自律訓練法とは、「両腕が重たい」「両腕が温かい」といった決まった言葉(公式)を心の中でくり返し、体の感覚にぼんやりと注意を向けることで、心身をリラックスした状態に導く、自己催眠を応用したセルフケアの方法です。ドイツの精神科医シュルツが体系化し、ストレスや緊張、不眠などへの対処として、医療や教育の現場で広く使われています。
みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「自律訓練法」です。
自律訓練法は、道具を使わず、一人で、場所を選ばずに練習できるのが魅力です。当コラムでは、自律訓練法の考え方と、標準練習のやり方、安全に続けるための注意点を紹介します。目次は以下の通りです。
①自律訓練法とは
自律訓練法は、自分で(自律)、心と体のリラックスを練習する(訓練)方法です。まずは、その特徴を確認しましょう。
自己催眠を応用した方法
自律訓練法は、催眠の研究から生まれました。セラピストの暗示によって導かれる催眠とは違い、決まった言葉を自分で心の中でくり返すことで、催眠に近いリラックスした状態を、自分の力でつくり出していきます[1]。催眠療法との違いは、催眠療法と自律訓練法の違いとはで詳しく解説しています。
受け身の注意
自律訓練法で大切なのが、「受け身の注意」という姿勢です。「腕を重くしよう」と頑張るのではなく、「腕が重たい」という言葉をくり返しながら、腕の感覚に、ぼんやりと、さりげなく注意を向けます。うまくいかせようと力むほど、かえって緊張してしまうため、結果を気にせずに続けることがポイントです。
期待できる変化
練習を続けると、体の緊張がゆるみ、手足が温かくなるなど、リラックスしたときの体の状態を、自分で呼び起こしやすくなります。その結果、緊張しやすい場面で落ち着きやすくなったり、寝つきが良くなったりすることが期待されます。
②生まれた背景
自律訓練法は、20世紀の初めに、ドイツで催眠の研究から生まれました。
シュルツの体系化
ドイツの精神科医ヨハネス・ハインリッヒ・シュルツは、催眠を受けた人の多くが、手足の重さや温かさを感じることに注目しました。そして、こうした感覚を言葉にして自分でくり返せば、セラピストがいなくても、催眠に近いリラックス状態をつくれるのではないかと考えました。1932年に、その方法を「自律訓練法」としてまとめています。
日本での広がり
日本には1950年代に紹介され、心身医学や心理臨床の分野で広く取り入れられてきました。現在では、日本自律訓練学会が研究や専門家の育成を行っており、医療機関のほか、学校のストレスマネジメント教育などでも活用されています。
③標準練習の6つの公式
自律訓練法の基本は「標準練習」です。気持ちを落ち着ける「背景公式」に続いて、6つの公式を順番に練習していきます。
背景公式
「気持ちが落ち着いている」
すべての練習の最初と、公式の合間にくり返す言葉です。
6つの公式
第1公式(重感):「両腕両脚が重たい」
第2公式(温感):「両腕両脚が温かい」
第3公式(心臓調整):「心臓が静かに規則正しく打っている」
第4公式(呼吸調整):「楽に呼吸している」
第5公式(腹部温感):「お腹が温かい」
第6公式(額部涼感):「額が心地よく涼しい」
最初から6つすべてを行う必要はありません。一般的には、第1公式の重感から始め、感覚がつかめてきたら、次の公式を一つずつ加えていきます。セルフケアとして一人で行う場合は、第1公式と第2公式だけでも、リラックスの効果が期待できるとされています。
公式を進めるときの目安
重感の練習は、まず利き腕(右利きなら右腕)から始め、「右腕が重たい」→「両腕が重たい」→「両腕両脚が重たい」と、少しずつ範囲を広げていくのが一般的です。
一つの公式で、言葉をくり返すと自然に感覚が生まれるようになったら、次の公式に進みます。目安として、1つの公式に1〜2週間ほどかける方法が多く紹介されていますが、焦らず、自分のペースで進めることが大切です。
④基本のやり方
ここでは、第1公式(重感)を例に、1回の練習の流れを紹介します。1回は3〜5分ほど、1日2〜3回を目安に行いましょう。
姿勢を整える
椅子に深く腰かけ、足を肩幅に開き、手は太ももの上に軽く置きます。仰向けに寝て行う場合は、腕を体から少し離して、手のひらを下に向けます。ベルトや腕時計など、体を締めつけるものはゆるめておきましょう。
公式をくり返す
①目を閉じ、ゆっくり呼吸をする
②心の中で「気持ちが落ち着いている」と1〜2回くり返す
③「右腕が重たい」と、ゆっくり心の中で4〜5回くり返す。腕の感覚に、ぼんやりと注意を向ける
④再び「気持ちが落ち着いている」とくり返す
⑤消去動作(次の章)を行って、目を開ける
