みなさん、こんにちは。公認心理師の川島達史と申します。前回の心理療法コラムでは、心理療法の基本的な知識を学習してきました。今回は2回目として、心理療法の3つの大きな流れと、日本で生まれた心理療法を概観していきましょう。
心理療法には数多くの種類がありますが、その代表的な学派は、無意識に注目する精神分析、考え方と行動に働きかける認知行動療法、人の成長する力を信じる来談者中心療法の3つです。各コーナーには、相性の良いお悩みも掲載しています。どの心理療法から学ぶか迷う方は参考にしてみてください。目次は以下の通りです。
目次
①精神分析とは何か
心理療法の歴史の中で、最初に大きな影響を与えたのが精神分析です。
フロイトと精神分析
精神分析は、オーストリアのウィーンで活躍した神経科医ジークムント・フロイトが、1890年代から形づくった理論と治療法です。フロイトは、その考え方を『精神分析入門』(1916〜1917年)[1]などにまとめ、体系立てました。生前の様子は、下記の動画で見ることができます。
意識と無意識
精神分析的心理療法は、以下の考え方を基本としています。
無意識に隠れている葛藤が、心の不調を引き起こす
無意識にある悩みの種を整理していくことが、回復に役立つ
フロイトの考え方は、よく氷山にたとえられます。海の上に見えている部分が「意識」、海の下に隠れている大部分が「無意識」です。

意識:私たちが感じることのできる心の内面
無意識:私たちが気づかない、心のさらに奥底にあるもの
フロイトは、無意識に隠れている葛藤が、知らず知らずのうちに意識に影響を及ぼすと考えました。そして、無意識にある葛藤に気づいたり、それを誰かに語ったりすることで、心が回復していくと主張しました。
抑圧とは
ここで1つだけ用語を押さえておきましょう。抑圧とは、心を守るはたらきの一つで、受け入れがたい出来事や気持ちを、無意識のうちに意識の外へ押しとどめることを意味します。
例えば、幼少期に人格を否定されるような、とても嫌な体験をしたとしましょう。私たちの心には自分を守るはたらきがあり、その記憶を意識の外へ押しやろうとすることがあります。
しかし、押しとどめた気持ちは消えるわけではなく、何らかの形で顔を出し、人間関係が不安定になったりすることがあります。精神分析では、無理のない範囲でそうした気持ちに目を向け、カウンセラーと一緒に整理していきます。
ヨーロッパから世界へ
フロイトは、このように心の全体像を示し、さまざまな理論をつくっていきました。その結果、精神分析は心理学や精神医学の世界で広く知られるようになり、多くの心理療法家が影響を受けました。
有名な人としては、ユング、アドラー、メラニー・クライン、アンナ・フロイトなどがいます。フロイトは、心理療法の生みの親と言ってよいでしょう。
一方で、初期の精神分析は性に関わる内容を多く含み、当時の社会ではタブーとされていたため、多くの批判も受けました。影響を受けた心理療法家たちも、フロイトの理論をそのまま受け継ぐというより、自分の理論を加えて改良した形で、世界へ広めていきました。
対象となるお悩み
精神分析は、以下のお悩みと相性が良い心理療法です。
過去の家庭環境が悪かった
過去の何らかの悩みを引きずっている
人間関係が同じパターンでこじれる
あてはまると感じた方、精神分析をもっと詳しく知りたい方は、後ほど下記のリンクを参照ください。
②認知行動療法とは何か
続いて、認知行動療法について解説していきます。認知行動療法は、現在、最も広く使われている心理療法の一つです。日本でも、うつ病などで健康保険が適用される場合があります。まずは全体像からつかんでいきましょう。
行動療法のはじまり
20世紀になると、心理療法はイギリスやアメリカでも発展していきます。1960年には、イギリスの心理学者ハンス・アイゼンクが編集した『行動療法と神経症』[2]が出版され、行動療法は、科学的に効果を確かめられる治療法として知られるようになりました。
行動療法は、以下の考え方を基本としています。
人は経験から学習することで、行動のあり方が変わっていく
