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恐怖突入の具体的な実践法

恐怖突入とは,森田療法の実践法と具体例

みなさん、こんにちは。公認心理師の川島達史です。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。

このコラムは、森田療法シリーズの3本目です。「恐怖突入」をテーマに解説していきます。

恐怖突入とは、不安や恐怖を消してから動くのではなく、不安を感じたまま、避けていた場面に思い切って一歩踏み込んでみる、森田療法の実践の姿勢です。不安を抱えたまま行動する体験を重ねることで、症状へのとらわれから抜け出すことを目指します。

今回は、「行きたいのに、怖くて足が動かない」。そんなときに役立つの恐怖突入の実践法を具体例を交えながら解説します。目次は以下の通りです。

①恐怖突入とは
②実践の前に知りたいこと
③恐怖突入の5ステップ
④場面別の具体例
⑤練習してみよう
⑥よくある質問Q&A

①恐怖突入とは

恐怖突入は、「不安がなくなったら動こう」という考えを手放し、不安と一緒に動き出すための考え方です。まずは、その意味と必要とされる理由を確認しましょう。

恐怖突入の意味

恐怖突入には、以下のような意味があります。

不安や恐怖を感じながらも、思い切ってその場面に飛び込んでみる姿勢

ポイントは、「怖くなくなってから行く」のではなく、「怖いまま行く」という点です。森田療法では、不安は消すべき敵ではなく、自然な感情だと考えます。

なぜ突入が必要なのか

不安な場面を避けると、その場では楽になります。しかし、避け続けるほど「やっぱり自分には無理だ」という思いが強まり、行動できる範囲がどんどん狭くなっていきます。

北西[1]は、悩みを抱える人は「できないこと」に力を注いでしまい、「できること」に取り組めなくなりやすいと指摘しています。恐怖突入は、注意を「できないこと」から「今できること」へ切り替えるきっかけになります。

不安を消す方法との違い

久保田[2]によると、多くの心理療法、特に西洋の学派では、不安を取り除くべきものと考え、その原因を探って不安や症状をなくすことを目指してきました。これに対し森田療法では、不安を「よりよく生きたい」という欲求の裏返しと捉え、自然な感情として扱います。

そのため恐怖突入も、不安を減らすことそのものが目的ではありません。不安があっても、自分が本当にやりたいことに向かって動ける。そんな体験を積み重ねることが目的です。

②実践の前に知りたいこと

恐怖突入を安全に、無理なく行うために、事前に知っておきたい3つのことがあります。

感情は放っておくと流れていく

森田は、どんな感情も、そのままにしておけば時間とともに自然におさまっていくという特性を「感情の法則」として示しました。

不安は、台風のようなものです。来ることは止められませんが、いつかは通り過ぎていきます。突入した直後に不安がピークになっても、それは自然な反応なので、慌てずに時間が過ぎるのを待ちましょう。

小さな場面から始める

恐怖突入というと、一番怖い場面にいきなり飛び込むイメージがあるかもしれません。しかし、最初は「少し怖いけれど、なんとかできそう」な小さな場面から始めるのがおすすめです。

小さな成功体験を積み重ねることで、「怖くても動けた」という実感が育ち、次の一歩が踏み出しやすくなります。

危険な場面は対象外

恐怖突入は、危険な場所に飛び込むことではありません。日常生活で避けてしまっているけれど、本来は安全な場面に向き合うことです。

パニック発作が続いている、強い恐怖で体調を崩してしまう、といった場合は、一人で突入しようとせず、医療機関やカウンセラーなどの専門家と相談しながら進めてください。

③恐怖突入の5ステップ

ここからは、日常生活で恐怖突入を実践するための5つのステップを紹介します。紙とペンを用意して、実際に書き出しながら進めてみてください。

STEP1:避けている場面を書き出す

まずは、不安や恐怖から避けてしまっている場面を、思いつくだけ書き出します。「会議で発言する」「知らない人に電話をかける」「雑談の輪に入る」などです。

書き出したら、怖さの度合いに0〜100点で点数をつけ、低いものから順に並べてみましょう。最初に取り組むのは、30〜40点くらいの場面がおすすめです。なお、点数をつけて並べるのは、認知行動療法でもよく使われる工夫です。

