ゲシュタルト療法とは、「今ここ」で自分の中に起きている感覚や感情、考えに気づき(アウェアネス)、ばらばらになっていた自分の部分を一つのまとまりとして取り戻していくことを目指す心理療法です。精神科医フレデリック・パールズらが1950年代に体系化しました。
みなさん、こんにちは。公認心理師の川島です。私たちは現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「ゲシュタルト療法」です。
当コラムはシリーズの1本目として、ゲシュタルト療法の基本的な考え方と歴史、代表的な技法を紹介します。目次は以下の通りです。
目次
①ゲシュタルト療法とは
ゲシュタルト(Gestalt)は、ドイツ語で「形」「全体のまとまり」という意味です。まずは、この言葉の意味から確認しましょう。
ゲシュタルトの意味
私たちは、物を見るとき、部分をばらばらに見るのではなく、一つのまとまりとして捉えます。例えば、点が円く並んでいれば、点の集まりではなく「円」として見えます。このように、全体を一つのまとまりとして捉える心の働きを、心理学では「ゲシュタルト」と呼びます。
だまし絵で体験する
次の絵は、古くから知られるだまし絵です。何に見えるでしょうか。若い女性の後ろ姿に見える人もいれば、年配の女性の横顔に見える人もいます。

こちらは、デンマークの心理学者ルビンが紹介した「ルビンの杯」です。白い杯に見えたり、向かい合う2人の横顔に見えたりします。

同じ絵でも、どこに注目するかによって、見え方ががらりと変わります。ゲシュタルト療法は、こうした知覚の仕組みを、心のあり方に応用した心理療法です。
②提唱者パールズ
ゲシュタルト療法は、ドイツ出身の精神科医フレデリック(フリッツ)・パールズと、妻ローラ・パールズらによって生み出されました。
パールズの歩み
パールズ(Perls, F. S.)は、1893年にドイツのベルリンで生まれ、医師となりました[1]。1920年代、脳に損傷を受けた兵士の研究に関わる中で、ゲシュタルト心理学に出会います。また、ゲシュタルト心理学を学んでいたローラと結婚し、2人で新しい心理療法をつくり上げていきました。
ユダヤ系だったパールズ夫妻は、ナチスの台頭を受けて1933年にドイツを離れ、南アフリカに移り住みました。当初は精神分析家として活動していましたが、次第に独自の考え方を深めていきます。
ゲシュタルト療法の誕生
1946年にアメリカに渡ったパールズは、1951年に共著『ゲシュタルト療法』[2]を出版し、翌年にはニューヨークにゲシュタルト療法研究所を設立しました。1960年代には、カリフォルニアのエサレン研究所でのワークショップなどを通して広く知られるようになり、1970年に亡くなりました。
1965年には、来談者中心療法のロジャーズ、論理療法のエリスとともに、同じ女性クライエントとの面接を収録した映像「グロリアと3人のセラピスト」に出演しています。
③「図」と「地」の考え方
ゲシュタルト療法では、だまし絵の見え方を説明する「図」と「地」という考え方を、心の働きに当てはめて考えます。
図と地とは
ルビンの杯で、杯に注目しているとき、杯が浮かび上がって見える部分を「図」、その背景になっている部分を「地」と呼びます。顔に注目すると、今度は顔が「図」になり、杯は「地」に退きます。
ゲシュタルト療法では、そのときの自分にとって大切な欲求や関心が「図」として浮かび上がり、満たされると「地」に退き、次の関心が「図」になる、という流れが、健康な心の働きだと考えます。

