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オープンダイアローグとは

オープンダイアローグとは,対話的アプローチ

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。

このコラムは、家族療法シリーズの3本目です。「オープンダイアローグ」をテーマに解説していきます。

オープンダイアローグとは、精神的な危機にある本人と、家族や友人などの身近な人、専門家のチームが一緒に集まり、対話を重ねることで危機を支えていくアプローチのことです。フィンランドの西ラップランド地方で1980年代から発展しました。家族療法の流れをくんでいますが、家族療法そのものではなく、精神医療の仕組みや、対話の実践として、さまざまな領域に広がっています。

今回は、オープンダイアローグの考え方と7つの原則、そして日常の対話に活かせるコツを解説します。目次は以下の通りです。

目次

①オープンダイアローグとは

オープンダイアローグは、「本人のいないところで、本人のことを決めない」という姿勢で、本人と周りの人が対話を重ねていくアプローチです。まずは、生まれた背景と特徴を確認しましょう。

フィンランドで生まれた

オープンダイアローグは、フィンランドの西ラップランド地方にあるケロプダス病院で、心理学者ヤーコ・セイックラ(Jaakko Seikkula)らが中心となって、1980年代から発展させてきました。

相談があると、専門家のチームができるだけ早く本人や家族のもとを訪れ、本人、家族、友人など、関わりのある人たちが集まる「ミーティング」を開きます。ミーティングでは、本人の前で、すべてのことをオープンに話し合います。

家族療法とのつながり

セイックラとオルソン[1]によると、オープンダイアローグは、ベイトソンの流れをくむ家族療法の伝統に根ざし、思想家バフチンの「対話」の考え方を取り入れています。専門家どうしの話し合いを本人や家族の前で行う「リフレクティング」も、家族療法から取り入れられた方法です。

日本での広がり

日本では、精神科医の斎藤環が、2015年の著書『オープンダイアローグとは何か』[2]などで紹介し、関心が広がりました。現在では、医療機関だけでなく、福祉や教育など、さまざまな現場で、対話の考え方を取り入れる試みが行われています。

②7つの原則

オープンダイアローグの実践は、7つの原則にまとめられています。前半の5つは支援の体制に関するもの、後半の2つは対話の進め方に関するものです。

7つの原則の一覧

セイックラら[3]は、オープンダイアローグの原則を次の7つにまとめています。

①すぐに応じる:相談から24時間以内に最初のミーティングを開く

②社会的ネットワークの視点:家族や友人など、本人に関わる人を招く

③柔軟さと機動性:自宅など、本人に合った場所や方法で行う

④責任を持つ:最初に相談を受けた専門家が、ミーティングを組織する

⑤心理的な連続性:同じチームが、必要な期間ずっと関わる

⑥不確かさに耐える:結論を急がず、分からない状態に一緒にとどまる

⑦対話主義:本人や家族を変えることより、対話を生むことを大切にする

特に大切な2つの原則

7つの中でも、「不確かさに耐える」と「対話主義」は、対話の質を支える中心的な原則です。危機の場面では、すぐに診断や解決策を決めたくなりますが、オープンダイアローグでは、あえて結論を急がず、本人や家族の声が十分に語られるのを待ちます。

また、一つの正しい答えにまとめるのではなく、その場にいる一人ひとりの異なる声が、並んで存在できることを大切にします。これは「ポリフォニー(多声性)」と呼ばれます。

③効果と研究

オープンダイアローグは、フィンランドの研究で良い結果が報告され、世界中で注目されました。一方で、研究の方法には限界があり、効果についてはさらに研究が必要とされています。

研究で分かっていること

西ラップランド地方の研究では、オープンダイアローグを受けた人の多くが、症状が残らず、仕事や学業に戻ったと報告されています。ただし、これらは主に開発したグループ自身による、比較の方法が限られた研究です。ランダムに振り分けて比べる研究(ランダム化比較試験)はまだ十分に行われておらず、効果を確かめるために、現在も研究が続けられています。

