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悲哀への対応

IPTにおける悲哀への対応とは,意味と具体例

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。

このコラムは、対人関係療法シリーズの2本目です。「悲哀への対応」をテーマに解説していきます。

IPTにおける悲哀とは、対人関係療法(IPT)の4つの問題領域の一つで、大切な人を亡くした後の悲しみのプロセスがうまく進まず、気分の落ち込みが長く続いている状態のことです。対人関係療法では、悲しみを十分に感じ、故人との関係を振り返りながら、新しい人間関係や生活を少しずつ築いていくことを支えます。

今回は、悲哀への対応の考え方と進め方、自分でできる振り返りの方法を、具体例とともに解説します。目次は以下の通りです。

目次

①悲哀とは

大切な人を亡くしたときに悲しみを感じるのは、自然なことです。対人関係療法が問題領域として扱うのは、その悲しみのプロセスが、うまく進まなくなっている場合です。

自然な悲しみ

大切な人を亡くすと、深い悲しみ、寂しさ、怒り、後悔など、さまざまな気持ちが湧いてきます。眠れない、食欲がないといった体の反応が出ることもあります。こうした反応は、多くの場合、時間とともに少しずつ和らぎ、故人を思い出しながらも、日常の生活に戻っていきます。

悲しみが進まないとき

一方で、悲しみを感じないようにふたをしてしまったり、反対に、強い悲しみが長く続いて生活に戻れなかったりすることがあります。対人関係療法では、こうした状態が、気分の落ち込みと深く関わっていると考えます[1]。

②悲しみが滞る理由

悲しみのプロセスが滞る背景には、いくつかの理由があると考えられています。

気持ちを表現する場がない

周りに心配をかけたくない、泣いてはいけないと思い、悲しみを誰にも話せずにいると、気持ちが整理されないまま残ってしまうことがあります。

複雑な気持ちを抱えている

故人との関係に、感謝だけでなく、怒りや後悔などの複雑な気持ちがあると、「亡くなった人を悪く思ってはいけない」と、その気持ちを押し込めてしまうことがあります。対人関係療法では、良い面も、つらかった面も、どちらも大切な故人との関係の一部として振り返ります。

③IPTでの進め方

対人関係療法では、悲哀に対して、主に2つの目標に沿って取り組みます。

目標1 悲しみのプロセスを進める

亡くなる前後の出来事を、順を追って振り返る

故人との思い出を、良かったことも、つらかったことも話す

悲しみ、怒り、後悔などの気持ちを、言葉にして表現する

目標2 新しい関係と生活を築く

悲しみを十分に感じられるようになったら、故人がいない今の生活の中で、人とのつながりや、打ち込めることを少しずつ取り戻していきます。故人を忘れるのではなく、心の中に大切に置いたまま、前に進んでいくことを目指します。

セラピストの役割

セラピストは、悲しみを急いで終わらせようとせず、安心して気持ちを話せる場をつくります。話すのがつらいときは、ペースを調整しながら進めます。

④自分でできる振り返り

つらさが強くない場合は、次のような振り返りを、自分のペースで試してみることもできます。苦しくなったら、いつでもやめて構いません。

思い出を書き出す

故人と過ごした、印象に残っている場面

故人に感謝していること

故人に言えなかったこと、伝えたかったこと

話せる人を見つける

家族や友人の中で、故人の話を一緒にできる人を見つけてみましょう。思い出を語り合うことは、悲しみのプロセスを進める大切な助けになります。同じ経験をした人が集まる遺族の会などもあります。

小さな日常を取り戻す

散歩をする、好きだった趣味に少しだけ触れる、友人とお茶をするなど、無理のない範囲で、小さな日常の活動を一つずつ再開してみましょう。

⑤具体例で確認

悲哀への対応の流れを、理解のために作成した架空の例で見てみましょう。

母を亡くしたAさん

Aさんの例

50代のAさんは、半年前に長く介護してきた母を亡くしました。葬儀の後も涙が出ず、仕事に打ち込んでいましたが、次第に眠れなくなり、気分の落ち込みが続くようになりました。

面接では、母の最期の数か月を振り返る中で、介護で疲れて母にきつく当たってしまった後悔が語られました。後悔と感謝の両方を言葉にするうちに、Aさんは初めて母を思って泣くことができました。

その後、母が好きだった花を育て始め、母の友人とも連絡をとるようになりました。少しずつ眠れるようになり、気分も軽くなっていきました。

例から分かること

Aさんは、悲しみや後悔にふたをすることで、かえって落ち込みを長引かせていました。気持ちを言葉にして表現し、故人とのつながりを形を変えて保ちながら、新しい生活を築いていくことが、回復につながっています。

⑥取り組むときの注意

大切な人を亡くした後の悲しみに向き合うことは、とてもつらい作業です。次の点に気をつけましょう。

無理をしない

悲しみのペースは人それぞれです。「早く元気にならなければ」と焦る必要はありません。思い出すのがつらすぎるときは、無理に振り返らず、休むことを優先しましょう。

専門家に相談する目安

亡くなってから長い期間(大人の場合、1年以上が一つの目安)がたっても、強い悲しみが続き、日常生活に大きな支障が出ている場合は、「遷延性悲嘆症」と呼ばれる状態の可能性もあります。気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、食欲がない、死にたい気持ちがある、といった場合は、一人で抱え込まず、医療機関や専門家に相談してください。すぐに話を聞いてほしいときは、電話やSNSの相談窓口を頼ることもできます。

⑦まとめ

悲哀への対応は、大切な人を亡くした後の悲しみのプロセスを進め、故人とのつながりを心に置いたまま、新しい関係と生活を築いていくことを支える、対人関係療法の取り組みです。

今回のポイント

悲しみは自然な反応。問題になるのは、プロセスが滞ったとき

故人との関係の良い面もつらい面も振り返る

気持ちを言葉にし、話せる人とつながる

強い悲しみが長く続くときは、専門家に相談する

シリーズの他のコラム

対人関係療法シリーズでは、4つの問題領域を一つずつ詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

対人関係療法とは|IPTの基礎と具体例を解説

IPTにおける役割不和とは|対処法を解説

IPTにおける役割の変化とは|適応法を解説

IPTにおける対人関係の欠如とは|意味と具体例を解説

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Weissman, M. M., Markowitz, J. C., & Klerman, G. L. (2000). Comprehensive guide to interpersonal psychotherapy. New York: Basic Books.
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