未完了の問題
ところが、言えなかった気持ちや、満たされなかった欲求があると、それが「地」に退かず、心の中に引っかかり続けます。これを「未完了の問題」と呼びます。例えば、亡くなった親に伝えられなかった感謝や怒りが、何年たっても心に残り続けるような場合です。
ゲシュタルト療法では、こうした未完了の問題に気づき、今ここで体験し直すことで、心のまとまりを取り戻していきます。
具体例で考える
④3つの気づきの領域
ゲシュタルト療法で最も大切にされるのが「気づき(アウェアネス)」です。パールズは、気づきの対象を3つの領域に分けて考えました。
内側の領域
体の感覚や感情など、自分の内側で起きていることへの気づきです。「肩がこわばっている」「胸がざわざわする」「悲しい」などに気づきます。
外側の領域
見えるもの、聞こえるもの、におい、触れているものなど、五感を通して外の世界と接していることへの気づきです。「窓の外で鳥が鳴いている」「椅子の硬さを感じる」などに気づきます。
中間の領域
考えや想像、記憶、予想など、頭の中で起きていることへの気づきです。ゲシュタルト療法では、この領域に入り込みすぎると、今ここの体験から離れてしまいやすいと考えます。3つの領域を行き来しながら、今の自分全体に気づいていくことを大切にします。詳しくは、シリーズの今ここ・気づきとはで解説しています。
⑤「今ここ」を大切にする
ゲシュタルト療法は、「今ここ」での体験を重視する心理療法です。ここでは、精神分析との違いから、その特徴を見てみましょう。
過去の原因探しとの違い
パールズは、もともと精神分析家でしたが、過去の出来事の原因を探り、言葉で説明することに重点を置く方法に限界を感じていました。ゲシュタルト療法では、「なぜそうなったのか」を説明するよりも、「今、何を感じ、どうしているのか」に気づくことを重視します。
過去も今ここで扱う
過去の出来事を扱わないわけではありません。過去のつらい出来事も、それを思い出して今ここで感じている気持ちとして扱います。過去について説明するのではなく、今ここで体験し直すことで、未完了の問題に区切りをつけていきます。
⑥代表的な技法
ゲシュタルト療法には、気づきを深めるためのさまざまな技法があります。ここでは代表的な3つを紹介します。いずれも、専門家と一緒に行うのが基本です。
エンプティチェア技法
誰も座っていない椅子(空の椅子)に、話したい相手や、自分の中のある部分が座っていると想像し、語りかける技法です[3]。席を入れ替わって相手の立場からも話すことで、言えなかった気持ちを表現したり、相手や自分の別の面に気づいたりします。詳しくは、シリーズのエンプティチェア技法とはで解説しています。

ファンタジー・トリップ
リラックスした状態で、セラピストの言葉に導かれながら、心の中でイメージの旅をする技法です。イメージの中で出会うものや場面を通して、ふだん気づいていない気持ちに触れていきます。
投影の引き戻し
「あの人は私を見下している」と感じるとき、実は自分自身が自分を見下しているのかもしれません。このように、自分の気持ちを相手のものだと感じてしまうことを「投影」と呼びます。ゲシュタルト療法では、「私は自分を見下している」と主語を変えて言ってみるなどして、投影していた気持ちを自分のものとして取り戻していきます。
⑦研究で分かっていること
ゲシュタルト療法の効果については、エンプティチェア技法を使った研究などが行われています。
エンプティチェアの研究
パイヴィオとグリーンバーグ[4]は、親など大切な人との間に未解決の思いを抱えた人を対象に、エンプティチェア技法を用いた心理療法の効果を調べました。その結果、エンプティチェア技法を用いた心理療法を受けた人は、心理教育のグループに参加した人に比べて、症状や対人関係の問題、相手への未解決の思いが軽くなっていました。グリーンバーグらは、ゲシュタルト療法の技法を取り入れた感情焦点化療法(EFT)を発展させています。
まとまりの感覚と心の健康
ゲシュタルト療法の効果研究ではありませんが、谷[5]は、大学生を対象に、「自分はこういう人間だ」というまとまりの感覚(同一性の感覚)を調べました。その結果、自分のやりたいことが分かっている感覚や、過去と今の自分がつながっている感覚が高い人ほど、自尊感情も高い傾向がみられました。

自分の中のさまざまな部分を一つのまとまりとして感じられることが、心の健康と関わっている可能性を示す結果です。
⑧確認してみよう
ここまでの内容を、3つの問題で確認してみましょう。答えを考えてから、正解と解説を開いてください。
問題1
ゲシュタルト療法で最も大切にされることはどれでしょうか。
ア 過去の原因を詳しく説明すること
イ 「今ここ」で起きていることへの気づき
ウ セラピストの指示に従うこと
問題2
言えなかった気持ちや満たされなかった欲求が、心に引っかかり続けている状態を何と呼ぶでしょうか。
ア 未完了の問題
イ 図と地
ウ 自己目的的体験
問題3
パールズが分けた3つの気づきの領域のうち、考えや想像、記憶に関わる領域はどれでしょうか。
ア 内側の領域
イ 外側の領域
ウ 中間の領域
⑨まとめ
ゲシュタルト療法は、「今ここ」での気づきを大切にし、ばらばらになっていた自分の部分を一つのまとまりとして取り戻していく心理療法です。
今回のポイント
ゲシュタルトは「全体のまとまり」という意味
言えなかった気持ちは「未完了の問題」として残る
内側・外側・中間の3つの領域に気づく
過去も「今ここ」で体験し直して区切りをつける
知識や情報があふれる現代では、過去や未来に心を奪われ、まとまりのある感覚を失いやすいものです。ゲシュタルト療法の考え方をヒントに、自分の心の声に気づき、今ここで安らぎを感じる時間を持ってみてください。
シリーズの他のコラム
ゲシュタルト療法シリーズでは、具体的な技法をさらに詳しく解説しています。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