STEP2:不安の裏の願いを確かめる

選んだ場面について、「本当はどうしたいのか」を書き出します。たとえば、「会議で発言するのが怖い」の裏には、「自分の意見を聞いてほしい」「チームの役に立ちたい」という願いがあるはずです。

森田療法では、この願いを「生の欲望」と呼び、行動の原動力と考えます。不安が大きいのは、それだけ大切にしたい願いがあるからです。

STEP3:「せめて」で小さく決める

久保田[2]は、不安を感じながらでも何かに手が出せるよう、「とりあえず」「せめて」という分かりやすい言葉で背中を押すことが重要だと述べています。

「完璧に発言する」ではなく、「せめて一言だけ意見を言う」「とりあえず会議室に早めに入っておく」など、今の自分にできる小さな行動を決めましょう。

STEP4:不安を感じたまま動く

いよいよ突入です。不安が出てきても、「不安になるのは当たり前」と認め、決めた行動に注意を向けます。不安を消そうとしたり、気をそらそうとしたりする必要はありません。

不安をそのまま受け入れる姿勢については、あるがままとは|実践のコツで詳しく解説しています。

心の中で「えいや!」と声をかけてみるのもおすすめです。結果がうまくいくかどうかよりも、「怖いまま動けた」こと自体が大きな一歩です。

STEP5:体験を書き残す

行動した後は、「何をしたか」「どんな気持ちだったか」「実際どうなったか」を簡単に書き残します。外来森田療法でも、面接に加えて日記を通した振り返りが大切にされています(キタニシ, 2024)[3]。

書いてみると、「思っていたほどひどいことは起きなかった」「不安はあったけど、時間がたつとおさまった」といった発見があるはずです。こうした実感が、次の突入を支えてくれます。

④場面別の具体例

5つのステップを、実際の場面に当てはめてみましょう。気になる場面を開いて参考にしてみてください。

職場の会議で発言する

会議で意見を求められると頭が真っ白になり、発言を避けてきた会社員の例です。

会議で発言する例

避けている場面と怖さ
定例会議で意見を言う(怖さ60点)。週1回の小さなミーティングで一言話す(怖さ35点)。まずは35点の場面から始めることにしました。

不安の裏の願い
本当は、自分のアイデアも聞いてほしい。チームの一員として認められたい。

「せめて」の行動
せめて一言、「〇〇さんの意見に賛成です」と言う。

突入と振り返り
声は少し震えたけれど、一言言えた。誰も変な顔をしなかった。次は、賛成の理由も一言付け加えてみよう。

雑談の輪に入る

休憩時間に同僚の雑談に加われず、いつも一人で過ごしてしまう人の例です。

雑談の輪に入る例

避けている場面と怖さ
休憩室で同僚の雑談に加わる(怖さ50点)。まずは、近くの席に座るところから始めることにしました(怖さ30点)。

不安の裏の願い
職場で気軽に話せる人がほしい。孤立している感じをなくしたい。

「せめて」の行動
とりあえず、雑談している同僚の近くに座り、話を聞いてうなずく。

突入と振り返り
緊張したけれど、話を聞いて笑っていたら、相手から「どう思う?」と話しかけてもらえた。思っていたより、みんな気にしていなかった。

苦手な電話をかける

電話をかけるのが怖く、予約や問い合わせを先延ばしにしてしまう人の例です。

電話をかける例

避けている場面と怖さ
仕事で取引先に電話をかける(怖さ70点)。美容院に予約の電話をかける(怖さ40点)。まずは40点の場面から始めることにしました。

不安の裏の願い
用事をスムーズに済ませたい。電話のたびにびくびくする自分を変えたい。

「せめて」の行動
せめて、話す内容を3行だけメモしてから、番号を押す。

突入と振り返り
呼び出し音が鳴っている間が一番怖かった。でも、話し始めたら1分で終わった。メモがあると安心できると分かった。

⑤練習してみよう

最後に、学んだステップを練習してみましょう。まずは自分で考えてから、回答例を開いてみてください。

練習問題1:同窓会の誘い

・山田さんは30代の会社員
・高校の同窓会に誘われた
・会いたい友人はいるが、「今の自分を見られたくない」と不安

山田さんが恐怖突入をするとしたら、STEP2〜4をどのように考えるとよいでしょうか?

