みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
このコラムは、認知行動療法シリーズの3本目です。「ケースフォーミュレーション」をテーマに解説していきます。
ケースフォーミュレーションとは、相談に来た人の悩みが、どのように生まれ、なぜ続いているのかを、その人ならではの事情に沿って整理し、支援の方針を立てるための見立ての技法です。認知行動療法で特に体系的に用いられていますが、精神分析や家族療法など、多くの心理療法で使われています。
当コラムでは、ケースフォーミュレーションの役割と整理の仕方、学派による違い、自分で悩みを整理するワークを紹介します。目次は以下の通りです。
目次
- ①ケースフォーミュレーションとは
- ②何のために行うのか
- ③整理の仕方
- ④他の心理療法での見立て
- ⑤一緒につくる
- ⑥研究について
- ⑦自分で整理してみよう
- ⑧注意
- ⑨まとめ
①ケースフォーミュレーションとは
ケースフォーミュレーションとは、相談に来た人の悩みが、どのように生まれ、なぜ続いているのかを整理し、支援の方針を立てるための「見立て」の技法です。
悩みの「地図」をつくる
認知行動療法の研究者パーソンズ[1]は、ケースフォーミュレーションを、その人の問題がどのように生じ、続いているのかについての仮説であり、治療の方針を導くものだと説明しています。いわば、悩みの全体像を描いた「地図」をつくり、それを手がかりに、どこから取り組むかを決めていくのです。
診断との違い
診断は、症状をもとに「うつ病」「不安症」といった名前をつけ、多くの人に共通する特徴を表します。ケースフォーミュレーションは、同じ診断名の人でも違う、その人ならではの悩みの背景や、悩みを続かせているしくみを明らかにします。診断が「何の問題か」を示すとすれば、ケースフォーミュレーションは「この人に、なぜ、どのように起きているのか」を示すものといえます。
多くの心理療法で使われる技法
ケースフォーミュレーションは、認知行動療法で特に体系的に使われていますが、認知行動療法だけの技法ではありません。精神分析や家族療法など、多くの心理療法で、それぞれの考え方に沿った見立てが行われています。
②何のために行うのか
ケースフォーミュレーションには、いくつかの大切な役割があります。
3つの役割
理解する:ばらばらに見える悩みや症状を、一つのつながりとして理解する
方針を立てる:どこに、どの方法で働きかけるかを決める
共有する:相談者とセラピストが同じ地図を見ながら、一緒に取り組む
信頼関係を支える
「自分の悩みがこういうしくみで続いていたのか」と納得できると、相談者は安心して取り組みに向かいやすくなります。目標と進め方を共有することは、相談者とセラピストの信頼関係(治療同盟とラポールとは)を支えることにもつながります。そのためにも、まずは相談者の話をじっくり聴くこと(傾聴と共感とは)が出発点になります。
③整理の仕方
ケースフォーミュレーションには、いくつかの代表的な整理の仕方があります。
5つの要因で整理する
悩みの背景を、次の5つの要因に分けて整理する方法がよく使われます。英語の頭文字から「5つのP」と呼ばれることもあります。
今の問題:今、困っていること(気分の落ち込み、眠れない、人づきあいがつらいなど)
なりやすさの要因:もともとの性格や体質、子どもの頃の経験など
きっかけの要因:悩みが始まるきっかけになった出来事
続かせる要因:悩みを長引かせている考え方や行動
守る要因:本人の強みや、支えてくれる人、うまくいっている習慣
悪循環の図で整理する
認知行動療法では、ある場面での「考え・気分・体の反応・行動」が互いに影響し合い、悪循環をつくっていると考えます。この循環を図にすると、どこに働きかければ悪循環を断ち切れるかが見えてきます。考え方への働きかけは認知療法の効果,コラム法のやり方で、行動への働きかけは行動療法とは何かで紹介しています。
④他の心理療法での見立て
ケースフォーミュレーションは、心理療法の考え方によって、注目する点が異なります。
学派ごとの見立て
認知行動療法:今の悩みを続かせている考え方と行動の悪循環に注目する
精神分析:くり返される人間関係のパターンや、心の中の葛藤に注目する
