みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは、対人関係療法シリーズの5本目です。「対人関係の欠如」をテーマに解説していきます。
IPTにおける対人関係の欠如とは、対人関係療法(IPT)の4つの問題領域の一つで、親しい人間関係が少なく、孤立していることが、気分の落ち込みと関わっている状態のことです。対人関係療法では、これまでの人間関係を振り返り、人との関わり方を練習しながら、少しずつ関係を広げていくことを支えます。
今回は、対人関係の欠如の考え方と、IPTでの進め方、自分でできる小さな一歩を、具体例とともに解説します。目次は以下の通りです。
①対人関係の欠如とは
対人関係の欠如は、他の3つの問題領域にあてはまる、はっきりした出来事がない場合に選ばれることが多い領域です。
孤立と気分の落ち込み
悲しい別れや、目立った争い、大きな生活の変化はないけれど、もともと親しい人が少なく、孤独を感じている。そうした孤立が、気分の落ち込みを長引かせていることがあります。人とのつながりは、心の健康を支える大切な土台だからです。
新しい呼び方
近年では、「欠如」という言葉が本人の欠点のように聞こえることから、「対人関係上の敏感さ」と呼ぶこともあります。人との関わりで傷つきやすく、関係を避けてしまう傾向に、丁寧に目を向けていく領域です。
②関係が広がりにくい理由
人間関係が広がりにくい背景には、さまざまな理由があります。
過去の傷つき
過去に、人間関係で傷ついた経験があると、「また傷つくのではないか」と、人と関わることを避けるようになることがあります。
関わり方の自信のなさ
話しかけ方や、会話の続け方に自信がないと、人と関わる場面そのものを避けがちです。避けるほど練習の機会が減り、ますます自信がなくなる、という悪循環が生まれます。
③IPTでの進め方
対人関係療法では、次のような流れで、対人関係の欠如に取り組みます。
過去の関係を振り返る
ワイスマンら[1]の手引きでは、まず、これまでの人間関係を丁寧に振り返ることから始めます。比較的うまくいった人間関係や、心地よかった関係を振り返ります。どんな相手と、どんなふうに関わったときにうまくいったのかを知ることが、これからの関係づくりのヒントになります。
面接を練習の場にする
セラピストとの関係そのものを、人との関わり方を練習する場として使います。面接の中で感じた気持ちを言葉にしたり、伝えにくいことを伝えてみたりすることで、安心できる関係の中で練習を重ねていきます。
小さな関わりから広げる
いきなり親しい友人をつくろうとするのではなく、挨拶をする、短い会話をするといった、小さな関わりから少しずつ広げていきます。
④小さな一歩のワーク
人とのつながりを広げるために、一人でも取り組める小さな一歩を紹介します。
つながりの地図
紙の真ん中に自分の名前を書き、周りに、今関わりのある人を、近さに応じて書き出します。家族、近所の人、職場の人、よく行くお店の人なども含めてみましょう。思っていたより、つながりがあることに気づくかもしれません。
小さな接点リスト
毎朝、近所の人に挨拶をする
職場で、同僚に一言、天気の話をする
趣味の教室や、地域の活動の情報を一つ調べる
昔の友人に、短いメッセージを送る
リストの中から、今週できそうなものを1つ選んで試してみましょう。うまくいかなくても、試せたこと自体が一歩です。
⑤具体例で確認
対人関係の欠如への取り組みを、理解のために作成した架空の例で見てみましょう。
一人暮らしのEさん
例から分かること
Eさんは、過去にうまくいった関係から、自分に合った関わり方のヒントを見つけています。小さな一歩を練習しながら重ねていくことで、関係と気分の両方が少しずつ変わっていきます。
⑥取り組むときの注意
対人関係の欠如に取り組むときは、次の点に気をつけましょう。
人づきあいの量を競わない
友人の数が多いほど良い、というわけではありません。少数でも、安心して話せる関係があれば十分です。自分にとって心地よい関係の広さを、大切にしましょう。
背景にある悩みにも目を向ける
人と関わるときに強い不安を感じる場合は、社交不安症など、別の支援が役立つこともあります。気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、食欲がない、死にたい気持ちがある、といった場合は、一人で抱え込まず、医療機関や専門家に相談してください。すぐに話を聞いてほしいときは、電話やSNSの相談窓口を頼ることもできます。
⑦まとめ
対人関係の欠如は、親しい人間関係が少なく、孤立していることが、気分の落ち込みと関わっている状態です。対人関係療法では、過去の関係を振り返り、関わり方を練習しながら、小さな関わりから関係を広げていきます。
今回のポイント
孤立は、気分の落ち込みを長引かせることがある
過去にうまくいった関係から、ヒントを見つける
挨拶や短い会話など、小さな関わりから広げる
友人の数より、安心できる関係を大切にする
シリーズの他のコラム
対人関係療法シリーズでは、4つの問題領域を一つずつ詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



