みなさんこんにちは。公認心理師の川島達史と申します。私はこちらのコミュニケーション教室を開催しています。
「悩みが多すぎて、何から手をつければいいのか分からない」——そんな時に役立つのが、「問題解決療法」です。頭の中でぐるぐる考えるだけで終わらせず、悩みを取り組める形に整えて、一歩ずつ進めていく方法になります。目次は以下の通りです。
①問題解決療法とは
どんな心理療法か
問題解決療法(Problem-Solving Therapy:PST)は、日常生活の中で起きている問題を解決することを通して、不安や落ち込みなどの症状をやわらげる方法です(明智, 2019)[1]。認知行動療法の一技法に位置づけられています。
大きな特徴は、「解決策を教えてもらう」のではなく、「問題を解決するやり方」を身につけていくことです。具体的な問題を解決するとともに、「問題は解決できる」という自信を育てることも目的とされています。
悩みが大きくなるしくみ
悩みが重なっていると、私たちは問題を漠然としたまま抱えてしまいがちです。「仕事も、お金も、人間関係も、全部つらい」という状態では、何から手をつけていいのか分からず、考え続けて疲れたり、先送りにしたりします。その結果、問題は残ったまま、気持ちだけが重くなっていきます。
こんな悩みと相性がいい
問題解決療法は、短い研修でも身につけやすい方法とされ、うつ病、不安、怒り、ストレス、病気との付き合い方、人間関係や家族の問題など、幅広い悩みに使われています。次のようなお悩みと、特に相性が良い方法です。
悩みが多すぎて、何から手をつけていいのか分からない
考えてばかりで、行動に移せない
同じ悩みを、堂々巡りで考えている
気持ちの整理だけでは解決しない、現実の問題がある
もう少し詳しい背景を知りたい方は、以下を開いてみてください。読み飛ばしても、この先の内容は問題なく読み進められます。
②問題解決の5つのステップ
問題解決療法は、次の5つのステップで進めます。
ステップ1:問題を整理する
何に困っているのかを、具体的に書き出します。「いつ・どこで・誰と・何が」を意識すると整理しやすくなります。悩みが大きいときは、いくつかの小さな問題に分けます。
ステップ2:目標を決める
達成できそうな目標を決めます。「具体的か」「達成したか確かめられるか」「現実的か」「いつまでか」を確認しましょう。
ステップ3:解決策を考える
思いつく解決策を、できるだけたくさん出します。ここでは「質より量」が大切です。良し悪しは判断せず、突飛な案も歓迎します。
ステップ4:解決策を選ぶ
出した案を、「利点」「欠点」「実行しやすさ」の視点で比べて、試してみる案を選びます。
ステップ5:実行して評価する
選んだ案を実際にやってみて、うまくいったかを振り返ります。うまくいかなければ、ステップ3や4に戻って、別の案を試します。実際にやって確かめる点は、行動実験にも通じます。
③事例で進めてみよう
例として、残業が続いて疲れが取れない花子さんの場合を見てみましょう。
ステップ1:問題を整理する
最初の状態は「仕事がつらい」という漠然としたものでした。整理すると、「月末に締め切りが重なる週は残業が続き、週末になっても疲れが取れない」という悩みが見えてきました。
さらに分けてみると、①仕事量、②締め切りの重なり、③休息の不足、という3つの問題に分かれます。今回は、①の「締め切りが重なる週の仕事量」に絞ります。
ステップ2:目標を決める
「残業を減らしたい」だけでは、達成できたかどうかが分かりません。「今月末までに、締め切りが重なる週の残業を、今より週に3時間減らす」と具体的にします。
ステップ3:解決策を考える
・上司に、仕事の優先順位を相談する
・依頼の期限を交渉する
・午前中に集中して作業する時間を確保する
・同僚に一部を頼む
・会議を減らせないか確認する
ステップ4:解決策を選ぶ
「上司に優先順位を相談する」は、仕事量そのものを見直せますが、切り出しにくいのが難点です。「午前中の集中作業」は、自分の判断で今日から始められますが、急な依頼で崩れることがあります。「同僚に頼む」は、負担を分けられますが、相手の負担になります。
比べた結果、「上司に相談する」と「午前中の集中作業」の2つを試すことにしました。
ステップ5:実行して評価する
水曜日に、上司に10分だけ時間をもらって相談しました。あわせて、毎朝の2時間を集中作業の時間にしました。
1週間後に振り返ると、相談によって1件は期限を後ろにずらせたこと、集中作業は続けられたことが分かりました。次は、同僚への依頼も試してみることにします。
④うまく使うコツと注意点
1つずつ、小さく分ける
大きな悩みを一度に解決しようとすると、動けなくなってしまいます。まず1つの問題に絞り、さらに小さく分けてみましょう。
案の良し悪しを判断しない
「そんなの無理」と途中で打ち消すと、案が出なくなります。「他の人ならどうするか」「以前うまくいったことはあるか」と自分に問いかけてみてください。ソクラテス式質問法のように、質問で視点を広げる考え方が役立ちます。
完璧な案を探さない
60点の案でも、まず試してみることが大切です。うまくいかなくても失敗ではなく、「この案は合わなかった」という情報が得られたと考えましょう。
解決しにくい問題のとき
過去の出来事や、他人の気持ち、自分では変えにくい状況は、問題そのものの解決が難しい場合があります。そのときは「自分にできる部分」に目標を切り替えます。信頼できる人に話す、休息を取る、気持ちを整える工夫をする、といったことです。考え方が悩みを強めていると感じるときはコラム法、心配が止まらないときはメタ認知療法も参考になります。
