傾聴技法とは、相手の話に注意を向け、理解したことを言葉や態度で返しながら、相手が安心して話せるように聴くための技術のことです。ロジャーズら[1]は、こうした聴き方を「アクティブ・リスニング(積極的傾聴)」と呼び、職場の上司と部下の関わりにも役立つと紹介しました。
みなさんこんにちは。公認心理師,精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは「来談者中心療法シリーズ」の4本目です。来談者中心療法の基本や、提唱者ロジャーズの考え方を先に知りたい方は、来談者中心療法とはのコラムからお読みください。
傾聴技法は、来談者中心療法で特に大切にされてきた聴き方ですが、来談者中心療法だけの技法ではありません。カウンセリング全般のほか、看護・福祉・教育の現場や、職場の面談など、さまざまな領域で使われています。
目次は以下の通りです。
目次
①傾聴技法の基本と効果
傾聴技法は、ただ黙って話を聞くことではなく、「あなたの話をこう受け取りました」と相手に伝え返しながら聴く、積極的な聴き方です。まずは基本の考え方と、その効果を確認しましょう。
聞くと聴くの違い
「聞く」は、音や言葉が自然に耳に入ってくることを指します。一方「聴く」は、相手の言葉だけでなく、表情や声の調子、その奥にある気持ちにまで注意を向けて、理解しようとすることを指します。
傾聴技法は、この「聴く」を、相手に伝わる形で行うための具体的な方法です。来談者中心療法の3つの基本的態度を、実際の会話の中で表すための技術ともいえます。
技法の全体像
カウンセラーの訓練法を体系化したアイビイ[2]は、多くのカウンセリングに共通する技法を整理し、土台となる「かかわり行動」と、その上に積み重なる「基本的傾聴の連鎖」としてまとめました。このコラムでは、その考え方を参考に、次の順番で紹介します。
かかわり行動:視線・姿勢・声の調子
あいづちと繰り返し:話を受け取る
言い換えと要約:内容を整理して返す
感情の反映:気持ちを言葉にして返す
沈黙と質問:相手のペースを守る
傾聴の効果
ウェガーら(2014)[3]は、大学生に「大学生活でいちばんがっかりしたこと」について、訓練を受けた相手と短く会話してもらう実験を行いました。その結果、言い換えなどの積極的傾聴を受けた人は、助言を受けた人や、簡単なあいづちだけを受けた人に比べて、「理解してもらえた」と感じる度合いが高くなっていました。
ただし、この研究は初対面の短い会話を調べたもので、長い付き合いの中でも同じ効果があるかは、この研究だけでは分かりません。
②かかわり行動の基本
かかわり行動とは、言葉を使う前の「聴いていますよ」という姿勢を、体や声で表すことです。傾聴のすべての土台になる部分なので、最初に整えておきましょう。
視線・姿勢・声の調子
相手のほうに体を向け、適度に視線を合わせます。じっと見つめ続けると圧迫感を与えるので、ときどき視線を外しても構いません。
腕を組む、スマートフォンを触るといった動作は、話を聴いていない印象を与えやすいので控えます。
声は、相手の話す速さや声の大きさに合わせるのが基本です。相手がゆっくり静かに話しているときは、こちらも落ち着いたトーンで返します。
相手の話についていく
かかわり行動では、話題を勝手に変えないことも大切です。「そういえば私も…」と自分の話に切り替えたくなっても、まずは相手の話題についていきます。
自分の体験を話すのは、相手の話が一区切りついてからでも遅くありません。相手が話したいことを最後まで話せたという感覚が、安心感につながります。
③あいづちと繰り返し
あいづちと繰り返しは、相手の話を受け取っていることを、短い言葉で伝える技法です。もっとも基本的で、今日からすぐに使える技法でもあります。
あいづちの種類
あいづちには、「うん」「はい」といった短い言葉のほか、「そうなんですね」「それで?」と話を先に促す言葉があります。うなずきや表情など、言葉以外の反応と組み合わせると、より伝わりやすくなります。
同じあいづちばかりを続けると、聞き流しているような印象を与えることがあります。話の内容に合わせて、いくつかの種類を使い分けましょう。
繰り返し(オウム返し)
繰り返しとは、相手の言葉の中から大切な部分を選び、そのまま返す技法です。たとえば、相手が「最近、夜に眠れないんです」と言ったら、「夜に眠れないんですね」と返します。
相手は自分の言葉を聞き直すことで、話を整理しやすくなります。ただし、毎回すべてを繰り返すと不自然になるので、気持ちや大切な言葉に絞って返すのがコツです。
④言い換えと要約
言い換えと要約は、相手の話の内容を、聴き手の言葉で整理して返す技法です。「こういうことですか?」と確かめることで、聴き手の理解が正しいかどうかを、相手と一緒に確認できます。
言い換えのやり方
言い換えでは、相手の話の要点を、意味を変えずに自分の言葉で短く返します。最後に「〜ということですか?」と確認の形をとると、相手が訂正しやすくなります。
相手:「仕事を頼まれると断れなくて、気づくと自分の仕事が終わらないんです」
言い換えの例:「頼まれると引き受けてしまって、自分の仕事が後回しになっているということですか?」
要約のタイミング
要約は、話が長くなったときや、話題が変わる前に、それまでの内容をまとめて返す技法です。「ここまでのお話をまとめると…」と区切ることで、相手は自分の話を全体として見直すことができます。
要約は話の最後だけでなく、話が行ったり来たりしているときにも役立ちます。ただし、相手が話している途中でさえぎって要約しないよう、話の切れ目を待ちましょう。
⑤気持ちを返す感情の反映
