みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは、ゲシュタルト療法シリーズの2本目です。「エンプティチェア技法」をテーマに解説していきます。
エンプティチェア技法とは、誰も座っていない椅子に、話したい相手や自分の中のある気持ちが座っていると想像し、語りかけたり、椅子を移ってその立場から答えたりする、ゲシュタルト療法の代表的な技法です。言えなかった気持ちを表現したり、心の中の葛藤を整理したりするために用いられます。
今回は、エンプティチェア技法の2つの使い方と進め方、一人でも試せる軽いワークを解説します。目次は以下の通りです。
目次
①エンプティチェア技法とは
エンプティチェアは「空の椅子」という意味です。まずは、この技法の基本と、何を目指すのかを確認しましょう。
空の椅子と対話する
エンプティチェア技法では、自分の向かいに空の椅子を置き、そこに相手が座っているとイメージして話しかけます[1]。頭の中で考えるだけでなく、実際に声に出して語りかけ、ときには椅子を移って相手として答えることで、気持ちを「今ここ」で体験していきます。
目指すこと
この技法の目的は、相手を変えることではなく、自分の中にある気持ちに気づき、表現することです。言えなかった気持ちを言葉にしたり、相手の立場に立ってみたりすることで、心に引っかかっていた「未完了の問題」に区切りをつけていきます。

②2つの使い方
エンプティチェア技法には、大きく分けて2つの使い方があります。
相手との対話
亡くなった家族、けんか別れした友人、言いたいことが言えなかった上司など、心に引っかかっている相手を椅子に座らせ、伝えられなかった気持ちを語りかけます。相手が実際にその場にいないからこそ、安心して本音を表現できることがあります。
自分の中の対話
「頑張らなきゃ」と自分を責める自分と、「もう疲れた」と感じている自分のように、心の中で対立している2つの気持ちを、2つの椅子に分けて座らせ、対話させます。この使い方は「ツーチェア(2つの椅子)技法」とも呼ばれます。
③なぜ効果があるのか
空の椅子に話しかけるだけで、なぜ心に変化が起きるのでしょうか。主な理由を2つ紹介します。
気持ちを「今ここ」で体験する
「あのとき悲しかった」と過去の話として説明するのと、目の前の相手に「あなたがいなくなって、本当に悲しかった」と語りかけるのとでは、湧き上がる気持ちの強さがまったく違います。気持ちを今ここで体験し、表現しきることで、心に区切りがつきやすくなると考えられています。
視点を入れ替える
椅子を移って相手の立場から話してみると、「相手にも事情があったのかもしれない」「本当は自分を心配していたのかもしれない」と、新しい見方に気づくことがあります。自分の中の対話でも、責める側と責められる側を入れ替えることで、両方の気持ちを理解し、折り合いをつけやすくなります。
④進め方の6ステップ
専門家と行う場合の、一般的な進め方を紹介します。実際の進め方は、セラピストや相談の内容によって変わります。
ステップ1 相手を決める
話したい相手や、対話させたい2つの気持ちを決めます。最初は、強いつらさを伴わないテーマから始めます。
ステップ2 椅子に座らせる
空の椅子に相手が座っている様子を、表情や服装まで具体的にイメージします。
ステップ3 語りかける
相手に向かって、今の気持ちを声に出して伝えます。「あなたは」ではなく、「私は〜と感じている」と、自分を主語にして話すのがポイントです。
ステップ4 椅子を移る
相手の椅子に移り、相手になったつもりで、今の言葉に答えます。
ステップ5 対話をくり返す
元の椅子に戻り、相手の答えを受けて、また語りかけます。気持ちが十分に表現できるまで、何度かくり返します。
ステップ6 振り返る
最後に椅子から離れ、どんな気持ちに気づいたか、何が変わったかを振り返ります。終わった後は、深呼吸をするなどして、気持ちを落ち着けてから日常に戻ります。
⑤具体例で確認
