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NVC 非暴力コミュニケーション

NVCとは,非暴力コミュニケーションを解説

NVC(非暴力コミュニケーション)とは、相手を責めたり裁いたりせずに、自分の気持ちと大切にしていることを正直に伝え、相手の気持ちと大切にしていることにも耳を傾ける対話の方法です。アメリカの心理学者マーシャル・ローゼンバーグが提唱し、「観察・感情・ニーズ・要求」の4つの要素を手がかりに、対立をお互いを理解する機会に変えることを目指します。

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「NVC(非暴力コミュニケーション)」です。

「言いたいことを言うとケンカになり、黙っているとモヤモヤが残る」という経験はないでしょうか。NVCは、そのどちらでもない第三の道を探すための方法です。当コラムはシリーズの1本目として、NVCの考え方と基本の使い方を紹介します。目次は以下の通りです。

目次

①NVCとは

NVCは、Nonviolent Communicationの頭文字をとった言葉で、日本語では「非暴力コミュニケーション」と訳されます。

NVCの基本の考え方

ローゼンバーグ[1]は、人は本来、思いやりをもって人とつながり、人の役に立つことに喜びを感じる存在だと考えました。それなのに対立が起きるのは、相手を「悪い」「間違っている」と裁く話し方を、私たちが知らず知らずのうちに身につけているからだ、と考えたのです。

そこでNVCでは、相手を裁く代わりに、「自分は何を見て、何を感じ、何を大切にしたくて、何をお願いしたいのか」を言葉にします。同じように、相手の言葉の奥にある気持ちと大切にしていることにも耳を傾けます。

「非暴力」の意味

ここでいう「暴力」は、殴る・けるといった身体的な暴力だけを指すのではありません。責める、決めつける、レッテルを貼る、罪悪感で人を動かそうとするなど、言葉によって自分や相手を傷つけるやりとりも含みます。

ローゼンバーグは、インドのガンジーが唱えた「非暴力」の考え方にならい、思いやりが自然に生まれている状態を表す言葉として「非暴力」を選んだと述べています。

心理療法との関係

NVCは、特定の病気を治すための心理療法ではなく、日常の人間関係で使うコミュニケーションの方法です。ただし、提唱者がカール・ロジャーズのもとで学んだ臨床心理学者であることもあり、共感や受容を大切にする点で、来談者中心療法と深くつながっています。現在は、家族や学校、職場、医療、地域の対立の調停など、幅広い場面で学ばれています。

②提唱者ローゼンバーグ

NVCは、アメリカの臨床心理学者マーシャル・B・ローゼンバーグ(1934〜2015年)によって体系化されました。

対立の中で育った問い

ローゼンバーグは、人種間の対立が激しかったデトロイトで少年時代を過ごしました。暴力を目の当たりにする中で、「なぜ人は思いやりを失い、人を傷つけてしまうのか」「どんな状況でも思いやりを保てる人がいるのはなぜか」という問いを持つようになったといいます。

ロジャーズとの出会いとCNVC

ローゼンバーグは、来談者中心療法の創始者カール・ロジャーズのもとで研究を行い、1961年にウィスコンシン大学で臨床心理学の博士号を取得しました。1960年代には、連邦政府の資金による学校の人種統合のプロジェクトで、調停とコミュニケーションの訓練に携わり、その中でNVCのプロセスを形づくりました。そして1984年に、NVCを広めるための国際的な団体CNVC(Center for Nonviolent Communication)を設立しました。

主著『Nonviolent Communication』は多くの言語に翻訳され、日本でも『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』として出版されています。

③つながりを妨げる話し方

ローゼンバーグは、私たちが日常的に使っている話し方の中に、思いやりの気持ちを妨げるものがあると指摘しました。

思いやりを妨げる4つの話し方

裁く:「あなたは自分勝手だ」と、相手を良い・悪いで判断する

比べる:「〇〇さんはできるのに」と、他の人と比べる

責任を外に置く:「規則だから仕方ない」「あなたのせいで怒っている」と、自分の選択や気持ちの責任を外に置く

強要する:「〜すべきだ」「〜しなさい」と、断ったら責めたり罰したりすることを前提に頼む

責める言葉が届かない理由

相手を責める言葉には、たいてい、満たされていない大切な思いが隠れています。例えば「どうしていつも連絡をくれないの」という言葉の奥には、「安心したい」「大切にされていると感じたい」という思いがあるかもしれません。

ところが、責める形で伝えると、相手は自分を守ることに精いっぱいになり、奥にある思いまでは届きません。NVCは、この奥にある思いを、相手に届く形で言葉にするための方法なのです。

④NVCの4つの要素

NVCでは、自分を表現するときも、相手の話を聴くときも、次の4つの要素に注意を向けます。

観察・感情・ニーズ・要求

観察:評価や決めつけを混ぜずに、実際に見たこと・聞いたことを述べる

感情:その出来事について、自分がどう感じているかを述べる

ニーズ:その感情の奥にある、自分が大切にしたいこと(安心、尊重、休息など)を述べる

要求:ニーズを満たすために、相手に具体的にお願いしたいことを述べる

例えば、同居している家族に対して、次のように伝えます。「流しに食器が3日間置いたままになっているのを見て(観察)、私はイライラしているの(感情)。台所を気持ちよく使いたいし、家事を一緒に担いたいと思っているの(ニーズ)。今夜、自分の分の食器を洗ってもらえるかな?(要求)」

