統合的心理療法とは、精神分析、認知行動療法、来談者中心療法など、一つの学派だけにとらわれず、複数の学派の理論や技法、さまざまな心理療法に共通する要素を組み合わせて、相談する人に合った支援を行おうとする考え方です。
みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「統合的心理療法」です。
心理療法には数多くの学派がありますが、「どの学派が一番効くのか」という問いに、研究は意外な答えを出しています。当コラムでは、統合的心理療法の考え方と、その背景にある研究、相談する人が知っておきたいことを紹介します。目次は以下の通りです。
目次
①統合的心理療法とは
統合的心理療法は、特定の学派の名前というより、心理療法への一つの考え方や姿勢を指します。
人に合わせて方法を選ぶ
一つの学派に忠実な心理療法では、どの相談者にも、その学派の理論と技法で関わります。統合的心理療法では、目の前の相談者の悩みや性格、希望に合わせて、複数の学派の考え方や技法の中から、より合うものを選び、組み合わせます。
心理療法の全体像の中で
心理療法の主な学派や歴史については、心理療法とは何か①歴史,効果,種類と心理療法とは何か②3つの学派,種類で紹介しています。統合的心理療法は、こうした学派の違いを知ったうえで、それらをどう組み合わせて活かすかを考える、一歩進んだ見方といえます。
②統合が求められる理由
統合的心理療法が注目されるようになった背景には、心理療法の研究から見えてきた事実があります。
学派による差は小さい
1936年、アメリカの心理学者ローゼンツヴァイク[1]は、さまざまな心理療法がどれも一定の効果を上げるのは、学派をこえた共通の要因が働いているからではないかと考えました。この考えは、『不思議の国のアリス』に登場するドードー鳥の「みんなが勝ったのだから、みんなに賞を」というせりふにちなんで、「ドードー鳥の評決」と呼ばれるようになりました。
その後の多くの研究をまとめたワンポルドら[2]は、きちんとした形で行われた心理療法同士を比べると、学派による効果の差は小さく、相談者とセラピストの関係などの共通要因が大きな役割を果たしていると論じています。ただし、この見方には、特定の障害には特定の治療法がより効果的だとする反論もあり、議論が続いています。
一つの学派では対応しきれない
現実の相談者は、うつと不安、人間関係の悩みなど、複数の問題を同時に抱えていることが少なくありません。一つの学派の方法だけでは、すべてに対応しきれないことがあり、複数の方法を柔軟に使う必要性が意識されるようになりました。
③統合の4つの道筋
統合的心理療法の研究者ノークロスら[3]は、心理療法を統合する方法を、大きく4つの道筋に分けて整理しています。
4つの道筋
技法的折衷:理論にこだわらず、その人に効果がありそうな技法を、さまざまな学派から選んで使う
理論的統合:2つ以上の学派の理論を組み合わせて、新しい理論の枠組みをつくる
共通要因:学派をこえて効果をもたらしている共通の要素に注目し、それを中心にすえる
同化的統合:一つの学派を土台にしながら、他の学派の技法を取り入れていく
現場ではいくつかを組み合わせる
実際のカウンセリングでは、これらの道筋がはっきり分かれているわけではありません。例えば、認知行動療法を土台にしながら(同化的統合)、治療同盟を大切にし(共通要因)、必要に応じて別の学派の技法も使う(技法的折衷)、といった形がよく見られます。
④共通要因とは
共通要因とは、学派の違いをこえて、多くの心理療法の効果を支えていると考えられる要素のことです。
代表的な共通要因
相談者とセラピストの信頼関係(治療同盟)
セラピストの共感的な理解
「良くなる」という希望や期待
悩みについての納得できる説明と、それに沿った取り組み
共通要因の詳しい解説
信頼関係については治療同盟とラポールとはで、共感的な理解については傾聴と共感とはで詳しく解説しています。
⑤主な統合的アプローチ
複数の学派を統合して生まれた心理療法には、次のようなものがあります。
統合から生まれた心理療法
スキーマ療法:認知行動療法に、愛着理論や精神分析、ゲシュタルト療法の考え方を取り入れたもの
認知分析療法:認知療法と精神分析的な考え方を組み合わせたもの
多理論統合モデル:さまざまな理論をもとに、人が行動を変えていく段階(変化のステージ)を整理したもの
身近な例
このサイトで紹介しているACTやマインドフルネス認知療法(MBCT)も、行動療法・認知療法と、マインドフルネスの考え方を組み合わせて生まれた方法です。統合は、特別なものではなく、心理療法が発展する中で自然に起きてきたことでもあります。
⑥カウンセリングの進め方
統合的な立場のカウンセリングは、相談者一人ひとりに合わせて組み立てていきます。
見立てから始める
最初に、相談者の悩みがどのように生まれ、何がそれを続けさせているのかを、一緒に整理します。この見立てをもとに、どの方法が合いそうかを考えます。見立ての方法については、ケースフォーミュレーションとはで紹介しています。
組み合わせの例(架空)
職場の人間関係に悩み、気分の落ち込みが続いている人の場合、まず来談者中心療法の姿勢でじっくり話を聴いて信頼関係を築きます。次に、認知行動療法の方法で落ち込みにつながる考え方のくせを整理し、さらに、人間関係のパターンが子どもの頃の経験とつながっていそうであれば、精神分析的な視点からも振り返っていく、といった進め方が考えられます(架空の例です)。
⑦相談する人ができること
統合的心理療法の考え方は、カウンセリングを受ける人にとっても役立ちます。
自分の希望を伝える
「じっくり話を聴いてほしい」「具体的な方法を教えてほしい」「過去のことも整理したい」など、自分がどんな支援を望んでいるかを、カウンセラーに伝えてみましょう。統合的な立場のカウンセラーは、希望に合わせて進め方を調整しやすくなります。
進め方について質問する
「どのような方法で進めていくのですか」
「なぜその方法が、私に合うと考えたのですか」
「うまくいかないときは、方法を変えることもできますか」
こうした質問をすることは、失礼なことではありません。進め方に納得して取り組むことは、それ自体が、良い結果につながる共通要因の一つです。
数回受けたら振り返る
カウンセリングを3〜4回ほど受けたら、「話しやすいと感じるか」「目指していることをカウンセラーと共有できているか」「少しでも前に進んでいる感じがあるか」を振り返ってみましょう。気になる点があれば、そのままカウンセラーに伝えてかまいません。伝えることで、進め方を見直すきっかけになります。
⑧注意
統合的心理療法について、知っておきたい注意点をまとめます。
何でも混ぜればよいわけではない
統合的心理療法は、思いつくままに技法を混ぜることではありません。それぞれの方法の理論や根拠を理解したうえで、見立てにもとづいて組み合わせることが前提です。根拠のはっきりしない方法を寄せ集めることとは区別する必要があります。根拠の考え方については、エビデンスに基づく心理療法とはで解説しています。
症状が強いときは
気分の落ち込みや不安が強く、日常生活に支障が出ている場合は、カウンセリングだけでなく、医療機関にも相談しましょう。
⑨まとめ
統合的心理療法は、一つの学派にとらわれず、相談者に合わせて複数の学派の理論や技法、共通要因を組み合わせていく考え方です。
今回のポイント
学派による効果の差は小さいという研究が、統合の背景にある
技法的折衷・理論的統合・共通要因・同化的統合の4つの道筋がある
見立てにもとづいて、その人に合う方法を組み合わせる
相談する人も、希望や疑問を伝えてよい
あわせて読みたいコラム
心理療法の全体像と主な学派については、次のコラムで解説しています。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連


