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実存療法

実存療法とは,人生の意味を問う心理療法

実存療法とは、死、自由と責任、孤独、人生の意味といった、人間であれば誰もが向き合う問題に目を向け、自分の人生をどう生きるかを主体的に選び取っていくことを支える心理療法です。特定の技法の集まりというより、実存哲学の考え方を土台にした、心理療法への向き合い方の一つとされています。

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「実存療法」です。

「このままの人生でいいのだろうか」「自分は何のために生きているのだろう」。こうした問いは、病気の症状ではなく、人間らしい悩みです。当コラムはシリーズの1本目として、実存療法の考え方と進め方、自分で向き合うためのワークを紹介します。目次は以下の通りです。

目次

①実存療法とは

実存療法は、悩みを「治すべき症状」としてだけでなく、「人間としてどう生きるか」という問いとして捉える心理療法です。

「実存」とは

「実存」とは、哲学の言葉で、一般的な「人間とは何か」ではなく、今ここで生きている、かけがえのない一人の人間のあり方を指します。実存療法では、その人が自分の人生をどう体験し、どう意味づけ、どう選んでいるのかに目を向けます。

技法より姿勢を重視する

実存療法には、決まった手順や技法のセットはあまりありません。セラピストは、相談に来た人と対等な立場で向き合い、その人が避けてきた問いや、本当は大切にしたいことに、一緒に目を向けていきます。そのため、実存療法は、他の心理療法を行うセラピストの考え方や姿勢にも、広く影響を与えています。

②歴史と主な人物

実存療法は、19〜20世紀の実存哲学を土台に、ヨーロッパとアメリカで発展しました。

哲学からの流れ

キルケゴール、ハイデガー、サルトルといった哲学者たちは、人間が不安や死、自由とどう向き合うのかを考えました。20世紀半ばには、スイスの精神科医ビンスワンガーやボスが、こうした哲学を精神医学に取り入れ、「現存在分析」と呼ばれる方法を形づくりました。

アメリカでの発展

アメリカでは、心理学者ロロ・メイが実存的な心理療法を広め、その後、精神科医アーヴィン・ヤーロム[1]が、実存療法の考え方を体系的にまとめました。また、オーストリアの精神科医ヴィクトール・フランクルは、強制収容所での体験をもとに、生きる意味を中心にすえたロゴセラピーを提唱しました。

他の心理療法との関係

実存療法は、人間の主体性や成長を重んじる人間性心理学と深く関わっており、来談者中心療法や、「今ここ」での気づきを大切にするゲシュタルト療法とも、多くの考え方を共有しています。

③4つの究極的関心事

ヤーロムは、人間が生きるうえで避けられない問題を、「究極的関心事」として4つにまとめました。

死・自由・孤独・無意味

死:いつか必ず死ぬという事実と、それに伴う不安

自由:自分の人生は自分が選び、つくっていくという事実と、その責任の重さ

孤独:どれほど親しくなっても、他者と完全に一つになることはできないという事実

無意味:人生にあらかじめ決められた意味はなく、自分で意味を見いだしていく必要があるという事実

不安は人間の条件

ヤーロム[1]は、これらの事実に直面することで生まれる不安を、取り除くべき異常としてではなく、人間であることの一部と考えました。そして、この不安から目をそらすために、私たちは知らず知らずのうちに、生き方を狭めたり、つらい症状を抱えたりすることがあると考えたのです。

実存療法では、こうした不安と向き合うことで、かえって今の人生をより大切に、主体的に生きられるようになることを目指します。

④自由と責任、人生の意味

4つの関心事の中でも、日常の悩みと特に結びつきやすいのが、自由と責任、そして人生の意味です。

自由と責任

実存療法では、どんなに制約のある状況でも、その状況にどう向き合うかを選ぶ自由は残されていると考えます。そして、選ぶ自由があるということは、自分の人生の「作者」であるという責任を引き受けることでもあります。詳しくは、自由と責任で解説しています。

人生の意味

人生の意味は、どこかに用意されている答えを探すものではなく、人や仕事、体験との関わりの中で、自分で見いだしていくものと考えます。フランクルの考え方も交えて、人生の意味で詳しく解説しています。

⑤カウンセリングの進め方

実存療法のカウンセリングは、決まった手順よりも、セラピストとの対話を通して進みます。

「今ここ」の関係を大切にする

実存療法では、過去の原因探しよりも、今この面接の中で何が起きているかを重視します。セラピストも一人の人間として誠実に向き合い、二人の関係そのものを、相談に来た人が自分の生き方に気づく場として活かします。