研究の紹介

代表的な研究を2つ紹介します。研究の詳しい内容に興味がある方は、以下を展開してみてください。一般の方は読み飛ばしても大丈夫です。

5年間の追跡調査と総説

セイックラら[3]は、初めて精神病を発症した人のうち、オープンダイアローグが十分に整った時期に治療を受けた42人を、5年間追跡しました。その結果、82%に精神病症状が残っておらず、86%が学業や仕事に戻り、障害手当を受けていたのは14%でした。ただし、それ以前の時期に治療を受けたグループと比べて、5年後の結果に統計的にはっきりした差はみられませんでした。

フリーマンら[4]は、オープンダイアローグに関する23の研究をまとめて検討しました。その結果、ランダム化比較試験はなく、研究の質は低いと評価し、効果について結論を出すには、さらに質の高い研究が必要だとしています。

④対話を日常に活かすコツ

オープンダイアローグそのものは、訓練を受けた専門家のチームが行う支援です。ただ、その対話の考え方は、家族や職場での話し合いにも活かすことができます。ここでは、取り入れやすい4つのコツを紹介します。

結論を急がない

家族の悩みを話し合うとき、つい「じゃあ、こうしよう」と早く結論を出したくなります。しかし、結論を急ぐと、まだ言葉にできていない気持ちが置き去りになりがちです。「すぐに答えは出なくてもいい」と伝え、分からない状態のまま、もう少し話を聞いてみましょう。

言葉の例:「今日は結論を出さなくていいから、思っていることを聞かせてほしい」

相手の言葉に応える

相手が話したことに、自分の意見をかぶせるのではなく、まずは相手の言葉そのものに応えます。相手が使った言葉を取り上げて質問すると、相手は「ちゃんと聞いてもらえた」と感じやすくなります。

言葉の例:「さっき『しんどい』と言っていたけれど、どんなときにそう感じるの?」

「私」を主語に話す

「あなたは〇〇だ」と相手を評価するのではなく、「私は〇〇と感じた」と、自分を主語にして話します。自分の感じ方として伝えると、相手を責める響きが和らぎ、対話が続きやすくなります。

言葉の例:「あなたは何も考えていない」ではなく、「私は、先のことが心配になったよ」

本人のいない所で決めない

家族の誰かについて話し合うときは、できるだけ本人も同席してもらいます。本人のいないところで方針を決めると、本人は「自分のことなのに置いていかれた」と感じやすくなります。本人が参加できない場合も、話し合った内容は、後で本人に伝えるようにしましょう。

⑤リフレクティングを体験

リフレクティングとは、話し手の話を聞いた人たちが、話し手の目の前で、聞いて感じたことを話し合い、それを話し手が聞く、というやり取りのことです。3人いれば、日常でも体験することができます。

3人でやってみる手順

①話し手が、最近の悩みを5分ほど話す(2人は聞くだけ)

②聞き手の2人が、話し手の前で、感じたことを話し合う

③話し手は口をはさまず、2人の会話を聞く

④最後に、話し手が聞いていて感じたことを話す

②の聞き手どうしの会話では、話し手に直接アドバイスをするのではなく、「〇〇という言葉が印象に残った」「私なら不安になると思った」など、自分が感じたことを話すのがポイントです。

体験すると分かること

自分のことを、目の前で他の人が話しているのを聞くと、直接言われるときより、落ち着いて受け止めやすくなります。また、自分では思いつかなかった見方に出会い、悩みを新しい角度から眺められることがあります。

体験するときの注意

練習では、深刻な悩みや、つらい出来事の記憶は扱わず、日常の小さな悩みを題材にしましょう。また、話し手を評価したり、からかったりしないことを、始める前に全員で確認しておくと安心です。

⑥取り組むときの注意

オープンダイアローグの考え方は、日常の対話にも役立ちますが、精神的な危機への支援そのものは、専門家のもとで行われるものです。次の点に注意しましょう。

危機のときは専門家へ

本人が「消えてしまいたい」と口にする、現実にはない声が聞こえる、何日も眠れない、といった状態がある場合は、家族だけで対話を試みようとせず、すぐに医療機関や地域の精神保健福祉センターなどに相談してください。命に関わる危険があるときは、迷わず救急に連絡しましょう。

薬を自己判断でやめない

オープンダイアローグは、薬をできるだけ慎重に使う考え方として紹介されることがあります。ただし、薬を否定するものではありません。治療中の薬を自己判断で減らしたり、やめたりすると、症状が悪化することがあります。薬について考えたいときは、必ず主治医に相談してください。

⑦よくある質問Q&A

私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。

日本でも受けられますか?

