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グラウンディング技法とは

グラウンディング技法とは,実践法と例

みなさんこんにちは。公認心理師,精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。

このコラムは、マインドフルネス療法シリーズの10本目です。今回は「グラウンディング」をテーマに解説していきます。

グラウンディングとは、不安や緊張で頭がいっぱいになったときに、五感や体の感覚を使って「今ここ」に注意を戻すための対処法のことです。英語の「grounding」には「地に足をつける」という意味があり、心が過去や未来に引っ張られた状態から、目の前の現実に戻る働きをします。

目次は以下の通りです。

目次

今回は、グラウンディングの実践方法を例を交えながら紹介します。

①グラウンディングとは

グラウンディングは、特別な道具がなくても、いつでもどこでも試せる対処法です。まずは、どのような場面で使われ、どのように生まれてきたのかを確認しましょう。

使われる場面

大事な発表の前に緊張で頭が真っ白になったとき、過去の失敗を思い出して気持ちが沈んだとき、満員電車で息苦しさを感じたときなど、グラウンディングは日常のさまざまな場面で役立ちます。

こうした場面では、心が「まだ起きていない未来」や「終わった過去」に向かっています。グラウンディングは、注意を今の体や周りの環境に戻すことで、心を落ち着ける手助けをします。

生まれた背景

グラウンディングは、もともとトラウマのケアの領域で使われてきた方法です。アメリカ国立PTSDセンターなどが作成した、災害や事件の直後の支援の手引き「サイコロジカル・ファーストエイド」[1]でも、強い動揺を落ち着ける方法として紹介されています。

また、依存症とトラウマの治療プログラム「シーキング・セーフティ」を開発したナジャヴィッツ[2]も、つらい感情から距離をとるための対処スキルとして、グラウンディングを体系的にまとめています。

②グラウンディングの効果

グラウンディングは、頭の中の考えから、外の世界や体の感覚へと注意を切り替えることで働きます。不安が大きくなる仕組みとあわせて理解しておきましょう。

不安が大きくなる仕組み

強い不安を感じているとき、私たちの注意は、頭の中の心配ごとに向かいがちです。考えれば考えるほど不安な想像が広がり、さらに落ち着かなくなるという悪循環に陥ることがあります。

このように、同じことを頭の中で繰り返し考え続けることを「反すう」と呼びます。反すうが続くと、実際の状況以上に不安が大きく感じられてしまいます。

注意を外に向ける

グラウンディングでは、見えるもの、聞こえる音、手に触れる感触など、今この瞬間の具体的な情報に注意を向け直します。そうすることで、頭の中でぐるぐる回り続ける考えから、少し距離をとりやすくなります。

ただし、グラウンディングは不安そのものを消す方法ではなく、不安に飲み込まれないよう距離を保つための対処スキルとされています(ナジャヴィッツ)[2]。

③五感を使った方法

グラウンディングの中でも代表的なのが、五感を順番に使って「今ここ」に戻る方法です。まずは、もっとも広く知られている「5-4-3-2-1法」を紹介します。

5-4-3-2-1法

次の順番で、今感じられるものを心の中で挙げていきます。できるだけ具体的に観察するのがポイントです。

5:見えているものを5つ挙げる
4:聞こえている音を4つ挙げる
3:肌に触れている感触を3つ挙げる
2:感じられる匂いを2つ挙げる
1:口の中の味を1つ確かめる

数は目安なので、すべてそろわなくても構いません。匂いや味が分からなければ、そのステップは飛ばしても大丈夫です。

実践するコツ

初めのうちは、落ち着いているときに練習しておくのがおすすめです。事前に慣れておくと、不安な場面でもスムーズに取り組みやすくなります。

声に出しても、心の中で唱えても構いません。人前では心の中で、自宅では声に出してなど、場面に合わせて使い分けましょう。

④体と身近な物を使う

五感の観察のほかに、自分の体や、身近な物の感触を手がかりにする方法もあります。座っているときや、外出先でも目立たずにできる方法です。

足の裏の感覚を使う

足の裏が床や地面についている感覚に注意を向けます。かかと、土踏まず、つま先と、順番に重さや温かさを確かめてみましょう。

椅子に座っているときは、お尻や背中が支えられている感覚に注意を向ける方法もあります。

体の感覚を通して「今ここ」に注意を向け、体を支えとして感じることは、トラウマを扱う身体志向の心理療法でも大切にされています(オグデンら)[3]。

身近な物を使う

温かい飲み物をゆっくり口に含んで温度を感じる、両手のひらを合わせて押し合う力を感じるといった方法も、体の感覚を使ったグラウンディングです。

ポケットの中の小さな石やキーホルダーを握り、その形や硬さを確かめる方法もあります。お守りのように、いつも持ち歩く物を1つ決めておくと、いざというときに使いやすくなります。

⑤頭を使った方法

体の感覚に注意を向けるのが苦手な方や、体を動かしにくい場面では、頭を使う簡単な作業に取り組む方法もあります。注意を目の前の作業に向けることで、不安な考えから離れやすくなります。

数字を使う方法

100から7を順番に引いていく、今日の日付や曜日、今いる場所を確認するといった方法です。少し頭を使う作業なので、ぼんやりとした不安から注意を切り替えたいときに向いています。

言葉を使う方法

好きな食べ物の名前をできるだけ挙げる、周りにある特定の色の物を探して数える、知っている駅の名前を順番に思い出すといった方法も使えます。

自分が楽しめる題材を選ぶと、無理なく続けやすくなります。いくつかの方法を知っておき、場面に合わせて使い分けましょう。

⑥マインドフルネスとの関係

グラウンディングとマインドフルネスは、どちらも「今ここ」に注意を向ける点で共通していますが、使い方に違いがあります。2つの関係を整理しておきましょう。

目的の違い

マインドフルネスは、心に浮かぶ考えや感情も含めて、今の体験をそのまま観察する練習です。一方、グラウンディングは、強い感情に飲み込まれそうなときに、外の世界や体の感覚に注意を戻して、落ち着きを取り戻すための対処法です。

