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役割の変化への適応

IPTにおける役割の変化とは,適応法

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。

このコラムは、対人関係療法シリーズの4本目です。「役割の変化」をテーマに解説していきます。

IPTにおける役割の変化とは、対人関係療法(IPT)の4つの問題領域の一つで、就職、結婚、出産、転勤、退職、病気など、生活の大きな変化に伴う新しい役割にうまく適応できず、気分の落ち込みが続いている状態のことです。対人関係療法では、古い役割を手放し、新しい役割に慣れていくことを支えます。

今回は、役割の変化への適応の進め方と、自分でできる整理の方法を、具体例とともに解説します。目次は以下の通りです。

目次

①役割の変化とは

人生の節目には、うれしい変化であっても、心に負担がかかることがあります。

変化に伴う喪失

新しい役割を得るとき、私たちは、それまでの役割を手放しています。例えば、出産で親になるとき、自由に使えた時間や、仕事中心の生活を手放すことになります。こうした「失ったもの」に気づかないまま、新しい役割に適応しようとすると、気分が落ち込むことがあります。

よくある変化

仕事:就職、転職、昇進、異動、退職

家族:結婚、出産、子どもの独立、離婚

生活:引っ越し、病気やけが、介護の始まり

②適応が難しくなる理由

役割の変化にうまく適応できない背景には、いくつかの理由があります。

古い役割への思い

慣れ親しんだ役割には、居心地の良さや、周りとのつながりがありました。それを失った悲しみが整理されないままだと、新しい役割を前向きに受け入れにくくなります。

新しい役割への戸惑い

新しい役割に必要なスキルや、支えてくれる人間関係が、まだ十分にないことも、適応を難しくします[1]。「うまくできない自分」を責めてしまうと、さらに落ち込みやすくなります。

③IPTでの進め方

対人関係療法では、次の4つのステップで、役割の変化に取り組みます。

古い役割を振り返る

以前の役割の、良かった点と、大変だった点の両方を振り返ります。良い面ばかりを思い出していると、今の役割が実際以上につらく感じられることがあるためです。

失ったものを悲しむ

変化によって失ったものに気づき、その悲しみや寂しさを、言葉にして表現します。

新しい役割の良さを探す

新しい役割の大変な点だけでなく、良い点や、新しく得られたものにも目を向けます。

スキルと支えを得る

新しい役割に必要なスキルを身につけたり、相談できる人や、同じ立場の仲間とのつながりをつくったりします。

④変化の比較表

役割の変化を整理するために、一人でも使える比較表を紹介します。紙に書きながら取り組んでみましょう。

比較表の項目

以前の役割で、良かったこと

以前の役割で、大変だったこと

新しい役割で、大変なこと

新しい役割で、良いこと・得られたもの

書いた後に

4つの欄を見比べて、「失ったもの」と「得たもの」の両方を確認しましょう。そのうえで、新しい役割に慣れるために、今週できる小さな行動(相談できる人に連絡する、必要なことを一つ調べるなど)を決めてみてください。

⑤具体例で確認

役割の変化への適応の流れを、理解のために作成した架空の例で見てみましょう。

定年退職したCさん

Cさんの例

変化:40年勤めた会社を定年退職

以前の良かった点:仕事の達成感、同僚とのつながり

以前の大変な点:長時間労働、休日の少なさ

新しい役割の大変な点:毎日やることがなく、誰とも話さない日がある

新しい役割の良い点:時間の自由、家族と過ごせる時間

Cさんは、退職後に気分が落ち込み、家にこもりがちになっていました。比較表を書く中で、仕事の達成感と同僚とのつながりを失った寂しさに気づきました。その後、地域のボランティアに参加し、新しい仲間と役割を得たことで、少しずつ気分が回復していきました。

育休から復帰したDさん

Dさんの例

Dさんは、育児休業から職場に復帰しましたが、以前のように残業ができず、「仕事ができない人だと思われている」と落ち込んでいました。

面接で、以前の働き方を手放した悲しみを話し、今の働き方の良い点(時間内に集中して終わらせる力がついたこと)にも気づきました。上司に勤務時間の事情を伝え、同じ立場の同僚と情報交換するようになると、気持ちが楽になっていきました。

⑥取り組むときの注意

役割の変化に取り組むときは、次の点に気をつけましょう。

変化に慣れるには時間がかかる

新しい役割に慣れるには、数か月から1年以上かかることもあります。すぐに適応できない自分を責める必要はありません。少しずつ慣れていけば大丈夫です。

専門家に相談する目安

出産後の気分の落ち込みや、病気の診断を受けた後の落ち込みなどは、専門的な支援が役立つことが多いものです。気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、食欲がない、死にたい気持ちがある、といった場合は、一人で抱え込まず、医療機関や専門家に相談してください。すぐに話を聞いてほしいときは、電話やSNSの相談窓口を頼ることもできます。

⑦まとめ

役割の変化は、生活の大きな変化に伴う新しい役割にうまく適応できず、落ち込みが続いている状態です。対人関係療法では、古い役割を振り返って手放し、新しい役割の良さを見つけ、スキルと支えを得ることを支えます。

今回のポイント

うれしい変化にも、失うものがある

古い役割の良い面と大変な面の両方を振り返る

新しい役割の良さと、得られたものに目を向ける

相談できる人や仲間とのつながりをつくる

シリーズの他のコラム

対人関係療法シリーズでは、4つの問題領域を一つずつ詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

対人関係療法とは|IPTの基礎と具体例を解説

IPTにおける悲哀への対応とは|意味と具体例を解説

IPTにおける役割不和とは|対処法を解説

IPTにおける対人関係の欠如とは|意味と具体例を解説

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Weissman, M. M., Markowitz, J. C., & Klerman, G. L. (2000). Comprehensive guide to interpersonal psychotherapy. New York: Basic Books.
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