感じられなくても大丈夫
最初のうちは、重さや温かさを感じられないことも多いものです。それは失敗ではありません。感覚を無理に感じようとせず、言葉をくり返すことを続けていれば、少しずつ感覚が生まれてくることが多いです。
⑤必ず行う消去動作
自律訓練法の練習の後には、必ず「消去動作」を行います。リラックスした状態から、ふだんの状態にしっかり戻るための大切な手順です。
消去動作のやり方
①両手を、グーパーと5〜6回、強く握ったり開いたりする
②両ひじを、5〜6回、勢いよく曲げ伸ばしする
③大きく伸びをして、深呼吸をする
④目を開ける
なぜ必要なのか
消去動作をせずに急に立ち上がると、体がだるく感じたり、ふらついたり、頭がぼんやりしたりすることがあります。練習の後は、必ず消去動作を行ってから動き始めましょう。ただし、寝る前に布団の中で行い、そのまま眠る場合は、消去動作をしなくても構いません。
⑥続けるコツ
自律訓練法は、続けることで効果が出やすくなる方法です。無理なく続けるためのコツを紹介します。
時間と場所を決める
「朝起きたとき」「昼休み」「寝る前」など、練習する時間を決めておくと、習慣にしやすくなります。最初は静かな場所で練習し、慣れてきたら、通勤電車の中など、少しにぎやかな場所でも試してみましょう。
記録をつける
練習した日時、どの公式を行ったか、どんな感覚があったかを、簡単にメモしておきましょう。「今日は腕が少し温かく感じた」といった小さな変化に気づくと、続ける励みになります。
他のリラックス法と組み合わせる
自律訓練法の感覚がつかみにくい場合は、筋肉に力を入れてから抜く漸進的筋弛緩法から始めると、リラックスした感覚を体験しやすくなります。ストレスとの付き合い方全体については、ストレスマネジメントのコラムもあわせてご覧ください。
⑦効果と研究
自律訓練法の効果については、さまざまな研究が行われています。
研究のまとめ
シュテッターとクッパー[2]は、自律訓練法の効果を調べた60の研究をまとめて分析しました。その結果、自律訓練法は、緊張型頭痛や片頭痛、軽度から中程度の高血圧、不安、睡眠の問題など、さまざまな悩みに対して効果がみられたと報告しています。
研究を読むときの注意
一方で、研究の方法や質にはばらつきがあり、自律訓練法だけで病気が治るわけではありません。持病がある方は、自律訓練法を治療の代わりにするのではなく、医師の治療と並行して、セルフケアとして取り入れましょう。
⑧注意点
自律訓練法は安全性の高い方法とされていますが、体の働きに影響を与えるため、次の点に注意しましょう。
医師に相談したい方
次のような方は、練習を始める前に医師に相談してください。
心臓の病気や、血圧の病気がある方
糖尿病、胃腸の病気などで治療中の方
統合失調症などの治療中の方
強い不安や解離の症状がある方
特に、心臓調整(第3公式)や腹部温感(第5公式)は、体の働きに直接関わるため、持病がある方は、専門家の指導のもとで行いましょう。
不快な反応が出たら中止
練習中に、強い不安、めまい、動悸、気分の悪さなどを感じたら、すぐに消去動作を行って中止しましょう。また、運転中や機械の操作中など、意識がぼんやりすると危険な場面では、決して行わないでください。
⑨確認してみよう
ここまでの内容を、3つの問題で確認してみましょう。答えを考えてから、正解と解説を開いてください。
問題1
自律訓練法で大切にされる「受け身の注意」の説明として、最も適切なものはどれでしょうか。
ア 感覚を感じようと強く集中する
イ 結果を気にせず、体の感覚にぼんやりと注意を向ける
ウ 何も考えないように頑張る
問題2
標準練習の第1公式はどれでしょうか。
ア 「両腕両脚が重たい」
イ 「額が心地よく涼しい」
ウ 「楽に呼吸している」
問題3
練習の後に必ず行う「消去動作」の目的はどれでしょうか。
ア リラックスをさらに深めるため
イ ふだんの状態にしっかり戻るため
ウ 次の公式に進むため
⑩まとめ
自律訓練法は、決まった公式を心の中でくり返し、受け身の注意で体の感覚に向き合うことで、心身をリラックスさせる自己催眠の方法です。一人で、道具を使わずに練習できる、心強いセルフケアの方法です。
今回のポイント
「頑張らない」受け身の注意で、公式をくり返す
まずは第1公式(重感)と第2公式(温感)から
練習の後は、必ず消去動作を行う
持病がある方は、始める前に医師に相談
次に読みたいコラム
自律訓練法のもとになった催眠療法については、催眠療法とはで解説しています。あわせてご覧ください。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連


