みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは、ブリーフセラピーシリーズの4本目です。「SFBT(解決志向ブリーフセラピー)」をテーマに解説していきます。
SFBT(Solution-Focused Brief Therapy:解決志向ブリーフセラピー)とは、悩みの原因を探るのではなく、相談者が望む未来と、すでに持っている強みや、うまくいっている「例外」に焦点を当てて、解決を一緒に組み立てていく短期の心理療法です。ブリーフセラピーの代表的な学派の一つで、学校や医療、福祉、企業など、さまざまな現場で使われています。
今回は、SFBTの基本的な考え方と主な質問技法、日常で試せるセルフワークを解説します。目次は以下の通りです。
①SFBTとは
SFBTは、「問題」ではなく「解決」について話し合うことを大切にする心理療法です。まずは、生まれた背景と、従来の考え方との違いを確認しましょう。
生まれた背景
SFBTは、1978年にアメリカのミルウォーキーに設立されたブリーフファミリーセラピーセンター(BFTC)で、スティーブ・ド・シェイザーとインスー・キム・バーグらが中心となって発展させました。ド・シェイザーらは、面接の記録を丁寧に見直す中で、問題の原因が分からなくても、相談者がうまくいっているときのことを話し合うだけで、変化が起きることに注目しました[1]。
インスー・キム・バーグは韓国出身のソーシャルワーカーで、来日して研修を行うなど、日本の実践者とも交流がありました。
問題志向との違い
多くの支援では、まず問題を詳しく調べ、原因を見つけてから解決策を考えます。これを「問題志向」と呼びます。一方、SFBTは「解決志向」で、次のような点に注目します。
問題志向:何が問題か? 原因は何か? 何が足りないか?
解決志向:どうなりたいか? うまくいっているときは? 何が役立っているか?
SFBTでは、相談者こそが自分の生活の専門家であり、解決に必要な力をすでに持っていると考えます。カウンセラーは答えを教える人ではなく、質問を通して、相談者がその力に気づくのを手伝う役割を担います。
②3つの基本ルール
SFBTには、面接全体を支える、シンプルな3つの考え方があります。これは、日常生活の中でもそのまま使える考え方です。
うまくいっていることは続ける
「壊れていないなら、直すな」とも言われます。生活の中でうまくいっていることは、無理に変える必要はありません。悩みがあると、うまくいっていない部分ばかりに目が向きがちですが、まずは、うまくいっていることを見つけて大切にします。
うまくいったことはまたやる
一度でもうまくいったことがあれば、それをもう一度やってみます。例えば、「先週、早めに寝た翌朝は、気分よく仕事ができた」なら、今週も早めに寝てみる、という具合です。シンプルですが、とても効果的な考え方です。
うまくいかないなら変える
うまくいかない方法を、何度もくり返す必要はありません。「何度言っても伝わらない」なら、言い方や伝えるタイミングを変えてみます。デ・ヨングとバーグ[2]は、これらの考え方を面接の土台として紹介しています。違うことであれば何でもよく、小さな変化から試していきます。
③主な質問技法
SFBTでは、カウンセラーの「質問」が、変化を生み出す中心的な道具になります。ここでは代表的な質問技法を紹介します。
例外の質問
「問題が起きなかったとき」「少しましだったとき」を尋ねる質問です。どんなに大きな悩みでも、いつも同じ強さで起きているわけではありません。
「最近、イライラせずに過ごせた日はありましたか?」
「その日は、いつもと何が違っていましたか?」
例外のときにしていたことは、その人に合った解決策のヒントになります。
スケーリング・クエスチョン
今の状態を0〜10の数字で表してもらう質問です。数字にすることで、小さな変化にも気づきやすくなります。
「最悪の状態を0、解決した状態を10とすると、今は何点ですか?」
「0点ではなく3点なのは、何があるからですか?」
「1点上がったら、何が違っていると思いますか?」
特に「なぜ0点ではないのか」を尋ねると、すでにできていることや、支えになっているものが見えてきます。
コーピング・クエスチョン
つらい状況が続いているときに使う質問です。「これほど大変な中で、どうやって今日までやってこられたのですか?」と尋ねます。状況を乗り切ってきた工夫や力に、本人が気づくきっかけになります。
ミラクルクエスチョン
「眠っている間に奇跡が起きて、悩みが解決していたら、翌朝どんな違いから気づくか」を尋ねる質問です。望む未来を具体的に描くために使われます。やり方は、シリーズのミラクルクエスチョンとはで詳しく解説しています。
コンプリメント