行動療法では、心の不調を抱えている人は、役に立たない行動の習慣を学習してしまっていると考え、問題となる行動を減らし、健康的な行動を学習して習慣にすることを目指します。
認知療法の始まり
行動療法の後には、アルバート・エリスやアーロン・ベックといった心理療法家によって、「認知療法」が発展していきました。認知療法は、以下の考え方を基本としています。
物事の受け止め方(認知)のかたよりが、気分の落ち込みや不安につながる
私たちは、同じ出来事でも、プラスに受け止める人もいれば、マイナスに受け止める人もいます。例えば、新型コロナウイルスが流行したときも、反応は人それぞれでした。
もう日本は終わりだ
二度と日常が戻ることはない
電車に乗ると必ず感染する
と考える人もいれば
感染対策を続ければ、状況は少しずつ良くなっていく
この機会に家をきれいにしよう
落ち着いたら、遊びに行こう
と考える人もいました。認知療法が目指すのは、無理に前向きになることではなく、極端な考え方に気づき、現実に合った、バランスのよい考え方を身につけることです。
両者は合体する
その後、行動療法と認知療法は相性が良いことがわかってきました。行動だけを変えるのではなく、考え方もほぐしていくことで、心の健康により効果が発揮されることがわかったのです。
そのため現在では、両者を合わせて「認知行動療法」と呼ぶことが増えています。今もっとも有名な心理療法は、認知行動療法と言っても過言ではないでしょう。
対象となるお悩み
認知行動療法は、以下のお悩みと相性が良い心理療法です。
引っ込み思案で行動できない
逃げ癖がある
考え方が極端である
思い込みが激しい
あてはまると感じた方、認知行動療法をもっと詳しく知りたい方は、後ほど下記のリンクを参照ください。

③来談者中心療法とは何か
続いて、来談者中心療法について解説していきます。来談者中心療法は、心理療法家が相談者と接するうえでの基本的な姿勢を体系立てたものです。人間の可能性を信じる心理療法なので、カウンセラーとしても、相談者としても、学ぶ意義のある心理療法です。
人間性を大事にする
来談者中心療法は、アメリカの心理学者カール・ロジャーズが1942年に出版した『カウンセリングと心理療法』[3]が基礎になっています。下記はロジャーズの生前のカウンセリングの様子です。暖かい雰囲気が伝わってきますね。
来談者中心療法は、以下の考え方を基本としています。
人は、もともと問題を乗り越える力を持っている
心理的に支えれば、自然と成長し、自律的に生きていける
それまでの心理療法には、心の病気を抱えた人を「治す」という姿勢がありましたが、ロジャーズは、相談者の自律を「支える」という姿勢を大事にしました。ロジャーズが、相談に来た人を「患者」と呼ばず「クライアント」と呼んだことは象徴的です。
ズレに気づき一致させる
来談者中心療法では、次の2つのズレが大きいと、心の不調が起きやすいと考えます。
自己概念:「自分はこういう人間だ」と思っている自分
経験:実際に感じたり体験したりしていること
例えば、「自分はいつも明るい人間だ」と思っている人が、本当は悲しみを感じているのに、その気持ちを認められずに苦しむ、といった状態です。来談者中心療法では、カウンセリングを通して、自分が実際に体験していることを受け入れ、このズレを少しずつ小さくしていくことを目指します。ズレが小さくなった状態を「自己一致」と言います。
傾聴技法の発展
来談者中心療法では、「傾聴」が重視されています。傾聴とは、クライアントの話をじっくり聴く方法です。カウンセラーがクライアントの気持ちを受け止め、共感的に理解すれば、クライアントは自らの力で立ち直っていくと考えられています。そのため、クライアントの語る内容に、じっくりと耳を傾けるのです。詳しくは、傾聴と共感とはでも解説しています。
対象となるお悩み
来談者中心療法は、以下のお悩みと相性が良い心理療法です。
頭がごちゃごちゃして悩みが整理できない
いつも受け身で考えるのが苦手
自分自身の主体性を失っている
あてはまると感じた方、来談者中心療法をもっと詳しく知りたい方は、後ほど下記のリンクを参照ください。

④3つの心理療法まとめ
ここまで、3つの心理療法を紹介してきました。
