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催眠療法

催眠療法とは,歴史と基礎

催眠療法とは、催眠によって注意が一つのことに集中し、周りへの意識が薄れた状態をつくり、その中で暗示やイメージを用いて、不安や痛み、習慣の改善などを目指す心理療法です。テレビのショーで見るような「操られる」ものではなく、本人の協力のもとで、本人の力を引き出すための方法です。

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「催眠療法」です。

催眠と聞くと、怪しいイメージや、意識を失うイメージを持つ方も多いかもしれません。当コラムでは、そうした誤解を整理したうえで、催眠療法の歴史としくみ、研究で分かっていること、自分で試せるリラックス法を紹介します。目次は以下の通りです。

目次

①催眠療法とは

催眠療法は、「催眠」という心の状態を、心理療法に活かす方法です。まずは、催眠とは何かを確認しましょう。

催眠の意味

アメリカ心理学会の催眠部会[1]は、催眠を、注意が一点に集中し、周りへの意識が薄れた意識の状態で、暗示に反応しやすくなることを特徴とするもの、と定義しています。

例えば、本や映画に夢中になって、名前を呼ばれても気づかなかった経験はないでしょうか。催眠状態は、こうした「何かに深く集中している状態」に近いものだと考えられています。

催眠療法でできること

催眠療法では、催眠によって集中した状態の中で、リラックスを深めたり、望ましい自分の姿をイメージしたり、痛みや不安の感じ方を変えるような暗示を用いたりします。単独で行うだけでなく、認知行動療法などの他の心理療法と組み合わせて使われることも多い方法です。

催眠と眠りの違い

「催眠」という言葉には「眠」という字が入っていますが、催眠状態は眠っている状態ではありません。本人は意識があり、周りの声も聞こえていて、セラピストの話を理解しています。体はリラックスしていても、注意は一つのことにしっかり向いているのが特徴です。

②よくある4つの誤解

催眠は、テレビのショーや映画のイメージから、誤解されやすい方法です。代表的な4つの誤解を確認しておきましょう。

誤解1 意識を失う

催眠中も意識ははっきりしており、何が起きているかを理解しています。終わった後に、催眠中のことを覚えている人がほとんどです。

誤解2 操られてしまう

催眠中であっても、本人が望まないことや、自分の価値観に反することを、無理にさせられることはないと考えられています。催眠療法は、本人の協力があって初めて成り立つ方法です。

誤解3 かかる人とかからない人がいる

催眠への反応しやすさには個人差がありますが、多くの人は、ある程度の催眠状態を体験することができるとされています。「かかりやすさ」は、意志の弱さや、だまされやすさとは関係がありません。

誤解4 忘れた記憶を正確に思い出せる

催眠で、忘れていた過去の出来事を正確に思い出せる、というイメージがありますが、これは誤りです。催眠中に思い出された内容には、想像や暗示が混ざりやすく、事実ではない記憶が生まれてしまうおそれがあります。そのため、記憶を掘り起こす目的で催眠を使うことには、慎重であるべきだとされています。

③催眠療法の歴史

催眠療法は、18世紀のヨーロッパから始まり、医学や心理学の発展とともに形を変えてきました。詳しい歴史は折り畳みに入れていますので、興味のある方は展開してみてください。

メスメルからブレイドへ

18世紀、オーストリアの医師メスメルは、体の中を流れる「動物磁気」を整えることで病気が治ると主張し、ヨーロッパで大きな話題になりました。この説は科学的に否定されましたが、人の心が体に強い影響を与えることを示す出来事として、催眠の研究の出発点となりました。

19世紀には、イギリスの医師ブレイドが、こうした現象は磁気ではなく、注意の集中によって起こると考え、「ヒプノティズム(催眠)」という言葉を広めました。

シャルコーとフロイト

19世紀後半のフランスでは、パリの神経学者シャルコーと、ナンシーの医師ベルネームらが、催眠について盛んに研究しました。ベルネームらは、催眠を、暗示に反応しやすくなる正常な心の働きとして捉えました。

精神分析を創始したフロイトも、若い頃に催眠を治療に使っていました。しかし、すべての患者が催眠に入れるわけではないことなどから、次第に催眠をやめ、自由連想法を中心とする精神分析を発展させていきました。

