みなさんこんにちは。公認心理師の川島達史と申します。私はこちらのコミュニケーション教室を開催しています。
「考えすぎはよくない」とわかっているのに、考えが止まらない——そんな経験はありませんか?今回紹介する「メタ認知療法」の考え方を知ると、その止まらない考えとの付き合い方が変わってきます。目次は以下の通りです。
理屈よりも、まず今日から試せることを中心にお伝えします。
①メタ認知療法とは
「メタ認知」とは、自分の考えを、もう1人の自分が上から眺めるような働きのことです。「あ、また同じことをぐるぐる考えているな」と気づく瞬間、それがメタ認知です。
メタ認知療法(Metacognitive Therapy:MCT)は、イギリスの心理学者エイドリアン・ウェルズ[1]が中心になって作った心理療法です。「考えごとに振り回されやすい心のしくみ」についての理論がもとになっています。
不安やうつ、心配性、考えすぎがつらいといった悩みと、相性が良いとされています。「何を考えたか」よりも、「その考えとどう付き合ったか」に注目する点が特徴です。くわしいしくみは次の章、実際にできる練習は③から読んでください。
もう少し詳しい背景を知りたい方は、以下を開いてみてください。読み飛ばしても、この先の内容は問題なく読み進められます。
②悩みが続くしくみ
同じ「明日の発表、失敗したらどうしよう」という考えが浮かんでも、その後どうするかは人によって変わります。
受け流す反応
「あ、不安になってるな」と気づいて、深追いせずにそのまま流し、また元の作業に意識を戻すという、シンプルな対応です。
考え込んでしまう反応
頭の中で同じ場面を何度も再生しながら、「次はどうしよう」「もし失敗したら」と、際限なく考え続けてしまいます。
考え込んでしまう反応を続けるほど、不安は長引きやすくなります。悩みを長引かせているのは、最初の考えそのものではなく、その後の「考え続ける」「危ないことがないか探し続ける」という反応です。ウェルズ[2]は、この考え方や行動のクセに「CAS(悩み増幅パターン)」という名前をつけました。CASは、次の3つでできています。
心配・反すう
これから起きることや、過去の失敗について、「なぜあんなことに」と何度も繰り返し考えてしまうことです。頭の中だけで考え続けます。
危険のパトロール
「何か悪いことが起きていないか」と、自分の様子や周りの反応を、緊張しながら絶えず気にし続けることです。
かえって逆効果な対処
考えを無理に打ち消したり、その場面をさけたり、何度も人に確認して安心を求めたりする、その場しのぎの対応です。
例として、太郎さんの1日を見てみましょう。
会議の前日、太郎さんの頭に「発言でつまずいたらどうしよう」という考えが浮かびました。ここまでは誰にでもある、ふつうの考えです。
夜遅くまで同じ場面を頭の中で何度も再生し(心配)、当日は自分の声が震えていないかばかりを気にして(危険のパトロール)、終わったあとも同僚に「変じゃなかった?」と何度も聞いてしまいました(安心の確認)。
たった1つの考えが、こうして丸1日の不安に膨らんでいきます。
背景には「考え続ければ防げる」「止められない」という思い込みがあります。次の章から、このクセを弱める練習を紹介します。
③今日から使える3つの練習
ここからが今回のメインです。専門的な面接では、もっと多くの技法を組み合わせますが、ここでは、日常生活で1人でも試せるものを3つに絞って、やり方をくわしく紹介します。
練習1:「あとで考える」メモ
心配や気になることが頭から離れないときに使います。目的は、心配を消すことではなく、「今すぐ考えなくても大丈夫」と体で覚えることです。
①心配が浮かんだら、その場でスマホやメモ帳に一言だけ書く
②「今夜9時に見返す」など、見返す時間を決める
③決めた時間までは、その考えを追いかけず、目の前のことに戻る
④決めた時間になったら見返す。気にならなくなっていたら、見返さなくてもOK
*記入例
「明日のプレゼン、途中でつまずくかも」→ 今夜9時に見返す
「LINEの返事が来ない、嫌われたかな」→ 明日の朝に見返す
メモに書く内容は、正しく分析しなくて構いません。「頭から追い出す」ためのメモなので、思いついたまま一言で十分です。
*こんな時にも使えます
寝る前に、明日の予定が気になって眠れないとき/会議中に、関係ない心配が浮かんできたとき/人と話している途中で、別の不安がよぎったとき
練習2:音に注意を向ける練習
