みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは、動機づけ面接シリーズの4本目です。「両価性」をテーマに解説していきます。
両価性とは、「変わりたい」という気持ちと「変わりたくない」という気持ちが同時にある状態のことで、動機づけ面接では、変化の途中にいる人にとって自然な状態として受け止め、変わるための出発点と考えます。
当コラムでは、両価性のしくみと、説得が逆効果になる理由、両価性との向き合い方とワークを紹介します。目次は以下の通りです。
①両価性とは
両価性とは、同じ物事に対して、反対の気持ちが同時にある状態のことです。動機づけ面接では、特に「変わりたい」と「変わりたくない」が同時にある状態を指します。
誰にでもある迷い
「早起きしたい、でも夜ふかしもやめられない」という経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。ほかにも、「転職したい、でも今の安定も手放したくない」「お酒を減らしたい、でも仕事の後の一杯は楽しみだ」など、両価性は、日常のあらゆる場面で見られます。
動機づけ面接を提唱したミラーとロルニック[1]は、両価性を、変化の途中にいる人にとって自然でありふれた状態だと考えました。両価性があるということは、すでに変わることを考え始めているということでもあります。
「やる気がない」とは違う
変われない人を見ると、周りは「意志が弱い」「やる気がない」と考えがちです。しかし、両価性の考え方では、変わりたい気持ちもあるのに、変わりたくない気持ちと引っ張り合って、動けなくなっている状態と捉えます。責めるのではなく、両方の気持ちを理解することが出発点になります。
②両価性のしくみ
両価性は、変わることと、今のままでいることの、両方に良い面と悪い面があるために生まれます。
4つの面から眺める
変わることの良い点:「お酒を減らせば、朝すっきり起きられる」
変わることの悪い点:「仕事の後の楽しみがなくなる」
今のままでいることの良い点:「ストレス発散になっている」
今のままでいることの悪い点:「健康診断の数値が気になる」
このように整理すると、どちらにも理由があることがわかります。両価性は、どちらかが間違っているのではなく、どちらにもそれなりの理由があるからこそ生まれるのです。
説得が逆効果になる理由
両価性を抱えている人に、周りが「変わるべきだ」と説得すると、本人は無意識に、反対側の「変わらなくてもいい理由」を口にしやすくなります。そして、自分で口にした理由によって、今のままでいる気持ちがかえって強まってしまいます。
ミラーとロルニック[1]は、援助者が相手を正しい方向へ直そうとして説得したくなる傾向を、「正したい反射」と呼び、注意を促しています。
③両価性との向き合い方
両価性に向き合うときは、どちらかの気持ちを押さえ込むのではなく、両方を受け止めることから始めます。
両方の気持ちを聞き返す
相手の両方の気持ちを、「〜という気持ちもあるし、〜という気持ちもあるんですね」と聞き返します。そのとき、変わりたい気持ちを後に置くと、本人は変化の側について話を続けやすくなります。
相手:「お酒を減らしたほうがいいのはわかるけど、楽しみがなくなるのはいやだ」
聞き返し:「楽しみがなくなるのはいやだ。でも、減らしたほうがいいとも思っているんですね」
大切にしたいこととのずれ
本人が大切にしている価値(家族、健康、仕事など)を尋ね、今の行動とのずれに、本人自身が気づけるよう支えます。「家族との時間を大切にしたい」と語る人が、「でも、休日は二日酔いで寝ていることが多い」と自分で気づくと、変わる理由がその人自身のものになります。
決めるのは本人
「変わるかどうかを決めるのは、あなたです」と伝えることも大切です。自分で選べると感じられると、人は反発する必要がなくなり、落ち着いて両方の気持ちを考えられるようになります。
④自分でできるワーク
自分の中の両価性を整理するためのワークを紹介します。迷っていることを1つ選び、紙に書きながら取り組んでみましょう。
4つのマスに書き出す
紙に十字を書いて4つのマスをつくり、「変わることの良い点・悪い点」「今のままでいることの良い点・悪い点」を書き出します。どの欄も遠慮せずに書くのがコツです。今のままでいることの良い点も、正直に認めましょう。書き終えたら、「変わることの良い点」と「今のままでいることの悪い点」の欄を、あらためて読み返してみます。
2つのものさしで考える
「変わることは、自分にとってどのくらい大切か」と、「変われる自信はどのくらいあるか」を、それぞれ0から10で点数をつけます。次に、「なぜ0点ではないのか」を書き出します。そこに書かれたことが、あなた自身の変わる理由と、変われる手がかりです。
小さな一歩を決める
自信の点数を1点上げるには何があればよいかを考え、今週できる小さな一歩を1つ決めます。例えば、「お酒を飲まない日を週に1日つくる」などです。大きな決断でなくてかまいません。
⑤場面で考えてみよう
両価性の考え方を、架空の例で見てみましょう。
お酒を減らしたいHさん
Hさんは、健康診断で肝臓の数値を指摘され、「お酒を減らしたほうがいい」と思っていました。しかし、家族から「早くやめなさい」と言われるたびに、「仕事のストレスがあるんだから仕方ない」と言い返し、かえって飲む量が増えていました。
あるとき、Hさんは4つのマスに書き出してみました。「今のままでいる悪い点」の欄に、「子どもの運動会で一緒に走れなかった」と書いたとき、自分にとって一番大切なのは健康そのものより、子どもと過ごす時間だと気づきました。
家族の関わり方が変わると
家族も、「やめなさい」と言う代わりに、「お酒について、自分ではどう思っているの?」と尋ねるようにしました。Hさんは「楽しみでもあるけど、子どもと元気に遊べる体でいたい」と話し、自分で「平日は2日飲まない日をつくる」と決めました(架空の事例です)。
⑥注意
両価性について考えるときに、気をつけたい点をまとめます。
迷いが長く苦しいときは
迷いが長く続いて、眠れない、気分が落ち込むなど、日常生活に影響が出ている場合は、一人で抱え込まず、医療機関や心理の専門家に相談しましょう。
依存の問題があるときは
お酒やギャンブル、薬物などがやめられず、生活や健康に影響が出ている場合は、依存症の可能性があります。本人や家族だけで抱え込まず、お住まいの地域の精神保健福祉センターや、依存症の専門医療機関に相談しましょう。家族だけで相談することもできます。
⑦まとめ
両価性は、変わりたい気持ちと変わりたくない気持ちが同時にある、自然な状態です。どちらかを押さえ込むのではなく、両方を受け止めることが、変化への第一歩になります。
今回のポイント
両価性は「やる気がない」のではなく、自然な迷い
変わることと今のままでいることの、両方に理由がある
説得は、かえって現状維持を強めることがある
両方の気持ちを聞き返し、決めるのは本人だと伝える
動機づけ面接の全体像は動機づけ面接(MI)とはで、変化の言葉を引き出す方法はチェンジトークの引き出し方で、基本スキルはOARS技法とはで解説しています。
シリーズの他のコラム
動機づけ面接シリーズでは、基本の考え方から、チェンジトーク、OARS技法、両価性までを解説しています。あわせてご覧ください。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



