みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは、ACTシリーズの2本目です。「脱フュージョン」をテーマに解説していきます。
脱フュージョンとは、頭に浮かんだ考えを「現実そのもの」として受け取るのではなく、「頭の中の言葉にすぎない」と一歩離れて眺められるようにする、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の中核的な技法です。考えを消したり否定したりするのではなく、考えとの距離を変えることを目指します。
今回は、脱フュージョンの考え方と、日常で使える具体的なワークを解説します。目次は以下の通りです。
①脱フュージョンとは
脱フュージョンは、ACTの6つのコアプロセスの一つです。まずは、言葉の意味と、目指すことを確認しましょう。
言葉の意味
フュージョン(fusion)は「融合」という意味です。「自分はダメだ」という考えが浮かんだとき、それがまるで事実であるかのように感じ、考えと自分がぴったりくっついてしまっている状態を指します。
脱フュージョン(defusion)は、このくっついた状態をほどくことです。「自分はダメだ」という考えに対して、「今、『自分はダメだ』という考えが浮かんでいるな」と気づき、考えを少し離れた場所から眺めます。
目指すこと
脱フュージョンの目的は、つらい考えを消すことや、前向きな考えに書き換えることではありません。ヘイズら[1]は、考えの内容を変えるよりも、考えとの関わり方を変えることを重視しました。
考えが浮かんでいても、それに振り回されずに、自分が大切にしたいことに向かって行動できるようになること。それが脱フュージョンの目指すところです。

②フュージョンの仕組み
私たちは、言葉を使って考えることで、問題を解決したり、未来を計画したりできます。一方で、その言葉の力が、ときに自分を苦しめることもあります。
言葉が現実のように感じられる
「レモン」と聞いただけで、口の中に唾液が出てくることがあります。目の前にレモンがなくても、言葉だけで体が反応するのです。同じように、「失敗したらどうしよう」という言葉が浮かぶと、まだ何も起きていないのに、心臓がどきどきしてきます。言葉が、まるで現実のように感じられてしまうのです。
フュージョンが強いときのサイン
「どうせうまくいかない」と思って、挑戦をやめてしまう
頭の中の批判の声を、事実だと信じ込む
同じ考えが何度も頭の中で回り続ける
考えに夢中になり、目の前のことが目に入らない
こうしたサインに気づいたら、脱フュージョンのワークを試すタイミングです。
③5つの基本ワーク
脱フュージョンには、さまざまなワークがあります。ここでは、一人でも取り組みやすい5つを紹介します。自分に合いそうなものから試してみてください。
「〜という考え」と言い換える
浮かんだ考えの前に、「私は今、〜という考えを持っている」という言葉をつけてみます。
「自分はダメだ」
→「私は今、『自分はダメだ』という考えを持っている」
→「私は今、『自分はダメだ』という考えを持っていることに気づいている」
言葉を足すたびに、考えとの間に少しずつ距離が生まれていくのを感じてみましょう。
同じ言葉をくり返す
つらい考えを1〜2語に短くまとめ、声に出して30秒ほど早口でくり返します。例えば「ダメ」「ダメ」「ダメ」…と言い続けると、言葉が意味を失い、ただの音のように聞こえてきます。マスダら[2]は、自分を否定する言葉をこのようにくり返すと、その言葉が信じられる程度や、不快感が下がることを報告しています。
歌やキャラクターの声にする
考えを、「ハッピーバースデー」などのよく知っている曲のメロディーに乗せて、心の中で歌ってみます。また、アニメのキャラクターのような声で言ってみるのも効果的です。真剣な考えも、メロディーや声が変わると、少し距離をとって眺めやすくなります。
葉っぱに乗せて流す
目を閉じて、ゆっくり流れる小川をイメージします。考えが浮かんだら、それを川に浮かぶ葉っぱの上に乗せ、流れていくのを眺めます。考えを無理に流そうとせず、川の流れに任せるのがポイントです。5分ほど続けてみましょう。
考えに名前をつける
よく出てくる考えのパターンに、名前をつけてみます。例えば、「失敗したらどうしよう」と何度も考えてしまうなら、「あ、また『失敗ストーリー』が始まったな」と呼んでみるのです。名前をつけると、「いつものパターンだ」と気づきやすくなります。
④実践の4ステップ
脱フュージョンを日常で使うときは、次の4つのステップで進めると取り組みやすくなります。
ステップ1 考えに気づく
気持ちが重くなったり、体がこわばったりしたら、「今、どんな考えが浮かんでいるだろう」と自分に問いかけます。
ステップ2 考えを言葉にする
浮かんでいる考えを、そのまま短い言葉で書き出すか、心の中でつぶやきます。「〜すべきだ」「どうせ〜」といった形になっていることが多いものです。
ステップ3 ワークで距離をとる
③で紹介したワークの中から1つを選び、考えとの間に距離をつくります。考えが消えなくても大丈夫です。少し離れて眺められれば十分です。
ステップ4 大切な行動に戻る
最後に、「今、自分にとって大切なことは何か」を思い出し、目の前の行動に注意を戻します。考えは浮かんだままでも、行動は自分で選ぶことができます。
⑤場面で使ってみよう
ここでは、2つの場面で脱フュージョンを使ってみましょう。場面を読んで考えた後に、解説を開いて確認してください。
場面1 会議で発言したいとき
会議で意見を言おうとすると、「変なことを言ったら笑われる」という考えが浮かび、黙ってしまう。
場面2 眠る前に考えが止まらないとき
布団に入ると、「明日のプレゼンは失敗するに違いない」という考えが何度も浮かんで眠れない。
⑥取り組むときの注意
脱フュージョンは、日常で手軽に使える方法ですが、次の点に気をつけましょう。
考えをばかにするためではない
歌や声のワークは、考えを笑い飛ばしたり、自分を責めたりするためのものではありません。つらい考えには、それなりの理由があるものです。考えを大切に扱いながら、少し距離をとる、という姿勢で行いましょう。
つらさが強いときは専門家へ
「消えてしまいたい」などの考えが続く、気分の落ち込みが強く日常生活に支障がある、といった場合は、ワークだけで対処しようとせず、医療機関やカウンセラーに相談してください。ACTを専門的に学んだ専門家と一緒に取り組むこともできます。
⑦まとめ
脱フュージョンは、考えを「現実そのもの」ではなく「頭の中の言葉」として眺め、考えとの距離を変えることで、自分にとって大切な行動を選べるようにするACTの技法です。
今回のポイント
考えを消すのではなく、考えとの距離を変える
「〜という考えを持っている」と言い換える
くり返す、歌う、葉っぱに乗せるなどのワークを試す
考えは浮かんだままでも、行動は自分で選べる
シリーズの他のコラム
ACTシリーズでは、基本の考え方から、6つのコアプロセスの実践までを解説しています。あわせてご覧ください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・ACTの基礎,エクササイズ
・はじめての認知療法
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・マインドフルネス療法の基礎
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




