夫婦療法(カップルセラピー)とは、夫婦やパートナーの二人の関係そのものに働きかけ、すれ違いや対立を減らし、つながりを取り戻すことを目指す心理療法です。カップルカウンセリングとも呼ばれ、どちらか一方を「悪い人」とするのではなく、二人の間でくり返されるやりとりのパターンに注目するのが特徴です。
みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「夫婦療法(カップルセラピー)」です。
「話し合うたびにケンカになる」「会話がほとんどなくなった」など、夫婦の悩みは、二人だけでは解決の糸口が見えにくいものです。当コラムはシリーズの1本目として、夫婦療法の考え方と主なアプローチ、二人で今日からできる工夫を紹介します。目次は以下の通りです。
目次
- ①夫婦療法とは
- ②主なアプローチ
- ③夫婦がすれ違うしくみ
- ④カウンセリングの流れ
- ⑤効果と研究
- ⑥二人でできる工夫
- ⑦注意
- ⑧まとめ
①夫婦療法とは
夫婦療法は、夫婦やパートナーの関係の悩みを、二人の関係という単位で扱う心理療法です。
「関係」をクライアントにする
個人カウンセリングでは、相談に来た一人の気持ちや考え方を中心に扱います。これに対して夫婦療法では、二人の間のやりとりそのものを、支援の対象と考えます。カウンセラーはどちらか一方の味方をするのではなく、二人それぞれの気持ちを受け止めながら、関係がどう動いているのかを一緒に見ていきます。
どんなときに利用されるか
同じことでくり返しケンカになる
会話が減り、気持ちが離れていると感じる
浮気や裏切りなどで、信頼が大きく傷ついた
子育てや介護、仕事の変化などで、役割の分担がうまくいかない
離婚するかどうか迷っており、落ち着いて考えたい
夫婦療法は、結婚している夫婦だけでなく、事実婚や同性カップルなど、さまざまなパートナー関係で利用されています。
②主なアプローチ
夫婦療法は、家族療法や行動療法などの流れの中で発展し、現在はいくつかの代表的なアプローチがあります。
家族療法からの発展
1950〜60年代に広がった家族療法は、問題を一人の中ではなく、家族の関係の中で起きているものとして捉えました。夫婦療法も、この「関係を見る」視点を引き継いでいます。
行動論的カップル療法
行動療法の考え方を夫婦に応用したもので、コミュニケーションや問題解決の練習を通して、お互いの行動を変えていきます。その発展形である統合的行動論的カップル療法(IBCT)では、相手を変えることだけでなく、変えられない違いを受け入れること(アクセプタンス)も重視します。
感情焦点化カップル療法
カナダを拠点に活動した臨床心理学者スー・ジョンソンらが発展させた方法で、愛着理論を土台にしています。夫婦のケンカの奥には、「相手とつながっていたい」「大切にされたい」という気持ちと、それが満たされない不安があると考え、その気持ちを安全に伝え合えるよう支援します[1]。個人を対象とした感情焦点化療法(EFT)と同じ流れをくむアプローチです。
ゴットマンの研究にもとづく方法
アメリカの心理学者ジョン・ゴットマンは、多くの夫婦の会話を観察し、関係が長続きする夫婦と、そうでない夫婦の違いを調べました[2]。その研究にもとづき、夫婦の友情を育てることと、対立をうまく扱うことを柱にした方法がまとめられています。
③夫婦がすれ違うしくみ
夫婦療法では、ケンカの原因を「どちらが悪いか」ではなく、二人のやりとりのパターンとして捉えます。
くり返される悪循環
例えば、一方が不満を伝えようと責める口調になると、もう一方は責められたと感じて黙り込みます。黙られた側は「話を聞いてくれない」とさらに強く責め、責められた側はさらに距離をとる、というように、お互いの反応が相手の反応を引き出し合って、悪循環が続きます。
どちらが始めたのかを決めることは、ほとんど意味がありません。大切なのは、二人ともがこの循環に巻き込まれていると気づくことです。詳しくは、夫婦の悪循環(相互作用パターン)とはで解説しています。
関係を傷つける4つの話し方
ゴットマンらの研究[2]では、新婚夫婦の対立場面の会話を観察し、その後の経過を追いかけました。その結果、次の4つの話し方が、のちの離婚を予測していたと報告されています。
非難:相手の行動ではなく、人格を責める(「あなたは本当に自分勝手ね」)
軽蔑:見下す、あざ笑う、皮肉を言う
自己弁護:言い訳や反論で、自分を守ることに終始する
逃避(ストーンウォーリング):黙り込む、その場を離れるなどして、話し合いを遮断する
④カウンセリングの流れ
夫婦療法の進め方はアプローチによって異なりますが、おおまかには次のような流れで進みます。
二人の話を聴く
最初の数回は、二人がそろった面接で、何に困っているのか、関係がどのように変わってきたのかを聴きます。アプローチによっては、それぞれと個別に話す時間をとることもあります。カウンセラーは、どちらの話も同じように大切に扱い、二人のやりとりのパターンを見立てていきます。
