みなさん、こんにちは。公認心理師の川島達史です。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは、森田療法シリーズの4本目です。「あるがまま」をテーマに解説していきます。
あるがままとは、不安や緊張などの感情を、消そうとも追い払おうともせず、自然なものとしてそのままにしておく姿勢のことです。同時に、「こうしたい」という本来の願いにも素直に従って行動することを含む、森田療法の中心となる考え方です。
今回は、この「あるがまま」に焦点を絞り、よくある誤解と、日常での実践のコツを解説します。目次は以下の通りです。
①あるがままとは
あるがままは、不安に対する姿勢と、願いに対する姿勢という2つの側面を持つ考え方です。まずは、その意味を整理しておきましょう。
あるがままの意味
森田療法では、不安は「よりよく生きたい」という欲求(生の欲望)の裏返しで、人間にとって避けられない自然な感情だと考えます。不安そのものが問題なのではなく、不安を無理に取り除こうとする態度が、症状へのとらわれを生むと考えるのです。
舘野[1]は、不安を排除せずにそのままにして、不安の裏側にある生の欲望を発揮することが森田療法の治療目標であり、これを「あるがまま」と呼ぶと説明しています。
あるがままの2つの側面
久保田[2]は、森田の言葉をもとに、あるがままには次の2つの側面があると整理しています。
・不安に対するあるがまま:そのままつき合う
・願いに対するあるがまま:欲求に従って行動する
つまり、あるがままは「不安をそのままにする」だけで終わりません。不安を抱えたまま、自分が本当にしたいことに向かって動く。この2つがセットになっているのがポイントです。
森田の言葉から
前述の久保田の解説では、森田が天気や季節のように思い通りにならないものを例に、「夏は暑い。嫌なことは気になる」と語った言葉が紹介されています。暑い夏を涼しくしようと頑張っても、夏は夏のままです。
不安も同じで、「感じないように」と工夫を重ねるほど苦しくなります。事実は事実として「仕方がない」と受けとめ、そのうえでできることに目を向けるのが、あるがままの姿勢です。
②よくある3つの誤解
あるがままは平易な言葉ですが、意味を正しく理解するのは意外と難しい考え方です。よくある3つの誤解を確認しておきましょう。
誤解1:我慢して耐えること
あるがままは、つらさを歯を食いしばって我慢することではありません。我慢は、感情を押さえつけようとする力が働いている状態です。
あるがままは、不安を押さえつけも追い払いもせず、「今、不安なんだな」とそのままにしておく姿勢です。感情と戦うのをやめる、というイメージに近いでしょう。
誤解2:あるがままを目指すこと
意外かもしれませんが、「あるがままになろう」と努力すること自体が、あるがままから遠ざかってしまいます。森田は、あるがままになろうとするのは、苦痛を避けたいという気持ちの表れであり、苦痛は苦痛として受けとめる本来のあるがままとは正反対だと述べています。
あるがままを「不安を消すための新しい方法」として使おうとすると、新たなとらわれが生まれます。うまくできなくても大丈夫、くらいの気楽さで向き合いましょう。
誤解3:何もせず諦めること
「仕方がない」と受けとめることは、何もしないで諦めることとは違います。あるがままには、「こうありたい」という願いに従って行動する側面も含まれています。
変えられない感情や状況は受けとめつつ、変えられる自分の行動には力を注ぐ。自分の限界を知ることは、本当に大切なことにエネルギーを向けるための第一歩でもあるのです。
③実践の4つのコツ
あるがままは、頭で理解するだけでは身につきません。体験を通して少しずつ実感していくものです。日常で使える4つのコツを紹介します。
コツ1:不毛な努力に気づく
まずは、不安をなくそうとして自分がしている努力を書き出してみましょう。「緊張しないように何度も深呼吸する」「顔が赤くならないように薄着をする」などです。
そのうえで、「その努力で不安は本当になくなったか」「その間に、やりたかったことを失っていないか」を振り返ってみてください。不安を消す努力が、かえって自分を苦しめていることに気づくことが出発点です。
コツ2:感情は流れると知る