落ち込みが強く、眠れない、食欲がない、意欲がわかないなど、案を考える余力がないときは、無理にワークを進めず、医療機関に相談してください。「消えてしまいたい」という気持ちがあるときは、ワークで何とかしようとせず、医療機関や公的な相談窓口に相談しましょう。
*講師の視点
問題解決療法の良さは、「気持ちの問題」にしてしまわずに、「やること」に落とし込めるところだと感じています。私自身、以前は仕事の悩みが重なって、何から手をつけていいのか分からなくなったことがあります。紙に書き出してみると、悩みは実は3つに分かれていて、すぐに動けるものは1つだけでした。その1つに絞って動き出したら、残りの悩みも不思議と整理されていきました。「全部を一度に解決しなくていい」と思えたのが大きかったです。
⑤理解度を確認する練習問題
ここまでの内容を踏まえて、2つの事例で練習してみましょう。
練習問題:家計が赤字続きで不安な花子さん
<事例>
毎月の家計が赤字になり、「このままではお金がなくなる」と不安で眠れなくなった花子さん。何をすればいいのか分からず、家計簿も開けずにいます。
花子さんの状況を、次の3つのステップに沿って整理してみてください。
①ステップ1:問題を、具体的に分けて整理する
②ステップ2:具体的な目標を決める
③ステップ3:解決策を5つ考える
練習問題:同僚と話す機会が減った次郎さん
<事例>
リモートワークで同僚と話す機会が減り、孤立感を抱えている次郎さん。「自分から声をかけたら迷惑かもしれない」と考えて、何もできずにいます。
次郎さんについても、同じ3つのステップで考えてみてください。
①ステップ1:問題を、具体的に分けて整理する
②ステップ2:具体的な目標を決める
③ステップ3:解決策を5つ考える
⑥自分でやってみよう
紙に書きながら進めるのがおすすめです。次の6つの項目を、順に埋めてみてください。最初は15分ほどで十分です。
1.困っていること(具体的に)
2.目標(いつまでに、何を、どの程度)
3.解決策(5つ以上)
4.各案の利点・欠点・実行しやすさ
5.選んだ案と、実行する日
6.結果と、次の一手
ポイントは、3の段階で良し悪しを判断せず、5で「小さく試せるもの」を選ぶことです。うまくいかなかった案は、6で振り返って、次に活かしましょう。気分が悪くなる、悩みがかえって強まる、眠れない日が続くなどの場合は、中止してください。
⑦よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。
・認知療法の基礎
・思考の歪みの改善
・行動療法の学習
・マインドフルネスワーク
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)
個別レッスン
個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースで認知療法・認知行動療法を深めたい方は、下記をご参照ください。
シリーズの続きを読む
コラム法など、考え方を見直す基本から確認したい方はこちら。
選んだ解決策が本当にうまくいくかを、実際に行動して確かめる方法を知りたい方はこちら。
心配や反すうが止まらないこと自体がつらい方は、こちらもご覧ください。
問題の原因より、うまくいっている例外や強みに注目する方法を知りたい方はこちら。
認知行動療法シリーズ全体(行動療法・マインドフルネスへの展開)に戻りたい方は、こちらの全体像コラムからどうぞ。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典
[1] 明智龍男 (2019). 日常生活のつらさ克服にも応用できる「問題解決療法」(連載:がん“当事者”のこころを支える「精神腫瘍学」を知っていますか?). メディカルノート.
[2] D’Zurilla, T. J., & Goldfried, M. R. (1971). Problem solving and behavior modification. Journal of Abnormal Psychology, 78(1), 107-126.
[3] ズリラ, T. J. (1995). 問題解決療法―臨床的介入への社会的コンピテンス・アプローチ. 金剛出版.
[4] ネズ, A. M. 他 (1993). うつ病の問題解決療法. 岩崎学術出版社.
[5] 藤澤大介 (2025). 問題解決療法. Medicina, 62(7), 1011-1014.
[6] Mynors-Wallis, L. M., Gath, D. H., Lloyd-Thomas, A. R., & Tomlinson, D. (1995). Randomised controlled trial comparing problem solving treatment with amitriptyline and placebo for major depression in primary care. BMJ, 310(6977), 441-445.
[7] Cuijpers, P., de Wit, L., Kleiboer, A., Karyotaki, E., & Ebert, D. D. (2018). Problem-solving therapy for adult depression: An updated meta-analysis. European Psychiatry, 48, 27-37.