2つの使い方を、具体例で見てみましょう。どちらも理解のために作成した架空の例です。
例1 亡くなった父との対話
私:「お父さん、最後にありがとうって言えなかったことが、ずっと心残りだった」
(椅子を移って)父:「そんなこと、気にしなくていい。お前の気持ちは伝わっていたよ」
私:「そう言ってもらえて、少し楽になった。本当にありがとう」
言えなかった感謝を言葉にし、父の立場からの言葉を聞くことで、心の引っかかりが少しずつほどけていきます。このようなテーマは強い感情を伴いやすいため、専門家と一緒に行うのが基本です。
例2 頑張る自分と疲れた自分
頑張る自分:「もっと頑張らないと、みんなに置いていかれるよ」
(椅子を移って)疲れた自分:「もう限界なんだ。少し休ませてほしい」
頑張る自分:「そうか、ずっと無理をさせていたんだね」
疲れた自分:「休んだら、また頑張れると思う」
対立していた2つの気持ちが対話することで、「休むことも、頑張り続けるために必要だ」という折り合いが見えてきます。
⑥一人で試す軽いワーク
エンプティチェア技法は、本来、専門家と行うものです。ここでは、日常の小さな迷いや葛藤を整理するための、軽いワークを紹介します。
2つの椅子で迷いを整理する
①「転職したい自分」と「今の職場に残りたい自分」など、迷っている2つの気持ちを決める
②椅子を2つ向かい合わせに置く
③それぞれの椅子に座り、その気持ちの言い分を声に出して話す
④最後に、第三者の席から2人の対話を眺めて、気づいたことを書き出す
椅子の代わりに手紙を書く
椅子を使うことに抵抗がある場合は、相手宛ての「出さない手紙」を書く方法もあります。伝えたかった気持ちを書いた後、相手になったつもりで返事を書いてみると、エンプティチェアと似た気づきが得られることがあります。
⑦取り組むときの注意
エンプティチェア技法は、強い感情が湧きやすい技法です。次の点に気をつけましょう。
つらい相手は専門家と
亡くなった人や、虐待・暴力など深い傷を負わされた相手との対話は、一人で行わず、専門家のもとで行ってください。一人で行うと、つらい記憶や感情に圧倒されてしまうことがあります。
途中でつらくなったら
ワークの途中で、涙が止まらない、息が苦しいなど、気持ちが大きく揺れたときは、無理に続けず、椅子から離れて深呼吸をしましょう。足の裏の感覚や周りの景色に注意を向けると、落ち着きを取り戻しやすくなります。
⑧確認してみよう
ここまでの内容を、3つの問題で確認してみましょう。答えを考えてから、正解と解説を開いてください。
問題1
エンプティチェア技法で行うこととして、正しいものはどれでしょうか。
ア 空の椅子に相手が座っているとイメージして語りかける
イ 椅子に座って黙って瞑想する
ウ 相手本人を呼んで話し合う
問題2
心の中で対立している2つの気持ちを、2つの椅子に分けて対話させる使い方を何と呼ぶでしょうか。
ア ツーチェア技法
イ 外在化
ウ スケーリング
問題3
一人で行うのを避け、専門家と行うべきテーマはどれでしょうか。
ア 転職するかどうかの迷い
イ 虐待など深い傷を負わされた相手との対話
ウ 週末の予定の迷い
⑨まとめ
エンプティチェア技法は、空の椅子に相手や自分の気持ちを座らせて対話することで、言えなかった気持ちを表現し、心の中の葛藤を整理するゲシュタルト療法の技法です。
今回のポイント
相手との対話と、自分の中の対話の2つの使い方がある
気持ちを「今ここ」で体験し、視点を入れ替える
小さな迷いなら、2つの椅子や手紙で試せる
つらい相手との対話は、専門家と行う
研究でも、エンプティチェア技法を用いた心理療法が、大切な人への未解決の思いを軽くすることが報告されています[2]。気になる方は、ゲシュタルト療法を学んだ専門家に相談してみてください。
シリーズの他のコラム
ゲシュタルト療法シリーズでは、基本の考え方から具体的な技法までを解説しています。あわせてご覧ください。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