心理学の三大勢力
精神分析 行動療法(認知行動療法) 来談者中心療法
これらは、心理学における「三大勢力」と呼ばれています。特にアブラハム・マズローは、精神分析(第一勢力)、行動主義(第二勢力)に対する立場として、来談者中心療法を含む人間性心理学を「第三勢力」と位置づけました。この3つの理論は、心理療法の軸を築き、現在の心理療法に大きな影響を与えています。
それぞれに違う視点
三大勢力は、それぞれが違う視点を持ち、お互いを批判し合う面もあります。一方で、人の心を理解するうえでも、人を支えるうえでも、どれも大切な理論です。心理学の教科書には、必ずと言っていいほど登場します。この機会に覚えておきましょう。
現在では、これらの学派の考え方を組み合わせて活かす、統合的な考え方も広がっています。詳しくは、統合的心理療法とはで解説しています。
⑤日本の心理療法
最後に、日本で生まれた心理療法も紹介します。日本で生まれた心理療法には、日本の文化や、仏教の考え方とつながりのあるものもあり、日本人になじみやすいという特徴があります。
森田療法
1920年前後に、精神科医の森田正馬(もりた まさたけ)が森田療法を開発しました。「あるがまま」や「恐怖突入」といった言葉が知られています。不安な気分をなくそうとするのではなく、気分に左右されずに、やるべきことに取り組む態度が重視されます。禅の考え方との共通点が、しばしば指摘されます。
森田療法は、現在でも、不安や社交不安の治療などで学ばれています。興味がある方は、下記のリンクで学びを深めてみてください。
内観療法
次に生まれたのが、吉本伊信(よしもと いしん)による内観療法です。浄土真宗の一派に伝わる「身調べ」という修行をもとにつくられ、1940年代に基礎ができ、1960年代以降に国内に広まりました。教育や矯正の現場、企業などにも広まったといわれています。内観療法は、森田療法とともに「東洋的心理療法」と呼ばれることもあります。
内観療法では、母親など身近な人との関係について、「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」の3つを、具体的に振り返ります。改めて、家族や身近な人との関係を考え直したい方におすすめです。
臨床動作法
1960年代後半に、成瀬悟策(なるせ ごさく)によって臨床動作法が生まれました。臨床動作法は、もともと脳性まひの子どもの動作の訓練のために開発され、その後、心理療法として発展しました。現在ではスポーツ選手のトレーニングなどにも応用されています。
(動画出典:日本心理学会)
欧米の知識を応用しながら、日本独自の考え方を取り入れたこれらの方法は、現在でも病院や教育の現場などで使われています。日本で生まれたため、日本人になじみやすいというメリットがあります。
⑥よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
⑦まとめ
心理療法には数多くの種類がありますが、その代表的な流れは、精神分析、認知行動療法、来談者中心療法の3つです。さらに日本では、森田療法、内観療法、臨床動作法といった独自の心理療法も生まれました。
今回のポイント
精神分析:無意識にある葛藤に気づき、整理していく
認知行動療法:考え方と行動に働きかけ、悪循環を変えていく
来談者中心療法:人の成長する力を信じ、傾聴を大切にする
日本の心理療法:森田療法、内観療法、臨床動作法など
ここまで2回にわたって、心理療法の基礎を解説してきました。全体像は概観できましたでしょうか。今みなさんは、心理療法のドアを1歩開けた状態です。私は心理療法の世界に入って15年になりますが、とても奥が深く、そして面白い世界です。ぜひ勉強を続けてほしいと感じています(^^)
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心理療法の基礎知識や、各学派をさらに詳しく学びたい方は、次のコラムをご覧ください。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



