みなさんこんにちは。公認心理師の川島達史と申します。私はこちらのコミュニケーション教室を開催しています。
このコラムは、行動療法シリーズの3本目です。今回は、うつ病の治療で注目されている「行動活性化」を詳しく解説します。
「やる気が出たら動こう」と待っているうちに、ますます動けなくなる——落ち込んでいるときは、そんな悪循環に陥りがちです。その逆の発想で、活動を先に増やしていくのが、行動活性化です。目次は以下の通りです。
①行動活性化とは何か
意味
行動活性化(Behavioral Activation:BA)は、気分が上向くのを待たずに、自分が大切にしたいことに沿った活動を先に増やし、その結果として気分の改善を目指す行動療法です。うつ病を中心に用いられています。
気分にまかせて動くのではなく、活動を先に決めて行うことで、あとから気分がついてくる、という順序が特徴です(「外から内へ」という意味で、outside-inと呼ばれます)。回避が起きる状況や、行動のはたらきに注目し、価値に沿った行動を選び取っていくことを大切にします。
対象となる悩み
うつ病や、気分の落ち込みで意欲や活動が減っている状態が、主な対象です。
気分が落ち込み、何もする気が起きない
休日は、寝て過ごすことが増えた
以前は楽しめたことに、興味が持てない
やる気が出るのを待っていて、動けない
あてはまると感じた方は、まず、1日の活動を記録するところから始めてみてください。
もう少し詳しい背景を知りたい方は、以下を開いてみてください。読み飛ばしても、この先の内容は問題なく読み進められます。
②動けなくなる悪循環
悪循環の流れ
落ち込んでいると、次のような悪循環が起こりやすくなります。
①気分が落ち込む
②活動が減る(休む、引きこもる、避ける)
③楽しい体験や、達成感を得る機会が減る
④さらに気分が落ち込む(①に戻る)
循環に働きかける
「休むこと」「避けること」は、一時的にはつらさを和らげます。しかし長い目で見ると、気分を良くする体験が減り、悪循環を強めてしまいます。行動活性化は、この循環の②の部分に、小さく働きかける方法です。
③進め方の5ステップ
行動活性化には、活動を記録する、行動と気分の関係を見つける、代わりの行動を決める、予定に入れる、といった要素が含まれます。ここでは、5つのステップにまとめて紹介します。
ステップ1 活動を記録する
まず、1日の活動をざっくり記録します。「何をしたか」に加えて、そのときの気分(0〜10点)、達成感、楽しさを書いておくと、あとで振り返りやすくなります。
ステップ2 行動と気分の関係を見つける
記録を見て、「どんな活動のあとに、気分が少し上がったか」「どんな行動で、気分が下がったか」を探します。行動の前後を整理する方法は、機能分析(ABC分析)が参考になります。
ステップ3 小さな活動を選ぶ
「何が大切か」「本当はどうありたいか」から、活動を選びます。そのとき、活動はできるだけ小さくします。「毎日1時間ウォーキング」ではなく、「玄関の外に出て、5分立つ」くらいで構いません。
ステップ4 予定に入れる
選んだ活動を、いつ、どこで、何分行うか、具体的に予定に入れます。気分のよい日にやる、ではなく、日時を決めておくのがコツです。
ステップ5 やってみて、振り返る
気分に頼らず、まず行動します。終わったら、気分や達成感を記録し、次に活かします。合わなかった活動は、無理に続けず、別の活動に調整して構いません。
④事例で進めてみよう
例として、気分の落ち込みで、休日を寝て過ごしていた花子さんの場合を見てみましょう。
ステップ1・2 記録と関係の発見
・休日は、ほとんどベッドの上で過ごしていた(気分:3点)
・友人からのメッセージに、返信できていない
・平日の帰り道に、好きなカフェに寄った日は、気分が5点まで上がっていた
記録から、「何もしないでいると気分が下がり、小さな外出をすると、少し上がる」ことが見えてきました。
ステップ3・4 予定に入れる
・朝、カーテンを開けて、ベランダに5分出る(毎朝、起きたらすぐ)
・夕方、近所を10分散歩する(土日の16時)
・友人に、スタンプだけ返信する(今週中に1回)
ステップ5 振り返る
1週間後、散歩のあとは、気分が3点から4点に上がることが多いと分かりました。返信は、スタンプだけならできたので、来週は一言添えてみることにしました。できなかった日があっても、責めずに、翌日また試します。
⑤つまずきやすいポイント
「やる気が出ない」
気分が先ではなく、行動が先です。やる気は、動き始めてから出てくることが多いため、「やる気が出たら」ではなく、「決めた時間になったら、まず5分」と考えてみましょう。
「やっても楽しくない」
落ち込んでいるときは、楽しさを感じにくくなっています。最初は、楽しさより、「やった」という事実を記録することを大切にしましょう。
「疲れて動けない」
活動をさらに小さくします。1分だけ、立ち上がるだけでも構いません。また、休息も、予定に入れて構いません。「休むこと」と「動かないこと」は、別のものです。
「できなかった」
できなかった日は、失敗ではなく、活動が大きすぎたという情報です。責めずに、活動をもう少し小さくして、調整しましょう。
