漸進的筋弛緩法(ぜんしんてききんしかんほう)とは、体の部位ごとに「力を入れる→一気に抜く」を順番にくり返し、緊張とゆるみの違いを感じ取ることで、体と心をリラックスさせる方法です。アメリカの医師エドモンド・ジェイコブソンが考案し、現在も不安や緊張、不眠の悩みへのセルフケアとして広く使われています。
みなさん、こんにちは。作業療法士の石橋、公認心理師の川島です。私たちはこちらの心理学講座を開催しています。今回のテーマは「漸進的筋弛緩法」です。

漸進的筋弛緩法は、特別な道具がいらず、椅子に座ったままでもできるリラックス法です。緊張しやすい、不安になりやすい、寝つきが悪いといった悩みがある方は、ぜひ最後までご一読ください。目次は以下の通りです。
①漸進的筋弛緩法とは
漸進的筋弛緩法は、100年近い歴史を持つ、代表的なリラクセーション法の一つです。まずは、その意味と成り立ちを確認しましょう。
意味
心理学辞典[1]では、漸進的弛緩法は、体の一部分の筋肉から弛緩させ、しだいに主要な筋肉へと広げて、最終的には全身の筋肉を弛緩させていく技法と説明されています。また、いったん筋肉を緊張させてから弛緩させるため、その落差によって、筋肉がゆるんだ状態に気づきやすくなることを狙いとしています。
「漸進的」とは、「順を追って、だんだんと目的に近づく」という意味です。部位ごとに順番に緊張と弛緩をくり返し、少しずつ全身のリラックスにたどり着く方法なのです。
提唱者ジェイコブソン
漸進的筋弛緩法は、アメリカの医師エドモンド・ジェイコブソン(Jacobson, E.)が、1900年代の初めから進めた研究をもとにしています。ジェイコブソンは、筋肉の活動をとらえる装置を使って、心の緊張と筋肉の緊張の関係を調べ、心が緊張すると筋肉も緊張し、筋肉がゆるむと心もリラックスしやすいことに注目しました。そして1929年、その方法をまとめた著書『Progressive Relaxation』[2]を出版しました。

行動療法への広がり
1950年代になると、精神科医のジョセフ・ウォルピ(Wolpe, J.)[3]が、漸進的筋弛緩法を短く簡単にした形で、行動療法の「系統的脱感作法」に取り入れました。系統的脱感作法は、リラックスした状態を保ちながら、不安を感じる場面を弱いものから少しずつ思い浮かべていくことで、不安や恐怖を和らげる方法です。
現在では、精神科のデイケアやがん患者さんへの看護、スポーツの試合前の調整、ビジネスでの緊張場面など、さまざまな場面で活用されています。
②しくみと効果
漸進的筋弛緩法のポイントは、「力を抜こう」とするのではなく、いったん力を入れてから抜くことで、ゆるんだ感覚をはっきり感じ取ることにあります。
緊張とゆるみの落差に気づく
不安や緊張が強いとき、「リラックスしよう」と思っても、なかなか力は抜けません。そもそも、自分の体のどこに力が入っているのかに、気づいていないことも多いものです。
そこで、漸進的筋弛緩法では、あえて筋肉に力を入れて緊張を作り、その後に一気に力を抜きます。緊張した状態とゆるんだ状態をくり返し比べることで、ゆるんだ感覚を体で覚え、ふだんの生活でも「今、肩に力が入っているな」と気づいて、自分でゆるめられるようになっていきます。
研究で分かっていること
漸進的筋弛緩法については、気分の改善や、血圧・脈拍の低下などの効果が、さまざまな研究で報告されています。代表的な研究を折り畳んで紹介しますので、興味のある方は展開してみてください。
活用される場面
漸進的筋弛緩法は、パニック症やあがり症の悩みに対して、カウンセリングや治療と組み合わせて使われることもあります。以下は、理解のために作成した架空の事例です。
③3分でできるやり方
まずは、短い時間でできる簡単なやり方から始めましょう。医師の富岡[6]が紹介している短時間の方法をもとに、筆者がアレンジしたものです。椅子に座ったままで行えます。
手と腕のエクササイズ
①両手を握り、ひじを曲げて、腕に力を入れる
②6割ほどの力で、10秒間キープする
③一気に力を抜き、10秒間、腕がゆるんでいく感覚を味わう

肩のエクササイズ
①両肩を上に持ち上げ、耳に近づけるようにする
②力を入れたまま、10秒間キープする
③すとんと肩を落とし、10秒間、肩がゆるむ感覚を味わう

顔のエクササイズ
①目をぎゅっと閉じ、口をすぼめて、顔のパーツを中心に集めるように力を入れる
②力を入れたまま、10秒間キープする
③力を抜き、口がぽかんと開くくらいゆるめて、10秒間味わう

