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CBT-Iとは

CBT-Iとは,不眠症の認知行動療法を解説

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。

このコラムは、認知行動療法シリーズの4本目です。「CBT-I(不眠症の認知行動療法)」をテーマに解説していきます。

CBT-I(Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia:不眠症の認知行動療法)とは、眠れない状態を長引かせている生活習慣や行動、睡眠についての考え方を見直すことで、自然な眠りを取り戻していく、不眠症に特化した認知行動療法です。睡眠日誌、睡眠衛生、刺激制御法、睡眠制限法、考え方の見直しなどを組み合わせて行い、慢性的な不眠に対する治療の第一選択として、海外の診療ガイドラインでも推奨されています。

今回は、CBT-Iを構成する5つの方法を、一つのコラムでまとめて紹介します。詳しい手順や計算方法は折り畳みに入れていますので、必要なところから展開してみてください。目次は以下の通りです。

目次

①CBT-Iとは

CBT-Iは、薬に頼らずに、眠りのしくみに沿って生活と考え方を整えていく方法です。まずは、その特徴と、どんな人に向いているかを確認しましょう。

不眠症に特化した認知行動療法

認知行動療法は、考え方(認知)と行動に働きかけて、心の問題を改善していく心理療法です。CBT-Iは、その考え方を不眠症に応用し、眠りに関わる習慣と考え方に絞って取り組めるよう、手順を整えたものです。全体像は、認知行動療法とはで解説しています。

慢性的な不眠とは

寝つけない、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまうといった状態が、週に3回以上、3か月以上続き、日中の生活に支障が出ている場合、慢性的な不眠と考えられます。CBT-Iは、こうした長引く不眠に対して用いられます。

5つの方法を組み合わせる

睡眠日誌:自分の眠りの状態を記録して把握する

睡眠衛生:眠りやすい生活習慣を整える

刺激制御法:「布団=眠る場所」と体に覚え直させる

睡眠制限法:布団にいる時間を調整し、眠りを深める

考え方の見直し:眠りへの不安や思い込みを和らげる

専門家のもとでは、週1回ほどの面接を4〜8回程度行いながら、これらを組み合わせて進めるのが一般的です。

②不眠が続くしくみ

不眠は、きっかけとなった出来事が去った後も、長く続いてしまうことがあります。CBT-Iでは、そのしくみを次のように考えます。

きっかけと、長引かせる要因

アメリカの睡眠研究者スピルマンら[1]は、不眠を「もともとの眠りにくさ」「きっかけとなる出来事」「不眠を長引かせる要因」の3つに分けて考えました。仕事のストレスなどのきっかけで眠れなくなった後、そのストレスが解消しても、眠れない夜への対処として始めた行動が、不眠を長引かせてしまうことがあるのです。

よかれと思った行動が逆効果に

眠れなかった分を取り戻そうと、早く布団に入る

布団の中で、眠れるまでスマホを見て過ごす

休日に昼まで寝る、昼寝を長くとる

「今夜も眠れなかったらどうしよう」と考え続ける

こうした行動は、布団が「眠れずに過ごす場所」になったり、夜の眠気が弱まったりする原因になります。CBT-Iでは、この「長引かせる要因」に働きかけることで、不眠の悪循環を断ち切っていきます。

③睡眠日誌をつける

CBT-Iは、自分の眠りの状態を正確に知ることから始まります。そのために使うのが睡眠日誌です。

記録する項目

毎朝起きたときに、前の晩の眠りについて、次の項目を記録します。1〜2週間続けると、自分の眠りのパターンが見えてきます。

布団に入った時刻

寝ついたと思う時刻

夜中に目が覚めた回数と時間

朝、目が覚めた時刻

布団から出た時刻

昼寝の時間、カフェインやお酒の量

眠りの満足度(5段階など)

つけるときのコツ

時計を何度も見て正確に記録しようとすると、かえって眠りにくくなります。夜は時計を見ず、朝起きたときに「だいたい」の感覚で記録すれば十分です。続けることが一番大切です。

睡眠効率の計算

睡眠日誌から、「睡眠効率」を計算することができます。睡眠効率とは、布団にいた時間のうち、実際に眠っていた時間の割合です。

睡眠効率(%)=実際に眠っていた時間÷布団にいた時間×100

例えば、布団に8時間いて、実際に眠っていたのが6時間なら、睡眠効率は75%です。一般に、85%以上が一つの目安とされます。睡眠効率が低い場合は、布団の中で眠れずに過ごす時間が長いということで、後で紹介する刺激制御法や睡眠制限法の手がかりになります。

④睡眠衛生を整える

睡眠衛生とは、眠りやすい体と環境を整えるための生活習慣のことです。CBT-Iの土台となる取り組みです。

日中と夕方の習慣

朝起きたら、太陽の光を浴びる

日中に、適度に体を動かす

カフェインは、夕方以降は控える

昼寝をするなら、午後の早い時間に20〜30分以内

寝る前の習慣と環境

寝酒をしない(眠りが浅くなり、夜中に目覚めやすくなる)

