フォーカシングとは、言葉になる前の、からだで感じられる漠然とした感覚(フェルトセンス)に注意を向け、そこから意味や気づきを引き出していく方法です。ロジャーズの共同研究者だった哲学者・心理学者のジェンドリン[1]が体系化しました。
みなさんこんにちは。公認心理師,精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは「来談者中心療法シリーズ」の5本目です。来談者中心療法の基本や、提唱者ロジャーズの考え方を先に知りたい方は、来談者中心療法とはのコラムからお読みください。
フォーカシングは、来談者中心療法の研究の中から生まれた技法ですが、来談者中心療法そのものではありません。現在は独立した方法として、カウンセリングのほか、教育や創作活動、日常のセルフケアなど、さまざまな領域で使われています。
目次は以下の通りです。
①フォーカシングとは
フォーカシングは、頭で考えるだけでは整理できない悩みに対して、「からだの感じ」を手がかりに向き合う方法です。まずは、その基本と生まれた経緯を確認しましょう。
フォーカシングの基本
悩みについて考えるとき、私たちは「何が問題か」を頭で分析しようとします。しかし、理屈では分かっていても、なぜかすっきりしないことがあります。
フォーカシングでは、そのすっきりしない感じを、胸やおなかのあたりで感じられる「からだの感じ」として扱います。その感じにじっくり注意を向け、ぴったりの言葉を探していくうちに、「本当はこういうことだったのか」という気づきが生まれることがあります。
生まれた経緯
ジェンドリン[1]は1950年代、シカゴ大学でロジャーズとともに、心理療法の面接の録音を数多く分析しました。その中で、心理療法の成功と関係していたのは、相談者が「何を」話したかではなく、「どのように」話したかであることに気づきました。
うまくいく相談者は、すぐに言葉にできない感覚に注意を向け、言葉を探しながら話していたのです。
ジェンドリンは、この「うまくいく人が自然にしていること」を、誰でも練習できる形にまとめました。それがフォーカシングで、1978年に一般向けの本として紹介されています。
研究の詳しい内容を知りたい方は、以下の折り畳みを開いてください。一般の方は読み飛ばしても大丈夫です。
折り畳みの中で紹介したように、フォーカシングは心理療法の研究から生まれた方法です。ここからは、その中心となる「フェルトセンス」について見ていきます。
②フェルトセンスとは
フェルトセンスとは、ある問題や状況について、からだで感じられる、まだ言葉になっていない全体的な感覚のことです。フォーカシングでは、このフェルトセンスが、気づきの入り口になります。
フェルトセンスの例
たとえば、苦手な人に会う前の日、胸のあたりが「重くて、ぎゅっと縮こまるような感じ」がすることはないでしょうか。これは、「緊張」や「不安」といった言葉だけでは表しきれない、その状況全体についての感覚です。
フェルトセンスは、はっきりした感情とは少し違います。「怒り」や「悲しみ」のようにすでに名前がついた感情よりも、もっとぼんやりしていて、いろいろな意味を含んだ感覚です。
感じ取るためのコツ
フェルトセンスは、喉・胸・おなかなど、からだの真ん中あたりで感じられることが多いといわれます。次の手順で、からだの感じに注意を向ける練習をしてみましょう。
①楽な姿勢で座り、深呼吸を2回する
②気になっている出来事を1つ思い浮かべる
③胸やおなかのあたりに注意を向ける
④その出来事の「全体の感じ」を味わう
最初は何も感じられなくても大丈夫です。「よく分からない感じ」があれば、それもフェルトセンスの手がかりになります。
③6つのステップ
ジェンドリンは、フォーカシングを6つのステップとして紹介しました。ただし、ジェンドリン自身も、手順を守ることより、からだの感じに丁寧に向き合うことのほうが大切だとしています。
空間をつくる・感じる
1つめは「空間をつくる」ステップです。今気になっていることを1つずつ思い浮かべ、「それがあるな」と認めたうえで、少し離れた場所に置くようにイメージします。
悩みに飲み込まれず、少し距離をとるための準備です。
2つめは「フェルトセンスを感じる」ステップです。置いた悩みの中から1つを選び、その問題全体について、からだでどんな感じがするかを味わいます。
言葉を探す・確かめる
3つめは「ハンドル(取っ手)をつかむ」ステップです。フェルトセンスにぴったりの言葉やイメージを探します。
「重たい」「ざわざわする」「鉛のような」など、からだの感じそのものから浮かんでくる言葉を待ちます。
4つめは「共鳴させる」ステップです。見つけた言葉とからだの感じを、行ったり来たりしながら照らし合わせます。
ぴったりなら、からだがほっとするような感じがあります。合わなければ、言葉を探し直します。
問いかける・受け取る
5つめは「問いかける」ステップです。「この重たさは、何についてなんだろう?」「この感じは何を必要としているんだろう?」と、からだの感じに問いかけ、答えが浮かんでくるのを待ちます。
6つめは「受け取る」ステップです。浮かんできたものを、良い・悪いと判断せずに、まずはそのまま受け取ります。
からだの感じが少しゆるむような変化(フェルトシフト)が起きることもありますが、起きなくても問題ありません。
④一人で試すやり方
フォーカシングは、日常の小さなモヤモヤに向き合う方法として、一人でも試すことができます。ここでは、10分ほどでできる簡単なやり方を紹介します。
準備をする
