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対人関係療法

対人関係療法とは,IPTの基礎と具体例

対人関係療法(IPT:Interpersonal Psychotherapy)とは、今の身近な人間関係と、気分の落ち込みなどの症状とのつながりに注目し、人間関係の問題に取り組むことで症状の改善を目指す、期間を決めて行う心理療法です。アメリカで、うつ病の治療法として開発され、効果が確かめられている心理療法の一つです。

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「対人関係療法(IPT)」です。

大切な人との別れ、家族や職場でのすれ違い、環境の変化など、人間関係の出来事は、気分に大きな影響を与えます。当コラムはシリーズの1本目として、対人関係療法の考え方と、中心となる4つの問題領域を紹介します。目次は以下の通りです。

目次

①対人関係療法とは

対人関係療法は、「今の人間関係」に焦点を当てる、短期間の心理療法です。まずは、その特徴を確認しましょう。

人間関係と気分のつながり

対人関係療法では、気分の落ち込みなどの症状と、身近な人間関係の問題は、互いに影響し合っていると考えます。人間関係がうまくいかないと気分が落ち込み、気分が落ち込むと、人間関係がさらにうまくいかなくなる、という悪循環です。この悪循環のうち、人間関係の側に働きかけることで、症状の改善を目指します。

「今」と「身近な人」に注目

対人関係療法では、過去の生い立ちを深く掘り下げるよりも、「今」の人間関係に焦点を当てます。対象となるのは、家族やパートナー、親しい友人、職場の人など、気持ちに大きな影響を与える「身近な人」との関係です。

期間を決めて行う

対人関係療法は、一般的に週1回、12〜16回ほどの面接で行われます[1]。最初に期間を決め、その中で取り組む問題を一つか二つに絞ることで、集中して取り組みます。

②生まれた背景

対人関係療法は、1970年代のアメリカで、うつ病の治療法として開発されました。

クラーマンとワイスマン

対人関係療法は、精神科医のジェラルド・クラーマンと、疫学者のマーナ・ワイスマンらによって開発され、1984年に治療の手引き[2]が出版されました。もともとは、薬物療法と組み合わせる心理療法を研究する中で生まれたものです。

土台となった考え方

対人関係療法は、人の心は人との関わりの中で形づくられると考えた精神科医サリヴァンの対人関係論や、人と人とのつながり(愛着)の大切さを示したボウルビィの愛着理論などを土台にしています。

日本での広がり

日本では、精神科医の水島広子[3]らが紹介し、うつ病や摂食症などの治療に用いられています。現在では、思春期の子ども向けの方法や、グループで行う方法なども開発されています。

③基本の考え方

対人関係療法には、治療を進めるうえで大切な、いくつかの考え方があります。

症状を「病気」として扱う

対人関係療法では、うつ病などの症状を、「怠け」や「性格の弱さ」ではなく、治療が必要な「病気」として扱います。病気であれば、一時的に役割を減らして休むことも、回復のために必要なことです。これを「病者の役割」と呼び、本人や家族の、自分を責める気持ちを和らげます。

対人関係の振り返り

治療の初めに、身近な人一人ひとりについて、関係の良いところ、困っているところ、期待していることなどを、セラピストと一緒に丁寧に振り返ります。これを「対人関係質問項目」と呼びます。この振り返りから、取り組むべき問題が見えてきます。

セラピストは積極的に関わる

対人関係療法のセラピストは、ただ話を聞くだけでなく、問題を整理したり、伝え方を一緒に考えたり、練習したりと、積極的に関わります。相談に来た人の味方として、問題の解決を一緒に目指していきます。

④4つの問題領域

対人関係療法では、気分の落ち込みと関わる人間関係の問題を、4つの領域に分けて考えます。治療では、このうち一つか二つの領域に絞って取り組みます。

悲哀

大切な人を亡くした後の、悲しみのプロセスがうまく進まず、落ち込みが続いている状態です。故人との思い出を振り返り、悲しみを十分に感じながら、新しい人間関係や生活を築いていきます。詳しくは、悲哀への対応で解説しています。