練習問題1の回答例

STEP2:不安の裏の願い
会いたい友人と、久しぶりにゆっくり話したい。

STEP3:「せめて」の行動
せめて、会いたい友人に「同窓会行く?」と連絡してみる。参加するなら、とりあえず1時間だけいると決める。

STEP4:不安を感じたまま動く
「見られたくない」という気持ちがあるのは自然なこと。不安は持ったままで、会場に向かおう。

練習問題2:習い事の体験

・小林さんは人見知りの大学生
・興味のあるダンス教室の体験レッスンがある
・「下手だと笑われたらどうしよう」と申し込めずにいる

小林さんが恐怖突入をするとしたら、STEP2〜4をどのように考えるとよいでしょうか?

練習問題2の回答例

STEP2:不安の裏の願い
ダンスを楽しめるようになりたい。新しいことに挑戦する自分になりたい。

STEP3:「せめて」の行動
とりあえず、体験レッスンの申し込みフォームだけ送ってみる。

STEP4:不安を感じたまま動く
初心者が下手なのは当たり前。笑われるかもという不安はそのままに、当日はまず教室の扉を開けることだけに集中しよう。

⑥よくある質問Q&A

私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。

恐怖突入とは簡単に言うと何ですか?

一言で言うと、「怖いまま、やってみる」ことです。私たちはつい、「不安がなくなったら行動しよう」と考えがちですが、不安が完全に消える日はなかなか来ません。森田療法では、不安は「よりよく生きたい」という願いの裏返しで、自然な感情だと考えます。だからこそ、不安を抱えたまま一歩踏み出してみる。その体験を重ねるうちに、「怖くても動ける」という実感が育っていきます。いきなり大きな挑戦をする必要はありません。今日できる小さな「せめて」の行動から、気軽に始めてみてくださいね。

怖くて一歩が出ない時はどうすれば?

一歩が出ないのは、あなたの意志が弱いからではありません。それだけ、その場面を大切に思っている証拠でもあります。そんな時は、行動をもっと小さく分けてみてください。

「会議で発言する」が難しければ「会議室に早めに入る」、「電話をかける」が難しければ「話す内容をメモする」だけでも十分です。「せめて」「とりあえず」と自分に声をかけて、今できる一番小さな行動を選ぶのがコツです。小さな一歩でも、踏み出せた日は自分をしっかり褒めてあげてください。その積み重ねが、次の一歩を軽くしてくれますよ。

曝露療法と同じですか?

似ている部分もありますが、考え方の出発点が少し違います。どちらも、避けている場面にあえて向き合うという点では共通しています。ただ、森田療法では、不安を減らすことそのものを目的にはしません。不安は自然な感情なので、あってもいいと考えます。そのうえで、「本当はどうしたいのか」という願いに向かって行動することを大切にします。結果として不安へのとらわれが和らぐことはありますが、それはあくまで副産物という位置づけです。

どちらが優れているというより、自分に合う考え方を選ぶのがよいと思います。迷ったら専門家に相談してみてくださいね。

突入してうまくいかなかったら?

うまくいかなかったとしても、それは失敗ではありません。恐怖突入で一番大切なのは、結果ではなく「怖いまま動けた」ことそのものだからです。声が震えた、途中で帰ってしまった、ということがあっても、行動しようとした自分をまず認めてあげてください。そのうえで、日記に「何が起きたか」「どう感じたか」を書き出してみると、次に生かせるヒントが見つかります。

ただし、突入するたびに強いパニック発作が起きる、体調を崩してしまうといった場合は、一人で続けず、医療機関や専門家に相談しながら進めるようにしてくださいね。

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しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。

・森田療法の基礎理解,あるがまま
・恐怖突入,目的本位の実践
・マインドフルネス練習
・恐怖心,不安と自然に付き合うコツ

講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)

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※ご自身の悩みについて個別に相談したい方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] 北西憲二(2021). 不安の逆説を知る,回復を知る. 精神医学, 2021年5月号(増大号特集 精神科クリニカル・パール), 757-764.
 
[2] 久保田幹子(2019). 森田療法における「あるがまま」とは. 心理学ワールド, 87, 9-12. 日本心理学会.
 
[3] 北西憲二(2024). 森田療法は、入院以外にも面接や日記などで対話を重ねながら、自分らしい生き方を見つけていく. 講談社+αオンライン(『新版 森田療法のすべてがわかる本』より).
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