現代の催眠療法

20世紀には、アメリカの精神科医ミルトン・エリクソンが、日常の会話の中で自然に催眠状態を促す独自の方法を発展させ、「現代催眠の父」と呼ばれました。エリクソンの考え方は、ブリーフセラピーにも大きな影響を与えています。

日本でも、心理学者の成瀬悟策らが催眠の研究と臨床を進めました。成瀬は、催眠の研究をきっかけに、日本独自の心理療法である臨床動作法を開発しています。

④催眠のしくみ

催眠がどのようなしくみで起こるのかについては、いくつかの考え方があります。ここでは、代表的な見方を紹介します。

注意の集中と暗示

催眠状態では、注意が一つのことに集中し、それ以外のことへの意識が薄れます。この状態では、暗示によるイメージや感覚を、普段より体験しやすくなると考えられています。例えば、「腕が軽くなっていく」という暗示を受けると、実際に腕が浮くような感覚が生まれることがあります。

かかりやすさの個人差

催眠への反応しやすさ(被催眠性)には個人差があり、専用の尺度で測ることができます。想像の世界に入り込みやすい人や、物事に没頭しやすい人は、催眠に反応しやすい傾向があるとされています。反応しやすさは、年齢によっても変わり、子どもは比較的反応しやすいと言われています。

催眠の理論の違い

催眠のしくみについては、大きく2つの考え方があります。1つは、催眠を、ふだんとは異なる特別な意識の状態だと考える立場です。もう1つは、特別な状態というよりも、期待や動機づけ、イメージする力など、ふだんの心の働きが組み合わさって起きる現象だと考える立場です。

現在も研究が続いており、どちらの考え方にも支持する研究があります。脳の働きを調べる研究では、催眠中に、注意や体の感覚に関わる脳の部位の働きが変化することも報告されています。

⑤催眠療法の流れ

催眠療法は、セラピストによって進め方が異なりますが、おおむね次のような流れで行われます。

準備と目標の確認

最初に、困っていることや、催眠療法で目指したいことを話し合います。催眠についての誤解や不安があれば、ここで十分に説明を受けます。催眠療法が合わない状態ではないかの確認も行います。

誘導と深化

リラックスした姿勢で、呼吸や体の感覚、イメージなどに注意を向けるよう、セラピストが言葉で導きます(誘導)。続いて、「階段を一段ずつ下りていく」といったイメージを使って、集中とリラックスを深めていきます(深化)。

暗示とイメージ

集中した状態の中で、目標に合わせた暗示やイメージを用います。例えば、人前で話すことに不安がある人なら、落ち着いて話している自分の姿をありありとイメージする、といった方法です。

覚醒と振り返り

最後に、数を数えるなどして、ゆっくりとふだんの意識の状態に戻ります。終わった後は、体験したことを振り返り、日常生活でどのように活かすかを話し合います。

⑥効果と研究

催眠療法の効果については、多くの研究が行われ、特に痛みの軽減や、他の心理療法との組み合わせで効果が報告されています。

痛みへの効果

モンゴメリーら[2]は、催眠による痛みの軽減を調べた研究をまとめて分析し、催眠が多くの人の痛みを和らげることを報告しています。医療の現場では、処置に伴う痛みや不安を和らげる目的で、催眠が用いられることもあります。

他の療法との組み合わせ

カーシュら[3]は、認知行動療法に催眠を組み合わせた研究をまとめて分析しました。その結果、催眠を加えた場合の方が、認知行動療法だけの場合よりも、効果が高まる傾向がみられました。

研究を読むときの注意

一方で、禁煙など、催眠療法の効果がはっきりと確かめられていない分野もあります。研究の数や質にはばらつきがあり、催眠療法が「何にでも効く」わけではありません。どの悩みに催眠療法が合うかは、専門家と相談して判断しましょう。

