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文脈としての自己

文脈としての自己とは,ACTの核心概念

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。

このコラムは、ACTシリーズの5本目です。「文脈としての自己」をテーマに解説していきます。

文脈としての自己とは、次々と浮かんでは消えていく考えや気持ち、体の感覚に「気づいている自分」のことです。ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)では「観察する自己」とも呼ばれ、どんなつらい体験も、それを眺める視点そのものは傷つかない、という考え方を支えています。

今回は、少し抽象的な「文脈としての自己」を、たとえとワークを使って分かりやすく解説します。目次は以下の通りです。

目次

①文脈としての自己とは

文脈としての自己は、ACTの6つのコアプロセスの中でも、特に分かりにくいと言われる概念です。まずは、その意味をかみくだいて確認しましょう。

「気づいている自分」

今、このコラムを読みながら、さまざまな考えが浮かんでいると思います。「難しそうだな」「最後まで読めるかな」。こうした考えが浮かんでいることに、あなたは気づいていますね。この「気づいている側の自分」が、文脈としての自己です。

ヘイズら[1]は、考えや気持ちは変わり続けても、それに気づいている視点は、子どもの頃から今まで変わらずに続いていると説明しています。

なぜ「文脈」なのか

「文脈」とは、物事が起こる「場」や「背景」のことです。考えや気持ちは、その場の中で起こる出来事です。文脈としての自己は、出来事そのものではなく、出来事が起こる「場」としての自分を指しているのです。

②3つの「自己」

ACTでは、「自分」の捉え方を3つに分けて考えます。違いを知ると、文脈としての自己が理解しやすくなります。

概念としての自己

「私は人見知りだ」「私は数学が苦手だ」のように、自分について言葉で作った説明のことです。こうした説明は役に立つこともありますが、強く信じすぎると、「人見知りだから、人と話せない」と、行動の幅を狭めてしまうことがあります。

プロセスとしての自己

「今、緊張している」「今、お腹がすいている」のように、今この瞬間の考えや気持ちに気づいている自分です。刻々と変わる体験を、その都度とらえる働きです。

文脈としての自己

上の2つをさらに外側から見ている、「気づいている視点」そのものです。「人見知りの私」も「緊張している私」も、すべてこの視点の中で起こっている体験だと捉えます。

③たとえで理解する

文脈としての自己は、言葉だけでは分かりにくいため、ACTではよくたとえ話を使います。代表的な2つを紹介します。

チェス盤のたとえ

チェス盤の上で、白い駒(良い考えや気持ち)と黒い駒(つらい考えや気持ち)が戦っているとします[2]。白い駒の味方をして黒い駒を倒そうとすると、終わりのない戦いが続きます。

しかし、あなたは駒ではなく、チェス盤そのものだとしたらどうでしょう。盤は、どちらの駒が勝っても傷つかず、すべての駒を支えています。この「チェス盤」が、文脈としての自己です。

文脈としての自己,チェス盤のたとえ

空と天気のたとえ

空には、晴れの日も、嵐の日もあります。しかし、どんなに激しい嵐でも、空そのものが壊れることはありません。考えや気持ちは天気、文脈としての自己は空にたとえられます。雲の上には、いつも変わらない空が広がっているのです。

④観察する自己のワーク

文脈としての自己は、頭で理解するよりも、体験することで分かってきます。ここでは、5分ほどでできる2つのワークを紹介します。

気づいている自分に気づく

①楽な姿勢で座り、目を閉じる

②聞こえてくる音に気づく。「その音に気づいている自分がいる」と意識する

③体の感覚に気づく。「その感覚に気づいている自分がいる」と意識する

④浮かんでくる考えに気づく。「その考えに気づいている自分がいる」と意識する

⑤音も、感覚も、考えも変わっていくが、気づいている自分はずっとここにいることを感じる

昔の自分を思い出す

10歳の頃の自分を思い出してみてください。体も、考え方も、好きなものも、今とは大きく違うはずです。それでも、「あのとき、あの景色を見ていたのは自分だ」という感覚がありますね。体や考えは変わっても、ずっと続いている「見ている自分」。それが、文脈としての自己です。

