姿勢のことです。共感は、相手の気持ちや意味を相手の立場から理解し、その理解を伝えることです。傾聴は、共感的な理解への入り口といえます。

問題2

ロジャーズが説明した共感の特徴として、最も適切なものはどれでしょうか。

ア 相手の気持ちに入り込み、自分の気持ちと区別がつかなくなること

イ 相手の内側の世界を「あたかも」自分のことのように感じ取りながら、自分と相手を混同しないこと

ウ 相手を「かわいそう」と思うこと

問題2の正解と解説

正解はイ(相手の内側の世界を「あたかも」自分のことのように感じ取りながら、自分と相手を混同しないこと)です。ロジャーズは、相手の内側の世界を、あたかも自分自身のものであるかのように感じ取りながら、その「あたかも」という性質を失わないことを共感と考えました。相手を「かわいそう」と思うのは、共感ではなく同情に近いものです。

問題3

「せっかく準備したのに、発表の機会がなくなったんです」と話す人への、共感的な応答として最も適切なものはどれでしょうか。

ア 「次はきっとうまくいきますよ」

イ 「せっかく準備したのに、がっかりしましたね」

ウ 「準備のやり方に問題があったのかもしれませんね」

問題3の正解と解説

正解はイ(「せっかく準備したのに、がっかりしましたね」)です。出来事の奥にある気持ちを言葉にして返すと、相手は「わかってもらえた」と感じやすくなります。励ましや分析は、気持ちを受け止めた後でも遅くありません。

⑩まとめ

傾聴は、相手の話を関心をもって積極的に聴く姿勢であり、共感は、相手の気持ちを相手の立場から理解し、その理解を伝えることです。どちらも、学派をこえて心理療法を支える基本姿勢です。

今回のポイント

傾聴は、評価や助言を脇に置いて、積極的に聴くこと

共感は「あたかも」相手のように理解し、自分と混同しないこと

共感は心理療法の効果を中程度に予測し、相談者に伝わることが大切

気持ちの言葉で返し、推測は確かめながら伝える

あわせて読みたいコラム

傾聴と共感を大切にする心理療法や、相談者の理解を深める見立てについては、次のコラムでも解説しています。

来談者中心療法とは|ロジャーズの理論と特徴を解説

フォーカシングとは|フェルトセンスを解説

ケースフォーミュレーションとは|見立ての基礎

心理療法の重要用語

「心理療法の重要用語」では、学派をこえて大切にされている考え方を解説しています。あわせてご覧ください。

治療同盟とラポールとは|信頼関係の築き方

エビデンスに基づく心理療法とは|読み方を解説

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Rogers, C. R. (1957). The necessary and sufficient conditions of therapeutic personality change. Journal of Consulting Psychology, 21(2), 95-103.
 
[2] Elliott, R., Bohart, A. C., Watson, J. C., & Murphy, D. (2018). Therapist empathy and client outcome: An updated meta-analysis. Psychotherapy, 55(4), 399-410.
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