みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは、家族療法シリーズの2本目です。「システムズアプローチ」をテーマに解説していきます。
システムズアプローチとは、問題を一人の性格や一つの原因に求めるのではなく、人と人とのつながり(システム)の中で起きているものとして捉え、関係のパターンに働きかける考え方のことです。家族療法の中で育った視点ですが、家族療法そのものではなく、学校や職場、福祉の現場など、さまざまな領域で使われています。
今回は、システムズアプローチの基本的な見方と、日常の人間関係で使える進め方を解説します。目次は以下の通りです。
目次
①システムズアプローチとは
システムズアプローチは、「誰が悪いのか」ではなく、「どんなやり取りが繰り返されているのか」に注目する考え方です。まずは、その基本と、家族療法との関係を確認しましょう。
関係の中で問題を見る
システムとは、互いに影響し合う要素が集まった、一つのまとまりのことです。家族、学校のクラス、職場のチームなどは、どれも一つのシステムと考えることができます。
システムの中では、一人の行動が他の人に影響し、その反応がまた最初の人に返ってきます。そのため、ある人に問題が表れていても、その人だけを変えようとするのではなく、周りとのやり取り全体を見て、変えられるところを探していきます。
家族療法との関係
システムズアプローチの考え方は、1950〜70年代のアメリカで発展した家族療法の中で育ちました。特に、問題を「解決しようとする行動が、かえって問題を続けさせる悪循環」と捉えたMRIのグループや、家族を「構造」として捉えたミニューチンの考え方が、土台になっています。
家族療法の歴史や学派の詳細は、シリーズ1本目の家族療法の歴史で解説しています。
②3つの基本の見方
システムズアプローチには、問題を捉えるときの基本的な見方があります。ここでは、日常でも役立つ3つを紹介します。
原因より「パターン」を見る
人間関係の問題では、「先に怒ったのはあっち」「いや、あっちが無視したから」と、原因をめぐって話が平行線になりがちです。システムズアプローチでは、どちらが先かを決めるのではなく、AとBのやり取りが、円のように繰り返されている「パターン」として捉えます。
このように、原因と結果が互いに影響し合う見方を「円環的因果律」と呼びます。詳しくは、シリーズ5本目の円環的因果律とはで解説しています。
解決策が問題を続けることも
ワツラウィックら[1]は、問題を解決しようとして同じ方法を繰り返すことが、かえって問題を続けさせることがあると指摘しました。例えば、眠れない人が「早く寝なくては」と焦るほど眠れなくなる、子どもが勉強しないので叱るほど勉強しなくなる、といった場合です。
このように、うまくいかない解決策を「もっと強く」繰り返している状態を見つけ、別の方法に切り替えることが、変化のきっかけになります。
役割と境界を見る
ミニューチン[2]は、家族を、夫婦・親子・きょうだいなどの小さなまとまり(サブシステム)からなる「構造」として捉えました。それぞれのまとまりの間には「境界」があり、境界があいまいすぎても、固すぎても、問題が起こりやすくなると考えます。
例えば、夫婦の問題に子どもが巻き込まれて、親の相談役になっている場合は、親子の境界があいまいになっていると考えられます。
③関係のパターンを見つける
システムズアプローチを日常で使う第一歩は、繰り返されているやり取りを、紙に書き出してみることです。次の3つのステップで進めてみましょう。
パターン発見の3ステップ
①気になるやり取りを1つ選ぶ
②誰が何をして、相手がどう反応したかを、矢印でつなぐ
③これまで試してきた「解決策」を書き出す
②では、最後の反応が、また最初の行動につながっていないかを確かめます。円のようにつながっていれば、それが繰り返されているパターンです。③では、うまくいかないのに続けている解決策がないかを探します。
書き出しの例
例えば、夫婦の間で、次のようなやり取りが繰り返されているとします。
妻が家事の不満を伝える
→夫は責められたと感じて黙る
→妻は無視されたと感じ、さらに強く言う
→夫はますます黙り、部屋を出る
→妻の不満がさらにたまる(最初に戻る)
