みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは、家族療法シリーズの6本目です。「心理教育」をテーマに解説していきます。
心理教育とは、心の病気や悩みについて、症状の特徴、治療の方法、再発のサイン、日常での対処法などの正しい知識を、本人や家族に分かりやすく伝え、病気と付き合っていく力を高める支援のことです。家族療法の分野では「家族心理教育」として発展してきましたが、家族療法だけの技法ではなく、認知行動療法やSST、アンガーマネジメントなど、多くの心理療法で使われています。
今回は、心理教育で伝えられる内容と効果、そして本人や家族が日常で活かせる取り組み方を解説します。目次は以下の通りです。
目次
①心理教育とは
心理教育は、知識を伝えることを通して、本人や家族が病気と上手に付き合えるよう支える方法です。まずは、その特徴と、どのような場面で使われているかを確認しましょう。
知識を伝えるだけではない
心理教育は、病気についての説明をするだけではありません。正しい知識を得ることで、「自分のせいで病気になった」「家族の育て方が悪かった」といった誤解や罪悪感を和らげ、病気に向き合う気持ちを支えることも大切な目的です。
また、再発のサインに気づく方法や、困ったときの対処法を一緒に考えることで、本人や家族が、自分たちで工夫できることを増やしていきます。
さまざまな療法で使われる
心理教育は、多くの心理療法の中に組み込まれています。例えば、認知行動療法では、治療の始めに、不安やうつのしくみを説明します。アンガーマネジメントでは、怒りが生まれるしくみを学ぶところから始めます。
このように、心理教育は、さまざまな心理療法の「土台」の役割を果たしています。
家族心理教育
家族療法の分野では、病気を抱える本人の家族を対象にした「家族心理教育」が発展してきました。その背景には、家族が本人に向ける感情の表し方(EE)が、統合失調症の再発に関わるという研究があります。ブツラフとフーリー[1]は、27の研究をまとめて分析し、家族の批判や過干渉が強いと、再発が起こりやすいことを確認しました。
ただし、これは家族が病気の原因だという意味ではありません。家族も、知識がないまま不安や疲れを抱えていることが多いため、家族心理教育では、家族を責めるのではなく、家族の負担を減らしながら関わり方を一緒に考えていきます。EEについては、シリーズ1本目の家族の感情表出(EE)でも解説しています。
②心理教育で伝えること
心理教育で伝える内容は、病気や悩みの種類によって異なりますが、多くの場合、次の5つが含まれます。
5つの基本の内容
①症状の特徴:どんな症状が、どんなときに出やすいか
②原因の考え方:誰かのせいではなく、複数の要因が重なること
③治療の選択肢:薬、心理療法、休養などの方法
④再発のサイン:調子を崩す前に表れやすい変化
⑤対処と相談先:困ったときにできることと、頼れる場所
うつ病の例
例えば、うつ病の心理教育では、「気分の落ち込みだけでなく、眠れない、食欲がない、集中できないなどの症状が出ることがある」「怠けや気の持ちようではなく、治療が必要な状態である」「回復には波があり、良くなったり悪くなったりしながら進む」といった内容を伝えます。
家族には、「頑張れ」と励ますより、休めるよう環境を整えることが大切であることや、本人が「消えてしまいたい」と話したときの対応なども伝えます。
③心理教育の効果
心理教育の効果は、特に統合失調症の分野で多く研究されており、再発や再入院を減らす効果が報告されています。ただし、研究の質には限界もあり、効果の大きさは控えめに見る必要があります。
研究で分かっていること
心理教育を受けた人は、受けなかった人と比べて、病気の再発や再入院が少なく、治療を続けやすいことが報告されています。心理教育は、他の治療に「加える」形で行われ、薬や心理療法の代わりになるものではありません。
研究の紹介
代表的な研究を紹介します。研究の詳しい内容に興味がある方は、以下を展開してみてください。一般の方は読み飛ばしても大丈夫です。
④自分でできる心理教育
心理教育は、専門家から受けるだけでなく、本人や家族が自分で学ぶこともできます。ここでは、日常で取り組める3つの方法を紹介します。
信頼できる情報を選ぶ
インターネットには、心の病気についてのさまざまな情報があふれていますが、中には根拠のないものもあります。情報を調べるときは、国や公的機関、医療機関が発信している情報を優先しましょう。例えば、厚生労働省のこころの耳では、働く人とその家族に向けて、メンタルヘルスの基礎知識や相談窓口が紹介されています。
主治医に質問する
一番確かな心理教育は、主治医やカウンセラーに直接質問することです。診察の時間は限られているため、聞きたいことを事前にメモしておくと安心です。
この病気では、どんな症状が出やすいですか?