⑤日常での活かし方

文脈としての自己の視点を持つと、つらい考えや気持ちに飲み込まれにくくなります。日常での活かし方を2つ紹介します。

レッテルから離れる

「私は〜な人間だ」という考えが浮かんだら、「『私は〜な人間だ』という考えに、気づいている自分がいる」と言い換えてみます。自分についての説明は、自分そのものではなく、自分の中に浮かんだ考えの一つにすぎないと気づくことで、新しい行動を選びやすくなります。

つらいときの足場にする

強い不安や悲しみに襲われたときも、「この気持ちに気づいている自分がいる」と意識すると、気持ちの渦の中に、少しだけ落ち着ける足場ができます。空が嵐を抱えながらも壊れないように、気持ちを抱えながらも、自分は大丈夫だと感じられることがあります。

⑥場面で使ってみよう

文脈としての自己の視点を、2つの場面で使ってみましょう。考えた後に、解説を開いて確認してください。

場面1 「私は人見知りだ」

新しい職場の歓迎会に誘われたが、「私は人見知りだから、行っても楽しめない」と思い、断ろうとしている。

場面1の解説

「私は人見知りだ」は、自分についての説明(概念としての自己)です。「『私は人見知りだ』という考えに、気づいている自分がいる」と言い換えてみましょう。説明は自分そのものではないと気づくと、「緊張はするけれど、少しだけ参加してみよう」という選択肢が見えてきます。

場面2 試験前の強い不安

資格試験の前日、不安で胸が苦しく、「全部ダメになる」という考えが頭から離れない。

場面2の解説

「この不安と、この考えに、気づいている自分がいる」と意識します。空と天気のたとえを思い出し、不安は今の「天気」で、自分は嵐を抱えている「空」だとイメージします。不安を消そうとせずに、そのまま抱えながら、明日の持ち物を準備するなど、今できることに取り組みます。

場面に共通するポイント

どちらの場面でも、考えや気持ちを否定したり消したりせず、「それに気づいている自分」の視点に立っています。この視点に立つことで、考えや気持ちがあるままで、自分の行動を選びやすくなるのです。

⑦取り組むときの注意

文脈としての自己のワークは、多くの人にとって安全に取り組めるものですが、次の点に気をつけましょう。

不安が強まったらやめる

目を閉じて内側に注意を向けるワークで、かえって不安が強くなったり、現実感が薄れるような感覚になったりする人もいます。そのときは、目を開けて、足の裏の感覚や周りの景色に注意を戻し、ワークを中断してください。

専門家と取り組む場合

解離の症状がある方や、トラウマの影響が強い方は、一人でワークを行うより、ACTを学んだ専門家と一緒に取り組むことをおすすめします。

⑧まとめ

文脈としての自己とは、変わり続ける考えや気持ちに「気づいている視点」としての自分のことです。この視点を持つことで、つらい体験に飲み込まれずに、大切な行動を選びやすくなります。

今回のポイント

考えや気持ちは天気、文脈としての自己は空

自分についての説明は、自分そのものではない

「気づいている自分がいる」と意識してみる

不安が強まったら、目を開けてワークを中断する

シリーズの他のコラム

ACTシリーズでは、基本の考え方から、6つのコアプロセスの実践までを解説しています。あわせてご覧ください。

ACTとは|アクセプタンス&コミットメント療法を解説

脱フュージョンとは|ACTの実践ワークを解説

アクセプタンスとは|ACTの実践法を解説

価値の明確化とは|ACTのワークと具体例を解説

セルフコンパッションとは|ACTとの関係

ACTの6つのコアプロセスとは|全体像を解説

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。

・ACTの基礎,エクササイズ

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文脈としての自己とは,ACTの核心概念,心理学講座

講座の日程が合わない方や、自分のペースで学びたい方は、個別レッスンのご相談も受け付けています。

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Hayes, S. C., Strosahl, K. D., & Wilson, K. G. (1999). Acceptance and commitment therapy: An experiential approach to behavior change. New York: Guilford Press.
 
[2] Harris, R. (2009). ACT made simple: An easy-to-read primer on acceptance and commitment therapy. Oakland, CA: New Harbinger.
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