このように書き出すと、どちらか一方が悪いのではなく、「強く言う」と「黙る」が互いを強め合っていることが見えてきます。夫は「黙ってやり過ごす」、妻は「もっと強く伝える」という、それぞれの解決策が、悪循環を続けさせているのです。
書き出すときのコツ
書き出すときは、「だらしない」「冷たい」などの性格の言葉ではなく、「黙る」「部屋を出る」など、目に見える行動で書くのがコツです。行動で書くと、相手を責める気持ちが和らぎ、変えられるところが見つけやすくなります。
④小さな一手で変える
パターンが見えたら、次はそのパターンを変える、小さな一手を考えます。システムの中では、一か所の変化が全体に広がるため、大きく変えようとしなくても大丈夫です。
いつもと違う行動を試す
うまくいかない解決策を、少しだけ違う行動に置き換えてみます。先ほどの夫婦の例なら、妻は「不満を強く伝える」代わりに、落ち着いた時間に「最近疲れていて、手伝ってもらえると助かる」と、お願いの形で伝えてみる。夫は「黙る」代わりに、「今は少し考えたいから、夜に話そう」と一言返してみる、などです。
自分から変えてよい
システムズアプローチでは、変化は誰から始めてもよいと考えます。相手が変わるのを待つより、自分ができる一手を試す方が、パターンを動かしやすいものです。「自分だけが変わるのは不公平」と感じるかもしれませんが、それは自分が悪いと認めることではなく、悪循環から抜け出すための工夫です。
変化を観察する
一手を試したら、相手の反応や、やり取りの流れがどう変わったかを観察します。うまくいかなければ、別の一手を試せば大丈夫です。1回で劇的に変わることは少ないため、1〜2週間ほど続けて、小さな変化を見つけていきましょう。
⑤場面で考えてみよう
ここでは、家庭と職場の2つの場面で、パターンと一手を考えてみましょう。場面を読んで考えた後に、解説を開いて確認してください。
場面1 宿題をしない子ども
小学4年生の息子が、毎晩なかなか宿題を始めません。
母親が「早くやりなさい」と何度も声をかけるほど、息子はゲームをやめず、最後は母親が怒鳴って、息子が泣きながら宿題をする毎日です。父親は帰りが遅く、この場面にはいません。
場面2 報告が遅い部下
ある職場で、上司が部下の報告の遅さにいら立っています。
上司が細かく進み具合を確認するほど、部下は「また何か言われる」と委縮して、報告をさらに後回しにするようになりました。
⑥取り組むときの注意
システムズアプローチは、関係を見直す有効な視点ですが、使い方を誤ると、かえって人を傷つけることがあります。次の2点に注意しましょう。
責任をあいまいにしない
システムズアプローチは、誰か一人を責めないための考え方ですが、暴力や虐待、ハラスメントの責任をあいまいにするものではありません。暴力を受けている人が「自分の関わり方にも原因がある」と考えて我慢する必要はありません。こうした場合は、まず安全を守ることを最優先にし、配偶者暴力相談支援センターや児童相談所、社内の相談窓口、警察などに相談してください。
専門家に相談する目安
一手を試しても関係が悪化する、家族の誰かに強い落ち込みや自分を傷つける行動がある、といった場合は、自分たちだけで解決しようとせず、医療機関やカウンセラーなどの専門家に相談しましょう。家族療法では、専門家が第三者として関わることで、家族だけでは見えにくいパターンを整理していきます。
⑦よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
⑧まとめ
システムズアプローチは、問題を一人の原因ではなく、関係の中で繰り返されるパターンとして捉え、小さな一手で変化を起こしていく考え方です。家族だけでなく、学校や職場など、あらゆる人間関係に応用できます。
今回のポイント
「誰が悪いか」より「どんなやり取りか」を見る
やり取りを、行動の言葉で矢印につなぐ
うまくいかない解決策の繰り返しを見つける
自分にできる小さな一手を試し、変化を観察する
まずは、気になるやり取りを1つ選んで、紙に書き出すことから始めてみてください。
シリーズの続き
家族療法の全体像は、シリーズ1本目で解説しています。また、3本目では、対話を通して精神的な危機を支えるオープンダイアローグを紹介しています。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