役割をめぐる不和

夫婦や親子、職場の人などとの間で、お互いへの期待がすれ違い、争いが続いている状態です。すれ違いの中身を整理し、伝え方を工夫しながら、期待を調整していきます。詳しくは、役割不和で解説しています。

役割の変化

就職、転職、結婚、出産、引っ越し、退職、病気など、生活の変化にうまく適応できず、落ち込んでいる状態です。古い役割を手放し、新しい役割に慣れていくのを支えます。詳しくは、役割の変化で解説しています。

対人関係の欠如

親しい人間関係が少なく、孤立していることが、気分の落ち込みと関わっている状態です。人との関わり方を見直し、少しずつ関係を広げていきます。詳しくは、対人関係の欠如で解説しています。

⑤治療の流れ

対人関係療法は、大きく3つの段階で進められます。

初期(1〜3回目ごろ)

症状や、これまでの経過を確認し、病気について説明を受けます。身近な人との関係を振り返り、4つの問題領域のうち、どれに取り組むかを、セラピストと一緒に決めます。

中期

選んだ問題領域に沿って、人間関係の問題に取り組みます。気持ちを整理したり、相手への伝え方を考えて練習したり、面接の間に実際に試してみたりします。毎回、前回からの気分と、人間関係の出来事を振り返ります。

終結期(最後の数回)

治療の終わりに向けて、これまでの変化を振り返り、身につけたことを確認します。治療が終わることへの気持ちも話し合い、今後、調子を崩しそうなときのサインと、その対処法を確認して終えます。

⑥対人関係を振り返るワーク

対人関係療法そのものは専門家のもとで行うものですが、その考え方を使って、自分の人間関係を振り返ることはできます。15分ほどで取り組んでみましょう。

身近な人を書き出す

紙の真ん中に自分の名前を書き、周りに、気持ちに影響を与えている身近な人を書き出します。家族、パートナー、友人、職場の人などです。

関係を振り返る

書き出した人一人ひとりについて、次のことを考えてみます。

その人との関係で、満足していること

その人との関係で、困っていること

その人に期待していること

最近、関係に変化があったか

気分との関係に気づく

最後に、最近気分が落ち込んだ日と、人間関係の出来事に、つながりがないかを振り返ります。「夫と話さなかった日は、気分が沈んでいる」など、つながりに気づくことが、対人関係療法の第一歩です。気になる問題が見えたら、4つの問題領域のどれに近いかを考え、シリーズの各コラムを参考にしてみてください。

⑦どの領域か考えてみよう

対人関係療法では、どの問題領域に取り組むかを決めることが、治療の大切な第一歩です。次の3つの場面が、4つの問題領域のどれにあたるか考えてみましょう。考えた後に、解説を開いてください。

場面1 昇進後の落ち込み

営業成績が認められて課長に昇進したが、部下をまとめる仕事に自信が持てず、気分が沈む日が続いている。

場面1の解説

「役割の変化」にあたります。昇進はうれしい変化ですが、営業担当として成果を出していた役割を手放し、管理職という新しい役割に慣れる必要があります。以前の役割で良かった点と大変だった点、新しい役割の良い点を整理し、相談できる先輩などの支えを得ることが役立ちます。

場面2 夫婦の会話が途絶えた

子育ての方針をめぐって夫と何度も言い争い、最近はお互いに話をしなくなった。気分の落ち込みが続いている。

場面2の解説

「役割をめぐる不和」にあたります。言い争いの後に会話が途絶えているので、3つの段階のうち「行き詰まり」の段階と考えられます。止まっている話し合いを再開できるよう、争点と、お互いの期待のずれを整理することから始めます。

場面3 ペットを亡くした後

15年一緒に暮らした犬を亡くしてから、半年たっても涙が止まらず、仕事にも集中できない。

場面3の解説

「悲哀」にあたります。対人関係療法では主に人との死別を扱いますが、家族同然の存在を失った悲しみは、同じように深いものです。思い出を振り返り、悲しみを話せる人を見つけながら、少しずつ日常を取り戻していきます。生活への支障が大きい場合は、専門家に相談しましょう。