家族療法:家族の中でくり返されるやりとりのパターンに注目する
組み合わせて使う
実際の支援では、これらの見方を組み合わせることもあります。例えば、今の悪循環を認知行動療法の視点で整理しながら、その背景にある人間関係のパターンを精神分析的な視点から振り返る、といった形です。複数の学派を組み合わせる考え方については、統合的心理療法とはで解説しています。
⑤一緒につくる
ケースフォーミュレーションは、セラピストが一人でつくるものではありません。
相談者と協働でつくる
認知行動療法の研究者キュイケンら[2]は、ケースフォーミュレーションを、相談者の体験と、心理学の理論や研究を、相談者と一緒にすり合わせながらつくっていくものだと説明しています。相談者自身が「確かにそうだ」と思えることが大切です。
強みも含め、少しずつ深める
キュイケンら[2]はまた、問題だけでなく、相談者の強みを最初から取り入れることを重視しています。見立ては、最初は「今、何が起きているか」の記述から始まり、面接を重ねる中で「なぜ続いているのか」の説明へ、必要に応じて「子どもの頃からの経験とのつながり」へと、少しずつ深めていきます。
⑥研究について
ケースフォーミュレーションは、多くの専門家が大切だと考えている一方で、その効果を確かめる研究はまだ十分ではありません。
研究のまとめ
認知行動療法のケースフォーミュレーションについての研究をまとめたレビュー[3]では、条件を満たした24の研究を検討しました。その結果、経験のあるセラピストは、見立ての一部の要素を一致した形でつくれることが示されました。
効果の検証はこれから
一方で、同じレビュー[3]では、ケースフォーミュレーションが治療の効果を高めるかどうかは、まだ示されていないと結論づけています。見立ては大切な作業ですが、それ自体の効果については、今後の研究が待たれています。根拠の考え方については、エビデンスに基づく心理療法とはで解説しています。
⑦自分で整理してみよう
ケースフォーミュレーションの考え方は、自分の悩みを整理するときにも役立ちます。
悪循環を書き出す
最近つらかった場面を1つ選び、そのときの「状況」「頭に浮かんだ考え」「気分」「体の反応」「とった行動」を書き出します。次に、とった行動が、その後の考えや気分にどう影響したかを、矢印でつないでみましょう。
5つの要因で振り返る
今困っていることについて、「きっかけは何だったか」「何が続かせているか」「自分を支えているものは何か」を書き出してみます。特に「守る要因」を書き出すことで、自分の中にある力にも目を向けることができます。日々の気持ちを書き留める方法は、ジャーナリングとはで紹介しています。
⑧注意
ケースフォーミュレーションを行うときに、気をつけたい点をまとめます。
仮説として扱う
ケースフォーミュレーションは、あくまで仮説です。一度つくった見立てにとらわれず、新しくわかったことに合わせて、柔軟に修正していくことが大切です。見立てで人を決めつけることは避けなければなりません。
自分を責める材料にしない
自分で悩みを整理すると、「自分の性格が悪いからだ」と自分を責めたくなることがあります。見立ての目的は、原因探しで自分を責めることではなく、これからどう取り組むかを考えることです。整理していてつらくなったときや、悩みが深いときは、専門家と一緒に取り組みましょう。
心の不調が続くときは
気分の落ち込みや不安、不眠などが2週間以上続く場合は、医療機関や専門家に相談しましょう。
⑨まとめ
ケースフォーミュレーションは、悩みがどのように生まれ、なぜ続いているのかを整理し、支援の方針を立てる見立ての技法で、多くの心理療法で使われています。
今回のポイント
診断名だけでなく、その人ならではの悩みのしくみを整理する
5つの要因や、悪循環の図で整理する
相談者と一緒に、強みも含めて少しずつ深める
見立ては仮説であり、効果の研究はこれから
シリーズの他のコラム
認知行動療法シリーズでは、全体像から、ジャーナリング、ケースフォーミュレーション、CBT-Iまでを解説しています。あわせてご覧ください。
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監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連