コンプリメントとは、相談者がすでにしている工夫や努力、強みを、言葉にして伝えることです。単なるお世辞ではなく、相談者の話の中にある事実にもとづいて伝えます。例えば、「忙しい中でも、毎朝お子さんに声をかけ続けているのですね」のように伝えると、相談者は自分の力に気づきやすくなります。
④面接の流れ
SFBTの面接は、カウンセラーによって細かな違いはありますが、おおむね次のような流れで進みます。面接の回数は、数回程度で終わることも少なくありません。
ゴールを話し合う
最初に、「この相談で、どうなれたら良いと思いますか?」と、相談者の望む状態を話し合います。ゴールは、「〜をやめる」より「〜をしている」という形で、小さく、具体的なものにしていきます。ミラクルクエスチョンは、このゴールづくりに役立ちます。
例外とリソースを探す
次に、例外の質問やスケーリング・クエスチョンを使って、すでにうまくいっていることや、相談者の強み、周りの支えを一緒に探します。カウンセラーは、見つかった工夫や力をコンプリメントとして伝えます。リソースの探し方は、リソースとはで解説しています。
次回までの提案
面接の終わりには、少し休憩をとった後、カウンセラーがコンプリメントを伝え、次回までに試してみることを提案します。例えば、「うまくいっている日に何が起きているか、観察してきてください」「1点上がったときにしていそうなことを、1つ試してみてください」といった提案です。次の面接では、「何が良くなりましたか?」という質問から始めます。

⑤日常でできるセルフワーク
SFBTの考え方は、一人でも日常に取り入れることができます。ここでは、手軽にできる3つのワークを紹介します。
例外ノート
1日の終わりに、「今日、少しでもうまくいったこと」を3つ書き出します。そして、そのとき自分が何をしていたか、周りの状況はどうだったかも、1行ずつ添えましょう。
例:朝の会議で、落ち着いて発言できた
→前日に、話す内容を3行でメモしておいた
1〜2週間続けると、自分がうまくいくときのパターンが見えてきます。そのパターンを、意識してくり返してみましょう。
1点アップの質問
気になる悩みについて、今の状態を0〜10点でつけます。次に、「1点だけ上がったら、何が違っているか」を考え、明日できる小さな行動を1つ決めます。目標を一気に10点にしようとせず、1点ずつ上げていくのがコツです。
例:職場の居心地 今は4点
5点になったら→昼休みに、隣の席の人と天気の話くらいはしている
明日の一歩→自分から「今日は暑いですね」と話しかけてみる
自分へのコンプリメント
寝る前に、「今日、自分が頑張ったこと」「工夫したこと」を1つ見つけて、言葉にして自分に伝えます。「疲れていたのに、ちゃんと夕食を作った」「苦手な電話を、後回しにせずにかけた」など、小さなことで構いません。自分の力に目を向ける習慣は、自信を育てる土台になります。
⑥効果と研究
SFBTについては、これまで多くの研究が行われ、一定の効果が報告されています。一方で、研究の質については課題も指摘されています。
研究のまとめ
ジンジャーリッチとピーターソン[3]は、SFBTの効果を比較群と比べて調べた43の研究を検討し、多くの研究で良い変化が報告されていることを示しました。対象は、うつや不安、子どもの問題行動、職場復帰、夫婦関係など、さまざまな悩みにわたります。
また、ジャクとペカーラ[4]は、これまでのレビュー論文をさらにまとめて検討し、SFBTは心の健康や人間関係など幅広い面で効果が期待できると報告しています。
研究を読むときの注意
ジャクとペカーラ[4]の検討では、研究の方法によって、効果の大きさが異なることも指摘されています。何もしないグループと比べた研究や、集団で行った研究では効果が大きく出やすく、別の治療と比べる厳密な研究では、効果は比較的小さくなる傾向がありました。
SFBTは、短い期間で取り組みやすい方法ですが、どんな悩みにも万能というわけではありません。気分の落ち込みが強い、眠れない日が続くなど、つらい状態が続いている場合は、医療機関や専門家に相談してください。
⑦まとめ
SFBTは、問題の原因ではなく、望む未来と、すでにある強みや例外に焦点を当てて、相談者と一緒に解決を組み立てていく心理療法です。
今回のポイント
うまくいっていることは続け、うまくいったことはまたやる
うまくいかないなら、違うことを試す
例外の質問とスケーリングで、小さな手がかりを探す
1日の終わりに、うまくいったことを書き出してみる
まずは今夜、「今日、少しでもうまくいったこと」を3つ書き出すことから始めてみてください。
シリーズの他のコラム
ブリーフセラピーシリーズでは、基礎から具体的な技法までを解説しています。あわせてご覧ください。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



