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円環的因果律とは

円環的因果律とは,誰のせいでもない考え方

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。

このコラムは、家族療法シリーズの5本目です。「円環的因果律」をテーマに解説していきます。

円環的因果律とは、人間関係の問題を「誰か一人のせい」と考えるのではなく、お互いの行動が原因にも結果にもなりながら、円のように循環していると捉える考え方のことです。家族療法の基本となる考え方で、家族だけでなく、夫婦や職場など、あらゆる人間関係を見直すときに役立ちます。

今回は、円環的因果律の考え方と、関係の循環を図に描く方法、循環を見つける質問のコツを解説します。目次は以下の通りです。

目次

①円環的因果律とは

円環的因果律は、「原因→結果」の一方向ではなく、「お互いが影響し合う循環」として問題を見る考え方です。まずは、よく使われる直線的因果律との違いを確認しましょう。

直線的因果律との違い

私たちは普段、「AだからBになった」と、原因から結果へ一直線に考えることが多いものです。これを直線的因果律と呼びます。機械の故障のように、原因を見つけて取り除けば解決する問題には、この見方が役立ちます。

一方、人間関係では、相手の行動が自分の行動の原因になり、自分の行動がまた相手の行動の原因になります。円環的因果律では、このように原因と結果がぐるぐると回り続けている状態として、問題を捉えます。

家族療法で大切にされる理由

家族の問題を直線的に見ると、「母親の育て方が悪い」「父親が無関心だから」と、誰かを原因として責めることになりがちです。責められた人は防衛的になり、関係はさらにこじれてしまいます。

円環的因果律で見ると、家族の誰もが循環の一部であり、同時に、誰もが循環を変えるきっかけになれます。そのため家族療法では、「誰が悪いか」ではなく、「どんな循環が起きているか」を一緒に探していきます。図を使った例は、シリーズ1本目の直線的・円環的因果律でも紹介しています。

②「どこから」のずれ

人間関係のもめごとでは、お互いが「相手が先にやったから」と主張し、話が平行線になることがよくあります。その理由を、円環的因果律の視点から見てみましょう。

始まりの決め方が違う

ワツラウィックら[1]は、続いているやり取りのどこを「始まり」とするかは、人によって異なると指摘しました。そして、夫婦の例として、夫は「妻が口うるさいから、私は引きこもる」と言い、妻は「夫が引きこもるから、私は口うるさく言う」と言う、というやり取りを挙げています。

夫も妻も、自分の行動は相手への「反応」にすぎないと考えています。どちらも間違ってはいませんが、どこで区切るかが違うために、「相手が先」という主張がぶつかり続けるのです。

「始まり探し」をやめる

循環しているやり取りには、本当の意味での「始まり」はありません。そのため、「どちらが先か」を決めようとしても、話し合いは終わりません。

円環的因果律で考えると、大切なのは始まりを決めることではなく、「この循環から、どうすれば抜け出せるか」を考えることです。この視点に切り替えるだけで、話し合いの雰囲気が変わることがあります。

③循環を図に描く

円環的因果律を日常で使う第一歩は、繰り返されているやり取りを、円の図に描いてみることです。次の手順で進めてみましょう。

円環図の4ステップ

①繰り返されるやり取りを1つ選ぶ

②自分の行動と、相手の行動を、交互に書き出す

③最後の行動が、最初の行動につながる形で円にする

④円の中で、自分が変えられそうな所に印をつける

②では、「冷たい」「だらしない」などの性格ではなく、「黙る」「ため息をつく」など、目に見える行動で書くのがコツです。行動で書くと、責める気持ちが和らぎ、変えられる所が見つけやすくなります。

円環図の例

例えば、母親と中学生の娘の間で、次のような循環が起きているとします。

母親が、娘の帰宅時間を何度も確認する

→娘は干渉されていると感じ、返事をしなくなる

→母親は、娘が何をしているか分からず、不安になる

→母親は、さらに細かく確認する(最初に戻る)

この図を見ると、母親の「確認」は娘を心配する気持ちから、娘の「返事をしない」は自分のことを自分で決めたい気持ちから生まれていることが分かります。どちらか一方が悪いのではなく、2人の行動が互いを強め合っているのです。