感情の反映とは、相手の話の奥にある気持ちを感じ取り、言葉にして返す技法です。出来事よりも気持ちに焦点を当てるため、「分かってもらえた」という感覚がもっとも伝わりやすい技法とされています。
気持ちを言葉にする
感情の反映では、「〜と感じているんですね」「〜で不安なんですね」のように、相手の気持ちを表す言葉を入れて返します。相手がはっきり口にしていない気持ちでも、表情や声の調子から感じ取れることがあります。
ただし、気持ちを決めつけないことが大切です。「悲しいんですね」と言い切るより、「悲しい気持ちもあるのかな」と、相手が訂正できる余地を残した言い方にします。
練習問題
次の2つの発言に、感情の反映で返す言葉を考えてみましょう。
事例1:「せっかく準備した企画が、会議で一言で却下されました」
続いて、もう1つの事例にも取り組んでみましょう。
事例2:「来月から一人暮らしなんです。楽しみだけど、ちゃんとやれるかな」
感情を表す言葉を増やす
感情の反映が難しいと感じる理由の1つは、気持ちを表す言葉の少なさです。「つらい」だけでなく、次のような言葉を使い分けられると、返し方の幅が広がります。
不安・心配・焦り・緊張
悔しい・がっかり・むなしい
寂しい・心細い・取り残された感じ
ほっとした・うれしい・誇らしい
一人で練習するときは、ドラマや動画の登場人物の発言を聞いて、その人の気持ちを言葉にしてみる方法もあります。
⑥沈黙の待ち方と質問
沈黙と質問は、相手のペースを守りながら、話を深めていくための技法です。どちらも使い方しだいで、相手を助けることも、追い詰めることもあるので、ポイントを押さえておきましょう。
沈黙を待つ
相手が黙り込んだとき、すぐに言葉で埋める必要はありません。沈黙の間に、相手は自分の考えや気持ちを整理していることがあります。
焦らずに待つ姿勢が、安心感につながります。
相手が考えている様子なら、少し長めに待ってみます。それでも言葉が出ないときは、「ゆっくりで大丈夫ですよ」と声をかけると、相手は自分のペースで話を続けやすくなります。
開かれた質問と閉ざされた質問
質問には、「はい・いいえ」で答えられる「閉ざされた質問」と、自由に答えられる「開かれた質問」があります。話を深めたいときは、開かれた質問が役立ちます。
閉ざされた質問:「仕事はつらいですか?」
開かれた質問:「仕事はどんな感じですか?」
一方で、「なぜ?」「どうして?」を続けると、責められているように感じさせることがあります。「どんなことがあったんですか?」のように、出来事や気持ちを尋ねる聞き方を心がけましょう。
⑦ロールプレイの進め方
傾聴技法は、本で読むだけでは身につきにくく、実際に話す・聴く経験を重ねることで上達します。ここでは、身近な人と取り組める練習方法を紹介します。
3人1組のロールプレイ
3人1組になり、「話し手」「聴き手」「観察者」の役割を交代しながら練習します。話し手は、最近あった小さな出来事など、話しても負担の少ない話題を選びます。
①話し手が3分間、自由に話す
②聴き手は技法を1つ決めて聴く
③観察者は聴き手の様子をメモする
④3人で感想を伝え合い、役割を交代
1回の練習で使う技法は、1つか2つに絞るのがコツです。「今日は感情の反映だけ」と決めると、意識しやすくなります。
ふりかえりのポイント
練習のあとは、話し手が「どの返し方で話しやすくなったか」を具体的に伝えると、聴き手の学びが深まります。観察者は、表情や姿勢など、聴き手自身が気づきにくい点を伝えます。
うまくできなかった点だけでなく、よかった点も必ず伝え合いましょう。安心して練習できる雰囲気が、上達の近道になります。
⑧聴くときの注意点
傾聴技法は日常で役立ちますが、技法に頼りすぎたり、聴き手が無理をしたりすると、かえってうまくいかないことがあります。注意点も知っておきましょう。
技法より態度を大切に
技法を形だけまねても、相手を理解しようとする気持ちがなければ、相手には伝わりません。技法は、3つの基本的態度を相手に伝えるための道具だと考えましょう。
3つの基本的態度について詳しく知りたい方は、3つの基本的態度のコラムをご覧ください。
一人で抱え込まない
身近な人の話を聴く中で、命に関わる話や、暴力・虐待が疑われる話が出ることがあります。このような場合は、傾聴だけで一人で抱え込まず、医療機関や専門の相談窓口につなぐことが大切です。
聴き手自身が疲れを感じたときは、無理をせず休むことも大切です。自分の心の状態に気を配ることも、よい聴き手であるための条件の1つです。
⑨よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。
来談者中心療法の考え方
傾聴と共感の練習
あいづち・言い換えの実践
はじめての心理療法
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)
個別レッスン
個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースで傾聴技法を深めたい方は、下記をご参照ください。
シリーズの続きを読む
傾聴の土台になる「自己一致」「無条件の肯定的配慮」「共感的理解」の意味や、よくある誤解を知りたい方は、こちらのコラムがおすすめです。
傾聴の考え方を、自分自身の内側の感覚に向けて使う方法を知りたい方は、ロジャーズの共同研究者が体系化したこちらの技法をご覧ください。
シリーズでは他に、傾聴の考え方をグループで活かすエンカウンターグループや、感情を手がかりに変化をめざす感情焦点化療法も紹介しています。
他にも数多くの心理療法があります。ご自身の興味やお悩みに合った理論をじっくり探したい方は、一覧から選んでみてください。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