静かで、人に邪魔されない場所を選びます。椅子に座るか、楽な姿勢で横になり、目を閉じるか、視線を少し下に落とします。
初めて試すときは、大きな悩みではなく、「明日の予定がなんとなく気が重い」といった、小さなモヤモヤを題材にするのがおすすめです。
10分間の流れ
次の流れで進めてみましょう。時間はあくまで目安です。
①2分:気になることを並べて少し離す
②3分:1つ選び、からだの感じを味わう
③3分:ぴったりの言葉を探して確かめる
④2分:浮かんだことをそのまま受け取る
終わったら、浮かんできた言葉や気づきを、メモに残しておくとよいでしょう。後で読み返すと、自分の気持ちの変化に気づくことがあります。
終わり方のコツ
フォーカシングを終えるときは、からだの感じに「今日はここまでにするね」と声をかけるようなつもりで区切ります。答えが出なくても、「また戻ってこられる」と思えれば十分です。
終わったあとは、目を開けて周りを見渡したり、手足を軽く動かしたりして、ゆっくり日常に戻りましょう。
⑤ペアで行うやり方
フォーカシングは、話を聴いてくれる人がいると、より深く取り組みやすくなります。2人1組で、からだの感じに向き合う人(フォーカサー)と、それを聴く人(リスナー)に分かれて行います。
リスナーの関わり方
リスナーは、フォーカサーの話を評価したり、解釈したりせず、聴こえた言葉をそのまま返します。特に、フォーカサーがからだの感じを表した言葉は、言い換えずにそのまま返すのがポイントです。
フォーカサー:「胸のあたりが…なんだか、ざわざわしています」
リスナー:「胸のあたりが、ざわざわしている」
フォーカサー:「…ざわざわというより、落ち着かない感じかな」
このように、リスナーが言葉を返すことで、フォーカサーは自分の言葉とからだの感じを確かめやすくなります。返し方の基本は、傾聴技法のコラムも参考にしてください。
ペアで行うときの約束
ペアで行う前に、次の約束を確認しておくと、お互いに安心して取り組めます。
話したくないことは話さなくてよい
リスナーは助言や解釈をしない
途中でやめたいときはすぐやめる
聞いた内容は二人の間だけにする
⑥マインドフルネスとの違い
フォーカシングとマインドフルネスは、どちらもからだの感覚に注意を向けるため、似ていると感じる人も多いでしょう。共通点はありますが、目的や進め方に違いがあります。
共通点
どちらも、頭で分析するのではなく、今この瞬間に感じていることに、穏やかに注意を向けます。また、浮かんできたものを良い・悪いと判断せずに受け止める姿勢も共通しています。
目的と進め方の違い
マインドフルネスは、呼吸や体の感覚、浮かんでくる考えなどに、評価をせずに気づき続けることを大切にします。特定の問題に答えを出すことは、目的にしていません。
一方、フォーカシングは、ある問題や状況について感じられるフェルトセンスに注意を向け、それにぴったりの言葉を探していきます。その過程で、問題の新しい意味や、次の一歩に気づいていくことを大切にします。
マインドフルネス:今の体験に気づき続ける
フォーカシング:感覚から意味を見つける
マインドフルネスについて詳しく知りたい方は、マインドフルネス療法のコラムをご覧ください。
⑦研究の現状と注意点
フォーカシングは心理療法の研究から生まれた方法ですが、効果を確かめる研究はまだ十分とはいえません。安全に取り組むための注意点とあわせて確認しておきましょう。
研究の現状
先ほど紹介したように、面接の中でからだの感じに触れながら話す相談者ほど、心理療法の結果がよい傾向があることは、多くの研究で報告されています[2]。
一方で、フォーカシングそのものを教えた場合の効果を、比較のためのグループを設けて調べた研究は多くありません。「誰にでも効果がある」と言える段階ではなく、自分に合うかどうかを試しながら取り入れるのがよいでしょう。
中止の目安
フォーカシング中に、つらい出来事の記憶が急によみがえったり、息苦しさや強い不安を感じたりした場合は、すぐに中断してください。目を開けて周りを見渡し、深呼吸をして、落ち着きを取り戻します。
過去のつらい体験に強く苦しんでいる方や、心の不調で治療を受けている方は、一人で行わず、主治医やカウンセラーに相談したうえで、専門家のもとで取り組むことをおすすめします。
⑧よくある質問Q&A
私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。
来談者中心療法の考え方
傾聴と共感の練習
からだの感じに気づくワーク
はじめての心理療法
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)
個別レッスン
個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースでフォーカシングや傾聴を深めたい方は、下記をご参照ください。
シリーズの続きを読む
フォーカシングのペア練習でも役立つ、あいづちや言い換えなどの聴き方を身につけたい方は、こちらのコラムがおすすめです。
からだで感じる感情を手がかりに、心の変化をめざす心理療法について知りたい方は、来談者中心療法から発展したこちらの療法をご覧ください。
シリーズでは他に、聴き手の土台となる3つの基本的態度や、少人数で本音を伝え合うエンカウンターグループも紹介しています。
他にも数多くの心理療法があります。ご自身の興味やお悩みに合った理論をじっくり探したい方は、一覧から選んでみてください。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