円の外にいる人も見る

循環には、直接やり取りしていない人が関わっていることもあります。例えば、先ほどの例で、父親が「お前が甘いからだ」と母親を責めていると、母親の不安はさらに強まり、確認が増えるかもしれません。図を描くときは、周りの家族が、循環にどう関わっているかも書き加えてみましょう。

④循環を見つける質問

家族療法では、循環を見つけるために「円環的質問」と呼ばれる問いかけが使われます。家族どうしの話し合いでも、取り入れることができます。

円環的質問とは

イタリアのミラノ派の家族療法家セルヴィーニ・パラツォーリら[2]は、家族面接の指針の一つとして「円環性(circularity)」を挙げました。円環的質問は、一人の気持ちや原因を問うのではなく、家族の間の関係や、行動の変化について尋ねる質問です。

例えば、ある家族の一人に、他の2人の関係について尋ねることで、家族一人ひとりが、関係を新しい角度から眺められるようになります。

家族で使える質問の例

「お父さんが黙ると、お母さんはどうすることが多い?」

「けんかの後、一番最初に話しかけるのは誰?」

「この問題が起きる前と後で、家族の会話はどう変わった?」

「誰が何をしたら、少しだけ良くなりそう?」

使うときのコツ

円環的質問は、相手を問い詰めるためではなく、家族のやり取りを一緒に眺めるために使います。「なぜそんなことをするの?」と理由を責めるような聞き方は避け、「そのとき、どうなるの?」と、やり取りの流れに関心を向けて尋ねるのがポイントです。

⑤場面で考えてみよう

ここでは、2つの場面で、循環を見つけて、抜け出す一手を考えてみましょう。場面を読んで考えた後に、解説を開いて確認してください。

場面1 きょうだいげんか

小学生の兄と弟が、毎日のようにけんかをしています。

父親は、けんかが始まると「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」と兄を叱ります。最近、兄は、父親のいないところで弟に意地悪をするようになりました。

場面1の解説

循環は、「けんかが起きる→父親が兄を叱る→兄は不公平だと感じ、父親のいない所で弟に当たる→弟が父親に訴える→父親がまた兄を叱る」という流れです。父親の「兄を叱る」という対応が、兄の不満を強め、けんかを続けさせていると考えられます。

抜け出す一手の例としては、父親がどちらか一方を叱るのをやめ、「2人とも、何があったか教えて」と両方の話を聞くことがあります。また、兄と2人だけで過ごす時間をつくり、兄の気持ちを聞くことも、循環を変えるきっかけになります。

場面2 連絡の頻度

付き合って半年のカップルです。

彼女は、彼からの返信が遅いと不安になり、何度もメッセージを送ります。彼は、たくさんのメッセージに追い詰められた気持ちになり、さらに返信が遅くなっています。

場面2の解説

循環は、「返信が遅い→彼女が不安になり、何度も送る→彼は追い詰められ、返信をためらう→返信がさらに遅くなる」という流れです。彼女の「何度も送る」と、彼の「返信をためらう」が、互いを強め合っています。

抜け出す一手の例としては、2人で落ち着いて話せるときに、「夜に一度は返信する」など、お互いが安心できる連絡のルールを決めることがあります。彼女は不安なときに「少し不安になったから、一言だけほしい」と気持ちを伝え、彼は短くても早めに返信することで、循環が変わり始めます。

⑥取り組むときの注意

円環的因果律は、誰も責めずに関係を見直すための考え方ですが、すべての問題に当てはめてよいわけではありません。次の2点に注意しましょう。

暴力は循環で説明しない

暴力や虐待、ハラスメントは、「お互いさま」の循環として扱ってはいけません。暴力の責任は、暴力をふるった人にあります。被害を受けている人が「自分にも原因がある」と我慢する必要はありません。身の安全に関わる場合は、配偶者暴力相談支援センターや児童相談所、警察などに相談してください。