寝る前の1時間は、スマホやパソコンの画面を控える

寝室は、暗く、静かで、暑すぎず寒すぎない状態にする

寝る前に、ぬるめのお風呂やストレッチでリラックスする

睡眠衛生だけで慢性的な不眠が改善することは多くありませんが、他の方法の効果を支える大切な土台になります。

⑤刺激制御法

刺激制御法は、「布団に入ると眠れる」という結びつきを、体にもう一度覚えさせるための方法です。

なぜ必要なのか

眠れない夜が続き、布団の中でスマホを見たり、悩みごとを考えたりして過ごしていると、体が「布団=眠れずに過ごす場所」と覚えてしまいます。刺激制御法では、布団を「眠るためだけの場所」に戻していきます。

5つのルール

①眠くなってから布団に入る

②布団は眠るためだけに使う(スマホ、テレビ、考えごとはしない)

③15〜20分ほどたっても眠れなければ、いったん布団から出る

④布団の外で、静かなことをして過ごし、眠くなったら戻る

⑤眠れた時間に関係なく、毎朝同じ時刻に起きる

布団から出たときの過ごし方

布団から出たら、薄暗い部屋で、静かで退屈なことをして過ごします。例えば、軽い読書、穏やかな音楽を聴く、ゆっくり呼吸をするなどです。明るい画面を見ることや、仕事、家事など頭を使うことは避けましょう。

時計で正確に15分を測る必要はありません。「なかなか眠れないな」と感じたら、布団から出るくらいの目安で大丈夫です。

続けるときのポイント

最初の1〜2週間は、布団から出る回数が多くなり、かえって眠れない夜もあるかもしれません。それでも、毎朝同じ時刻に起きることを続けると、少しずつ夜に眠気が来やすくなっていきます。日中の眠気が強い間は、車の運転などに十分注意してください。

⑥睡眠制限法

睡眠制限法は、布団にいる時間を、実際に眠れている時間に近づけることで、眠りを深くまとめる方法です。効果が高い一方で、専門家の指導のもとで行うことが勧められる方法です。

考え方

スピルマンら[2]は、布団にいる時間を、あえて実際に眠れている時間まで短くすることで、眠りへの欲求を高め、眠りを深くまとめる方法を報告しました。布団の中で眠れずに過ごす時間を減らし、眠れた分だけ、少しずつ布団にいる時間を延ばしていきます。

進め方の概要

①睡眠日誌から、平均の睡眠時間を求める

②布団にいる時間を、その平均睡眠時間に合わせる(短くしすぎない)

③起きる時刻を固定し、そこから逆算して布団に入る時刻を決める

④1週間ごとに睡眠効率を確認し、布団にいる時間を少しずつ調整する

調整の目安

一般的には、1週間の睡眠効率が85〜90%以上であれば、布団に入る時刻を15分ほど早めます。睡眠効率が低い場合は、そのまま続けるか、布団にいる時間をさらに調整します。

ただし、布団にいる時間は5時間を下回らないようにするなど、安全のための下限が設けられています。日中の眠気が強くなるため、実際の時間の決め方は、専門家と相談しながら行いましょう。

行うときの注意

睡眠制限法は、始めてしばらくは日中の眠気が強くなります。車の運転や、機械の操作、高い所での作業などがある方は、特に注意が必要です。また、双極症、てんかん、睡眠時無呼吸症候群などがある方は、睡眠を減らすことで症状が悪化するおそれがあるため、必ず医師に相談してください。

⑦眠りへの考え方を整える

眠れない夜が続くと、眠りについての不安や、思い込みが強くなりがちです。CBT-Iでは、こうした考え方も見直していきます。

よくある思い込み

「8時間眠らないと、体を壊してしまう」

「今夜眠れなかったら、明日は何もできない」

「眠れないのは、自分の体がおかしいからだ」

必要な睡眠時間には個人差があり、年齢とともに短くなるのも自然なことです。また、一晩眠れなくても、翌日なんとか過ごせたという経験は、多くの人にあるはずです。思い込みに気づいたら、「本当にそうだろうか」「他の見方はないか」と問いかけてみましょう。

眠ろうと頑張らない

「眠らなければ」と頑張るほど、頭がさえて眠れなくなります。眠りは、頑張って手に入れるものではなく、条件が整えば自然にやってくるものです。「眠れなくても、体を休められていれば大丈夫」と考えると、気持ちが楽になります。

体の緊張をほぐす

寝る前に体の緊張をほぐす方法として、筋肉に力を入れてから抜く漸進的筋弛緩法も役立ちます。CBT-Iでは、こうしたリラクセーションの方法を組み合わせることもあります。