領域を決めるときのポイント

実際の治療では、一つの場面に複数の領域が関わることもあります。その場合は、気分の落ち込みと最も関係が深いものを、セラピストと話し合って一つか二つに絞ります。

⑧効果と研究

対人関係療法は、うつ病の治療法として、多くの研究で効果が確かめられています。

研究のまとめ

カイパースら[4]は、うつ病に対する対人関係療法の研究をまとめて分析しました。その結果、対人関係療法は、治療を受けないグループなどと比べて効果があり、認知行動療法など他の心理療法とも同じくらいの効果があることが示されました。また、薬物療法と組み合わせることで、再発を防ぐ効果も報告されています。

うつ病以外への応用

対人関係療法は、うつ病のほか、摂食症(特に過食症)や、思春期のうつ病、出産前後の気分の落ち込みなどにも応用され、効果が報告されています。

⑨受けるときの注意

対人関係療法を受けるときや、考え方を取り入れるときは、次の点に注意しましょう。

専門家のもとで受ける

対人関係療法は、専門の訓練を受けた医師や公認心理師などのもとで行う心理療法です。実施している医療機関は限られているため、受けたい場合は、主治医に相談するか、事前に医療機関に問い合わせてみましょう。

つらさが強いときは

気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、食欲がない、死にたい気持ちがある、といった場合は、一人で抱え込まず、医療機関や専門家に相談してください。すぐに話を聞いてほしいときは、電話やSNSの相談窓口を頼ることもできます。

⑩確認してみよう

ここまでの内容を、3つの問題で確認してみましょう。答えを考えてから、正解と解説を開いてください。

問題1

対人関係療法が焦点を当てるものとして、最も適切なものはどれでしょうか。

ア 幼少期の記憶

イ 今の身近な人との関係

ウ 夢の内容

問題1の正解と解説

正解はイ(今の身近な人との関係)です。対人関係療法では、過去の生い立ちを深く掘り下げるよりも、家族やパートナー、職場の人など、今の身近な人との関係に焦点を当てます。

問題2

就職、結婚、退職など、生活の変化にうまく適応できず落ち込んでいる状態は、4つの問題領域のどれにあたるでしょうか。

ア 悲哀

イ 役割をめぐる不和

ウ 役割の変化

問題2の正解と解説

正解はウ(役割の変化)です。役割の変化では、古い役割を手放し、新しい役割に慣れていくのを支えます。

問題3

対人関係療法で、症状を治療が必要な「病気」として扱い、一時的に役割を減らして休むことを認める考え方を何と呼ぶでしょうか。

ア 病者の役割

イ 対人関係の欠如

ウ 終結期

問題3の正解と解説

正解はア(病者の役割)です。病者の役割という考え方は、本人や家族の、自分を責める気持ちを和らげる働きがあります。

⑪まとめ

対人関係療法は、今の身近な人間関係と症状のつながりに注目し、4つの問題領域のいずれかに絞って取り組むことで、症状の改善を目指す、期間を決めて行う心理療法です。

今回のポイント

人間関係と気分は、互いに影響し合っている

過去より「今」の身近な人との関係に焦点を当てる

悲哀、役割をめぐる不和、役割の変化、対人関係の欠如の4領域

うつ病への効果が多くの研究で確かめられている

シリーズの他のコラム

対人関係療法シリーズでは、4つの問題領域を一つずつ、具体例とともに解説しています。

IPTにおける悲哀への対応とは|意味と具体例を解説

IPTにおける役割不和とは|対処法を解説

IPTにおける役割の変化とは|適応法を解説

IPTにおける対人関係の欠如とは|意味と具体例を解説

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Weissman, M. M., Markowitz, J. C., & Klerman, G. L. (2000). Comprehensive guide to interpersonal psychotherapy. New York: Basic Books.
 
[2] Klerman, G. L., Weissman, M. M., Rounsaville, B. J., & Chevron, E. S. (1984). Interpersonal psychotherapy of depression. New York: Basic Books.
 
 
[4] Cuijpers, P., Geraedts, A. S., van Oppen, P., Andersson, G., Markowitz, J. C., & van Straten, A. (2011). Interpersonal psychotherapy for depression: A meta-analysis. American Journal of Psychiatry, 168(6), 581-592.
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