マインドフルネス:今の体験をそのまま観察
グラウンディング:今ここに戻って落ち着く

安全な実践の準備として

マインドフルネスの練習中に、不安が強くなったり、自分が自分でないような感覚が出てきたりしたときは、グラウンディングで現実に戻ることが勧められます。安全に実践するための目安は、副作用と安全な実践法のコラムで詳しく紹介しています。

マインドフルネスを始める前に、グラウンディングを1つ身につけておくと、安心して練習に取り組めます。

⑦行うときの注意点

グラウンディングは手軽な対処法ですが、使い方によっては十分に役立たないこともあります。安全に活用するための注意点を確認しておきましょう。

治療の代わりではない

グラウンディングは、つらい感情と付き合うための対処スキルであり、治療の代わりになるものではありません。強い不安やパニック、つらい記憶がよみがえる症状が続く場合は、専門家に相談してください。

息苦しさや動悸などの体の症状がある場合は、まず医療機関で体の検査を受けることが大切です。

回避の手段にしない

つらい感情から逃げるためだけに使い続けると、感情と向き合う機会が減ってしまうことがあります。落ち着いたあとは、無理のない範囲で、自分の気持ちを振り返る時間も大切にしましょう。

合わない方法は変える

体の感覚に注意を向けると、かえって落ち着かなくなる方もいます。特に体に関するつらい経験がある方は、体への注意がつらい感覚を呼び起こすことがあります。

その場合は、頭を使う方法など、自分に合う方法を選んでください。

⑧よくある質問Q&A

私たちは普段カウンセリングや、教室で以下のような質問を頂きます。回答例も参考にしてみてください。

不安がなくなる方法?

グラウンディングは、不安そのものを消し去る方法ではありません。不安に飲み込まれそうなときに、「今ここ」に注意を戻して、不安との間に少し距離をとるための対処法です。不安が少し弱まったり、落ち着いて次の行動を考えられるようになったりすることはありますが、不安がまったくなくなることを目標にすると、かえって焦ってしまうこともあります。

「不安があっても、今ここに戻ってこられる」と感じられれば十分です。強い不安が続く場合は、専門家に相談してください。自分に合う方法を、落ち着いているときに試しておきましょう。

体の感覚が苦手なときは?

体の感覚に注意を向けると、かえって落ち着かなくなる方もいます。特に、体に関するつらい経験がある方は、体への注意がつらい感覚を呼び起こすことがあります。その場合は、体の感覚を使う方法にこだわらず、周りの景色や音に注意を向ける方法や、100から7を引いていく、好きな食べ物の名前を挙げるといった頭を使う方法を選んでください。

合わないと感じたら途中でやめて、別の方法に切り替えて構いません。自分に合う方法を見つけることが大切です。いくつかの方法を知っておくと、場面に合わせて使い分けやすくなります。

パニックのときにも使える?

強い不安や緊張でパニックのような状態になったときに、足の裏の感覚を確かめたり、見えるものを数えたりすることで、少し落ち着きを取り戻せることがあります。ただし、強い不安の最中は、新しい方法を試すのが難しいものです。落ち着いているときに何度か練習しておくと、いざというときに使いやすくなります。

また、息苦しさや動悸などの体の症状がある場合は、まず医療機関で体の検査を受けることが大切です。パニックが繰り返し起きる場合は、専門家に相談してください。一人で抱え込まず、必要なときは周りの人や専門家を頼ってください。

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した内容は、「ダイコミュ」のコミュニケーション教室で、仲間と実践しながら学ぶことができます。学べる内容は以下のとおりです。

不安や緊張への対処の練習
今ここに戻る感覚の練習
マインドフルネスの学習
自分に合うセルフケア

講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。まずは体験受講からお試しください。筆者も講師をしています(^^)

コミュニケーション教室,講座,ダイコミュ

個別レッスン

個別にじっくり学びたい方は、マンツーマンでのレッスンも可能です。オンラインで学べるので全国どこからでもご相談いただけます。講師は国家資格を持つ公認心理師です。ご自身のペースで不安への対処法を深めたい方は、下記をご参照ください。

個別レッスンの詳細はこちら。

シリーズの続きを読む

マインドフルネスを安全に続けるための目安や、中止すべきサインについて知りたい方は、こちらのコラムがおすすめです。

⑦マインドフルネスの副作用,安全に実施するコツ

「今ここ」に注意を向けるマインドフルネスの全体像を知りたい方は、シリーズ1本目のコラムをご覧ください。

①マインドフルネス療法とは,基礎と効果

シリーズでは他に、基本となるマインドフルネス呼吸法や、体の感覚を観察するボディースキャンも紹介しています。

他にも数多くの心理療法があります。ご自身の興味やお悩みに合った理論をじっくり探したい方は、一覧から選んでみてください。

心理療法の一覧

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] アメリカ国立子どもトラウマティックストレス・ネットワーク、アメリカ国立PTSDセンター(2006). サイコロジカル・ファーストエイド 実施の手引き 第2版
 
[2] Najavits, L. M. (2002). Seeking safety: A treatment manual for PTSD and substance abuse. New York: Guilford Press.
 
[3] Ogden, P., Minton, K., & Pain, C. (2006). Trauma and the body: A sensorimotor approach to psychotherapy. New York: W. W. Norton.
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