専門家に相談する目安

循環が見えても、自分たちだけでは抜け出せないことはよくあります。家族の関係が悪化し続けている、家族の誰かに強い落ち込みや自分を傷つける行動がある、といった場合は、家族療法を行う専門家や医療機関に相談しましょう。第三者が加わることで、家族だけでは見えにくい循環が整理しやすくなります。

⑦よくある質問Q&A

私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。

相手が悪いのに循環と言われても…

そう感じるのは、とても自然なことです。円環的因果律は、相手の行動を「仕方ない」と認めるための考え方ではありません。「どちらが先か」を決めようとすると、話し合いが平行線になりやすいため、その代わりに「この循環から、どう抜け出すか」に目を向ける、という工夫です。自分ができる一手を試すことは、相手に負けることではなく、関係を動かす力を自分が持つということです。ただし、暴力やハラスメントの場合は別です。まずは「相手を変える」ではなく、「自分がいつもと違う反応をしてみたら、何が起きるか」を試す実験のつもりで取り組んでみてください。我慢せず、相談窓口を頼ってください。

家族に図を見せてもいいですか?

図を見せることは、話し合いのきっかけになります。ただし、見せ方には少し注意が必要です。「あなたのここが悪い」と指摘するために使うと、相手は責められたと感じてしまいます。見せるときは、「私たち、こんなふうに同じことを繰り返している気がするんだけど、どう思う?」と、一緒に眺める形で切り出してみてください。自分の行動も図に入れておくと、相手も受け入れやすくなります。相手が乗り気でない場合は無理に見せず、まずは自分の行動を変えるために、自分だけで図を使うのでも十分です。相手の意見を聞いて、図を一緒に直していくのもおすすめです。

循環に気づいたら何から始めればいい?

まずは、循環の中で「自分が一番変えやすいところ」を1つだけ選んでみてください。例えば、相手が黙ったときに強く言い返していたなら、「今は話しにくいかな。後で聞かせてね」と一言だけ返してみる、といった小さな変化で十分です。大きく変えようとすると続かないことが多いので、1〜2週間ほど同じ一手を試し、相手の反応ややり取りの流れがどう変わったかを観察します。うまくいかなければ、別の一手に切り替えれば大丈夫です。変化はゆっくり表れることが多いので、焦らず、小さな変化を見つけて自分をほめてあげてください。

⑧まとめ

円環的因果律は、人間関係の問題を、誰か一人のせいではなく、お互いの行動が影響し合う循環として捉える考え方です。始まり探しをやめ、循環から抜け出す一手を考えることで、関係が変わり始めます。

今回のポイント

原因と結果は、人間関係では循環している

「どちらが先か」は、人によって区切り方が違う

やり取りを行動の言葉で円の図に描く

暴力や虐待は、循環で説明せず安全を優先する

まずは、身近な人との間で繰り返されているやり取りを1つ選び、円の図に描いてみてください。

シリーズの続き

シリーズ6本目では、家族が病気について正しく知り、本人を支えるための「心理教育」を解説しています。

家族療法とは|家族をシステムとして捉える療法

システムズアプローチとは|家族療法の視点

オープンダイアローグとは|対話的アプローチ

リフレーミングとは|見方を変える家族療法の技法

心理教育とは|心の病気を理解する第一歩

しっかり身につけたい方へ

公認心理師、精神保健福祉士など専門家の元で心理療法を学びたい方は、私たちが開催している講座をおすすめしています。内容は以下の通りです。

・家族間の会話の改善

・リフレーミング練習,全体として問題を捉える

・心穏やかに,アンガーマネジメント

・家族関係がよくなる,会話練習

講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)

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講座の日程が合わない方や、自分のペースで学びたい方は、個別レッスンのご相談も受け付けています。

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Watzlawick, P., Beavin, J. H., & Jackson, D. D. (1967). Pragmatics of human communication: A study of interactional patterns, pathologies, and paradoxes. New York: Norton.
 
[2] Selvini Palazzoli, M., Boscolo, L., Cecchin, G., & Prata, G. (1980). Hypothesizing—circularity—neutrality: Three guidelines for the conductor of the session. Family Process, 19(1), 3-12.
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