森田は、どんな感情も、そのままにしておけば時間とともに自然におさまっていくという特性を「感情の法則」として示しました。不安が強いときほど「この不安はずっと続く」と感じますが、実際にはピークを過ぎると少しずつ弱まっていきます。
不安を感じたら、「今は不安の波が来ている。いずれ引いていく」と心の中でつぶやいてみましょう。不安とにらめっこせず、時間に任せることがポイントです。
コツ3:「せめて」で手を動かす
不安を待つ間、じっと不安を見つめていると、注意がますます不安に集中してしまいます。そこで、「せめて」「とりあえず」と自分に声をかけて、目の前の小さな作業に手をつけましょう。
行動は、症状を克服するための特別なものである必要はありません。洗い物をする、メールを1通返すなど、生活の中のどんな小さなことでも構いません。思い切って一歩踏み出す方法は、恐怖突入の具体的な実践法で詳しく紹介しています。
コツ4:たとえ話で捉え直す
森田療法では、たとえ話がよく使われます。理屈で説得するより、日常の体験に重ねた方が、実感として腑に落ちやすいからです。たとえば、次のようなものがあります。
・台風は嫌だが、いつかは通り過ぎる
・春が来ない冬はない
・突然の大雨はやませられないが、雨宿りや傘を買うことはできる
不安を感じたときに、自分なりのたとえ話を1つ持っておくと、気持ちとの距離が取りやすくなります。
④事例で理解しよう
久保田[2]は、森田療法を通してあるがままの姿勢を身につけた事例を紹介しています。ここでは、その内容を要約して紹介します。
事例1:息苦しさとつき合う
パニック症のAさんは、息苦しくなるとすぐに病院に駆け込んだり、実家に逃げ込んだりする生活を送っていました。森田療法を続けるうちに、不安をすぐに避けずに、その場でできることを試すようになっていきます。
あるとき、美容院でパーマをかけている最中に息苦しくなりました。Aさんは「不安はまた来るものだ、しょうがない」と考え、気になっていた髪の手入れの方法を美容師さんに質問してみました。話を聞いているうちに、息苦しさは軽くなっていたそうです。
事例2:好きなことを選ぶ
不潔恐怖に悩んでいたBさんは、手洗いをやめられず、外出もままならない状態でした。治療を通して、際限のない手洗いがどれほど疲れる、不毛なものかに気づき、少しずつ生活の幅を広げていきました。
症状のために諦めてきた好きなアーティストのライブにも、「どうしても行きたい」という気持ちに従って出かけてみました。すると、本当に幸せな気持ちで帰ってくることができたといいます。
2つの事例に共通すること
2人とも、不安や症状がなくなってから動いたわけではありません。不安は思い通りにならないものとしてつき合いながら、その場でできること、本当にやりたいことに目を向けました。これが、あるがままの姿勢です。
なお、2人とも専門家の支えのもとで取り組んでいます。また、息苦しさや動悸などの体の症状がある場合は、まず医療機関で体の検査を受けることが前提です。
パニック発作や強迫的な手洗いなどで生活に支障が出ている場合は、一人で頑張らず、医療機関や専門家に相談してください。
⑤練習してみよう
最後に、学んだ考え方を練習してみましょう。まずは自分で考えてから、回答例を開いてみてください。
練習問題1:眠れない夜
・木村さんは明日、大事な試験がある
・早く寝ようと布団に入ったが眠れない
・「早く寝なきゃ」と焦るほど目がさえてくる
木村さんがあるがままの姿勢をとるとしたら、どのように考えるとよいでしょうか?
練習問題2:初めての職場
・伊藤さんは転職したばかり
・新しい職場で周りの目が気になり緊張する
・「早く慣れなきゃ」と思うほど疲れてしまう
伊藤さんがあるがままの姿勢をとるとしたら、どのように考えるとよいでしょうか?
⑥よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・森田療法の基礎理解,あるがまま
・精神交互作用,目的本位,気分本位
・マインドフルネス練習
・恐怖心,不安と自然に付き合うコツ
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
※ご自身の悩みについて個別に相談したい方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連