⑧効果と研究

CBT-Iは、慢性的な不眠に対する効果が、多くの研究で確かめられています。

研究のまとめ

トラウアーら[3]は、慢性的な不眠に対するCBT-Iの研究をまとめて分析しました。その結果、CBT-Iによって、寝つくまでの時間や、夜中に目が覚めている時間が短くなり、睡眠効率が高まることが示されました。

診療ガイドラインでの位置づけ

アメリカ内科学会の診療ガイドライン[4]は、成人の慢性的な不眠に対して、最初に行う治療としてCBT-Iを推奨しています。睡眠薬と比べて、治療が終わった後も効果が続きやすい点も特徴とされています。

⑨取り組むときの注意

CBT-Iの考え方は、日常の工夫として取り入れることもできますが、次の点に注意しましょう。

まず医療機関で相談を

不眠の背景には、うつ病や不安症、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、体の病気、薬の影響などが隠れていることがあります。不眠が長く続く場合は、自己判断で対処を続けず、まず医療機関で相談しましょう。大きないびきや呼吸が止まると指摘されたことがある方は、特に早めの受診が大切です。

睡眠薬を自己判断でやめない

睡眠薬を飲んでいる方が、CBT-Iを始めるからといって、自己判断で急に薬をやめると、かえって眠れなくなることがあります。薬の調整は、必ず主治医と相談しながら行いましょう。

⑩確認してみよう

ここまでの内容を、3つの問題で確認してみましょう。答えを考えてから、正解と解説を開いてください。

問題1

CBT-Iで、最初に行う「自分の眠りの状態を知る」ための方法はどれでしょうか。

ア 睡眠日誌

イ 睡眠制限法

ウ 寝酒

問題1の正解と解説

正解はア(睡眠日誌)です。睡眠日誌で、布団に入った時刻や目が覚めた時刻などを1〜2週間記録すると、自分の眠りのパターンが見えてきます。

問題2

刺激制御法のルールとして、正しいものはどれでしょうか。

ア 眠れなくても、朝まで布団の中で過ごす

イ 眠くなってから布団に入り、眠れなければいったん布団から出る

ウ 眠れなかった日は、翌朝遅くまで寝る

問題2の正解と解説

正解はイ(眠くなってから布団に入り、眠れなければいったん布団から出る)です。刺激制御法では、布団を「眠るためだけの場所」に戻すために、眠くなってから布団に入り、眠れなければ布団から出て、毎朝同じ時刻に起きます。

問題3

睡眠制限法について、正しいものはどれでしょうか。

ア 布団にいる時間を、できるだけ長くする方法

イ 布団にいる時間を、実際に眠れている時間に近づける方法

ウ 睡眠薬の量を減らす方法

問題3の正解と解説

正解はイ(布団にいる時間を、実際に眠れている時間に近づける方法)です。布団の中で眠れずに過ごす時間を減らし、眠りを深くまとめる方法です。日中の眠気が強くなるため、専門家と相談しながら行います。

⑪まとめ

CBT-Iは、睡眠日誌、睡眠衛生、刺激制御法、睡眠制限法、考え方の見直しを組み合わせて、不眠を長引かせている習慣と考え方を整え、自然な眠りを取り戻していく、不眠症に特化した認知行動療法です。

今回のポイント

不眠を長引かせるのは、よかれと思った行動のことが多い

まずは睡眠日誌で、自分の眠りを知る

布団は眠るためだけに使い、毎朝同じ時刻に起きる

睡眠制限法は、専門家と相談しながら行う

シリーズの他のコラム

認知行動療法シリーズでは、全体像のほか、書いて気持ちを整理するジャーナリング、悩みを整理する見立て(ケースフォーミュレーション)も解説しています。睡眠日誌の書き方や、考えごとで眠れないときの書き出し方は、ジャーナリングのコラムも参考になります。

認知行動療法とは|CBTの効果と全体像を解説

ジャーナリングとは|書いて気持ちを整理する方法

ケースフォーミュレーションとは|見立ての基礎

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Spielman, A. J., Caruso, L. S., & Glovinsky, P. B. (1987). A behavioral perspective on insomnia treatment. Psychiatric Clinics of North America, 10(4), 541-553.
 
[2] Spielman, A. J., Saskin, P., & Thorpy, M. J. (1987). Treatment of chronic insomnia by restriction of time in bed. Sleep, 10(1), 45-56.
 
[3] Trauer, J. M., Qian, M. Y., Doyle, J. S., Rajaratnam, S. M. W., & Cunnington, D. (2015). Cognitive behavioral therapy for chronic insomnia: A systematic review and meta-analysis. Annals of Internal Medicine, 163(3), 191-204.
 
[4] Qaseem, A., Kansagara, D., Forciea, M. A., Cooke, M., & Denberg, T. D. (2016). Management of chronic insomnia disorder in adults: A clinical practice guideline from the American College of Physicians. Annals of Internal Medicine, 165(2), 125-133.
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