これは、ウェルズ[7]が考えた「注意トレーニング(ATT)」という本格的な技法を、自分で試しやすいように簡単にしたものです。目的は、考えや不安を消すことではなく、「注意は自分で動かせるんだ」という感覚を取り戻すことです。
①静かな場所で座る
聞こえる音を3つ探します(時計の音、車の音、呼吸の音など)
②1つ目の音に集中する
10秒ほど、その音だけを聞きます
③音を切り替える
2つ目、3つ目の音にも、順番に注意を移します
④全部の音を同時に聞く
最後に、3つの音すべてに、同時に注意を向けます
全体で3分ほどで十分です。本来のATTは、専用の音源を使い、10〜15分ほどかけて行う、より体系立った練習です(MCT機関)[8]。ここで紹介したのは、その考え方をヒントにした簡易版であることをご了承ください。
*試すタイミングの例
電車を待っているとき/寝る前に布団の中で/緊張する用事の直前
*アレンジ版
目を閉じて、自分の呼吸の音や心臓の音に、10秒だけ集中してみる方法もあります。外の音が少ない場所では、こちらのほうが試しやすいことがあります。
練習3:考えを眺める練習
浮かんだ考えを「良い・悪い」と決めつけたり、無理に打ち消したりせず、「あ、今こんな考えが浮かんだな」と眺めるだけにする練習です。ウェルズ[5]はこれを「距離を置いたマインドフルネス」と呼びました。
①考えが浮かんだら、心の中で実況中継してみる(「〜って考えたな」)
②その考えを、頭の中の電光掲示板に流れる文字のように、ただ眺める
③考えを止めようとせず、追いかけようともせず、そのまま通り過ぎるのを待つ
*イメージのコツ
考えを「駅のホームに立っている自分」、通り過ぎる電車を「浮かんだ考え」だとイメージします。電車(考え)は来ますが、無理に乗り込む必要はありません。
*心の中でつぶやくセリフの例
「これは、思考であって事実じゃない」
「はいはい、また来たね」
「今はこれを考える時間じゃないから、また今度ね」
マインドフルネス療法とも近い考え方です。
④シーン別の使い方
3つの練習を、どんな場面で使えばよいか、シーン別にまとめました。
夜、心配で眠れないとき
→ 練習1(あとで考えるメモ)。「明日の朝に見返す」と決めて、いったん頭から出します。
会議・発表の直前で緊張が強いとき
→ 練習2(音に注意を向ける)。近くの物音に注意を移すことで、頭の中だけに向いていた意識を、今この場に戻します。
過去の失敗を思い出してしまうとき
→ 練習3(考えを眺める)。「また思い出したな」と実況中継し、考えを追いかけないようにします。
会話の後、内容が気になるとき
→ 練習1で一度メモに出し、それでも気になるようなら、練習3で「気になっているな」と眺めます。
通勤・通学中に心配がぐるぐるするとき
→ 練習2。電車の音、周りの人の話し声、足音など、外の音に意識を移してみます。
家族や友人とケンカした後
→ 練習3。「またあの場面を思い出したな」と眺めつつ、伝えたいことがあれば練習1でメモしておき、気持ちが落ち着いてから連絡するかどうかを考えます。
1日の中で試すなら、朝の身支度中や通勤時間に練習2、心配ごとが浮かんだそのつど練習1、夜寝る前に練習3、といった組み合わせもおすすめです。無理に全部を使う必要はなく、まずは1つだけ、今日試せそうなものから始めてください。
⑤続けるときのコツと注意点
毎日やらなくてもOK
「今日はしんどいな」というときに、1つだけ試すくらいで十分です。無理に習慣化しようとしなくて大丈夫です。
考えを止めようとしない
「消そう」とがんばるほど、かえって気になってしまうことがあります。止めることより、距離を置くことを意識してください。
見返さなくてもOK
練習1(あとで考えるメモ)は、見返す時間になっても気にならなければ、見返さなくて構いません。それも1つの成功です。
*講師の視点
私自身、以前は大事な発表の前になると、夜中まで頭の中でリハーサルを繰り返していました。ある夜、「今日はここまで。続きは明日の朝に考えよう」と決めて布団に入ってみたら、意外にも朝には「もう十分準備できてたな」と思えたんです。考えを手放しても、意外と困らない。そう体験できたことが、私にとって大きな転機でした。
気分が悪くなる、不安が強くなる、眠れない日が続く、といったときはすぐにやめてください。日常生活がつらい、強く落ち込んでいる、「消えてしまいたい」という気持ちがあるときは、ワークで何とかしようとせず、医療機関や公的な相談窓口に相談してください。
⑥理解度を確認する練習問題
ここまでの内容をもとに、2つの事例で練習してみましょう。
練習問題:試験前日に眠れない花子さん
<事例>
