みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは、対人関係療法シリーズの3本目です。「役割不和」をテーマに解説していきます。
IPTにおける役割不和(役割をめぐる不和)とは、対人関係療法(IPT)の4つの問題領域の一つで、夫婦や親子、職場の人など身近な人との間で、お互いに相手に期待している役割がすれ違い、争いやわだかまりが続いている状態のことです。対人関係療法では、すれ違いの中身を整理し、伝え方を工夫しながら、期待を調整していくことを支えます。
今回は、役割不和の考え方と、IPTでの対処の進め方、自分でできる整理の方法を、具体例とともに解説します。目次は以下の通りです。
①役割不和とは
役割不和は、身近な人との関係で、もっともよく見られる問題領域の一つです。
期待のすれ違い
私たちは、身近な人に、「夫なら家事も分担してほしい」「部下ならもっと報告してほしい」といった役割を、知らず知らずのうちに期待しています。お互いの期待が食い違ったまま、話し合いがうまくいかないと、争いやわだかまりが続き、気分の落ち込みにつながることがあります。
よくある場面
夫婦:家事や育児の分担、お金の使い方
親子:進路や生活習慣をめぐる考えの違い
職場:仕事の進め方や評価をめぐる上司とのすれ違い
②不和の3つの段階
対人関係療法では、役割不和を、関係の状態によって3つの段階に分けて考えます[1]。どの段階にあるかによって、取り組み方が変わります。
3つの段階
再交渉:まだ話し合いが続いており、お互いに何とかしようとしている
行き詰まり:話し合いが止まり、あきらめや冷たい関係が続いている
離別:関係を終わらせる方向に向かっている
段階ごとの目標
再交渉の段階では、話し合いをより実りあるものにすることを目指します。行き詰まりの段階では、止まっている話し合いを再開できるようにします。離別の段階では、関係の終わりを受け入れ、新しい生活に向かうことを支えます。
③IPTでの進め方
対人関係療法では、次のような流れで役割不和に取り組みます。
争点をはっきりさせる
「何について、誰と、どのように、すれ違っているのか」を整理します。漠然と「夫とうまくいかない」ではなく、「平日の夕食の準備を誰がするか」のように、具体的な争点にしていきます。
期待のずれを整理する
自分は相手に何を期待しているのか、相手は自分に何を期待していそうか、それぞれを書き出します。期待のどこが食い違っているのか、どこなら歩み寄れそうかが見えてきます。
伝え方を練習する
これまでの話し合いで、どんな言い方をしていたかを振り返り、より伝わりやすい言い方を一緒に考えます。面接の中で、セラピストを相手に練習(ロールプレイ)してから、実際の場面で試してみます。
④期待のずれシート
役割不和を整理するために、一人でも使えるシートを紹介します。紙に書きながら取り組んでみましょう。
シートの項目
①相手:誰とのすれ違いか
②争点:何についてすれ違っているか
③自分の期待:相手にどうしてほしいか
④相手の期待(想像):相手は自分にどうしてほしそうか
⑤歩み寄れる点:お互いに少しずつゆずれることは何か
伝えるときのコツ
話し合うときは、相手を責める「あなたは〜しない」ではなく、「私は〜してもらえると助かる」と、自分を主語にして伝えましょう。気持ちと、具体的なお願いをセットで伝えるのがポイントです。伝え方は、アサーティブコミュニケーションのコラムも参考になります。
⑤具体例で確認
役割不和への対処の流れを、理解のために作成した架空の例で見てみましょう。
家事の分担でもめるBさん
例から分かること
争点を具体的にし、お互いの期待を整理することで、責め合いから、話し合いへと変わっています。すべてが自分の思い通りになるわけではありませんが、歩み寄れる点を見つけることで、関係と気分の両方が改善しています。
⑥取り組むときの注意
役割不和に取り組むときは、次の点に気をつけましょう。
暴力がある場合は安全を優先
相手から暴力や暴言、脅しを受けている場合は、話し合いで歩み寄ることよりも、まず自分の安全を確保することが大切です。配偶者暴力相談支援センターなどの相談窓口や、信頼できる人に相談しましょう。
一人で抱え込まない
関係の悩みが長く続き、気分の落ち込みが強い場合は、専門家と一緒に取り組むことをおすすめします。気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、食欲がない、死にたい気持ちがある、といった場合は、一人で抱え込まず、医療機関や専門家に相談してください。すぐに話を聞いてほしいときは、電話やSNSの相談窓口を頼ることもできます。
⑦まとめ
役割不和は、身近な人との間で期待がすれ違い、争いが続いている状態です。対人関係療法では、争点と期待のずれを整理し、伝え方を工夫しながら、歩み寄れる点を探していきます。
今回のポイント
再交渉、行き詰まり、離別の3つの段階を見極める
争点を具体的にし、お互いの期待を書き出す
「私は〜してもらえると助かる」と伝える
暴力がある場合は、まず安全を確保する
シリーズの他のコラム
対人関係療法シリーズでは、4つの問題領域を一つずつ詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