よく使われる問いかけ

「本当は、どうしたいと思っていますか」

「その選択をしないことで、何を守ろうとしているのでしょうか」

「もし人生の残り時間が限られているとしたら、何を大切にしたいですか」

「今の状況の中で、あなたが選べることは何でしょうか」

こうした問いに、すぐに答えを出す必要はありません。答えを急がず、問いを抱えたまま考え続けること自体が、自分の人生を主体的に生き始める一歩になります。

面接の例

相談者:「会社を辞めたいけれど、家族のことを考えると辞められないんです」

セラピスト:「辞められない、と感じているんですね。もし辞めないことを、あなたが選んでいるとしたら、その選択で何を大切にしているのでしょう」

相談者:「…家族を安心させたい、ということかもしれません。でも、自分の人生がこのままでいいのか、という気持ちもあって」

セラピスト:「家族を大切にしたい気持ちと、自分の人生を大切にしたい気持ち、その両方があるんですね。どちらも、あなたにとって大事なものなのでしょう」

このように、「仕方なく」と感じていた状況の中にも、自分の選択と、大切にしている価値があることに気づいていきます。

⑥効果と研究

実存療法は、効果を数字で確かめる研究がまだ少ない心理療法です。

メタ分析の結果

実存療法のランダム化比較試験をまとめたメタ分析[2]では、15の研究、合計1,792人のデータが分析されました。その結果、生きる意味に焦点を当てる「意味中心の療法」では、生きる意味の感覚に比較的大きな効果があり、精神的な症状にも中程度の効果が見られました。一方で、体験を重視するタイプや、認知的な技法を組み合わせたタイプの実存療法では、はっきりした効果は確認されませんでした(研究数は1〜2件と少数)。

研究の限界

同じメタ分析[2]では、研究の数が少なく、質も十分ではないことが指摘されています。実存療法は一部の人にとって役立つ可能性があるものの、どのような人に、どのような方法が合うのかを、今後さらに調べる必要があるとされています。

⑦自分で向き合うワーク

実存療法の考え方をもとに、自分で取り組めるワークを紹介します。気持ちが落ち着いているときに、紙に書きながら試してみましょう。

悩みを4つの関心事で眺める

今抱えている悩みを1つ書き出し、それが4つの究極的関心事(死・自由・孤独・無意味)のどれと関わっているかを考えてみます。例えば、「転職に踏み切れない」なら自由と責任、「誰にもわかってもらえない」なら孤独と関わっているかもしれません。悩みの奥にあるテーマが見えると、自分が本当に向き合いたいことがはっきりしてきます。自由と責任に関するワークは、自由と責任でも紹介しています。

大切にしたいことを書き出す

「この1年で、心から満たされたと感じた瞬間」を3つ思い出して書き出します。そのとき、誰と、何をしていたでしょうか。共通しているものが、あなたにとっての人生の意味の手がかりになります。

今日の選択を1つ変える

書き出した大切なことに近づくために、今日できる小さな行動を1つ選び、実行してみましょう。例えば、「家族と過ごす時間を大切にしたい」なら、今夜は食事中にスマートフォンを置く、といった行動です。

⑧注意

実存療法のテーマに向き合うときに、気をつけたい点をまとめます。

つらくなったら無理をしない

死や孤独、人生の意味について考えると、一時的に不安や気分の落ち込みが強くなることがあります。考えるのがつらくなったら、無理に続けず、いったん離れて休みましょう。気分の落ち込みや不眠が2週間以上続く場合は、医療機関に相談してください。

「死にたい」気持ちがあるときは

「死にたい」「消えてしまいたい」という気持ちが続くときは、一人で抱え込まず、医療機関や、電話・SNSの相談窓口(厚生労働省の「まもろうよ こころ」で探せます)、お住まいの地域の精神保健福祉センターに相談してください。命の危険が差し迫っているときは、救急(119番)に連絡してください。

また、重い病気や大切な人との死別など、深刻な状況にある方は、一人で問いに向き合うのではなく、専門家と一緒に取り組むことをおすすめします。

⑨まとめ

実存療法は、死、自由と責任、孤独、人生の意味という、誰もが向き合う問題に目を向け、自分の人生を主体的に選び取っていくことを支える心理療法です。

今回のポイント

悩みを「どう生きるか」という問いとして捉える

死・自由・孤独・無意味という4つの究極的関心事に向き合う

どんな状況でも、向き合い方を選ぶ自由がある

意味中心の療法には一定の効果が示されているが、研究はまだ少ない

シリーズの他のコラム

実存療法シリーズでは、自由と責任、人生の意味について、次のコラムで詳しく解説しています。

実存療法における自由と責任とは|意味と具体例を解説

実存療法における人生の意味とは|意味と具体例を解説

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Yalom, I. D. (1980). Existential psychotherapy. New York: Basic Books.
 
[2] Vos, J., Craig, M., & Cooper, M. (2015). Existential therapies: A meta-analysis of their effects on psychological outcomes. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 83(1), 115-128.
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