明日の試験に落ちたらどうしよう、という不安が浮かんだ花子さん。「今夜のうちに対策を考え切らないと」と、布団の中で何時間も考え続けています。
花子さんにおすすめの練習は、次のうちどれでしょうか。理由もあわせて考えてみてください。
①練習1:あとで考えるメモ
②練習2:音に注意を向ける練習
③練習3:考えを眺める練習
練習問題:ミスを思い返し続ける次郎さん
<事例>
仕事で小さなミスをした次郎さん。帰宅後も「なぜあんなミスをしたのか」と何度も考えてしまい、気づくと同じ場面を頭の中で繰り返し再生しています。
次郎さんに合いそうな練習は、次のうちどれでしょうか。組み合わせても構いません。
①練習1:あとで考えるメモ
②練習2:音に注意を向ける練習
③練習3:考えを眺める練習
⑦よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問をいただきます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。
・認知療法の基礎
・思考の歪みの改善
・行動療法の学習
・マインドフルネスワーク
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)
個別レッスン
個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースで認知療法・認知行動療法を深めたい方は、下記をご参照ください。
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コラム法など、考えの中身を見直す基本から確認したい方はこちら。
思い込みを、実際に行動して確かめる方法を知りたい方はこちら。
思い込みを見直すときにも使われる、会話による気づきの技法を学びたい方はこちら。
心配ではなく、目の前の具体的な問題そのものに取り組みたい方はこちら。
認知行動療法シリーズ全体(行動療法・マインドフルネスへの展開)に戻りたい方は、こちらの全体像コラムからどうぞ。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典
[1] Wells, A., & Matthews, G. (1994). Attention and emotion: A clinical perspective. Hove, UK: Erlbaum.
[2] Wells, A. (2009). Metacognitive therapy for anxiety and depression. New York: Guilford Press./日本語版:ウェルズ, A.(著)熊野宏昭・今井正司・境泉洋(監訳)(2012). メタ認知療法―うつと不安の新しいケースフォーミュレーション. 日本評論社.
[3] Normann, N., & Morina, N. (2018). The efficacy of metacognitive therapy: A systematic review and meta-analysis. Frontiers in Psychology, 9, 2211.
[4] Wells, A. (2000). Emotional disorders and metacognition: Innovative cognitive therapy. Chichester: Wiley.
[5] Wells, A. (2005). Detached mindfulness in cognitive therapy: A metacognitive analysis and ten techniques. Journal of Rational-Emotive & Cognitive-Behavior Therapy, 23(4), 337-355.
[6] 東京大学「著作を著者自らが語る広場」. メタ認知トレーニングをはじめよう! MCTガイドブック(星和書店, 2022).
[7] Wells, A. (1990). Panic disorder in association with relaxation induced anxiety: An attentional training approach to treatment. Behavior Therapy, 21(3), 273-280.
[8] MCT Institute. Attention Training Technique (ATT) Guidance Notes.