パターンに気づき、変えていく
次に、くり返されている悪循環に二人で気づき、その奥にある気持ちを言葉にする練習をしたり、伝え方や聴き方を練習したりします。面接の中で実際に話し合い、カウンセラーがその場でやりとりを整えていくことも多くあります。
最終的な目標は、夫婦によって異なります。関係を立て直すことを目指す夫婦もいれば、落ち着いて話し合ったうえで、別々の道を選ぶ夫婦もいます。
相談先の探し方
夫婦療法は、夫婦や家族の相談を専門に掲げるカウンセリング機関や、家族療法・夫婦療法を学んだ公認心理師、臨床心理士などが行っています。相談先を選ぶときは、次の点を確かめておくと安心です。
夫婦やカップルの相談を受けた経験があるか
どのようなアプローチで進めるのか
二人で通う場合と、一人で通う場合の両方に対応しているか
料金、1回の時間、通う頻度の目安
⑤効果と研究
夫婦療法は、効果について多くの研究が行われている心理療法の一つです。
約7割の夫婦に改善
夫婦療法の研究を振り返った総説[3]では、夫婦療法を受けた夫婦の約70%に良い変化が見られ、その効果は個人を対象とした心理療法と同じくらいで、治療を受けなかったグループを大きく上回ると報告されています。また、統合的行動論的カップル療法と感情焦点化カップル療法は、効果が確認されたアプローチとして挙げられています。
心の健康とのつながり
同じ総説[3]では、夫婦関係の悩みが、うつ病や不安症などの心の不調と深く関わっていることも指摘されています。夫婦療法は、関係の改善だけでなく、こうした心の不調の治療の一部としても役割を持つと考えられています。
⑥二人でできる工夫
夫婦療法で使われる考え方のうち、日常で取り入れやすいものを紹介します。
話し始めをやわらかく
新婚夫婦124組の話し合いを観察した研究[4]では、対立についての話し合いの、最初の3分間の様子から、その後6年間の離婚を予測できたと報告されています。話し合いの始め方が、その後の流れを大きく左右するのです。
責める始め方:「どうしていつも連絡しないの!」
やわらかい始め方:「帰りが遅くなる日に連絡がないと、心配になるの。遅くなるときは一言もらえるとうれしい」
「私」を主語に気持ちを伝える
「あなたは〜」と相手を主語にすると、責める言葉になりやすくなります。「私は〜と感じた」「私は〜してほしい」と、自分を主語にして伝えてみましょう。具体的な伝え方は、夫婦間コミュニケーションの改善法で詳しく紹介しています。
感謝を具体的に言葉にする
関係がこじれてくると、相手の嫌なところばかりが目につき、助けてもらったことは当たり前になりがちです。「ゴミを出してくれてありがとう、朝バタバタしていたから助かった」のように、相手の行動と、それが自分にとってどう助けになったかを、具体的に言葉にしてみましょう。小さな感謝を積み重ねることが、対立が起きたときの土台になります。
ヒートアップしたら休憩する
話し合いの途中で、心臓がドキドキしたり、頭に血がのぼったりしたら、いったん休憩をとりましょう。そのときは黙って立ち去るのではなく、「少し頭を冷やしたいから、30分後にまた話そう」と、戻ってくる時間を伝えるのがコツです。休憩中は、相手への反論を考え続けるのではなく、散歩や深呼吸などで体を落ち着けます。
⑦注意
夫婦療法を検討するときに、知っておきたい点をまとめます。
暴力がある場合は安全を優先
パートナーから、殴る・けるなどの暴力、暴言や脅し、お金や行動の制限などを受けていて、相手が怖いと感じている場合は、話し合いや夫婦カウンセリングよりも、まず自分の身の安全を守ることを優先してください。配偶者暴力相談支援センターに相談でき、身の危険が迫っているときは警察(110番)に連絡してください。
暴力や強い支配がある関係では、二人そろってのカウンセリングが、かえって危険を高めることがあるため、一般的に夫婦療法はすすめられません。その場合は、まず被害を受けている人の安全と支援を優先します。
心の不調があるときは
夫婦の悩みが続いて、眠れない、食欲がない、気分の落ち込みが2週間以上続くなどの状態がある場合は、医療機関にも相談しましょう。夫婦療法と、個人の治療やカウンセリングを並行することもできます。
⑧まとめ
夫婦療法は、二人の関係そのものを支援の対象とし、どちらが悪いかではなく、二人の間でくり返されるやりとりのパターンに働きかける心理療法です。
今回のポイント
「どちらが悪いか」ではなく、やりとりのパターンを見る
行動論的、感情焦点化、ゴットマンの方法などがある
夫婦療法を受けた夫婦の約7割に良い変化が見られる
暴力がある場合は、夫婦療法より安全の確保を優先する
シリーズの他のコラム
カップル・夫婦療法シリーズでは、夫婦間のコミュニケーションの改善法と、夫婦の悪循環のしくみを、次のコラムで詳しく解説しています。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