表現することと受け取ること

NVCには、4つの要素を使って「自分を正直に表現する」方向と、「相手の言葉を共感をもって受け取る」方向の、2つの使い方があります[1]。相手がどんなに厳しい言葉を使っていても、その奥にある観察・感情・ニーズ・要求を聴き取ろうとするのが、後者の使い方です。

4つの要素の詳しい使い方と言い換えの例は、観察・感情・ニーズ・要求の4ステップで解説しています。

⑤共感をもって聴く

NVCでは、自分を表現することと同じくらい、相手の話を共感をもって聴くことを大切にします。

感情とニーズを推測する

相手が怒っていたり、責める言葉を使っていたりするときは、言葉そのものに反応する代わりに、「この人は今、何を感じていて、何を大切にしたいのだろう」と推測してみます。そして、推測を確かめるように問いかけます。

相手:「もう何度も言ったよね。ちゃんと聞いてないでしょ」

共感の返し方:「何度も伝えたのに、伝わっていないと感じて、がっかりしているのかな。話をちゃんと受け止めてほしいんだね」

推測が外れていてもかまいません。大切なのは、正解を当てることではなく、相手の気持ちとニーズに関心を向けていることを伝えることです。

助言や励ましとの違い

人の悩みを聴くと、私たちはつい、助言する、励ます、自分の体験を話す、慰める、説明する、といった反応をしてしまいがちです。どれも善意からの反応ですが、相手が「わかってもらえた」と感じる前にこれらをすると、かえって気持ちが置き去りにされることがあります。

まずは相手の感情とニーズを受け止め、相手が十分に聴いてもらえたと感じてから、必要であれば助言などに進みます。傾聴の具体的な練習方法は、傾聴技法とはで紹介しています。

⑥自分への共感と怒り

NVCは、相手との対話だけでなく、自分自身との向き合い方にも使えます。

自分への共感

失敗したときに「なんて自分はダメなんだ」と自分を責めるのも、自分に向けた「裁く話し方」です。NVCでは、自分を責める代わりに、「あのとき、自分はどんなニーズを満たそうとしていたのか」「今、どんなニーズが満たされずに残念に感じているのか」に目を向けます。自分を責める気持ちが和らぐと、次にどうするかを落ち着いて考えやすくなります。

怒りを表現する4つの段階

ローゼンバーグは、怒りを感じたときに、怒りをぶつける代わりに、次の順に進むことを勧めています。

1.立ち止まって、呼吸する

2.頭の中の「裁く考え」(あの人は無神経だ、など)に気づく

3.その考えの奥にある、自分のニーズにつながる

4.自分の感情と、満たされていないニーズを言葉にする

怒りは、悪いものではなく、「自分の大切なニーズが満たされていない」ことを知らせるサインだと捉えます。怒りの扱い方は、アンガーマネジメントとも組み合わせて学ぶことができます。

⑦効果と研究

NVCは世界各地で学ばれていますが、効果を調べた研究は、まだ発展途上の段階です。

共感についての研究

アメリカで、薬物依存の治療を受けている仮釈放中の男性30人を対象に、8週間のNVCの講座を行った研究では、講座の後に共感の得点が有意に高まったと報告されています[2]。また、フランスの医学部3年生312人を、NVCの研修を受けるグループと受けないグループにランダムに分けた研究では、2日半の研修から3か月後に、医師としての共感についての自己評価が、研修を受けたグループでわずかに高まりました。ただし、相手の視点に立つ力などを調べた課題では、変化は見られませんでした[3]。

研究の限界

NVCの研究をまとめた系統的レビュー[4]では、共感、対立への対処、対人関係などに良い影響が報告されている一方で、多くの研究が、対象者をランダムに分けない準実験的な方法で行われていると指摘されています。NVCの効果をより確かに示すには、厳密な方法による研究が今後さらに必要だとされています。

⑧今日からできるワーク

NVCの考え方を、日常で試せるワークを紹介します。紙に書きながら取り組んでみましょう。

評価を観察に言い換える

最近、誰かにイライラした場面を1つ思い出し、そのとき頭に浮かんだ言葉を書きます。次に、それを「ビデオカメラに映る事実」に言い換えてみましょう。

評価:「部下はやる気がない」

観察:「今週の会議で、部下は2回、資料を準備せずに参加した」

感情とニーズを書き出す

同じ場面について、「そのとき、自分はどんな気持ちだったか」と「その気持ちの奥で、何を大切にしたかったか」を書き出します。「がっかりした/仕事を一緒に進めたかった」のように、感情とニーズをセットで書くのがコツです。