手と腕、肩、顔の3つを1セットとして、必要に応じて2〜4セット行いましょう。全体で3分ほどが目安です。電車の中やデスクでは、肩だけ、手だけなど、部位を選んで行うこともできます。
④10分でできるやり方
時間に余裕があるときは、全身を順番にゆるめていく方法を試してみましょう。文部科学省[7]が心のケアの方法として紹介している手順をもとにしています。
始める前の準備
静かな場所で、椅子に深く腰かけるか、仰向けに寝ます。ベルトや腕時計など、体を締めつけるものはゆるめておきましょう。各部位は、「10秒間力を入れる→力を抜いて15〜20秒間ゆるんだ感覚を味わう」という流れで行います。
9つの部位の手順
1.両手:腕を前に伸ばし、手のひらを上に向け、親指を中に入れて握る
2.上腕:握りこぶしを肩に近づけ、曲げた腕全体に力を入れる
3.背中:曲げた腕を外に広げ、肩甲骨を引き寄せる
4.肩:両肩を上げ、首をすくめるように力を入れる
5.首:首を右にひねって力を入れる。左も同じように行う
6.顔:口をすぼめ、顔全体を中心に集めるように力を入れる
7.お腹:お腹に手を当て、その手を押し返すように力を入れる
8.足:足を伸ばし、つま先を伸ばす(足の裏側)、つま先を上に反らす(足の表側)
9.全身:1〜8の全身の筋肉に一度に力を入れ、ゆっくり抜く
どの部位も、しっかりと脱力感を味わうことが大切です。何セット行うかは自由ですが、全体で10分ほどを目安にするとよいでしょう。
終わり方
最後に、両手をグーパーと数回握ったり開いたりし、大きく伸びをしてから、ゆっくり目を開けましょう。急に立ち上がるとふらつくことがあるので、少し間をおいてから動き始めてください。寝る前に行う場合は、そのまま眠ってしまって大丈夫です。

⑤続けるコツ
漸進的筋弛緩法は、くり返し練習するほど、ゆるんだ感覚がつかみやすくなります。無理なく続けるためのコツを3つ紹介します。
力は6〜7割で
力を入れるときは、全力ではなく、6〜7割ほどの力で十分です。強く力を入れすぎると、筋肉を痛めたり、かえって疲れてしまったりすることがあります。「力を入れること」より、「抜いた後の感覚を味わうこと」に意識を向けましょう。
場面を決めて習慣にする
「朝起きたら3分」「寝る前に10分」など、行う場面をあらかじめ決めておくと、習慣にしやすくなります。緊張する場面の前だけでなく、落ち着いているときに練習しておくと、いざというときにも使いやすくなります。
変化を記録する
実施前後のリラックスの度合いを、0〜10点で記録してみましょう。脈拍計や血圧計を持っている方は、前後で測ってみるのもおすすめです。変化が目に見えると、続ける励みになります。もともとジェイコブソンの研究でも、筋肉の状態を測りながら練習していました。
⑥注意点
漸進的筋弛緩法は、体への負担が少ない方法ですが、次のような場合は注意が必要です。
医師に相談したい方
次のような方は、始める前に医師に相談し、指導のもとで行うようにしてください。
心臓や血管の病気、高血圧などの持病がある方
けがや痛み、強い疲れがある方
妊娠中の方
痛みや不快感が出たら
実施中に、痛みやしびれ、強い不快感、気分の悪さなどを感じたら、すぐに中止しましょう。ゆっくり呼吸を整え、楽な姿勢で休んでください。また、リラックスしようとすると、かえって不安が強まる人もいます。その場合は無理に続けず、専門家に相談しましょう。

⑦動画で確認する
文章だけでは分かりにくい方のために、専門家が監修した動画を紹介します。実際の動きを見ながら試してみてください。
前田正治先生ら監修の動画
福島県立医科大学の前田正治教授を中心に、精神医学や心理学の専門家が作成した動画です。公認心理師の岩野卓先生のチャンネルに掲載されています。
西脇俊二医師の動画
医師の西脇俊二先生が、リラックス法として「自律訓練法」と「漸進的筋弛緩法」のやり方を紹介している動画です。
⑧確認してみよう
ここまでの内容を、3つの問題で確認してみましょう。答えを考えてから、正解と解説を開いてください。
問題1
漸進的筋弛緩法で、力を抜く前にいったん力を入れる理由として、最も適切なものはどれでしょうか。
ア 筋肉を鍛えるため
イ 緊張とゆるみの違いに気づきやすくするため
ウ 体を温めるため
問題2
力を入れるときの目安として、このコラムで紹介したものはどれでしょうか。
ア 全力で力を入れる
イ 6〜7割ほどの力で入れる
ウ ほとんど力を入れない
問題3
始める前に医師に相談したい方として、適切なものはどれでしょうか。
ア 心臓や血管の病気、高血圧などの持病がある方
イ 寝る前に行いたい方
ウ 椅子に座って行いたい方
⑨まとめ
漸進的筋弛緩法は、力を入れてから抜く動きをくり返し、緊張とゆるみの違いを体で覚えることで、心と体をリラックスさせる方法です。
今回のポイント
いったん力を入れてから抜くと、ゆるんだ感覚に気づきやすい
力は6〜7割、抜いた後の感覚をじっくり味わう
まずは3分の方法から、場面を決めて習慣に
持病や痛みがある方は、医師に相談してから
次に読みたいコラム
体から心にアプローチする方法には、援助者と一緒に体の動きを通して心を整える「臨床動作法」もあります。また、怒りを感じたときの対処法として、筋弛緩法を活用する方法は、怒りの段階確認法でも紹介しています。体が緊張しているなと感じたときに、ぜひ実践してみてください。
しっかり身につけたい方へ
緊張をほぐす心理療法の基礎を、公認心理師の元でしっかり学びたい方は、私たちが主催する講座をおすすめします。内容は以下の通りです。
・はじめての心理療法
・心と体のリラックス法練習
・マインドフルネス療法の学習
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連