日本でも、オープンダイアローグの考え方を取り入れた支援を行う医療機関や相談機関が少しずつ増えています。ただし、フィンランドのように地域の医療体制全体で行っている所はまだ限られており、受けられる場所や方法は機関によってさまざまです。関心がある方は、まず主治医や地域の精神保健福祉センターに相談してみてください。「本人の前で話し合う」「結論を急がない」といった考え方は、ご家族の話し合いでも今日から取り入れることができます。対話を大切にする姿勢そのものは、どの支援の場でも活かすことができます。

家族だけで参加することはできますか?

オープンダイアローグでは、本人のいないところで本人のことを決めない、という考え方を大切にしています。そのため、できるだけ本人も一緒にミーティングに参加することが基本です。ただ、本人がすぐには参加できない場合でも、家族が困りごとを相談することは大切です。家族が先に相談することで、本人にどう声をかけたらよいかのヒントが見つかることもあります。その場合は、話し合った内容を後で本人に伝えるなど、本人を置き去りにしない工夫をしながら、支援者と一緒に進め方を考えていきましょう。

薬を使わない治療なのですか?

オープンダイアローグは、薬を使わない治療というわけではありません。薬は必要に応じて使われますが、すぐに決めるのではなく、本人や家族と十分に話し合いながら慎重に判断する、という考え方です。治療中の薬を自己判断で減らしたりやめたりすると、症状が悪化することがあります。「薬を飲みたくない」という気持ちがある場合も、その気持ちを主治医に伝えること自体が、大切な対話の一歩になります。薬について疑問や不安があるときは、まずは主治医に率直に伝えて、一緒に考えてもらうようにしてくださいね。

⑧まとめ

オープンダイアローグは、本人と周りの人、専門家のチームが一緒に集まり、結論を急がずに対話を重ねることで、精神的な危機を支えるアプローチです。その対話の考え方は、家族や職場の話し合いにも活かすことができます。

今回のポイント

本人のいないところで、本人のことを決めない

結論を急がず、分からない状態に一緒にとどまる

相手の言葉に応え、「私」を主語に話す

危機のときは、家族だけで抱えず専門家へ

まずは、家族や身近な人との話し合いで、「今日は結論を出さなくていい」と一言添えることから試してみてください。

シリーズの振り返り

家族療法の全体像はシリーズ1本目で、関係のパターンに注目する考え方はシリーズ2本目で解説しています。あわせてご覧ください。

家族療法とは|家族をシステムとして捉える療法

システムズアプローチとは|家族療法の視点

リフレーミングとは|見方を変える家族療法の技法

円環的因果律とは|誰のせいでもない考え方

心理教育とは|心の病気を理解する第一歩

しっかり身につけたい方へ

公認心理師、精神保健福祉士など専門家の元で心理療法を学びたい方は、私たちが開催している講座をおすすめしています。内容は以下の通りです。

・家族間の会話の改善

・リフレーミング練習,全体として問題を捉える

・心穏やかに,アンガーマネジメント

・家族関係がよくなる,会話練習

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講座の日程が合わない方や、自分のペースで学びたい方は、個別レッスンのご相談も受け付けています。

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Seikkula, J., & Olson, M. E. (2003). The open dialogue approach to acute psychosis: Its poetics and micropolitics. Family Process, 42(3), 403-418.
 
[2] 斎藤 環 (2015). オープンダイアローグとは何か 医学書院
 
[3] Seikkula, J., Aaltonen, J., Alakare, B., Haarakangas, K., Keränen, J., & Lehtinen, K. (2006). Five-year experience of first-episode nonaffective psychosis in open-dialogue approach: Treatment principles, follow-up outcomes, and two case studies. Psychotherapy Research, 16(2), 214-228.
 
[4] Freeman, A. M., Tribe, R. H., Stott, J. C. H., & Pilling, S. (2019). Open Dialogue: A review of the evidence. Psychiatric Services, 70(1), 46-59.
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