治療同盟とは、相談する人とセラピストが、目標と進め方について合意し、信頼で結ばれた協力関係のことです。ラポールは、互いに安心して話せる信頼の雰囲気を指す言葉で、治療同盟の土台になります。どちらも、学派の違いをこえて、心理療法の効果を支える大切な要素とされています。
みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「治療同盟とラポール」です。
カウンセリングで「この人になら話せる」と感じられるかどうかは、その後の取り組みに大きく影響します。当コラムでは、治療同盟とラポールの意味と、信頼関係の築き方、相談する人ができることを紹介します。目次は以下の通りです。
目次
- ①治療同盟とは
- ②ラポールとは
- ③なぜ大切なのか
- ④治療同盟の築き方
- ⑤関係のほころびと修復
- ⑥相談する人ができること
- ⑦日常の人間関係に活かす
- ⑧注意
- ⑨まとめ
①治療同盟とは
治療同盟は、作業同盟、援助同盟とも呼ばれ、心理療法の研究で最もよく調べられてきた要素の一つです。
3つの要素
アメリカの心理学者ボーディン[1]は、治療同盟を、次の3つの要素から成るものとして整理しました。この考え方は、学派をこえて広く使われています。
目標の合意:何を目指すのかについて、二人が合意していること
課題の合意:そのために、どのような方法で取り組むのかについて、二人が合意していること
絆:互いに信頼し、尊重し合っている感覚
「一緒に取り組む」関係
治療同盟は、セラピストが一方的に治療をほどこす関係ではなく、相談する人とセラピストが、同じ目標に向かって一緒に取り組む、チームのような関係を意味します。
②ラポールとは
ラポールは、「関係」「つながり」を意味するフランス語に由来する言葉で、心理療法では、心が通い合い、安心して話せる関係を表します。
安心と信頼の雰囲気
ラポールがある関係では、相談する人は、「この人には本当のことを話しても大丈夫だ」と感じることができます。カウンセリングの最初の段階で、まず大切にされるのが、このラポールを築くことです。
治療同盟との違い
ラポールは主に、安心感や信頼の「雰囲気」を指します。これに対して治療同盟は、信頼関係(絆)に加えて、目標と進め方についての「合意」も含む、より広い考え方です。ラポールは、治療同盟の土台にあたるといえます。
③なぜ大切なのか
治療同盟の大切さは、多くの研究で確かめられています。
295の研究のメタ分析
295の研究、3万人以上のデータをまとめたメタ分析[2]では、治療同盟が強いほど、心理療法の効果が高い傾向があることが示されました。この関係は、評価する人(相談者、セラピスト、観察者)や、心理療法の種類、相談者の特徴、国の違いをこえて、一貫して見られました。また、オンラインで行う心理療法でも、対面とほぼ同じ程度の関係が見られました。
学派をこえた共通要因
どの学派の心理療法でも治療同盟が効果と関わっていることから、治療同盟は、学派の違いをこえて心理療法を支える「共通要因」の代表と考えられています。共通要因については、統合的心理療法とはでも解説しています。
④治療同盟の築き方
セラピストは、治療同盟を築くために、次のような点を大切にしています。
話を聴き、理解を伝える
まずは、相談する人の話をじっくり聴き、理解したことを言葉にして伝えます。「わかってもらえた」という感覚が、信頼関係の出発点になります。聴き方の基本は、傾聴と共感とはで解説しています。
目標と進め方を一緒に決める
「このカウンセリングで、どうなれたらよいと思いますか」と尋ね、目標を一緒に確かめます。進め方についても、セラピストが方法を説明し、相談する人が納得したうえで始めます。悩みの背景を一緒に整理するケースフォーミュレーションも、目標と進め方を共有する助けになります。
相手を尊重する
相談する人の考えや価値観を否定せず、対等な立場で関わります。来談者中心療法の3つの基本的態度や、アドラー心理学の「横の関係」の考え方も、信頼関係を築く姿勢として参考になります。
⑤関係のほころびと修復
治療同盟は、一度築けば終わりではなく、途中で揺らぐこともあります。
ほころびは起きるもの
「セラピストに誤解された気がする」「この方法が合わない気がする」と感じて、関係がぎくしゃくすることは、珍しいことではありません。こうした関係のほころびは、相談する人が黙って通わなくなるきっかけにもなります。
話し合うことで深まる
ほころびに気づいたとき、セラピストがそれを率直に話題にし、相談する人の気持ちを受け止め、必要に応じて進め方を見直すことで、関係はかえって深まることがあります。ほころびを修復する経験そのものが、人間関係についての大切な学びになることもあります。
⑥相談する人ができること
治療同盟は、二人でつくるものです。相談する人の側からもできることがあります。
目標を言葉にしてみる
「何に困っているか」だけでなく、「どうなれたらよいか」を、短い言葉で考えておきましょう。うまく言葉にならなくても、「よく眠れるようになりたい」「人前で落ち着いて話したい」など、小さな目標で十分です。
違和感は伝えてよい
「今の進め方が、自分に合っているかわからない」
「さっきの言葉が、少し引っかかった」
「もう少し、具体的な方法を知りたい」
こうした気持ちを伝えることは、失礼なことではありません。率直に伝えることで、セラピストは進め方を調整でき、治療同盟が強まるきっかけになります。話し合っても合わないと感じる場合は、相談先を変えることも一つの選択肢です。
⑦日常の人間関係に活かす
治療同盟とラポールの考え方は、職場や家庭の人間関係にも活かせます。
目標を共有する
部下や同僚と仕事を進めるとき、「何のために、何を目指すのか」を最初に共有すると、協力しやすくなります。家庭でも、「どんな家族でいたいか」を話し合うことが、意見が違うときの土台になります。
小さな約束を守る
「あとで連絡する」と言ったら必ず連絡する、話を最後まで聴く、といった小さな行動の積み重ねが、信頼の雰囲気(ラポール)をつくります。関係がぎくしゃくしたときは、ほころびを見なかったことにせず、「さっきの話、気になっていて」と話題にしてみましょう。
⑧注意
信頼関係について、知っておきたい注意点をまとめます。
適切な距離も大切
治療同盟は、友人関係や恋愛関係とは違う、専門的な関係です。セラピストが、個人的な付き合いや金銭のやりとり、面接以外での頻繁な連絡を求めるなど、専門的な関係の範囲をこえる場合は注意が必要です。そうしたことがあれば、所属する機関や、資格を認定する団体などに相談してください。
心の不調が強いときは
気分の落ち込みや不安が強く、日常生活に支障が出ている場合は、医療機関にも相談しましょう。
⑨まとめ
治療同盟は、目標と進め方の合意と、信頼の絆から成る協力関係で、ラポールはその土台となる安心と信頼の雰囲気です。どちらも、学派をこえて心理療法の効果を支えています。
今回のポイント
治療同盟は、目標の合意・課題の合意・絆の3つから成る
治療同盟が強いほど、心理療法の効果が高い傾向がある
関係のほころびは、話し合うことで修復できる
相談する人も、目標や違和感を伝えてよい
心理療法の重要用語
「心理療法の重要用語」では、傾聴と共感、エビデンスに基づく心理療法についても解説しています。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