感謝をNVCで伝える

NVCは、うれしかったことを伝えるときにも使えます。「ありがとう」の代わりに、「昨日、資料のまとめを手伝ってくれて(観察)、とても助かったし、うれしかった(感情)。締め切りに間に合わせたかったから(ニーズ)」と伝えてみましょう。具体的に伝えると、感謝がより相手に届きやすくなります。

⑨注意

NVCを実践するうえで、気をつけたい点をまとめます。

型どおりに話さなくてよい

4つの要素を毎回すべて、決まった順番で言う必要はありません。型を守ることにこだわると、話し方がぎこちなくなったり、相手を誘導しているように聞こえたりすることがあります。大切なのは型そのものではなく、自分と相手の感情とニーズに意識を向けることです。

また、NVCを「相手を思い通りに動かすテクニック」として使うと、本来の目的から外れてしまいます。要求は、相手が断る自由があってこそ要求です。

安全が守られない関係では

暴力や脅しがある関係では、話し合いよりも、まず自分の身の安全を守ることを優先してください。NVCで相手と向き合うことを、無理に続ける必要はありません。配偶者からの暴力については配偶者暴力相談支援センター、身の危険が迫っているときは警察(110番)に相談できます。

また、人間関係の悩みが続いて、眠れない、食欲がないなど心身の不調が長く続く場合は、医療機関や心理の専門家に相談しましょう。

⑩確認してみよう

ここまでの内容を、3つの問題で確認してみましょう。答えを考えてから、正解と解説を開いてください。

問題1

NVCの「観察」にあたる表現として、最も適切なものはどれでしょうか。

ア あなたはいつも約束に遅れる

イ 今週、約束の時間に2回、15分遅れて来た

ウ あなたは時間にルーズな人だ

問題1の正解と解説

正解はイ(今週、約束の時間に2回、15分遅れて来た)です。NVCの観察は、評価や決めつけを混ぜずに、ビデオカメラに映るような事実を述べることです。「いつも」「ルーズな人」は評価を含むため、相手は責められたと感じやすくなります。

問題2

NVCでいう「ニーズ」の説明として、最も適切なものはどれでしょうか。

ア 特定の相手にしてほしい、具体的な行動のこと

イ 誰もが持っている、安心や尊重のような大切にしたいことで、特定の人や行動に結びつかないもの

ウ 相手が満たす義務を負っているもの

問題2の正解と解説

正解はイ(誰もが持っている、安心や尊重のような大切にしたいことで、特定の人や行動に結びつかないもの)です。NVCのニーズは、安心、尊重、休息、つながりなど、誰もが持っている大切にしたいことです。特定の人にしてほしい具体的な行動は、ニーズを満たすための「手段」であり、要求として伝えます。

問題3

NVCで、「要求」と「強要」を分けるものとして、最も適切なものはどれでしょうか。

ア 言葉づかいが丁寧かどうか

イ 相手に断られたときに、相手を責めたり罰したりするかどうか

ウ お願いの内容が具体的かどうか

問題3の正解と解説

正解はイ(相手に断られたときに、相手を責めたり罰したりするかどうか)です。丁寧な言葉で頼んでも、断られたときに相手を責めたり罰したりするなら、それは強要です。NVCの要求は、相手が断る自由があることを前提にしています。断られたときは、相手のどんなニーズが「いいえ」の理由になっているのかに耳を傾けます。

⑪まとめ

NVCは、相手を裁く代わりに、観察・感情・ニーズ・要求の4つの要素に注意を向けることで、自分を正直に表現し、相手の言葉を共感をもって受け取るためのコミュニケーションの方法です。

今回のポイント

責める言葉の奥には、満たされていないニーズがある

観察・感情・ニーズ・要求の4つに注意を向ける

表現するだけでなく、共感をもって聴くことを大切にする

効果の研究は発展途上で、型より姿勢が大切

自分も相手も大切にする伝え方という点では、アサーティブコミュニケーションとも共通しています。あわせてご覧ください。

シリーズの他のコラム

NVCシリーズでは、4つの要素の具体的な使い方と言い換えの例を、次のコラムで詳しく解説しています。

NVCの4ステップとは|具体的な実践法、具体例も紹介

しっかり身につけたい方へ

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NVCとは,非暴力コミュニケーションを解説,心理学講座

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Rosenberg, M. B. (2015). Nonviolent communication: A language of life (3rd ed.). Encinitas, CA: PuddleDancer Press.(安納 献(監訳)小川 敏子(訳)(2018). NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 新版 日本経済新聞出版社)
 
[2] Marlow, E., Nyamathi, A., Grajeda, W. T., Bailey, N., Weber, A., & Younger, J. (2012). Nonviolent communication training and empathy in male parolees. Journal of Correctional Health Care, 18(1), 8-19.
 
[3] Epinat-Duclos, J., Foncelle, A., Quesque, F., Chabanat, E., Duguet, A., Van der Henst, J.-B., & Rossetti, Y. (2021). Does nonviolent communication education improve empathy in French medical students? International Journal of Medical Education, 12, 205-218.
 
[4] Danet Danet, A. (2020). La comunicación noviolenta entre teoría y práctica. Una revisión sistemática. Revista de Paz y Conflictos, 13(1), 35-55.
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