⑦自分で試せるリラックス法

催眠療法そのものは、専門家のもとで行うものです。ここでは、催眠の要素を取り入れた、安全に試せる簡単なリラックス法を紹介します。5分ほどで行えます。

準備

静かな場所で、椅子に深く腰かけるか、仰向けに寝ます。運転中や、すぐに立ち上がる必要がある場面では行わないでください。タイマーを5分にセットしておくと安心です。

やり方

①目を閉じ、ゆっくり3回深呼吸をする

②「息を吐くたびに、体の力が少しずつ抜けていく」と心の中でくり返す

③心が落ち着く場所(海辺や森など)を思い浮かべ、景色、音、においを感じる

④その場所で、穏やかに過ごしている自分をしばらく味わう

⑤「5つ数えたら、すっきりと目が覚める」と心の中で言い、1から5まで数えて目を開ける

終わった後に

目を開けたら、両手をグーパーと数回握ったり開いたりし、軽く伸びをしてから動き始めましょう。体の力を抜いて心を落ち着ける方法としては、漸進的筋弛緩法や自律訓練法もあります。催眠療法と自律訓練法の違いは、催眠療法と自律訓練法の違いとはで解説しています。

⑧受けるときの注意

催眠療法は、適切に行えば安全な方法とされていますが、受けるときには次の点に注意しましょう。

専門家のもとで受ける

催眠療法は、医師や公認心理師、臨床心理士など、心の専門家としての資格と、催眠の専門的な訓練を持つ人のもとで受けることが大切です。日本では、日本催眠医学心理学会などの学会が、研究や専門家の養成を行っています。高額な料金や「何でも治る」といった宣伝には注意しましょう。

慎重さが必要な場合

統合失調症などで現実と想像の区別が難しくなっている時期や、解離の症状が強い場合、強いトラウマを抱えている場合などは、催眠療法が合わないことや、慎重に進める必要があることがあります。通院中の方は、事前に主治医に相談してください。

⑨確認してみよう

ここまでの内容を、3つの問題で確認してみましょう。答えを考えてから、正解と解説を開いてください。

問題1

催眠状態の説明として、最も適切なものはどれでしょうか。

ア 意識を失って眠っている状態

イ 注意が一つのことに深く集中している状態

ウ 何も考えられなくなる状態

問題1の正解と解説

正解はイ(注意が一つのことに深く集中している状態)です。催眠状態は眠りではなく、意識があり、周りの声も聞こえています。注意が一つのことに集中し、周りへの意識が薄れた状態です。

問題2

催眠中の行動について、正しいものはどれでしょうか。

ア 本人が望まないことでも、何でもさせられる

イ 本人の協力があって初めて成り立つ

ウ 催眠中のことは必ず何も覚えていない

問題2の正解と解説

正解はイ(本人の協力があって初めて成り立つ)です。催眠中でも、本人が望まないことを無理にさせられることはないと考えられています。終わった後に、催眠中のことを覚えている人がほとんどです。

問題3

催眠を使うことに慎重であるべきだとされているのは、どのような目的でしょうか。

ア リラックスを深めること

イ 処置に伴う痛みや不安を和らげること

ウ 忘れていた過去の記憶を掘り起こすこと

問題3の正解と解説

正解はウ(忘れていた過去の記憶を掘り起こすこと)です。催眠中に思い出された内容には、想像や暗示が混ざりやすく、事実ではない記憶が生まれてしまうおそれがあるためです。

⑩まとめ

催眠療法は、注意が集中した催眠状態を活かし、暗示やイメージを用いて、不安や痛み、習慣の改善を目指す心理療法です。意識を失ったり、操られたりするものではなく、本人の協力のもとで行われます。

今回のポイント

催眠は、眠りではなく、深く集中した状態

操られることはなく、本人の協力が欠かせない

痛みの軽減や、認知行動療法との組み合わせで効果が報告されている

記憶の掘り起こしには使わず、専門家のもとで受ける

次に読みたいコラム

催眠と似た方法として知られる自律訓練法との違いは、催眠療法と自律訓練法の違いとはで詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Elkins, G. R., Barabasz, A. F., Council, J. R., & Spiegel, D. (2015). Advancing research and practice: The revised APA Division 30 definition of hypnosis. International Journal of Clinical and Experimental Hypnosis, 63(1), 1-9.
 
[2] Montgomery, G. H., DuHamel, K. N., & Redd, W. H. (2000). A meta-analysis of hypnotically induced analgesia: How effective is hypnosis? International Journal of Clinical and Experimental Hypnosis, 48(2), 138-153.
 
[3] Kirsch, I., Montgomery, G., & Sapirstein, G. (1995). Hypnosis as an adjunct to cognitive-behavioral psychotherapy: A meta-analysis. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 63(2), 214-220.
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