講師の視点
行動活性化で大切にしたいのは、「頑張って動く」のではなく、「無理のない小さな一歩を、予定に入れる」ことです。落ち込んでいるときに必要なのは、自分を追い込む言葉ではなく、実行できるほど小さな約束だと感じています。
私自身、気分が重くて何もできない時期に、「机の上を、ペン1本だけ片づける」と決めたことがあります。ペン1本でも、終わると「やれた」という感覚が残り、翌日は書類を1枚片づけられました。小さな達成感が、次の一歩を支えてくれました。
⑥理解度を確認する練習問題
ここまでの内容を踏まえて、2つの事例で練習してみましょう。
休日を寝て過ごす次郎さん
<事例>
仕事から帰ると何もできず、休日は一日中ベッドで過ごす次郎さん。「やる気が出たら、片づけよう」と思いながら、部屋は散らかったままです。
次の2つを考えてみてください。
①活動の記録で、どこに注目するか
②最初に取り組む、小さな活動を3つ考える
動くと疲れてしんどい花子さん
<事例>
少し動くと疲れてしまい、「動くと余計にしんどくなる」と感じて、動くのを避けるようになった花子さん。
花子さんについて、活動を小さくするコツを考えてみてください。
⑦自分で試すときの目安
自分で試せる範囲
軽い落ち込みや、意欲の低下であれば、活動の記録と、小さな活動から試すことができます。ただし、行動活性化は、頑張って自分を追い込む方法ではありません。無理のない範囲で進めましょう。
医療機関に相談すべき場合
次のような場合は、自己流で進めず、医療機関に相談してください。
・落ち込みや意欲の低下が、2週間以上ほぼ毎日続く
・眠れない、食欲がない、体が動かせないほど疲れている
・「消えてしまいたい」という気持ちがある
うつ病の急性期など、休養が必要な時期もあります。その場合は、治療者と相談しながら、休養と活動のバランスを決めてください。「消えてしまいたい」という気持ちがあるときは、ワークで何とかしようとせず、医療機関や公的な相談窓口に相談してください。
よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。
・認知療法の基礎
・思考の歪みの改善
・行動療法の学習
・マインドフルネスワーク
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)
個別レッスン
個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースで行動療法を深めたい方は、下記をご参照ください。
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行動療法の全体像や、ほかの技法を整理したい方はこちら。
不安な場面に段階的に向き合う、代表的な技法を知りたい方はこちら。
動けなくなる背景にある、回避の働きを詳しく知りたい方はこちら。
行動と気分の関係を、前後の状況から整理する方法を知りたい方はこちら。
認知行動療法シリーズ全体に戻りたい方は、こちらの全体像コラムからどうぞ。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典
[1] Dimidjian, S., Barrera, M., Martell, C., Muñoz, R. F., & Lewinsohn, P. M. (2011). The origins and current status of behavioral activation treatments for depression. Annual Review of Clinical Psychology, 7, 1-38.
[2] マーテル, C. R.・アディス, M. E.・ジェイコブソン, N. S.(著)熊野宏昭・鈴木伸一(監訳)(2011). うつ病の行動活性化療法―新世代の認知行動療法によるブレイクスルー. 日本評論社.
[3] Dimidjian, S., Hollon, S. D., Dobson, K. S., et al. (2006). Randomized trial of behavioral activation, cognitive therapy, and antidepressant medication in the acute treatment of adults with major depression. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 74(4), 658-670.
[4] Richards, D. A., Ekers, D., McMillan, D., et al. (2016). Cost and outcome of behavioural activation versus cognitive behavioural therapy for depression (COBRA): A randomised, controlled, non-inferiority trial. Lancet, 388(10047), 871-880.