治療には、どのくらいの期間がかかりそうですか?
薬の効果と、注意すべき副作用は何ですか?
調子が悪くなったときは、どうすればよいですか?
家族は、どのように関わればよいですか?
再発サインシートを作る
再発の前には、本人なりの小さな変化が表れることが多いものです。調子が良いときに、主治医や家族と一緒に、次のような「再発サインシート」を作っておくと、早めに対処しやすくなります。
①調子を崩す前に出やすい変化を書く(例:寝つきが悪くなる、連絡を返さなくなる)
②そのサインに気づいたときに、自分ができることを書く(例:早めに休む、予定を減らす)
③家族にお願いしたいことを書く(例:声をかけてほしい、受診を一緒に考えてほしい)
④相談先と連絡先を書く(主治医、相談窓口など)
⑤家族ができること
家族心理教育の考え方は、病気を抱える人の家族が、日常の関わりで活かすことができます。ここでは、取り入れやすい3つのポイントを紹介します。
病気と本人を分けて見る
やる気が出ない、約束を守れないといった行動は、本人の性格ではなく、病気の症状であることがあります。「怠けている」と見るのではなく、「今は病気がそうさせている」と、病気と本人を分けて見ることで、家族の苛立ちも和らぎやすくなります。
批判より具体的なお願い
心配から、つい「いつまで寝ているの」と批判的な言葉が出てしまうことがあります。そんなときは、「10時までに起きて、一緒に朝ごはんを食べられたらうれしいな」のように、具体的で、本人ができそうなお願いの形で伝えてみましょう。できたときには、短く認めることも大切です。
家族自身も休む
家族が疲れ切ってしまうと、本人を支え続けることが難しくなります。家族だけで抱え込まず、自分の時間を持つことや、同じ立場の家族が集まる家族会、地域の相談窓口などを頼ることも、大切な支えになります。
⑥取り組むときの注意
心理教育は、病気と向き合うための大切な支援ですが、知識の伝え方や使い方によっては、本人を追い詰めてしまうこともあります。次の2点に注意しましょう。
知識で本人を追い詰めない
家族が学んだ知識を、「本にはこう書いてあった」「もっとこうしなければ」と本人に押しつけると、本人は責められていると感じてしまいます。知識は、本人を変えるためではなく、本人の状態を理解するために使いましょう。また、ネットの情報だけで診断したり、薬をやめるよう勧めたりすることは避け、必ず主治医に相談してください。
すぐに相談すべき場合
本人が「消えてしまいたい」と口にする、何日も眠れない、現実にはない声が聞こえる、といった状態がある場合は、知識で対応しようとせず、すぐに主治医や医療機関、地域の精神保健福祉センターなどに相談してください。命に関わる危険があるときは、迷わず救急に連絡しましょう。
⑦まとめ
心理教育は、病気についての正しい知識を本人や家族に伝え、誤解や罪悪感を和らげながら、病気と付き合っていく力を高める支援です。家族療法をはじめ、多くの心理療法の土台になっています。
今回のポイント
心理教育は、知識と対処法を伝える支援である
家族を責めず、家族の負担も減らすことを目指す
信頼できる情報と、主治医への質問を大切にする
再発サインシートで、早めの対処に備える
まずは、主治医に聞いてみたいことを、1つメモすることから始めてみてください。
シリーズの振り返り
家族療法シリーズでは、家族療法の全体像から、関係のパターンの見方、対話の方法、捉え直しの技法までを解説してきました。あわせてご覧ください。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



